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Erernl Mirage (最終話)

 あれから何年の月日が経っただろうか? プロンテラにある女所帯も様変わりし、クリシュナ宅は修羅を目指す女の子が何人か住むようになった。
 ル・アージュやヴァーシュはと言うと、結婚を機に女所帯を出て行った。
 ネリスはネリスで、実家には帰ったものの花嫁修業の一環で、フレアに料理を習うために毎日通っている。フレアも下宿生の料理作りが助かるため、ネリスがいることをありがたがっているようだ。
 クリシュナ自体は弟子は取っていないが、若きモンク達のお母さん役になったり、相談ごとに乗ったり、技術の伝達など、寮母的な存在になっていた。
 下宿してるモンク達は、カピトリーナや大聖堂の孤児出身で、比較的に冒険者ギルドの多いプロンテラを拠点としているため、それぞれの師匠についてはいるが、独り立ちするには若すぎるので、クリシュナが引き取っているのである。中にはクリシュナの弟子であったカー・リーの弟子も女所帯に住んでいる。
 そう、女所帯は現在女性モンク達の下宿先となっているのだ。
「先生! 行ってきまーす」
「うん、行っといでー」
 今日も朝早くからモンク達が元気に自分たちの師の元へと出かけていく。
「うーん! 今日も暑くなりそうねー」
 クリシュナがモンク達を見送ると、玄関先で一伸びをする。すると・・・

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「ただいま。姉さん」と、女性の声が響いてきた。
 振り向いたクリシュナの前には、大荷物を背負った白髪の女性、「ルシア・フラウディッシュ・シャナ」が、赤髪にクラシカルリボンを付けた小さなソーサラーの女の子を伴って立っていた。
「ルシア・・・、15年ぶりに帰ってきたか。おかえり。老けたわねぇ・・・」
「姉さんこそ。白髪になってないだけでも若々しいわ。気功のおかげってやつ?」
 15年ぶりの再会に笑いあうなか、小さなソーサラーはルシアの背後に隠れるようにしてクリシュナを見ていた。
 それに気づいたクリシュナは、「その子は?」とルシアに尋ねる。
「ああ、この子は私の娘よ」
「娘?! あんた・・・、子供は産めないはずじゃ?!」
「言ってみれば養子ね。「おばあちゃんでもいいのよ」って言ったんだけど、この子、「お母さん」としか言わないのよ。ミスティア、この人はお母さんのお姉ちゃんよ。安心しなさい」
 そうルシアは言ったが、ミスティアはルシアの背後から動かなかった。
「警戒されてるわね、私・・・」
「人見知りが激しいのよ。気にしないで」
「まぁ中に入りなさいな。積もる話は中で聞くわ」
 こうしてクリシュナはルシア達を女所帯の中に招き入れる。
「変わってないわね・・・、懐かしいわ」
「姪っ子達が結婚して出て行ったしね。空き部屋のままってもったいないから、ちょっと改造して若いモンク達を預かることにしたのさね。カー・リーの弟子もいるわよ」
「へぇ~、あの子弟子を取ったんだ」
 居間に通されたルシア親子に、フレアは紅茶とぶどうジュースをそっと置いて行った。
「ヴァーシュもルアも結婚して出て行ったし、ネリスは実家に帰ったものの「彼氏できたときに料理できないと困るー」って、フレアに料理を習っているわ。毎日ね」
「ネリスがねぇ・・・。そういえばリーナは?」
「あの子なら刹那君と結婚して、ルティエの教会に派遣されたわ。子供も授かって幸せに暮らしているわよ。もう10歳になるかしら?」
「へぇ~」
「あら驚かないわね」
 妹の反応がそっけなく、クリシュナは拍子抜けした。
「パルティナは?」
「あの子なら孤児院の責任者に任命されて、毎日子供たちに囲まれて幸せそうよ」
「あの子らしいわね」
「あんた・・・、ずいぶん達観したものねぇ・・・。苦労してるみたいね」
「意外かしら?」
 紅茶を口にし、メガネをくいっと上げるルシア。
「姉さん、ベッドを貸してくれるかしら?」
「あら、よっぽど疲れてたみたいね」
「ちょっと歩かせ過ぎたかしら? まぁ結果はわかっているんだけどね、横にさせなきゃ・・・」
 ルシアは自分に寄り掛かって眠りについた娘に視線を向けると、ため息交じりに抱きかかえてクリシュナの部屋に向かう
「さすがにカプラ移動は疲れたか・・・」
「あんた、何処からプロンテラに帰ってきたのさね?」
「ジュノーよ」
 ルシアはそう言ってクリシュナの部屋にある自分のベッドに娘を置いた。

「・・・そう、飛行船にトラウマがあるのか・・・」
「リヒタルゼンの貧民街のハズレに落ちて両親を亡くしている。あの子はかろうじて生き残ったものの、なにぶんリヒタルゼンでしょ? あの子を不憫に思った人たちがかわるがわる世話してたみたいだけど、世話してた人たちがレッケンベルに仕事貰って連れていかれるたびに帰ってこない。そんなことが続いてたみたいだから、捨てられたと勘違いしていつしか心を閉ざしちゃって・・・。そんな折よ、あの子と出会ったのは・・・」
 居間でクリシュナと対面に向かい合い、ルシアは経緯を話し始めていた。
「同じ赤髪だってこともあり、あの子は私のことを「お母さん!」って呼んで私の服の裾をつかんだのよ。それで情報を集めて経緯を調べたんだけど、ああ、この子は私が育てなきゃいけないんだなぁって、それから5年、まがいなりにも親子としてジュノーで暮らしてたのよ」
「なんでジュノー? ここに帰ってくりゃよかったのに」
「養うためよ。ジュノーを選んだのは魔法アカデミーで講師してればお金にも暮らす場所にも困らないし、それに加えて私の杖の強化する都合もあったし、それに・・・、あの子魔法の適正高かったから、ゲフェンでマジシャンにしてアカデミーで授業見せてたらセージになっちゃって、あれやこれやしてたら去年ソーサラーになっちゃったわ」
「あんたが親ならそうなるわな」
 いきさつを聴いたクリシュナはあきれてため息をついた。

