人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Eternal Mirage(96)

 秋も深まり、プロンテラは今、ハロウィンで賑やかになっている。
 そんなこともお構いなしに、一本の剣を胸に抱えて女所帯に入っていく女性がいた。
「ただいまー、ルアいるー?!」
 大声で入ってきたのはクルセイダーの鎧を身にまとったヴァーシュであった。
 ヴァーシュは食卓に一振りの剣を置くと、クルセイダーの鎧を脱いでいく。
 たまたま食卓でかぼちゃパイを食べていたネリスは、明るい表情で狩りから帰ってきたヴァーシュを見ている。
 ヴァーシュの声が響いた2階の部屋からル・アージュが何事かとゆっくり降りてくる。
「なぁに、ヴァーシュ。私になんか用?」
 目を細めて頭をかく。どうやら昼寝していたようであるが、ヴァーシュの声で起きたばかりのようだ。
「これを見てよ!」
「何? 私のドラゴンスレイヤーじゃない」
 食卓につくなりドラゴンスレイヤーを鞘から抜いてみるル・アージュ。寝起きで頭がぼーっとしてるが、鞘から抜いたそれをまじまじと眺めたり振ってみたりする。
「なんか違う・・・」
「わかる? 龍特化にしたのよ!」
「何、カード出たの?!」
 立ったまま食卓に両腕で頬杖をつくヴァーシュが縦に首を振る。
「もうじき夕方か・・・。何時間山にいたのさ?」
「えーっとねぇ、4~5時間かな? カード出したのは3時間ぐらいよ」
「『クリシュナ理論』か・・・。よくもまぁ何時間も狩りに集中できるもんだわ」
 ル・アージュは半ば呆れ顔だったが、自分用の武器が特化と化したものだから自然と笑みがこぼれる。
 その姿をパイを食べながら見ていたネリスは、うらやましそうにル・アージュを見つめている。
「私もドラゴンキ・・・」
「それ以上は言うな! サイズがサイズなんだから、ダメージなんてほとんどないわよ」
 ネリスの呟きを途中で止めるル・アージュ。自分の剣も両手剣なので欠点はわかっているようだ。
 ル・アージュも剣を鞘に収め、改めてヴァーシュを見る。
「私の武器のためにすいませんねぇ」
「いいのよ、いいのよ。せっかく作ってもらった剣なんですもの、私にはこれぐらいのことしかできないから」
「それでも頭が下がるわ。ありがとヴァーシュ」
 深々と頭を下げ素直にヴァーシュに感謝するル・アージュ。
 ヴァーシュにしてみれば高価なカードであるプティット(地)カードを自力で出せると判断したうえで、自分用だけじゃなく、ル・アージュと父親用に集めてこれると思うのと、クリシュナのように家族の装備を自力で揃えられるようになりたいと思った結果だから、感謝されると逆に照れてしまうのだった。
「じゃあ私鎧をしまってくるわね」
 そう言って鎧を持って自室に戻るヴァーシュ。
「私はカプラさんのとこ行ってくるから、ヴァーシュが戻ってきたらお風呂入ろうって伝えといて」
 ル・アージュはドラゴンスレイヤーを持って出かけていこうとして、ネリスに伝言を頼む。
「私も入っていい?」
「いいわよー。じゃあちょっと行ってくる」

 そして数分後。ヴァーシュ、ル・アージュ、ネリスの3人は夕食を前にしてお風呂に入っていた。

「ヴァーシュ姉、背中流してあげる」
「ありがとネリス」
「しかし叔母さんほどじゃないにしろ、よくカード出るまで狩りできるものだわ」
 浴槽の中から上半身をのりだし、5時間も狩りをしていたヴァーシュを見るル・アージュ。
「叔母さんほどじゃないからましだお」
「そうね、いくら私でも7~8時間もこもれと言われたら引くわよ」
 ネリスの言葉には特に重みがある。ヴァーシュも微笑んで答えるが疲れが出てきたのか少々元気がない。
 そんなこんなで3人がお風呂から上がると、入れ違いでクリシュナとルシアが脱衣場で服を脱いでいた。
「叔母さんおかえり」
「カード出たんだってね。よかったじゃない」
「叔母様の言うとおり数狩っていましたからなんとか・・・」
「そうよー、カード出すなら数狩らなきゃ出るもんも出ないからね」
 当たり前のように答えるクリシュナがルシアとともにお風呂の中に入っていく。それを見送るとヴァーシュ達3人は着替えを終わらせ食卓についた。
 窓越しに見える外の様子は、冬が近づいてきてるせいかもう真っ暗になっていた。
「ヴァーシュは明日も山にいくの?」
「ええ、あと父様の分も出す予定だから、まだまだ山に行かなきゃいけないわ」
「はぁ・・・、私もヴァーシュやクリシュナ叔母さんのように役立つカード出したいなぁ・・・」
 ル・アージュの言葉にぞっとするネリス。彼女もまたカードを出したことはあるが、役立つカードとなると良くてマンティスカードぐらいであるから、あまり話したがらないのが本音である。
 そのまま和気藹々と話がはずみ、気がつけばクリシュナとルシアがお風呂から上がって食卓についた。
 それを見越していたかのように、食卓に料理を運び出したフレア。今日はかぼちゃの入ったシチューがメインでサラダとパンも用意されていく。
 こうして今日も女所帯の1日は、静かにふけていくのであった。

  by lywdee | 2010-10-26 01:54 | Eternal Mirage

<< クルセLv94 性懲りもなく >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE