Eternal Mirage(199)

 季節は流れ、正月気分もすっかり抜けきってるプロンテラ。今では節分を超えもうバレンタインの季節になった。
 この季節になると憂鬱になるのが女所帯のル・アージュである。
 理由こそないのだけれども何故かバレンタインになると、表現こそしづらいが気分が重くなる。
「ル・アージュ様、ホットチョコレートです。温かいうちにどうぞ」
「ありがと」
 バレンタインがくると、女所帯では毎年フレア特製のホットチョコレートが振舞われる。クリシュナの付き人として長い間一緒に生活しているが、感情を表に出さないせいで誤解されがちになるが、今では詮索する者もいない。
「あらルア。いたんだ」
 ルシアが声をかけた時、ル・アージュはホットチョコレートを飲み切っていた。
「あんたは毎年毎年この時期になったら仏頂面になってるわねぇ」
「ルシア叔母さんこそ。最近になって狩りに行くとか言っといて、ぜんぜん出かけないじゃない」
「私なんか、サポート型のソーサラーだし、行けるところは限られてるのよ。一人で行く分にはね・・・。まぁネリスが出かけてるときについでに臨公やら何やら調べてもらってはいるけどね。あ、フレア、私は紅茶でよろしく」
「かしこまりました」
 食堂のテーブルにつくルシア。対面には仏頂面のル・アージュがいる。
「そういえば姉さんどこ行った?」
「クリシュナ伯母さん? 確か迷宮の森に行くとか行かないとか・・・」
「あー、そういう事なら行ってるわね。姉さんお茶を濁すようなこと言う時は、大抵前者を選ぶからね」
 目の前に静かに出された紅茶を口にしながら、ルシアはため息をついた。
 長年一緒にいる姉妹だからこそ分かる事もある。ルシアにしてみれば、クリシュナが何故迷宮のもろに行ったかぐらいはすぐにわかる。
「若cがハンターフライcに変わったか・・・」
「へ?」
「金策の話よ。もっとも今回はそれだけじゃなさそうだけどね」
 静かに紅茶を飲むルシア。ル・アージュは叔母の言葉に呆気に取られていた。
「たぶんこの間の温泉での話でも思い出したんでしょ? 姉さん地獄耳だから・・・」
「あー、なんかネイ姉さん言ってたね。ハンターフライがどうこうって・・・」
「ネリスはついでに軍資金を倹約しなければって言ってたし、需要と供給を鑑みれば、対抗は多そうだけどハンターフライに落ち着くよなーって」
 ルシアが紅茶を飲み干すと同時に、フレアがかわりの紅茶を注ぎいれ、厨房から焼き上がりのクッキーを持ってきた。
「ま、姉さんなら、テレポもあるし一応範囲攻撃あるし、バフォメットに喧嘩売らなければ怪我することもないっしょ」
 いれたての紅茶を口にするルシアは、目を閉じてため息一つついた。なんだか呆れている節もあるが、どうやら心配はしていないようだ。

 ガランゴロン・・・。

「噂をすればなんとやら・・・。姉さんおかえり」
「ただいま・・・」
 女所帯に帰ってきたクリシュナは、そのまま食堂の椅子に座り突っ伏した。
「その様子じゃ収穫なさそうね」
「いや、ハンターフライカードは手に入れた」
「あら、よかったじゃない。でもなんで浮かない顔してるのよ?」
 顔も上げずカードをひらひらと見せたクリシュナに、ルシアは突っ込んだ。
「いやね、対抗が多すぎてテレポばっかしてたら吐き気がして、正直疲れた・・・」
「へー・・・、スキル疲れか・・・。フレア、紅茶おかわり」
 ルシアの言葉に、フレアは紅茶のおかわりとホットチョコレートを持って食堂にきた。
「・・・で、対抗は何人?」
「レンジャーとメカニックと修羅とロイヤルガードと朧、わかってるだけでその5人」
「ふーん。お疲れ様」
 ルシアの労いの言葉に、クリシュナはようやく頭をあげてホットチョコレートを口にした。
「ネリスは?」
「2階じゃない?」とル・アージュ。
「ネリスー!」
「はーい」
 クリシュナの声に2階からネリスが降りてくる。
「伯母さんなぁに?」
「コレ売ってきて。値段は任せる」
「ハンターフライカードじゃない! 伯母さんが出したの?!」
「まぁね。じゃよろしく。私仮眠取るわ・・・」
 ネリスにカードを渡すと、クリシュナはフラフラしながらも自室に入っていった。
「ところでネリス、それって相場いくらなの?」
 ル・アージュが尋ねると、ネリスは記憶を探ってこう答えた。
「28~32Mかな? たしかそんぐらい」
「けっこう高いのね・・・」
「じゃあ露店出してくる」
 こうしてネリスはカートを引っ張り出し露店街へと向かった。
「それにしても・・・。クリシュナ伯母さんのカード運には頭が下がるわ」
「そりゃー数狩ってるもの。姉さんしつこいから・・・」
 ルシアの返答に「ははは・・・」と力なく笑うル・アージュ。
「まぁ姉さんの場合、自給自足がモットーだし、タダでは転ばないからね」
 姉の性格を熟知してるルシアには、クリシュナがカードを自分で出してくるのは目に見えているし、カードを買うということは、自分で出しに行けないものしか購入しない。そのための時間も惜しまないし、あきらめが悪い。そこでついたのが「撲殺天使」という通り名になったのだろうと思ってる。
 通り名についてはル・アージュも一度クリシュナと行ったお花見で理由を聞いたことがあるが、それはクリシュナのモンク時代から今にかけて、徹底した狩りと辻支援、面倒見のよい性格とのギャップで生まれた言葉だと聞いたことがある。
 現にクリシュナのスタイルは、ソロでは高い回避率とパーティーでの壁役を担う守備型のスキル振り、そして二つを兼用する身体能力の高さ。弟子こそ取らないけど性格的に育てることは嫌いじゃないらしいから、南と呼ばれるプロンテラ南の広場では知らない人は少ない有名人の一人であると聞いたこともあるし、知らない人も少ないと噂されている。
 特にクリシュナは、女所帯でもその性格から「放っては置けない」「アタシが何とかする!」と言って女所帯全体の装備とかを調達するぐらいだし、それに見越したカード運もある。もっとも、女所帯の生活費はほぼカードの売却で工面するぐらいだ。その背中を見てル・アージュもスノウアーカード狙いの狩りをして補助してるともいえる。言わば稼ぎ頭とも言っていい。
「ただいまー」
 そんな折帰ってきたネリス。満面の笑顔でカートをしまう。
「早いね。いくらで売れたのよ?」
「んーと、28Mだよ。クリシュナ伯母さんは?」
「仮眠取ってる。静かにしてやりなよ」
 ル・アージュもクリシュナの体は心配している。自身も狩りで疲れたらクリシュナに介抱されたこともあるのでわりと小声でネリスに言った。
「とにかく、ほとぼりが冷めるまで姉さんは迷宮の森だろうねぇ」
 ルシアは素っ気なく言ったが、ル・アージュとネリスは力なく笑うだけなのであった。
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  by lywdee | 2017-02-14 16:27 | Eternal Mirage | Comments(0)

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