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Eternal Mirage195

 初秋を迎えたプロンテラ。女所帯の面々も衣替えを終え、賑わいの中ちょっと遅い昼食を囲んでいた。
「・・・で、ルア、強化された魔導剣の調子はどうなの?」
 パンを食べながらクリシュナはル・アージュに問うた。
「そうねぇ・・・、ASの威力も上がってるし、エンチャントブレードの効果も上がってる。いい感じじゃないかな?」
 スープを口にしてル・アージュは答えた。
「個人的にはもうちょっと威力上げたいな。・・・て言うのが本音かな?」
「まだ伸びしろあるという事か」
 最近になって、マラン島でのエンチャントが高確率で強化されると聞いて、ル・アージュは二本の魔導剣を強化したのだ。
 マランエンチャント自体はお金もかからないし、効果はランダムだがアイテムさえあれば何回でも挑戦できる。納得いくまでエンチャントしてれば40M位はかかるのが欠点ではあるが、ル・アージュにしてみればお金もかけず、狩りにも行かなくても強くなれるエンチャントで魔導剣を強化したのだ。
「ほんとはヴァーシュの槍も強化したかったんだけど、まだ型が決まってない以上何をエンチャントしたらいいのかわからないしねぇ」
 クリシュナは紅茶を飲み干し、不意に立ち上がってヴァーシュの肩を叩いた。
「私のは・・・、伯母さんが言う金策が終わってからでいいですよ」
「そう言ってくれると助かるわ。時にヴァーシュ」
「はい?」
「最近パトロールだけだけど、狩りに行きたくはないの?」
 不意の質問だった。
 ヴァーシュは食事の手をとめ、天井を見つめ何か考え始めた。
「今は・・・、無理して狩りに出かけるという気にはなれませんね」
「そう・・・、ならいいんだけどね」
 クリシュナはヴァーシュの答えを聞いて自室に戻っていった。
「ごちそうさま」
 食事の終わったル・アージュは、傍らに置いていた魔導剣(風&土)を手に取り出かけて行った。日課のラヘルへ行くためだ。
 相変わらずのカード金策だが、毎日のようにラヘルへ通うル・アージュなのだが最近疲れ気味である。その辺はヴァーシュも心配している事案でもある。
「あら、ルアも出かけたか・・・。私も頑張らないとな」
 支度の終えたクリシュナが食卓を見回した後、ヴァーシュの顔をみて何かを察した。
「今度、家族全員で温泉にでも行きたいねぇ。狩りのことなんか忘れてさ」
「いいの? 伯母さん」
 ネリスがクリシュナに問いかけた。
「それぐらいのお金はあるでしょ。ルアみたいに根詰めて狩りしたって疲れるだけでしょ? たまには狩りの事も金策の事も忘れてパァっと羽伸ばさなきゃ」
「伯母さんが言うならそれでもいいけど・・・」
「とりあえず私も神殿行ってくるわ。ルシア! 文献ばっかあさってないで、体休める温泉宿でも探しといてよね!」
「はいはい」
 気のない返事のルシアを横目に、クリシュナは出かけていくのであった。

「そんなことがあったのか・・・」
 プロンテラの上空を舞うグリフォンの上で、リューディーはヴァーシュの話を聞いていた。
「ル・アージュはまじめだからな」
「それが心配なのですわ」
「なら丁度朗報があるぞ」
「?」
 リューディーとヴァーシュはグリフォンをプロンテラ中央の噴水まで降ろした。
「近々騎士団が本職のパトロールに戻るらしい。私たちロイヤルガードも下旬にはまとまった休みがもらえるそうだ」
「本当ですか?」
「ああ、リンク隊長の話だから信用できるだろう」
 噴水の冷たい水を飲んでる自身のグリフォンに寄りかかりヴァーシュの顔を見るリューディー。
 彼にしてみれば、毎回報告書を書かなきゃいけないパトロールは頭の痛い問題であったが、騎士団がプロンテラの警備に戻ると聞いて機嫌がいいようだ。
 ここ数日のプロンテラのパトロールは、ロイヤルガードの遊撃部隊が中心となって警備していたのだが、本職の騎士団が戻るという朗報は彼にしてみれば救いの手なのかもしれない。

 そしてプロンテラの南側に住んでるリンクの家。つまりネリスの実家では・・・。
「温泉ですか?」
 不意の来客の言葉に意表を突かれたリンク。
「姉さんのいつもの悪い癖よ。どうせならアンタたちも誘おうかな? っていうのは私の考えだけどね」
「ルシア姉さんがねぇ・・・。クリシュナ姉さんならそんなこと言うのも珍しくはないが・・・」
 リンク宅の居間でくつろぐルシア。対面に座るリンクとパルティナは困惑顔だ。
「ルシア伯母さん久しぶりー!」
 ソファーに座るルシアの首元に抱き着くギロチンクロス。ネイだ。
「何、ネイ。乳揉まれたいの?」
「それは遠慮しとく。ネリスは?」
「あぁ、あの子なら姉さんが集めたスタッフオブピアーシングの投げ売りでもやってるんじゃない?」
「なーんだ。残念」
 ルシアから離れるネイ。そのままソファーの背もたれを飛び越えルシアの横に腰を下ろした。
「・・・で、父さん何の話?」
「クリシュナ姉さんの悪い癖の話だ」
「何? 温泉にでも行きたいー! って話?」
「察しがいいな、お前は・・・」
 へへへ・・・と照れ笑いを浮かべるネイ。
「でも姉様。アレス兄様に声をかけなくていいのですか?」
「いいのよ。どうせ兄さんの事だから、姉さん主催と言えばついてこないし、ルアの為の湯治なんだから気分害しちゃかわいそうでしょ」
 紅茶を飲みながらルシアはいたって冷静に答えた。
「まぁ、リーナぐらいなら誘うけどね」
「兄さんは、子供のころからクリシュナ姉さん苦手にしてるからなぁ」
 リンクも兄の性格を知ってるだけに、苦笑いで答えるしかなかった。
「・・・で、合計何人になるんですか?」
「そうねぇ・・・。フレアも行かないと言うだろうし、私にクリシュナ姉さん、ルアにヴァーシュにネリス。あんたとパルティナ、ネイ。それにリーナか・・・。9人ってとこか」
「私も強制ですか?」
「あんたは別にきても来なくてもいいわよ。どうせ女だらけだし、気を使わせるのもなんだからね」
「では私と妻は留守番ってことで・・・」
「じゃあ8人か。パルティナ、あんたいい温泉宿知らない?」
「私の湯治先ですか? アマツならよく行きますが・・・」
「じゃあそこでいいから、ポタ取っといてね。スケジュールが決まったらまた来る」
 矢継ぎ早の会話が終わるとルシアは立ち上がる。
「気乗りしないが、リーナ誘うのに兄さんとこ行ってくるかぁ」
 軽く背伸びをしたルシアがリンク宅を出て行った。

 そして夕方。

「姉さん、女8人話はつけたわよ」
「ご苦労さん。ヴァーシュも下旬にはスケジュールあくし、ルアには休暇届け出させるから、予約とってきてね」
「私が行くの?」
「ほかに暇な人いるか?」
「はいはい、パルティナの湯治先だからアマツの宿に予約入れてくるわ・・・」
 頭をかくルシアがため息混じりに返事をした。
(主催者動かず、私が幹事になるのか・・・)
 はたして、ルシアの苦労は報われるのだろうか・・・。
 それは誰にもわからぬことだった。

  by lywdee | 2016-09-13 10:33 | Eternal Mirage

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