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Eternal Mirage(179)後編

「師匠! おはようございます!」
「まだ弟子にした覚えはないわよ。とにかく入りなさい」
 嬉々とした笑顔で若い女モンク「カー・リー」が女所帯の居間に通される。
 彼女がこれからどうなるのか、ル・アージュ、ヴァーシュ、ネリスの3人は食堂から見守っていた。
「とりあえず、私の弟子にするか悩んだ結果、あなたに試練を与えます」
「・・・試練?」
「そう。私の弟子になりたいと言う以上、私はあなたを試さなければならない。まぁ根性はありそうだし、簡単な試練を用意したわ」
 クリシュナが簡単と言ったことに対し、違和感を感じたル・アージュとヴァーシュ。
「伯母さんが言う簡単って、絶対に怪しいわね」
「そうね。あの人に話を通したって言ってたものね」
 小声で話し合うル・アージュとヴァーシュ。
「・・・で、その試練とは?」
「なぁに、簡単な事さ。スケルワーカーカードを1枚持ってくる事。あなたの運と根性を試させてもらうわ」
(カー・リーさんご愁傷様・・・)
 ル・アージュとヴァーシュ、二人は同時にそう思った。
「カ・・・、カードですか・・・」
「そう、期限は一か月、手段は問わないわ。出してくるもよし、買ってくるもよし、盗んでこなければ合格よ。簡単でしょ」
(鬼だ・・・)
 ル・アージュはそう思った。
「な、何かアドバイスを・・・」
「そうねぇ・・・、とにかく私の弟子になりたいのなら素早くなりなさい。以上」
 なにかをふっきったように、クリシュナは笑顔でカー・リーを見送った。
 そして昼になると、試練について疑問に思っていたル・アージュがクリシュナに尋ねた。
「伯母さん、カード出す試練って、厳しすぎない?」
「そんなことないわよ。1日千匹倒せば1か月で3万でしょ。収集品の売却をすれば1か月で何とかカード買えるお金にはなるわ。まぁそれだけ倒せばカードの1枚ぐらいでるかもね。まぁそれぐらいのことできなければ私の弟子なんて勤まらないわ」
(やっぱ鬼だ、この人・・・)
 ハハハ・・・と力ない笑い声をあげたル・アージュ。顔は少しこわばっていた。
「これで1か月何もなければ、体よく弟子入りを断れるんだけどねぇ」
「でも伯母さん。もしカード出してきたらどうすんの?」
 ネリスがふと口走る。
「その時は仕方ない。弟子にするしかないわ」
 紅茶を飲みながらあっさり答えるクリシュナ。「めんどくさいなぁ」と顔に書いてある。
「まぁ保険はかけてるし、様子見といったところかねぇ」

 それから3週間後・・・

「師匠! カード出ました!」
「はぁ・・・、仕方ないわね。弟子入りを認めるわ」
「? 疑わないんですか?」
 居間のテーブルにスケルワーカーカードを出したカー・リーは、あっさりと認めたクリシュナに疑問をぶつけた。
「あなたの後ろ、見てごらんなさい」
「へ・・・?」
 そう言われてカー・リーが振り向くと、居間の壁にもたれかかった一人のシャドウチェイサーがいつの間にやら佇んでいた。男所帯のシル・クスだ。
「悪いけど監視をつけさせてもらったわ。カードを出した経緯は彼が証明してくれた。そういうことよ」
 今の今まで監視がついていたことに気付かなかったカー・リーは、改めてシャドウチェイサーの気配を殺す能力に恐怖を覚えた。
「・・・で、とりあえずそのカードどうすんの? 自分で使うの? 売って装備を整えるの?」
「どうしましょう・・・?」
「自分で使う気ないなら売っちゃいなさい。あなたの装備を整えるお金は出さないから」
「じゃあ売ります」
「前にも聞いたけど、あなた、爪派? 鈍器派?」
「師匠と同じ爪派です」
「じゃあ弟子入り記念ってわけじゃないけど、コレをあげるわ」
 そう言ってクリシュナは、カー・リーの目の前に使い込まれたフィンガーを差し出した。
「これは・・・?」
「私のお古で悪いけど、過剰スピリットハリケーンフィンガーよ。もう使わないからあなたにあげるわ」
「ありがとうございます!」
 嬉々とした笑顔でフィンガーを手にはめるカー・リー。
「用は済んだな。報酬はセラフィーに渡しといてくれ」
 そう言ってシル・クスは静かに女所帯を後にした。
「さて、どうしたものか・・・」
 目の前でフィンガーをはめ喜んでるカー・リーを見つめるクリシュナ。
「とりあえずあなたの家まで行くわ。正式に弟子にした以上、挨拶ぐらいはしないとね」
「はい」
「じゃあ出かけてくるわ。行くよ、カー・リー」
「ハイ! 師匠!」

「クリシュナさんが師匠ねぇ・・・」
「うん。カー・リーって子が試練をクリアしたからだって」
 ネリスはシル・クスの報酬を払うため男所帯にやってきていた。
「カード出してこいなんて、クリシュナさんらしいな」
 セラフィーはタバコを吸いながらネリスにシル・クスのメモを渡した。
「50万zね、今出す」
 ネリスは財布を取り出し、セラフィーにお金を手渡した。
「確かに受け取った。まぁアイスでも食べてけ」
「わぁい!」
「・・・で、弟子ってことは住み込みか?」
「んーん、実家から通うって」
「へー、アカデミー卒業者なんだろ? その子」
「うん。なんかね、アコライト時代に伯母さんに助けられて、それでモンクになったんだって」
 アイスを食べながら、ネリスはセラフィーに弟子入りの経緯を話した。
「なるほど・・・、要は支援もできて壁にもなれるクリシュナさんに憧れたってわけかな?」
「まとめるとそうなるかも」
「本人は自覚してないが、優しいからな。クリシュナさんは・・・」
 煙草を吸い、煙をくゆらせながらセラフィーはつぶやいた。
「じゃあ私帰るね」
「あぁ、ご苦労さん」
 バタンと音を立てて帰るネリスを見送ると、セラフィーはタバコを灰皿に捨て腰を下ろした。
「いったいどんな修行をさせるのやら・・・」
 セラフィーはそう言うと、暗くなり始めた外をただ見つめるのであった。

  by lywdee | 2015-06-12 09:28 | Eternal Mirage

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