プロンテラの閑静な住宅街を抜けると、カンカンっと鎚打つ響きがそこかしこからなり続ける鍛冶屋組合の工房が乱立している。セラフィーらの男所帯も、この鍛冶屋街とでも言おうか。その中に存在していた。
そんな鍛冶屋街を、昼日中に緑色の長髪の男が歩いていく。チェイサー「シル・クス」である。
シル・クスは男所帯の玄関を静かに開けるが、玄関に取り付けられた銅の鈴がガランガランと低く大きな音をたてる。
「お、シル・クスか。久しぶりだな」
溶鉱炉の前で鋼鉄を鍛えていたセラフィーが、その手を休め振り向いた。
「・・・で、どうしたんだ? 何も用もなく帰ってくるとは思ってないんだが・・・」
「いや、たいした用ではないんだが、野宿場所が変わったからそれを知らせにきた」
「へ? アルデバランから離れるのか?」
「ああ、今度はジュノーで野宿する事になった」
シル・クスは工房の片隅の椅子に反対向きに座り、背もたれのてっぺんで両腕を組んで乗せる。
セラフィーは出来上がったばかりの鋼鉄をカートに積み込むと溶鉱炉手前を綺麗に片付ける。
「ジュノーか・・・遠くなったな」
「いつもの狩場からスリーパー消えたんだ、仕方ないさ・・・」
諦め気味にため息をつくシル・クス。
「・・・と言うことは、今度はエルメスプレートの頂上付近で狩りするって事か」
「そういう事になる。だから何かあったらジュノーかスリッパ狩ってるかのどちらかだと言うことだけ伝えにきた」
「OKOK。リューディー達にも伝えとく」
セラフィーは軽く受け答えると、厨房から紅茶を持ってきた。
シル・クスは紅茶の香りに目隠しをはずす。ティーカップに紅茶を注ぐセラフィーがそのままシル・クスに紅茶を手渡した。
「淹れたてじゃないがまだ熱いはずだ、気をつけて飲んでくれ」
「ああ、すまんな」
ガランガラン。
「ただいま帰りました」
玄関のドアが開いて鈴が鳴ると、渚 レイが帰ってきた。
「おや、シル・クスさん帰ってきていましたか」
「久しぶりだな」
2人は軽く挨拶を済ませ、セラフィーが淹れた紅茶を飲む。
セラフィーはカートを引き出し玄関を開ける。
「じゃあちょっと倉庫行ってくるわ」
「いってらっしゃーい」
渚 レイに見送られ、セラフィーは東門目指して歩いていく。
「ちょうどいい、レイに聞きたいことがあるんだが・・・」
「なんでしょう?」
「男所帯じゃ誰が次に転生目指すんだ?」
「そうですねぇ・・・僕かセラフィーさんじゃないでしょうか?」
「そうか、俺はてっきり白鳥の旦那かと思ってたんだがな」
紅茶を飲み干すとシル・クスは立ち上がりティーカップを厨房に持っていく。
「もうお出かけですか?」
「あぁ、もう少しネイチャ集めしないといけないからなぁ」
「資金繰りですか。大変ですね」
渚 レイは厨房に行くと旅支度を始めるシル・クスが目に映った。そしてスリッパ狩りに行こうとするシル・クスにブレッシングと速度増加をかける。
「頑張ってください!」
「ああ、リューディーにもヨロシク言っといてくれ」
「はい」
かくして男所帯を去るシル・クス。それとすれ違いでセラフィーが帰ってきた。
「なんだ、シル・クスもう行ったのか・・・」
「ええ、資金繰りしないとって言ってましたね」
「うちの資金繰りはリューディーのカード運と、シル・クスの地道なネイチャ集めしかないからなぁ」
「それを砕いて売るセラフィーさんもたいしたものだと思いますよ」
工房の椅子に座るセラフィーに、渚 レイがねぎらいの言葉をかける。
渚 レイも資金繰りには向かないのはセラフィーと一緒である。だから出費を抑える狩りしかできないし、今は討伐隊に加わりアヌビスを狩ることしかしていない。
セラフィーも最近は狩りに行こうとはしている。しかしちょうどいい狩場が見つからず、結局は自宅でお留守番してることの方が多くなっている。
「・・・で、レイ。お前さんは仕事終わったのか?」
「僕ですか? 今日は2名ほどアマツで育成補助して、1人プリーストの試験に付き合ったぐらいですかね」
「育成補助ねぇ・・・」
「アコライトがアマツダンジョン行くとしたら大変なんですよ。マグニフィカートないと効率悪くって・・・」
「経験者は語るってやつだな」
力説する渚 レイにため息をつくセラフィーではあるが、自身も支援があれば色々と狩場が増えるだろうと思うのだが、とりあえず現在はおとなしくしている方がマシだなぁと思うのであった。
「ところでセラフィーさん。リューさんは何処行ったのですか?」
「多分グラストヘイムじゃね?」
「ニブルヘイムとかでは?」
「それはないな。以前聞いたがニブルはソロじゃあんまり行かないって言ってたからな」
真顔で否定するセラフィー。渚 レイが淹れなおした紅茶をもらい、ゆっくりと口にする。
渚 レイも紅茶を口にし、帰らぬリューディーの狩場を想像していた。
「しかしアレだな・・・」
しばし沈黙が続いた中、セラフィーが不意に言葉を発した。
「お前さんの護衛についていたル・アージュが、今じゃ発光目指してソロ狩りしてるんだからな。よほど自信がついたんだろうな」
「そうですねぇ。あの頃が懐かしいです」
しみじみ思いながら2人揃って紅茶を口にする。
そうこうしているうちに時間も経ち、外は薄暗くなり始めていた。
ガランガラン。
「ただいま」
鈴の音とともにリューディーが男所帯に帰ってきた。
「おかえり。何処行ってたん?」
「グラストヘイムさ」
「やっぱりそうか!」
「その前はちょっと久しぶりにニブルヘイムにも行ってたけどな」
「セラフィーさん聞きましたか?! ニブルにも行ってたって」
何事かと思うリューディー。どうやら人の狩場で賭けをしていたようである。
「ちっ! 引き分けか」
悔しがるセラフィーだったが、賭けの対象とされていたリューディーにしてみれば気持ちのいいものでもない。が、渚 レイが淹れてくれた緑茶を飲んで気を静める。
「久しぶりのニブルだったけど、もう昔ほどの人気はなくなったようだな」
「そりゃあ今じゃ人気の狩場やモンスターだって増えているもの、お手軽に行ける狩場だって増えたんだから、手間のかかるニブルヘイムは敬遠されがちだろうさな」
「まぁ人少ない分狩りやすいっちゃ狩りやすいわな」
お茶を飲み干し、「鎧脱いでくる」と自室に帰るリューディー。
そして戻ってきたリューディーは先にお風呂に入るようで、晩御飯を後にしてくれと言い、1人脱衣所に消えていく。
夕食を食べ始める頃にはもう日がどっぷりと沈み、窓から見える景色はかなり真っ暗闇で、人通りもまったくない。
「・・・と言うわけで、シル・クスは今後ジュノーで野宿することになったそうだ」
セラフィーが食卓の3人、リューディー、渚 レイ、白鳥に向けそう言った。
「それと装備の件だが、シル・クスの資金繰りが終わり次第順次そろえていくつもりなんでヨロシク」
言うだけ言って、セラフィーは夕御飯をとり始めた。リューディー達も何も言わず聞かず、静かに夕食をとり始めるのであった。
男所帯はこうして静かに夕食をとるのが普通のようである。そして夜の帳が下りてくる。男所帯の一日はいつも静かなものであった。