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Eternal Mirage(138)

「なんでお前がここにいるんだ?」
 怪訝な顔でセラフィーを見るシル・クス。
 ここは龍の城、そこへやってきたセラフィーが何をしにきたのかわからないシル・クスが彼を問い詰める。
「いやー、ここにいればお前さんに会えると思ってね。何、たいした用じゃないさ」
「・・・で、いったい何の用だ?」
「いやね、資金繰りの話なんだけど、土精だけじゃなくキャラメルも一緒に狩ってくれないかってね」
「カードか・・・」
 腕組をしセラフィーを見つめるシル・クス。
「ついででいいんだ、ついでで・・・。カードが出れば高値で売れるんだ。大きな期待はしないが出ればラッキー! ってところだ」
「昆虫特化が流行りなのか? それならついでに狩ってもいいが、大きな期待はしないでくれよ」
「それはわかってる。ただキャラメルのいる狩場にいるお前さんにしか頼めないことなんでね」
「わざわざそれを言いに龍の城まできたんか? 呆れた奴だな」
 シル・クスは大きなため息一つついて両手を腰にやる。セラフィーも無理を承知で頼みに来ているのだから無下にもできない。それだけ現在の資金繰りが難航しているものだとシル・クスでも容易にわかる。
「で、相場は幾らなんだい?」
 興味本位で相場を聞くシル・クス。
「そうだな・・・、今なら6M台で売買されているなぁ」
「あんなモンスターのカードがそんなにもするのか?!」
 額を聞いて驚きの表情を隠せないシル・クス。相場が相場だけに感嘆の声が漏れる。
「それならお前さんがわざわざ龍の城くんだりまで来るだけはあるな・・・」
「だろ? 土精と蟷螂相手にするより、別の意味で張り合いあるだろ」
 セラフィーはタバコに火をつけ一服し始める。
 相場に驚いたシル・クスも、セラフィーが龍の城まで来たことに納得した。
「それで、お前さんはこれからどうするつもりだ?」
「俺? 伝えることは伝えたから帰るさ」
 言うが早いかセラフィーは懐から蝶の羽を取り出していた。
「じゃ、頑張ってな」
「あ、ああ・・・」
 蝶の羽を使いプロンテラへと帰っていくセラフィー。とり残されたシル・クスはただ呆然とその場に立ちつくしていた。

 男所帯へと帰ってきたセラフィー。ドアを開けるとガランガランとドアに取り付けた大きな鈴のようなものが音をたてる。
「なんだ、みんな狩りか?」
「そうでもないぞ」
 セラフィーが廊下のほうへと視線を移すと、そこには騎士の鎧をまとった「白鳥」がいた。
「家を空ける訳にもいかないんでな。お前が帰ってくるのを待っていたところだ」
「それはすまないことをしたな。で、これから狩りか?」
「いや、今日はおとなしくしてるつもりだ」
「体調でも悪いのか?」
「それもあるが、今日はそんな気になれないだけさ」
 そう言って白鳥は自室へと戻っていく。
 そんな白鳥を見送ると、セラフィーは工房に立っていつもの目録を広げてタバコは灰皿へ。目録もたいぶ書いたり消したりしてたが、それでも書かれていたものは大体消されているのが見て取れる。
(さて・・・、シル・クスの武器が出来上がったら次は何を用意しようか・・・)
 そんなおり、玄関の鈴がガランガランと鳴り響く。
「ただいま戻りました」
 帰ってきたのはプリーストの渚 レイである。どうやらル・アージュと狩りしていたらしく、レイに続いて彼女も男所帯に顔を出しに来ていた。
「目録を出しているって事は何かできたんですか?」
「いや、次何用意するのか悩んでるところだ」
「紅茶淹れますね」
 渚 レイは厨房へと向っていき、ル・アージュはセラフィーとともに目録を眺めていた。
「うちの装備とかってまだあるの?」
「装備か? 女所帯は装備よりカードの方が多いぞ。それにお前さんらは物より資金だろうよ?」
「あぁ、ネリスが嘆いていたな。狩り行けないって・・・」
 セラフィーが淡々と話す中、厨房からはいい香りが工房まで流れてくる。
 ル・アージュはおとなしく目録を眺めていたが、気になるものを見つけて「あ!」と声を上げた。
「ねぇセラフィーさん。このネリス用カードって何?」
「目ざといな・・・。これはネリスの盾用に刺す予定のカードさ」
「予定?」
「ああ、ホドレムリンかペノメナかのどっちか、実際金がないからまだ考慮中ってところだ」
「ずいぶんとまぁ高い代物を・・・」
「そう言うなって。あの子はあの子で頑張ってるんだから、盾ぐらいはまともにしてやりたいってクリシュナさんがね」
 セラフィーの台詞に少々ふくれるル・アージュだったが、自分らも装備やカードを2人が調達したり、用意してもらってる以上しょうがないかと肩を下ろした。
 むしろ女所帯のほうが装備を優先して揃えてもらってる現実があるし、男所帯にはかなり迷惑かけているものだと目録が語っている。
「お茶にしましょー」
 渚 レイが居間で2人を呼んでいる。セラフィーは目録を持ってル・アージュとともに居間に向う。
「そういえばリューさんは?」
「うちの大将ならピラミッドダンジョンでマミーc探してるさ」
「へぇー、騎士団じゃないんだ」
 紅茶を口にしながら男所帯を眺めるル・アージュ。普段工房までしか入ったことがないのでちょっと新鮮さを感じている。
 目録をずっと眺めてるセラフィーは、紅茶を飲んではため息をついている。そんなセラフィーを見てル・アージュは何かと声をかけてくる。
「セラフィーさんは発光しないの?」
「痛いとこつくな。うちの次の発光予定者はレイだよ。俺は資金がたまらないことには狩りに行けないぜ」
 ティーカップに紅茶のおかわりをもらうと、セラフィーはようやく目録から手を離した。
「人の心配してるより先にお前さんのほうが発光近いだろうよ」
「クリシュナ叔母さんにも言われたわ。私はのんびり狩りしたいんですけど・・・」
「まぁお前さんは槍も使えるし、転生してからロードナイトになるまでは楽だろうよ」
「ヴァーシュがそうだったように?」
「あぁ、リューディーだって転生してからパラディンになるまでわりと早かったしな」
 昔を思い出すかのように天井を見上げるセラフィー。
「まぁ人それぞれだって言うところか」
 ティーカップをテーブルに置きセラフィーは立ち上がる。
「出かけるんですか?」
「あぁ、倉庫整理してくる」
「ではこれを・・・」
 カートを持ち出すセラフィーを引き止めた渚 レイは、荷物入れからオリデオコンを取り出しセラフィーに受け渡す。
「ありがとよ。じゃあ行ってくる」
 そう言ってセラフィーは東門の方へとゆっくり歩いて行った。
「私もそろそろ帰りますね」
「はい、ではまた近いうちに狩りに誘いに行きます」
「うん、待ってる」
 そう言ってル・アージュも立ち上がる。
「紅茶、ご馳走様でした」
「ではまた後日」
 ル・アージュも帰路につき男所帯はまた静寂に包まれるのであった。

  by lywdee | 2011-08-16 14:25 | Eternal Mirage

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