 その頃・・・。

「ここどこ?」
 パチッと目覚めたミスティアがあたりをきょろきょろと見まわす。そして

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「お母さん、どこー?!」

 クリシュナの部屋から女の子の声で「ウワーン!」と泣き出す声が響き渡った。
「あ、起きたな」
「え?!」
 突然の泣き声に驚くクリシュナをしり目に、ルシアはため息交じりにクリシュナの部屋に行き、べそをかいてるミスティアとともに戻ってきた。
「どこにも置いてかないから安心しなさい」
「ぐすっ・・・」
「なるほど・・・、そうなるのか」
 ルシア親子の行動から何かを察したクリシュナ。
「ルシア、その子いくつさね?」
「ん? 確かもうじき10歳かな?」
「10歳か・・・」
 ルシアの綺麗な赤髪が白髪になった経緯を想像したクリシュナだった。
(まだ親離れはしそうにないわね)
「まぁこんな調子だからね。独立するまでは面倒みる気よ」
「あんたがいいなら別に文句はないわ。母さんにはなんていうのよ?」
「母さんなら4年前から知ってるわよ」
「え?!」
「4年前にジュノーに呼んで、正式に養子に取ったから、プロンテラに帰るまでは秘密にしてもらってね」
 ソファーに座ってからも、ルシアの服をつかんで離そうとしないミスティアの頭をなでるルシア。
「じゃ・・・じゃあその子って・・・」
「ミスティア・フラウディッシュ。シャナ家の家名はないけれど、私の娘だからね。いくら父さんがいないとしても、母さんの許可はいるからねぇ」
「はぁ・・・、あんたには驚かされることばかりだわ。あら、もうこんな時間?」
「どうしたの? 姉さん」
「ん? もうじき下宿生が昼ごはんの為に帰ってくるなぁって」
 クリシュナは立ち上がり、居間の窓から天高く登った陽の光を見上げた。
「どういう生活してるのかわからないなぁ」
「お母さん、トイレ・・・」
「はいはい。こっちよ」
 そう言ってルシアは女所帯のトイレにミスティアを連れて行く。

「姉さん、下宿生ってみんなモンクなの?」
「そうよ。弟子を取らない代わりに下宿させるってことで、カピトリーナには伝えてあるわ。それで生活してる」
「ふぅん・・・」
「言ったでしょ? あんたが帰ってくるまで・・・

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この家は守るって」
「そうだったね」
 笑いあう二人。
「先生ただいまー」と一人目のモンクが帰ってくると、そこから5人ものモンクが続々と帰ってくる。
 計6人のモンクが揃うと、クリシュナは全員居間に並ばせてルシアとミスティアを紹介した。
「アンタたちみんなお姉さんなんだからね、仲良くしてあげてね」
『はーい』
「ミスティアちゃんも、今日からここがあなたの家なんだから、遠慮はしないでね」
 そう言ってミスティアの頭をなでるクリシュナ。
 ミスティナは顔を赤らめてルシアの太ももに顔を埋めて離れようとはしなかった。

 翌日・・・。

 クリシュナはルシアとミスティアを連れてシャナ家を訪れていた。もちろんルシアの帰省とミスティアを紹介するためだ。
 それとクリシュナは、ルシアにル・アージュの双子の子供を紹介したいという気持ちがあった。
「事後報告か・・・。家族会議もせずに・・・」
「アレス! 事後報告でもいいでしょ! こうしてルシアが無事に帰ってきたんだから」
 不機嫌な弟をたしなめる(?)クリシュナの一言。
「リンクは?」
「母さんが了承してるなら文句はないよ」
「私もリンク兄様と同意見です」
 リンクの後に続くパルティナ。
「それに・・・、姉さんの髪をみたら何も言えないよ」
 リンクの言葉にうなずくパルティナ。
 この二人はルシアと再会した時、あの美しかった赤髪が見事なまでに白髪になっていたのを驚いたくらいだからだ。
「黙っていた母さんも母さんだが、まぁ無事に帰ってきただけ許してやる」
「兄さん・・・。男孫ができせいか丸くなったね」
「うるさい」
 ルシアの言葉に顔を赤らめてそっぽを向くアレス。
「・・・で、姉さんはどうやってジュノーに通うのさ」
「その点は大丈夫。蝶の羽をつかうから。そのための帰省なんだから」
「まさか・・・」
「そう。行きは私がミスティナを抱いて蝶の羽根で飛ぶ。帰りはミスティアの手を握って蝶の羽を使わせる。この子がまだ小さいからできる芸当ね」
「そんなことができるのか・・・」
「ジュノー、リヒタルゼン間で検証済みよ。抜かりはないわ」
 笑って答えるルシアにリンクはあきれていた。
「それにしても、よくそんな若さでソーサラーになれたな」
 アレスがルシアの陰に隠れてるミスティナを見てつぶやいた。
「この子は精霊に愛されてるからねぇ。ソーサラーになるべくして生まれた子だわ」
 ルシアはミスティアの頭をなでる。お腹を痛めて産んだ子じゃなくても、ミスティアを見るルシアの目は母親のそれであった。
 そしてその夜、シャナ家はルシアの帰省を喜ぶ会食となった。

 翌朝
「ミスティア、起きなさい! いつまで寝てるの」
 クリシュナの女所帯でルシアが娘を起こす声が響き渡る。自身はすでにソーサラーの衣装に着替えている。
「あんたが早起きするなんてねぇ・・・。親としての自覚か」
「そんなんじゃないわよ。放っておいて泣かれるのが面倒なだけよ」
「それが親としての自覚ってやつよ」
 ハハハと笑うクリシュナに対して、呆れた顔でミスティアの服を変えるルシア。
「ほら、顔を洗いに行くよ」
 寝ぼけ眼の娘を連れて洗面所に行くルシア。
(ルシアなりに苦労してるのね。子育てに・・・)
 家を出たとき、綺麗だった赤髪が、15年の歳月で白髪に変わるほどの生活をしてきたかと思うと、クリシュナはちょっと涙腺が緩んだ感じがした。
「伯母さんおはよー!」
 女所帯に元気よく現れたのは姪のネリスだった。
「フレアー! ネリスが来たわよー」
「おはようございますネリス様」
「今日は何作るの?」
「今朝のメニューはこちらになります」
「ふんふん・・・、わかった。じゃあ私はハンバーグ作るね」
 エプロンをつけて厨房に入るネリス。
「へぇ~。本当に花嫁修業してるんだ」
「ルシア伯母さん、ミスティアちゃんおはよ!」
 洗面所から戻ってきたルシアが食堂の椅子にミスティアを座らせる。
 おとなしく髪を整えるルシアが、ミスティアの髪にクラシカルリボンを結ぶ。その様を見ていたクリシュナがルシアに尋ねる。
「そのリボン、アンタのじゃなかったの?」
「ん? これ? そうよ。娘にやった」
 さらっと答えるルシアにクリシュナは意外そうな顔でルシアを見た。
(あれほど気に入ってたリボンを娘に譲るなんてねぇ・・・)
「何? 姉さん」
「いや、意外だなって・・・」
「?」
 ミスティアの髪にクラシカルリボンをつけたルシアは、娘を伴い居間のソファーに腰を下ろした。
「今日からまたジュノー?」
「いや、1週間ほど暇をもらったから、娘とプロンテラ回ろうと・・・」
「ここで生活するならそれもありか・・・」
 そう言ってルシアの対面に座るクリシュナ。
「とりあえずここでの生活に慣れてもらわないと、一人で起きたときに泣かれるのは困るわ」
 笑ってない笑顔でクリシュナに答えるルシア。
 そうこうして下宿生が起きてくると、ミスティアはルシアの腕を取り、影に隠れるように様子を見る。
「ルシア、今日はどうするのさ?」
「ん~? リンクの家に行ってネリスのおさがりでも漁るわ」
「ネリスのおさがり?」
「リンクのことだから、小さい頃の服が残ってるんじゃないかなぁ~って」
「ああ、あいつのことだから残してるかもね」
「さすがにソーサラーの服を年がら年中着させるわけにもいかないでしょ」

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「アンタが言うか?」
 クリシュナはルシアを見て突っ込んだ。
 女所帯でのファッションセンスと言うか、年がら年中ソーサラーの姿だった妹の恰好を思い出すと、娘まで一緒というわけにはいかないのだろうとクリシュナは思い口をつぐんだ。

 昼頃

「リンクいるー?!」
 リンク宅についたルシアとミスティアを迎えたのはパルティナだった。
「あら姉様。兄様をお探しで?」
「リンクはいる?」
「はい。今日は非番なので、・・・多分書斎かと思います」
「入らせてもらうわ」

「・・・で、ネリスの小さい頃の服が欲しいと?」
「物持ちのいいアンタなら取っておいてると思ってねぇ。あ、ネリスの許可は取ってるわ」
「確かにありますよ。パルティナ、案内してやりなさい。カギはこれだ」
「はい兄様」
 そうしてパルティナにリンク宅の納戸に案内されると、ルシアとパルティナは、ネリスの子供のころの服を探し始めた。
 もともと小柄なネリスの服は簡単にみつかった。あとはミスティアが着れるサイズをさがすだけであった。

 夕方

「ルシア伯母さんおかえり。私の服あった?」
 女所帯でルシア達を迎えたのはネリスだった。
 ルシアはちょっと屈み気味の姿でネリスに左のひとさし指を立て「しー・・・」と小声でネリスに答えた。
「洗い替えやらなんやらで、下着ともども何着かもらってきたわ。パルティナ、クリシュナ姉さんの部屋に運んでおいて」
「はい、姉様」
「伯母さん、なんで小声なの?」
「こういうことよ」と言いながらルシアが振り向く。その背中には、ぐっすりと眠るミスティアがいた。
 ルシアが居間のソファにミスティアを下ろすと、ルシアは自分の太ももをミスティアの枕になるように座った。
「ほんとあんたに懐いてるわねぇ」
 クリシュナがルシアの対面に座る。
「10歳ならもう少し親離れ感があるのに・・・」
「捨てられたくないのよ。もう・・・」
 ルシアはミスティアの頭をなでながら言った。
「リヒタルゼンの貧民街で保護したって言ったでしょ?」
「そう言えば言ってたわね」
「私が調べた結果、保護した人たちがレッケンベルに連れられて行くたびに帰ってこなかった。それで捨てられたと感じて心を閉ざしてたのところで私と会った。実の母親と勘違いしたんでしょうね。飛行船が落ちたときに母親が亡くなったってことを受け入れられなかったんじゃないかな?」
「それであんたを?」
「自由に生きてきたツケが回ってきたんでしょう。だから、残りの人生はこの子と生きていくって決めたの」
「そっか・・・。アンタがそこまで言うなら何も言わないわ。ここを自由に使いなさい」
「ありがと、姉さん」
 ルシアは自分の膝を枕に眠っている娘の頭をなでながら微笑んだ。
「・・・でも、10歳でソーサラーって、早すぎません?」
 パルティナが素朴な疑問を投げかけた。
「姉さんにも聞かれたけど、もともと魔法の才があったのよ。留守番させても泣くだけだからね、ずっとそばに置いてたら・・・

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授業の内容、覚えちゃって・・・。実地はまぁ普通に進めてたんだけど、あとは想像の通りよ」
 悪びれず話すルシアを見て、パルティナは力なく笑った。

 こうして、15年もの長い旅路から帰ってきたルシア。娘を伴いジュノープロンテラ間を今日も講師としての仕事に飛び立つのであった。

 長きにわたり綴った女所帯の物語は、まだまだ続くだろうが、それはまたの機会に語らせてもらおう。


終劇

  # by lywdee | 2022-09-20 16:02 | Eternal Mirage

そろそろ

 B鯖まったりのクリシュナです。

 F鯖帰ることも少なく、ネタも尽きてきたので読み切り小説の方はそろそろ最終回にしたいと思います。

 時々でも見てくれる人がいたので心苦しいですが、B鯖だけの生活が続いたので、F鯖だけのネタが少なく、ストーリー的にも書きたいこともなくなったので、そろそろ潮時かなと・・・。

 ブログで書くネタも少なく、ほぼツイッターで済んじゃってるのでもういいかな? ってのが本音。

 とりあえずブログ自体は閉鎖しないので、小説だけだ終わりと言うことで、そのご報告だけです。

  # by lywdee | 2021-06-04 18:28 | 日常雑記

眠れない・・・。

 0時に睡眠薬飲んでベッドで横になってたんだけど、2時間経っても眠れない・・・。

 長い事睡眠薬飲んでたから慣れちゃったのか、それとも薬に対して抵抗がついちゃったのか・・・?

