Eternal Mirage(203)

「あなたが殺した・・・」
 それはチャンピオンだったクリシュナだった。
「ちがっ! 私は・・・」
「チャンピオンのくせに・・・、モンクのあの子を殺した・・・!」
「私は・・・、私は・・・!」

 ガバッ!

「はぁ・・・はぁ・・・、夢? またあの頃の・・・」
 クリシュナは上体を起こした状態で、隣のベッドで寝ているルシアを見た。
 カーテンの隙間からは薄明るい光が差し込んでる。どうやら早朝のようだった。
(なんであの頃の夢を・・・?)
 パジャマの袖で滴る汗をぬぐうクリシュナ。そしてベッドから出てパジャマを脱ぎながら「ふぅ」っとため息一つついた。
(今日は・・・、・・・そっか、もうそんな時期がきたのね・・・)
 一人で納得したような顔をしたクリシュナは、妹、ルシアを起こさないように一人胸にさらしを巻く。
 そして修羅のいでたちに着替え終わると、汗で濡れたパジャマを持って居間に向かった。
「おはようございますクリシュナ様。洗濯ものですか?」
「相変わらず朝早いわね、フレア。これ洗濯しといて」
「かしこまりました」
 クリシュナは洗濯かごに濡れたパジャマを入れると、ため息をつきながら食堂の椅子に腰を下ろした。
「クリシュナ様、まことに言いづらいのですが、先ほどカピトリーナ修道院から使者がきまして、これをクリシュナ様にと・・・」
「修道院から? また面倒ごとかしら・・・?」
 クリシュナはフレアから一通の手紙を受け取ると、頬杖ついて手紙の内容を見始めた。
 それは慰霊祭の通達であった。
「今年ももうそんな時期か・・・」
「クリシュナ様、アイスレモンティーが出来上がりました。どうぞ・・・」
「ありがと、フレア」
 冷えた紅茶が少し火照った体を冷やしてくれる。
「あら伯母様、おはようございます」
「おはようヴァーシュ。あんたも早いねぇ・・・」
 ロイヤルガードの鎧を着たヴァーシュが、クリシュナの対面の椅子に腰かける。
「伯母様? 顔色が悪いわよ。何かあったのですか?」
「ちょっとね・・・。まぁあんたが気にするようなことじゃないのだけは確かね」
「はぁ・・・」
 いぶかしげな顔でクリシュナを見るヴァーシュ。しかしそれ以上の詮索はしなかった。
 クリシュナは修道院からの手紙を伏せると、長い髪を少し櫛でとかしてポニーテールに結わえる。
 それから程なく女所帯の面々が食堂に集まる。少々早い朝食の始まりである。
「フレア、私の昼ごはんいらないから、帰りは夕方になると思うわ」
「かしこまりました」

 コンコン。

「はい、ただ・・・」
「いいわ。私が出る」
 エプロンで手を拭くフレアを制して、クリシュナは女所帯のドアを開けた。
「師匠! 慰霊祭です! ご一緒できますか!」
「カー・リーじゃない。言ったでしょ、もうあなたは私から卒業だと・・・」
「師匠は師匠じゃないですか! 弟子としてご一緒したいです!」
 朝からテンションの高いカー・リーを見て、クリシュナはため息一つこぼすのであった。
「いいわ、行く前に寄るとこあるけど、ついてきなさい」
「はい! 師匠!」

 クリシュナはカー・リーを引き連れて、プロンテラ南口にほど近い花屋にきた。
「花束一つください。比較的地味なやつを・・・」
「はい! 少々お待ちを・・・」
「私も買うんですか? 師匠」
「あんたは関係ない。私の野暮用よ」
「おまたせしました。2000zです」
「はい、ありがと」
 クリシュナは花束を受け取ると、カー・リーを引き連れて冒険者たちが「精算広場」と呼ぶ花屋の北にある広報員のそばに向かった。
「この辺らしいわね?」
「何がですか?」
「あんた・・・、ちゃんと手紙読まなかったの? 修道院付きがこの辺で送迎ポタ出してくれる話になってるのよ」
「それって・・・、アレじゃないですか?」
 そう言ってカー・リーはプレゼント屋台のそばの看板もちのチャンピオンを指さした。
 確かにその看板にはカピトリーナ行きという看板を持っている。
「あれか・・・。行くわよ」
「はい!」
 カー・リーを引き連れたクリシュナは、修道院付きのチャンピオンに話しかけ、出してくれたワープポータルの光の柱に飛び込む。
 目を開くとそこはカピトリーナ修道院の中ほどの公園だった。
「まだ慰霊祭まで時間があるわね。ちょっと野暮用を終わらせてくるから、あんたはここにいなさい」
「いえ! 師匠の行くところはどこまでも! です!」
「はぁ・・・、好きにしなさい・・・」
 クリシュナにはカー・リーのテンションの高さに呆れていた。
(根は良いやつなんだけどね・・・)とため息ついてクリシュナは修道院内の墓地まで歩き始めた。

