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Eternal Mirage(174)

 季節はめぐり、プロンテラも初夏の香りに包まれ始めていた。
「あんたはいつまでたっても本の虫だねぇ」
 女所帯の主クリシュナは居間で大量の書物を読む妹ルシアに向かってそう言った。
「いいでしょ別に・・・。それに当面の生活費は稼いだでしょ? 今は精霊についていろいろ調べたいのよ」
 姉の顔も見ることなく、ルシアは淡々と言った。
 ルシアは(クリシュナもそうではあるが)ここ数日というもの、ルティエで起きた事件に首をつっこんで、人形職人の遺産について集められた冒険者たちとおもちゃ工場の謎についての調査隊を組んで、その報酬で生活費を稼いでいたのだ。
 特にルシアは、教授からソーサラーとなり、ラヘルの聖域で修行を重ね、今では精霊を使役するほどの実力を得たのだ。
 また、ここ数日アマツで行われていた祭りでは、クリシュナ家の面々はトレジャーハントなるもので数々の財宝を手にいれ、スーパーノービスのネリスが処分した結果、当面の間金策に走ることの無いくらいの収入を得た。それでルシアは落ち着いて書物や文献をあさることができるだけの時間を得たのだ。
「なんか・・・、あっという間にルシア叔母さんに追い抜かれた気がする・・・」
 食堂でお昼ご飯を食べていたル・アージュがひとりごちる。自身もルーンナイトになってからと言うもの、騎士団での調査隊の斡旋などを受けてはいたが、ルシアの急成長には追いついていない実感を持っていた。
 それ以上に急成長したクリシュナ家のお手伝いさん。フレアはここ数日でハンターからスナイパー、レンジャーへとなり、またクリシュナ家の家事全般に就いていた。もっとも、その理由はアマツのイベント期間にレンジャーになってこいとクリシュナが言ったからでもある。
「まぁ、ネリスは仕方ないにしても、これで我が家の面々は3次職になったわけだ」
 クリシュナは嬉しそうに1階を見回すとルシアの対面のソファーに腰を下ろした。
「フレア、紅茶ちょうだい」
「私も・・・」
「かしこまりました」
 居間の年長者二人が紅茶を要求すると、厨房のフレアは手際よく紅茶を淹れ、レモンの輪切りをカップにそえて居間に運んだ。
「ルア、あんた今日は仕事無いの?」
「私? そんなひっきりなしに調査隊組まれないわよ」
「じゃあヴァーシュは?」
「リューさんの部隊で護衛任務って言ってたわよ。・・・ごちそうさま」
 ル・アージュが食事を済ますと、フレアはさりげなく紅茶をル・アージュに差し出しカラの食器を片付ける。
「ただいまー」
 ガチャっとドアが開きネリスがカートごと女所帯の中に入る。どうやら露店を出していたようだ。
「やっぱ今時間じゃ売れないなぁ・・・。夕方また出してくる」
「久々の高額装備だもんねぇ・・・。バルーンハットって言ったっけ?」
「うん、アマツのお祭りで神様がつくった過剰品。売れたら高いよ?」
「うちにもあるもんねぇ。ルシア叔母さんのだけど・・・」
 そう言ってル・アージュは居間のルシアを見た。
 実際家の中ではサークレットしかつけないルシアだったが、狩りや修行など出かけるときはバルーンハットをつけている。
「ネリス、なんか嬉しいことでもあった?」
 紅茶を飲みながらル・アージュが言った。もちろんネリスが笑顔でいるからだ。
「街でお姉ちゃんにあったのー」
「ネイ姉さんに? それがどう嬉しいのさ?」
「胸大きくなったんじゃないかって」
「どれどれ・・・」
 胸の話題が出たせいか、ルシアはネリスの後ろに立ち、おもむろに両手でネリスの胸を掴んだ。
「ひゃっ!?」
「ふむ・・・、Cカップか・・・、去年まではBカップだったのにねぇ」
 胸を掴むだけでわかるルシアもルシアだが、それ以上に胸がサイズアップしたことにネリスは喜んだ。もちろんそのあとはお決まりのクリシュナの拳骨が待っていたのだが・・・。
「ネイ姉さんもヴァーシュ並に胸あるからなぁ・・・」
 クリシュナとルシアのやり取りを見て半ば引きつった顔になったが、ル・アージュは紅茶を飲んでハハハっと力なく笑うのであった。
「そう言えばルア姉、またギルド変えたの?」
「ん? 今頃気づいた?」
 食卓についたネリスがル・アージュの顔を見て、そして無言でうなずく。
「前のギルド、人の集まり悪くなってね。それを見かねたクリシュナ伯母さんの知り合いが誘ってくれたのよ」
「へー・・・。でもクリシュナ伯母さんはギルド変えてないよね?」
 ネリスが居間で紅茶を飲むクリシュナの顔を見る。
「私は今のギルドからはそうそう抜けられないわよ。時々街で会ったりしてるからね」
「そうなんだ・・・」
「ま、今のままでもプロンテラの南の広場いきゃ友達もいるしね」
 そう言ったクリシュナは、居間のソファーに腰をおろし、少しさびしげな笑顔をみせるのであった。

 カンカン・・・、カンカン・・・と男所帯の工房から槌打つ響きがしてくる。
「よし! できた!」
 額の汗をぬぐいながら、メカニック「セラフィー」が腰を伸ばした。
「レイ! できたぞ!」
「おや、早かったですね・・・」
 工房の片隅でグロリアを詠唱していたプリースト「渚 レイ」が近寄る。
「お前さんもお人よしだな。いくらファ・リーナの狩り友の誕生日とはいえ、「火ダマを作ってほしい」って言うのだからな」
「ファ・リーナさんの頼みですし、何よりシル・クスさんの遠い親戚だって言いましたからね」
「そうなのか」
 セラフィーは出来上がったファイアダマスカスの精錬を終えて、それを渚 レイに手渡す。
「無理言ってすみませんね」
「いいってことだ。材料さえあればね・・・」
「では行ってきますね」
「あいよ!」
 出来上がったばかりのダマスカスを丁寧に布でくるみ、渚 レイは工房を出て行った。
「シル・クスの親戚ねぇ・・・」
 それを見届けたセラフィーは、タバコに火をつけ一服するのであった。

  by lywdee | 2014-05-14 13:12 | Eternal Mirage

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