 5時には起きたいから3時間またベッドにいるか、もしくはこのまま起きてるか・・・、悩む。

  # by lywdee | 2021-05-20 02:22 | 日常雑記

Eternal Mirage (222)

「クリシュナ伯母様? おはようございます・・・」
「ん? ヴァーシュか・・・、おはよう」
 その日クリシュナは今のソファーで寝ていた。
 起き上がったクリシュナは毛布を片手に自室へと戻る。そして自分のベッドに毛布を投げると、キャミソールを脱いで胸にさらしを撒き始める。
「ルシア! 朝よ、起きなさい!」
「んあ? おはよう姉さん」
 うつ伏せで寝ていたルシアがむくりと起き上がる。
「さっさと顔を洗ってきなさい。そんな顔、姪っ子達が見たら心配するわよ」
「うん・・・」
 クリシュナが言うように、ルシアの顔には誰が見てもわかるように泣いた後が、はっきりと見て取れるように白くなっていた。
「姉さん、ゴメン」
 ルシアは一言謝ると、静かにクリシュナの部屋を出て行った。

「クリシュナ伯母様、最近ソファーで寝てますね?」
「ん? 気にしないで、一人で寝たいだけだから」
 朝食をとりながらヴァーシュはクリシュナに問いかけたが、クリシュナはそっけなく答えるだけで、普段と変わらぬ態度で朝食をとっていた。
 ヴァーシュは視線をルシアに移したが、こちらも普段と変わった様子はない。
(伯母様同士の喧嘩? まさかね・・・)
「姉さん、フレア、私今日帰り遅いから、夕方までには帰る予定」
「それはいいけど、何処に行くのさね?」
「ジュノーよ。たいした用事じゃないけど、時間かかるから多分遅くなる。ご馳走様」
 ルシアはそう言うと立ち上がり、書類らしきものを抱えて女所帯を出て行った。
「・・・で」

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「師団長様は今日も缶詰め?」
「そうなのよ伯母さん。書類は多いし、卒業生の相談も多いし、部隊長候補はいないしで・・・」
「アンタも苦労してるわねぇ・・・」
 肩を落としてため息をつくル・アージュを見て、クリシュナは苦笑いした。
「ル・アージュ様、これが今日のお弁当になります」
「ありがとフレアさん。じゃあ行ってくる・・・」
 お弁当を受け取るル・アージュ。師団長になってからの日課ともなった最近続いている光景だった。

 お昼時。

「そうですか・・・、騎士団にソーサラーを派遣してほしいと・・・?」
「はい。学長のお力でなんとかなりませんか?」
 ルシアは今、ジュノーのセージキャッスルにいるアカデミー学長のもとを訪れていた。
「そうじゃな・・・、適任者が一人いたな。最近ソーサラーになったばかりだが、君が師事していた子が・・・」
「私が師事? ああ、あの子か・・・」
「本来なら君にもシュバイチェル学園の講師をしてもらいたいんじゃがのう」
 ため息をつく学長にルシアは笑って答えた。
「ありがとうございます」
「プロンテラ騎士団には多額の寄付をいただいてるからな、無下にはできまいて・・・」
「がーくーちょー! セージ希望者をつれてきましたぁ! ・・・って、ルシア先生じゃないですかぁ。ご無沙汰してますぅ」
 笑いあってた二人の前に、マジシャンの女の子を連れた、少し間延びした口調のソーサラーがやってきた。
「おお、ミネア君ご苦労。ちょうどいい、君には明後日からプロンテラの騎士団に行ってもらう。詳しいことはルシア君に聞くといい」
 そう言うと学長はマジシャンの女の子と話を始めた。
「先生、私が騎士団にって、どういうことですかぁ?」
「ん? 私の代わりに騎士団でオートスペル型の騎士たちの勉強を見てもらいたいのよ」
「お給料でますぅ?」
「出なきゃ推薦なんかしないわよ。少なくとも、ここで先生してるより給料いいわよ」
「やりますぅ」
「相変わらず現金な子ね・・・」
「だってぇ、強くなるには装備揃えなきゃいけないじゃないですかぁ。ここのお給料じゃあ生活切り詰めないと貯金できないんですよぉ」
「はははははは・・・」
 呆れて笑うルシア。
「・・・で、どうすればいいんですかぁ?」
「ん~、基本平日の午前8時から12時まで魔力アップのための勉強させるだけ。実戦はたまに同行して付与してあげるくらいね。ああそうそう、実戦は向こうの師団長が指揮を執るから大丈夫。アークビショップもつくから実戦で危険な目には合わないわ」
「ふんふん」
 メモを取るミネア。
「属性石は自腹ですかぁ?」
「ああ、それは騎士団長に言えば、消費した分は現物支給してくれるわ」
「 ホッ・・・」
「まぁ今説明できる点は以上ね。あとは騎士団専属になる書類を書いてくだけね」
「おうちはどうなるんですかぁ?」
「その辺は騎士団の寮にはいればいいじゃない? 寮費は払うけど、朝夕つきで個室もらえるはずよ」
「ふんふん」
 ミネアは質問するたびにメモを取っていく。ルシアにしてみれば見慣れた光景だ。
「じゃあ明後日騎士団で・・・」
 こうしてルシアはプロンテラに帰るのであった。

「ただいまぁ」
「あら?思ったより早かったわねぇ」
「みんなは?」
「ヴァーシュ達ならお風呂よ。私は上がったばっかだけどね。あんたは一人で入りたいんでしょ?」
「まぁね」
 クリシュナはバスタオルで髪を拭いていた。
 姪っ子達が先に入ってると聞いたルシアは、心なしか安心した。
「夕飯はあんたが風呂から上がったら作るってさ」
「わかった」
 ルシアはクリシュナとは目も合わせずにクリシュナの部屋へと入っていった。

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(さて・・・、後は・・・)
 ルシアはろうそくに火をともすと、机に向かい合った。こみ上げる思いがあるのか、真剣なまなざしで紙とペンを取り、深呼吸一つして何かを書き始めた。

「叔母さん、お風呂あいたよー」
 ル・アージュがクリシュナの部屋のドアをノックして、ルシアに聞こえるように声をかけた。
「わかった、今行く」
 ルシアは袖で目をこすると立ち上がった。そして書きあがった何かを机の引き出しにしまいお風呂へと向かった。
「ねぇクリシュナ伯母さん。ルシア叔母さんの様子・・・、最近おかしくない?」
 ル・アージュがクリシュナに問う。
「思うところがあるのよ。今はそっとしておきなさい」
 何かをわかっているクリシュナは、そう答えて会話を切った。
 その頃ルシアは湯舟に浸かっていた。
 20数年前のことを思い出させるように残る太ももから性器にかけての火傷の跡を見て、ルシアはちゃぷっと湯舟に顔をつけた。
(私には・・・ない)
 あふれ出る涙を湯に帰し声を殺してルシアは泣いた。
(あの時死んでいれば・・・。父さん・・・、恨むよ)

 二日後

「・・・では、契約内容に質問は?」
「ないですぅ」
 騎士団詰め所にてルシア同席のもと、ミネアは正式にAS部隊の専属講師としての契約が結ばれた。
「ルシア叔母さん、ほんとに講師辞めちゃうの?」
「ちょっと思うところがあってね・・・。でも大丈夫よ、私の教え子の中では彼女が一番教え方上手だから」
「ふーん」
 ル・アージュから見たらルシアの言動に変化は見られない。先日の行動からも変わった様子もない。
(気のせいかな? でもなんで今更講師をやめるんだろう?)
 疑問を抱きつつも、ル・アージュはAS部隊の講義をしてるソーサラー師弟を見て杞憂だと頭の中身を切り替えた。
「ル・アージュ卿、すまんがミネア殿を女子寮まで案内してはくれんか?」
「私がですか?」
「あいにくと手の空いている女手がなくてな・・・」
「わかりました。ミネアさん、こちらです」

 それから一週間が経った夜の事

 プロンテラの街が物音ひとつ許さない月が煌々と輝いている夜。
 むくっと起きたルシアがクリシュナのいないベッドを見てから着替える。そして自分のベッドの下から旅道具を詰めたリュックなどを静かに引き出し背負う。
(姉さんは居間だし、窓から出るしかないか・・・)
 ルシアは物音一つ出さないように窓を開ける。そしてゆっくり窓から外へ出て窓を閉めると「やっぱりね」とクリシュナの声が響いた。
「姉さん・・・、どうして?」
「何年アンタの姉やってると思うのよ? そこまで鈍感じゃないわ」
 クリシュナは茂みから出るとルシアの額にデコピン一つした。
「考え直す気はないみたいね。いいの? 女としての幸せを放棄してまで旅に出るの?」
「姉さんに言われたくはないわ。第一、女の幸せを放棄してるのは姉さんだって一緒じゃない」
「あら、私は幸せよ? 結婚しなくたって家庭は持てるわ」
「私は・・・姉さんと違う」
「そうね。まぁアンタのほとぼりが冷めるまでこの家は守ってみせるわ。だから、いつでも帰って来なさい」
「姉さん・・・。ゴメン、また迷惑かける」
 月明かりに照らされながら、姉妹は抱き合った。
「アンタが一人で泣いてるのは知ってる」

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「何もできないお姉ちゃんでゴメンね」
 クリシュナの腕から離れて、ルシアは首を左右に振った
「兄さんにも弟にも作れなかった居場所を作ってくれたのは姉さんだけ・・・。それだけでも感謝しなくちゃ・・・。じゃあ、もう行くね」
 袖で涙を拭くと、ルシアはクリシュナに背を向け歩き出した。

 それから数分後

 コンコン・・・コンコン・・・。
(え? 誰?)
 パルティナは物音に気付いてベッドから出る。
「誰? ・・・え、姉様?」
「起こしちゃってごめんね」
 ここはリンク宅。ルシアはパルティナの顔を見に立ち寄ったのだ。
「姉様、その恰好・・・?」
「しばらく帰ってくる気ないからね。あんたの顔見たくて・・・」
「え?!」
 パルティナの驚く顔を見てルシアは微笑んだ。
「刹那君のことはどうするんですか!」
「うーん、これ以上愛されるのが怖いの。だから逃げることにした」
「彼は知ってるんですか?」
「ううん、でもその方が恨まれていいかもね」
「そんな・・・」
「思い出はいっぱい貰ったからね。初めて男の人に愛されたから、私はそれで満足だわ」
 パルティナの今にも泣きそうな顔を見てルシアは背を向けた。
「ゴメンね。ダメなお姉ちゃんで・・・」
「姉様!」
「これ以上はリンクにまで気づかれちゃうから、お姉ちゃんもう行くね」
 そう言ってルシアは背を向け歩きだだした。
「あ、そうだ」
 ふと歩みを止めるルシア。
「お姉ちゃんが帰ってくるまでに幸せになってないと、お姉ちゃん怒るからね!」
 振り向いてパルティナに笑顔を見せるルシア。
 そう一言残すとルシアは振り向くことなく歩き出し、その途中でふッと消え去った。ルシアがいつもつけてるテレポートピアスの効果だ。

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「姉様・・・」
 その場に崩れ落ちるパルティナ。

 コンコン!

「パルティナ! 誰か来たのか?!」
「兄様! 姉様が・・・、ルシア姉様が!」
「ルシア姉さん? どこに行った?!」
 リンクは崩れ落ちたパルティナの両肩に手をかけゆすった。だがパルティナは泣きながら首を左右に振った。
「テレポートピアスを使われましたから、東西、南門どこからでるのか・・・」
「クリシュナ姉さんが止めなかったってことは・・・、私たちじゃ止められるわけないか・・・。着替えろパルティナ! クリシュナ姉さんのとこへ行く!」

「はぁ・・・、お姉ちゃん失格だなぁ・・・」
 女所帯の前、石階段に腰を下ろし月を眺めるクリシュナ。
「姉様ー!」
 空から聞こえた妹の声に、クリシュナは目を凝らして周囲を見回す。
 するとどうであろう。隣家の屋根を超えてグリフォンがクリシュナの前に現れた。
「リンク・・・、パルティナ・・・」
「どういうことです姉さん! ルシア姉さんが旅に出たって?!」
「アンタらの所にも行ったんだ・・・。どうもこうもないわ。あの子の古い傷が開いちゃっただけよ」
「兄様、古い傷って・・・?」
「ああ、お前はまだ小さかったからな、覚えてないのも仕方がない」
「二人とも、ここじゃなんだから中に入りなさい。順を追って説明するわ」

 女所帯に招き入れられたリンクとパルティナ。居間のろうそくに火がともされ、フレアによって紅茶が出された。
「パルティナ、驚かないで聞いてね。ルシアはね、子供が産めない体なの」
「ルシア姉様が? そんな・・・」
「リンクも知ってるだろうけど、あの子、彼氏できたでしょ。この数か月で親しくなっちゃて・・・」
「まさか・・・」
「おおよその見当がついたみたいね。子供が欲しい、その思いが強く出ちゃって・・・」
「だからって旅に出るほどじゃあ・・・」
「リンクは男だからねぇ、パルティナならわかるでしょ?」
「はい・・・。愛した人の子供なら、私だってほしいです!」
「そういう事よ、リンク。だからルシアはパルティナに会いに行ったのよ」
「そんな・・・」
「だから私にも、パルティナにも止められなかったのよ。3つ子のアンタとアレスならなおさら止められないわ。あの子はあんた達のお父さんを恨んでるからね。3つ子の共有本能のせいで死ねなかったってね」
 リンクは黙り込んだ。あの時の痛みは今でも覚えてる。だからこそ姉を救えたと思っていたが、それがかえって姉に深い傷を残してしまったと・・・。
「まぁ自殺しないだけマシね。そんなことをすれば母さんが悲しむだけだしね」
 クリシュナの言葉にリンクもパルティナも声を出すことができなかった。
「パルティナ、アンタに一つ頼みがあるんだけど・・・」
「はい?」
 クリシュナは1通の手紙をパルティナの前に差し出した。
「これは?」
「悪いんだけど刹那君に渡してほしいのよ。私じゃ彼の居場所なんてわからないのよねぇ」
「わかりました」

 そして翌日

 早朝の大聖堂、その中の退魔部門の待機室にパルティナは足取り重くやってきた。
「ハァ・・・」
「パルティナ様、おはようございます。なんだか大きなため息ですね」
「ああ、刹那君おはよう。ちょうど君を探していたのよ」
 そう言ってパルティナは懐から昨日クリシュナから預かった手紙を時津刹那に渡した。
「へ? 手紙?」
「ルシア姉様から君にって」
「? ルシアさんから?」

 パサッ

Eternal Mirage (222)_f0158738_11360989.png
 刹那君ごめんね。君がこの手紙を読んでる頃、私は君の知らない土地にいると思う。
 君との交際は楽しかったけど、やっぱり我慢が出来なくてしばらくプロンテラを離れることにしました。
 正直言って私はあなたとの子供が欲しかった。
 でも知っての通り私は子供の産めない体、望んでも到底かなわない望み。
 君は優しいから養子でもいいって言うだろうけど、私はちゃんとお腹を痛めた子供が欲しいの。
 ずっと言わなきゃって思ってたんだけど、君の顔を見るとやっぱり言えなくて・・・。ゴメンね。
 ちゃんと会って話がしたかったんだけど、言いだす勇気も機会もなくて、悩んだ結果私から去ることに決めました。
 年上なのに余裕がなくてがっかりしたでしょ? 恨んでくれても構わない。だから君も私の事なんか忘れて、ちゃんと自分の遺伝子と血を残せる女性と結ばれて幸せになりなさい。
 私の代わりなんか探しちゃだめよ。女の子はその辺に敏感なんだからね。

 最後に、私を見つけてくれてありがとう。 さようなら・・・。

 手紙の最後の方は涙でにじんで読み取ることができなかった。
「そりゃぁないっすよぉ。ルシアさん・・・」
「ゴメンね刹那君・・・。私たちじゃ止められなかった・・・」
「パルティナ様、これ、昨夜のものですよね! どの門から・・・」
「ゴメン! テレポート使われちゃったからわからないの・・・」
「くそ!」

 ガンっ

 刹那はすぐそばの柱を叩いたが、自分がルシアを追い込んだことに気づくと悔しくて悔しくて自分に腹を立てた。
「ルシアさん・・・」

「今頃刹那君に手紙届いたかな?」
 ルシアは現在、ミョルニール山脈の中ほどにいた。とりあえずの目標もなく、ただプロンテラから遠くに行きたかった。
(刹那君・・・、早く私の事、忘れてよ)
 刹那の事を考えると涙が出てくるが、ルシアは袖で涙をぬぐうとあゆみをすすめるだけだった。

Eternal Mirage (222)_f0158738_11525481.png
(当分、野宿かな? 大きい街には立ち寄れないし・・・)
 地図をしまい、とりあえず北を目指すことにしたルシア。


 そして10年ほど、彼女の姿を見たものはいなかった・・・。

  # by lywdee | 2021-05-11 12:07 | Eternal Mirage

Eternal Mirage 221

 桜の木々が芽吹き始め、ここプロンテラも春の陽気に包まれ始めた。
 プロンテラ騎士団も、いつしか4期生ともなるオートスペル(以後AS)部隊の新期生を迎え、騎士団内でも組織として確立していた。
 初期からのAS部隊長であったル・アージュも、いつしか師団長となり多忙な毎日を送っていた。もちろんル・アージュは元が遊撃隊の出身であるから、授業はルシアに任せ後輩の1期生、2期生の手本になるべく、現在は3期生を指導する立場に置かれたことに不満をもっていた。
 内心では、早く1期生、2期生から現場を任せられる部隊長が出てきてほしい・・・。そう思いながら後輩の成長を望んでいた。
 目下騎士団の御用達となり始めたセラフィーもまた、AS装備や回復用にもなるブリューナクの精錬調達と忙しい毎日を送っていた。