 墓地につくとクリシュナは、中ほどにある小さな墓の前で歩を止めた。
 そして墓の前で膝をつくと、プロンテラで買った花束を供えた。
「師匠の知り合いのお墓なんですか?」
「私の最初の弟子だった孤児の墓よ。黙ってなさい」
 クリシュナの静かな声に、カー・リーは声を飲んだ。

「え? 最初の弟子? 聞いたことないわよ」
「そりゃーあんたたちがここに来るだいぶ前の話だし、私も聞いただけだからね」
 ヴァーシュがクリシュナの態度の変化に気付いて、ルシアに話しかけてみたところ、意外な言葉に若いル・アージュら3人は驚いていた。
「私も聞いただけだからね、詳しくないんだけど。姉さん、チャンピオンになったころ修道院に捨てられた孤児らの面倒をみてたのよ。その一人がモンクになって姉さんの弟子になったの」
「そのお弟子さんはどうなされたので?」とヴァーシュ。
 ルシアははっきりしない態度でごまかそうとしたが、3人に詰め寄られて諦めて話し出した。
「死んだわ」
「え・・・?」
「あの頃の姉さんは攻撃型チャンピオンだったからね、教育方針もくらって覚えろって感じだったし、今とは比べ物にならないほど修行はハードだったらしいわ。
 その弟子も姉さんに負けず劣らずの負けん気だったそうでね、姉さんもかなり手を焼いたって聞いたわ。・・・でね、喧嘩もしょっちゅうだったうえにその子、かなりの自信家でね、ある日姉さんの目を盗んでグラストヘイムに一人で行くと置手紙があったそうで、姉さんのモンク時代に倒したダークイリュージョンを倒せば一人前になれると信じて、自分もと一人で修道院に行っちゃって・・・。
 ここまで言えば想像つくでしょ? その子、阿修羅型モンクだったけど、ダークイリュージョンのメテオに焼かれて、姉さんがついたころには原型をとどめないくらいの火傷で亡くなってたそうよ」

「だから師匠は弟子は取らないと決めたんですね?」
「そうよ。同じ過ちは繰り返したくないんでね。あんな思いするくらいなら弟子はもう取りたくなかった」
 愁いを帯びた目でカー・リーを見るクリシュナ。
「それで私には文句は聞かないと釘を刺したんですね」
「私がちゃんと指導してればそうはならなかったはず。若かったのよ、私も・・・」
 カー・リーは何故クリシュナが、厳しくも優しく導いてくれた理由を初めて知った。
 文句こそ言えなかったが、自分のレベルに合った狩場で地力をつけさせてくれた裏にそんなことがあったなんて、今のクリシュナからは想像もつかなかったが、自分の事をそこまで考えて指導してくれたことがうれしく思えた。
「昔話はここでおしまい。慰霊祭に行くわよ」
「はい、師匠!」

「そんなことがあったんだ・・・」
「伯母様優しいからかなりショックを受けたのでしょうね」
「そうよ。だから姉さんは守備型の修羅になったのよ。それと、私が話したってことは内緒にしてくれない? ばれたら殺されそうだわ」
 ルシアの最後の言葉に、ヴァーシュ、ル・アージュ、ネリスは笑った。
 初めて知った伯母の過去、深い優しさが導いた若さゆえの失敗。悲しそうな顔して慰霊祭に向かったクリシュナの事は心配だったが、帰ってくればまたいつもの明るいクリシュナが帰ってくるだろうと、若い3人はそう思わずにはいられなかった。
[PR]

  by lywdee | 2017-08-16 11:37 | Eternal Mirage | Comments(0)

<< ネタがない?! B鯖日記とラグホファイター >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE