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Eternal Mirage(153)

「寒い寒いと思っていたら、雪が降ってたのね・・・」
 居間の窓から見える粉雪を眺め、クリシュナはほのかに湯気立つ紅茶を飲みながら独り言を呟いていた。
 例年に比べるとちょっと遅い初雪ではあるが、クリシュナにしてみれば冬の到来を感じずにはいられないといったところか。
「クリシュナ叔母さん、ルシア叔母さんは?」
「ルシアなら今日も異世界に行ったわよ。何か用事でもあったのかい?」
「うん、コンバーター作ってもらおうかなって・・・」
 ルシアの不在を聞いて残念がるネリス。材料を用意しに砂漠まで行ってきたせいで、スパノビの服が透けるほど汗をかいている。暖炉の前にいても寒さが身にしみるようだ。
「ルシアが帰ってきたら言っといてあげるから、あんたはさっさとお風呂入っといで」
「はーい」
 そう言ってネリスは二階の自分の部屋に戻り、着替えを持ってきてお風呂場へと歩いていく。
(異世界か・・・、しばらく帰ってこないかもねぇ・・・)
 空になったティーカップを眺め、クリシュナはふぅとため息をつく。
「昼までまだ時間があるか。フレアー! ちょっとセラフィーのところに行ってくるから、ルシアが帰ってきたらネリスのコンバーター作ってって伝えといて」
「かしこまりました」
 フレアの返事を聞くと、クリシュナはティーカップを居間のテーブルに置いて出かけていく。

 粉雪舞うプロンテラは、もうクリスマスの準備を始めてるところが多く、露店街も賑わいを見せている。
 クリシュナが男所帯についた頃には、ちょうど仕事を終えた渚 レイが帰ってきていた。
「クリシュナさんこんにちわ。セラフィーさんに用ですか?」
「えぇ、たいした用事でもないけどね」
 渚 レイは玄関のドアを開けクリシュナに中へ入るように促す。
「セラフィー、邪魔するよ」
「クリシュナさんかい? 今日は何用で?」
 工房のテーブルに目録を広げていたセラフィーが玄関に目をやると、クリシュナはセラフィーの前まで近づいて目録を指刺していた。
「どう? うちの若い衆の装備やカードはどれくらいつぶれた?」
「まぁまぁかな? シル・クスの稼ぎ次第だけど、今の資金繰りが終わればネリスの盾に刺すカードぐらいは工面できますね」
「私のほうは順調とは言えないけど、もうそろそろまとまった資金ができなくも無い。ただ売れればの話だし、毎日通ってるわけじゃないから、もしかしたらシル・クスの資金繰りが終わるのと一緒かもしれないわ」
「そうですか・・・。うちの大将もグラストヘイム通ってるから、エルニウムとカードが出ればいいんですけどね」
 目録を丸めてしまうセラフィー。クリシュナはため息ついてセラフィーの肩をポンと叩く。
「あんたも苦労ばっかしょってるねぇ・・・。まぁファ・リーナの装備まで揃えなくてもいいからねぇ、負担はうちの若い衆の装備ぐらいか、迷惑かけてるの」
「仕方ないですよ、元々持ちつ持たれつでここまできたんですから、今更ですよ今更・・・」
 苦笑いしてクリシュナに言い切るセラフィー。クリシュナもその辺は理解しているので、苦笑いで返すしかない。
「紅茶できましたよー」
 厨房から渚 レイがポットとティーカップを用意して工房のテーブルにお盆を乗せる。そして3人分のティーカップに淹れ立ての紅茶が注がれていく。
「ファ・リーナのプリースト昇格にあんたが口ぞえしたんだってね」
 紅茶を口にしつつクリシュナが問う。
「私が転職した時より速いペースで成長しましたから、もう素質ですよ、見てればわかります」
「そうだねぇ、優等生タイプなのよねぇ・・・あの子の場合は・・・」
「私のときはアスコット先輩が口ぞえしてくれたわけですし、今度は彼女がプリーストの資格を満たせばですが、いい後輩が育ちますよ。きっと・・・」
 自嘲気味に答えて紅茶を口にする渚 レイ。
「アスコットねぇ・・・。ナンパ師じゃなければすごいんだけれども、ファ・リーナ見たらまた声をかけるんだろうなぁ・・・」
「そのギャップがアスコット先輩らしいですけどね」
 渚 レイも、自身の先輩がアスコットであることを諦めているようでもあるが、実際支援プリーストの目標でもあるので、彼にしてみればいい先輩ではあるようだ。
「紅茶も頂いたし、そろそろ帰るわ」
「何かあったらこっちから顔を出しますよ」
「こっちも鉱石類溜まったらまた譲渡しにくるわ」
 そう言うが早いか、クリシュナは男所帯を後にするのであった。

 クリシュナが女所帯に帰ってきたときには雪は止んでいた。厩舎にペコペコがいないのを確認すると「ただいま」とゆっくりドアを開ける。
「叔母さんおかえりー」
 風呂上りのネリスが食卓でクリシュナを迎える。どうやらルシアも帰ってきていない様子である。
「ルシア叔母さん遅いね」
「異世界行ってるからね、気の済むまで帰ってくる気配ないね」
「コンバーターがー」
 ネリスはコンバーターを期待しているのがよくわかるほど、食卓に突っ伏して残念がっている。
 そんなときである。
「たーだーいーまー・・・」
 玄関から力ない声でルシアが帰ってきた。その姿はセージの衣装が所々裂けているほどだ。
「おかえり、ずいぶんやられたねぇ」
「姉さんヒール・・・」
「はいはい」
 食卓の椅子になんとか座ると、ルシアはクリシュナのヒールのお世話になる。出血こそ応急処置で塞いではいるが、今日はかなりひどくやられているようである。
 クリシュナのヒールで怪我を治した後は、クリシュナの部屋に戻りまっさらなセージの衣装で居間に戻ってきた。
「ルシア叔母さん、コンバーター作って欲しいんだけど・・・」
「ごめん、少し寝かせて」
 ソファーに寝転ぶと数分と経たず眠りに入るルシア。異世界の調査でかなり疲れているらしい。
「夕方には起きるでしょう、それまで我慢だね」
「むー・・・、仕方ないのね」
「お昼御飯ができました」
 寝にはいったルシアをよそに、フレアは二人分のパンケーキを食卓に並べる。お昼は基本的に軽いものが用意されるのが日常である。
「姉姉達も遅いね」
「あの子らは今が追い込みでしょ? 頑張ってるんだから見守ってあげなさいな」
 クリシュナは姪っ子二人の成長を期待しているので、狩りを頑張っている二人の好きなようにさせている。
 ル・アージュも本格的に転生を目指し始めたので、長時間狩りに集中し始めたル・アージュの成長が楽しみでならない。
 無論ヴァーシュの成長も楽しみの一つである。ヴァーシュにはさっさと自分を追い越してほしいとさえ思っている。
 昼食が終わるとクリシュナはルシアを起こしにかかる。
「ルシア、そろそろ起きなさいな」
「はーい」
 あくびまじりに起き上がるルシア。フレアが紅茶を用意し、それを一気に飲み干してネリスのカートまで歩いていく。
「火コンバーターか・・・」
 文句を言いたそうな感じだが、ルシアは淡々とコンバーターを作っていく。今はコンバーターの需要が低いものだから、コンバーターの作成は基本的に身内限定になっている。
 コンバーターを1セット作り上げたら、今度はクリシュナが「風呂に入るよ」とルシアをつれてお風呂場へと向かっていく。
 ネリスは出来上がったコンバーターをカートにしまうと、厨房のフレアのそばに行き、何をしているのか覗いていた。
「フレア姉何作っているの?」
「これですか? お茶請けにショートケーキでも作ろうと思いまして・・・」
「おやつ?」
「そうですね、ヴァーシュ様もル・アージュ様も今日は帰りが遅くなるものと思いまして、夕食前には戻られるでしょうから、晩御飯までのつなぎにと・・・」
「そうなんだ」
 手馴れた手つきでケーキを作っていくフレアに、ネリスは羨ましそうにその作業を眺めていた。
 それから数刻後、クリシュナとルシアがお風呂から上がり、居間で髪を乾かし始めた頃、フレアのケーキが出来上がる。
 それと時同じくして、玄関から「ただいまー」と狩りに出かけていたヴァーシュとル・アージュが帰ってきた。
「いい匂い・・・、もしかしてショートケーキ?」
 ル・アージュがフレアの手元の白い物体を見つけて匂いをかぐ。
「夕食まで時間もありますから、お茶請け程度ですがいかがなさいます?」
「そうねぇ、お風呂入ってからいただくわ」
「そういうこと」
 ヴァーシュ、ル・アージュの両名は自室から着替えを用意しに2階に上がっていく。それからお風呂に入り、湯上りにネリス共々フレアのショートケーキを頂くのであった。

  by lywdee | 2011-11-29 03:30 | Eternal Mirage

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