 そんな昼下がり・・・。

「はぁ…」
「ずいぶん大きなため息だな。師団長の仕事はそんなに大変なのか?」
 騎士団詰め所の外で互いにお弁当を食べているル・アージュとセラフィー。
「ああ、ごめんセラフィーさん。聞いてなかった。・・・で何の話?」
「だから師団長の仕事は大変そうだなと…」
「そうなのよ。書類仕事は増えたし、少年兵の魔力チェックや卒業生からの相談やらで自由はなくなったわ」
 ご飯を食べながらの雑談。二人はお互いの仕事の内容と現状を話し合っていた。
「部隊長時代のほうがまだ自由があったんだけどなぁ」
「まぁそのおかげで俺は生活費稼がせてもらってるんだからなぁ」
『はぁ…』
 二人同時のため息。思うところは一緒らしい。
「セラフィーさん最近よく詰め所にいるね」
「ああ、ギルドに属さない隊員さんからの過剰依頼とか、AS用防具との兼ね合いで頼まれるんだわ。過剰代もばかにならんし、防具代も稼がないといけないらしいから、武器にそこまで金かけられないそうで、壊れてもいいからメカニックに頼む方が早いらしい」

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「ホルグレンさん当てにならないものね」
「精錬代もバカにならんしな」
 苦笑いで顔を合わす二人。
「あら? ルア、今頃ご飯?」
 そこへ現れた双子の姉ファ・リーナ。
「あ、お姉ちゃん。どうしたの?」
「臨時よ臨時。大聖堂に支援の臨時募集の貼り紙してるの騎士団じゃない」
 あきれ顔でファ・リーナはル・アージュに紙切れを見せた。
「あー、3期生の臨時パーティーの募集か。パーティーリーダーは・・・、ああ、あの子か」
 パーティー募集の紙を読んでル・アージュは、パーティーリーダーの顔を思い出した。
「お姉ちゃん、行先は?」
「ピラミッドダンジョンの3階で肩慣らしして4階に挑戦って書いてあるじゃない」
「AS騎士4人の支援1人か…、ま、順当ね」
 ファ・リーナに紙を返すル・アージュ。
「飯も食ったし、俺は帰るわ」
「セラフィーさんお疲れ様」
「ごきげんよう」
 ル・アージュとファ・リーナに見送られて帰るセラフィー。
「さて、ご飯も食べたし仕事に戻るか…」
 ル・アージュも立ち上がり、ファ・リーナとともに詰め所の中に入っていく。

「師団長おかえりなさい」
「師団長、レンタル装備の件ですが…」
「師団長、1時間くらい空いてませんか?」
 ル・アージュが詰め所に入るや否や、取り囲むように3人のルーンナイトが彼女に詰め寄る。
「どうしたのさ?」
「いえ、これからパーティー組んでピラミッドダンジョンに行くんでご一緒にと…」
「何? もしかしてルーンナイト4人って、まさか私含めて…?」
「そうですよ。外パーティーでご指導いただきたくて…」
 3人のルーンナイトは期待のまなざしでル・アージュを見る。
『ダメですかぁ?』
「アンタたちねぇ…」
 呆れてル・アージュは目を閉じたが、ファ・リーナの「お姉ちゃんと一緒じゃ嫌?」のセリフが追い打ちとなった。
「わかったわ…。なら支度と受付しなさい」
『やったー!』と喜ぶ3人のルーンナイトとファ・リーナ。
「はい! 3人分のAS装備借りだし書類と出撃申請書! ハァ…、私も部隊預り書書かなきゃ…」
 ル・アージュら5人は彼女の部屋でもある師団長室に入り、ファ・リーナを除く4人はそれぞれの書類を書き始める。
 そしてル・アージュ以外のルーンナイト3人はそれぞれのスタイルに合わせたAS装備を借り受ける。
「団長~。1時間ほど出かけてきまーす」
「何だ? ル・アージュ卿、卒業生連れて出撃するのか?」
「不本意ながら…」と言いだし書類を差し出すル・アージュ。

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「卒業生たちの尻叩いてきます」
「ふむ…、書類に不備はないな。わかった、出撃を許可しよう」
「ありがとうございます。では…」
 こうして外にでた5人は、ファ・リーナのワープポータルでモロクはピラミッドダンジョンの前に出た。
「3階の入り口までは各個に進撃! 現地合流でいいわね」
『はい!』
 ル・アージュの言葉に3人のルーンナイトが進入していく。
「お姉ちゃんは2階中央で私と合流ね。一番早くついても誰も守ってくれないからね」
「わかった」
 こうしてダンジョンに入る姉妹。1階はル・アージュはハエの羽根で、ファ・リーナはテレポートで2階を目指す。
 そうして数分後、全員が合流ポイントに着いたところでル・アージュは一言。
「お姉ちゃん、支援はよろしく。私はいらないからね。あと、あんた達! あまり離れずに数の優位を活かしモンスターを迎撃すること! それと、あまりにも数が多すぎたらASだけに頼らず、ドラゴンのブレスも利用すること!」
『はい!』
 こうして、ル・アージュはファ・リーナを護衛しながら3期生の実力を見定めるのであった。

 その頃プロンテラでは…

「嬉しそうね、あなた…」
「そりゃーもう! ルシアさんとデートできるなんて幸せで幸せで…」
 プロンテラ中央の噴水の場所でベンチに腰掛ける2人。ルシアと時津刹那だ。
 2人ともいつもと変わらぬ恰好。アークビショップとソーサラーの制服(?)姿だ。

Eternal Mirage 221_f0158738_13093944.png
「…で、何処へ連れ出すつもり?」
「まぁまずは食事でも…。こんなことを言ったら神に怒られますが、大聖堂で出るご飯は質素なものが多くて…」
「聖職者にしてはまぁ怒られるわね」
 ルシアはあきれ顔で、しかし少し微笑んで刹那を見た。
 付き合い始めの頃は、聖職者との、しかも年の差が離れてることから、刹那のお誘いに遠慮がちだったルシアも、気取らない刹那との時間を心ならずも楽しんでいた。
「そう言えばあなた、一人暮らしするようなこと言ってたけど、その後どうなったの?」
「俺ですか? やっといい家見つけたんで引っ越しましたよ。早く出て行かないと次のプリーストとかが入寮できませんからね」
「へぇ…」
「どうしました? うちに来たいんですか?」
「いえ、結果が気になっただけよ」
 笑って答えるルシア。だが内心は胸に針が刺さったような痛みを感じていた。
「さ、食事するなら早く行きましょ」
「そうですね。もう食堂もすいてる頃でしょうし…」
 2人は立ち上がり食堂街のほうへと歩き出した。
 刹那の言う通り、昼もだいぶ経ったことで食事のできるお店は軒並みすいていた。
「ルシアさん、何か食べたいものは?」
「うーん、そうねぇ…、パスタが食べたい…かな」
「じゃあここにしましょう」
 刹那が入った店にルシアも続く。
 中はこじんまりとしていたが南国をイメージした陽気さが感じられるお店だった。
 刹那はそこでミートソースパスタを、ルシアはアサリをふんだんに使ったパスタを頼んだ。
「ルシアさんって、パスタが好きなんですか?」
「いいえ。うち若い子がいるでしょ? まだまだ成長期だから肉料理が多いのよ。だからたまには違うものが食べたいなって…」
「レイに聞いたことがあります。ルシアさんっちって前衛職多いと伺いました」
「そゆこと」
 注文した料理が二つ、2人の目の前に出される。そして刹那は神への感謝の祈りを捧げ始めた。
「ほう、さすがは司祭様…、やっぱ食前の祈りは忘れないのね」
「曲がりなりにも司祭ですからね、癖と言うか、習慣ですね」
「レイもうちに来た時食前の祈りをささげてたわねぇ」
「え?! レイもルシアさんとこ行ったことがあるんですか?!」
「男所帯の連中が、家主のセラフィーが2~3日ウンバラから帰れない用事があったから、食事しにきただけよ」
「あいつ…何も言ってなかったぞ」
 ルシアから視線を外して小声で愚痴る刹那。
「ま、私からしたらあなたの最初の印象は最低だったけどね」
「え?!」
 驚く刹那。かくいうルシアは黙々とパスタを食べている。
「レイを使ってうちの姪っ子から情報集めるなんて…、卑怯よねぇ」
「あははははは…」
 肩身を狭くして小声で笑う刹那。
「まぁあの頃は誰とも付き合う気はなかったからねぇ」
「見直してくれた? …ってことですか」
「少しはね。ご馳走様」
 ほぼ同時に食べ終わった2人だが、伝票はルシアが刹那より先に取りあげ、会計先に持って行った。
「ルシアさん! 俺が払いますよ!」
「いいから黙ってなさい。司祭の給料なんてたかが知れてるわ。だから自分の為に使いなさい」
 そう言って会計を済ますルシア。
「年上の言うことは聞くものよ」
 笑って店外に出たルシアを追う刹那。
 すると二人の前に酔っ払いと思われる3人組が現れた。
「おう姉ちゃん太っ腹だな! 俺たちにも分けてくれよ!」
「魔法使いなんぞ詠唱できなくすれば何もできねーしな」
「ルシアさんになんてことを言うんだ!」
 一触即発な事態にルシアの前に出る刹那。
「弟は黙ってな!」

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「弟? 俺はこの人の彼氏だ!」
「彼氏ぃ…? 笑わせるなよ小僧!」
「何ぃ!」
 周囲に人がいるにもかかわらず殴りかかろうとする刹那だったが、次の瞬間、刹那の前で酔っ払い3人組が竜巻に呑み込まれ宙に浮いた。ルシアのバキュームエクストリームだ。
「はぁ…、なんで私こんなに男運悪いんだろ?」

 ドサァッ!

 バキュームエクストリームの効果が切れた瞬間3人組が地面に落ちる。
「な?! このアマァ、いつ呪文を詠唱した?!」
 驚く酔っ払いと刹那。ルシアは刹那の肩に手をやり横に並ぶ。
「今のは警告よ。さっさと帰ったら?」
 強気なルシア。刹那がルシアを見たとき、少々機嫌が悪いように見えた。
「何ぉぅ! おい、お前銃で詠唱を妨害しろ! 相手は非力な司祭と魔法使いだ。捕まえれば手出しでき…うわぁ…!」
 またルシアのバキュームエクストリームが3人組を巻き込む。
「サイキックウェーブ…」

 バスバスバスッと見えない衝撃波が3人組を襲う。

「手は抜いてあげたわ。これに懲りたらまっとうな仕事に就くことね」
「いつの間に詠唱しやがった…」ガクっと3人組は白目をむいて気を失った。
 いつの間にか一部始終を見ていた人だかりができていて、ルシアの行動に歓声を上げていた。
「この人だかり…、何事だ! いったい…」
 人混みをかき分けやってきたのはロイヤルガードの小隊だった。
「あらリンク。今日は聖騎士団が見回り?」
「ルシア姉さん? なんなんだ、この騒ぎは…?」
「ちょっとしたゴミ処理よ」
「リンク隊長! こいつら手配中の連続強盗犯です!」
 聖騎士2人が気を失った酔っ払い3人組と手配書を見比べて叫んだ。
「姉さんがやったのかい?」
「手加減はしてあるわ」
「よし! そいつらは縛り上げて騎士団に突き出すぞ!」
 こうしてルシアと刹那に絡んできた3人組は縛り上げられたのち、騎士団へと突き出されることとなった。
 それを見送ったルシアの肩を、刹那はチョンチョンと叩いた。
「どうしたの?」
「ルシアさんいつ呪文の詠唱を?
「ああ、それはこの子の能力よ」
 ルシアは後ろを指さし、そこにいた緑色の小さな竜巻みたいなものが存在していた。
「これは…?」
「ベントスよ。この子の能力で詠唱速度を早めただけ」
「いつのまに精霊なんか…」
「君があいつらの注意を引いてた時にね。ありがと、ベントス」
 ルシアが手をかざすと、ベントスは風のように消えていった。
「それにしても…、俺はこの人の彼氏だ! なんて…、かっこよかったぞ」
「キスしてくれてもいいんですよ、ルシアさん」

Eternal Mirage 221_f0158738_14291941.png
「調子に乗るな!」

 ポコ!

「いて!」
 顔を赤らめたルシアに小突かれる刹那。
「でも、男としては面目丸つぶれですね」
「司祭が暴力ふるう方が問題よ」
「そうですね、すいません」
 笑いあった2人は野次馬がいなくなったところでこの場から立ち去った。
「ルシアさん! また次の休みにデートしましょう!」
 走り去ろうとした刹那が振り向いてルシアに手を振った。
 ルシアはそんな刹那に軽く手を振って応えたが、内心複雑な心境で刹那を見送ることしかできなかった。

  # by lywdee | 2021-04-06 14:45 | Eternal Mirage

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