Eternal Mirage(206)

 季節は夏から秋へ、ゆっくりと変わりつつある今日この頃、女所帯の面々はそれぞれの思いにはせていた。
 中でもル・アージュは、朝からルシアに出された課題に取り組んでいた。

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「難しー」
 ソファーに座り魔導書を見ていたル・アージュ。対面にいたルシアは出かけている。
「ル・アージュ様、紅茶のおかわりをお持ちいたしました」
「ありがと、フレアさん」
 紅茶を口にしながらも課題である魔導書を自分なりに理解しようとする。
 魔力の上昇。それはル・アージュにとっても重要な課題である。
 純粋な魔力の上昇、それは物理的にもオートスペル的にも重要だからだ。ましてやル・アージュは父親と違って力はそれほど高くない。唯一上回ってるのは魔力ぐらい。
 それはエンチャントブレードにも効果のある資質。物理攻撃に端を発し、オートスペルで追撃する。今のル・アージュは完全に父との相反する攻撃スタイルになっていた。
「難しーよー・・・」
「それでも読めるだけ偉いわよ」
 ル・アージュの勉強姿に素直に褒めるクリシュナ。クリシュナはル・アージュの背中越しに魔導書を見てみる。
「ダメだ・・・、ぜんぜんわかんない」
「今日の課題、わかるところはわかるんだけどね。肝心な部分が難しくて・・・」
「ルシアはどこ行ったんだか・・・? 仕方のない妹だわ。ルア、私の部屋入ってルシアの本棚から参考になる物でも探したら?」
「そうさせてもらいます」
 ル・アージュは立ち上がってそのままクリシュナの部屋に向かってく。

 クリシュナの部屋はルシアと兼用なので割と広い。その中でびっしりと詰まった本棚に対峙するル・アージュ。

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「参考書は・・・っと」
 本棚には魔導書、文献、動物学などが詰まっている。
「あ、これだ! 魔力の流れ、武器に込める魔力編。これでいいはずだわ」
 棚から1冊の本を取り出すと、コンコンっとドアを叩く音がした。
「ルシア叔母さんならいないよー」
「そうですか」

 ガチャ

「失礼します」
「フレアさんどうしたの?」
 ドアをあけて入ってきたのはフレアだった。その腕には新しいシーツを抱えている。
「シーツの取り換えに参りました」
「私は出てくから空けといたままでいいよ」
 そう言ってル・アージュはクリシュナの部屋を後にした。

 居間に戻るとクリシュナの姿がない。ル・アージュはまた迷宮の森にでも行ったものだと判断する。
 ソファーに座り、参考書片手に課題の魔導書を読み始める。
 魔力の流れ、オートスペルの構築と発動。ぼんやりとしか理解してなかった課題の魔導書の中身が参考書とともに読み進めるうちに少しずつ理解していく。
 時には魔道剣片手に意識を集中したり、簡易的なエンチャントブレード試したりと無口になっていく。
 今現在のル・アージュの戦闘スタイルは、オーラブレード+コンセントレイション+エンチャントブレードで物理攻撃を強化、ツーハンドクイッケンで手数を増やし、魔道剣と悪霊糸でのオートスペルによる追撃がメインの戦い方だ。無論魔力は高まっているのでエンチャントブレードの攻撃力強化もバカにはならない。
 回復剤も用意してればバリオフォレストのブギスギス相手でも遜色ない戦い方を見せる。その上予備として持たされたブリューナクの効果でヒールの回復量も、クリシュナ、ヴァーシュのように極めた二人のそれに匹敵する。あとは素早さを上げれば回避率も高くなり、ソロでの戦闘でも困らない実力が証明している。

 ガチャ

「ただいまー」
「おかえり、ルシア叔母さん」
「お、だいぶ読み進めたみたいね?」
 ル・アージュの呼んでる魔導書のページ数を覗き込むように腰を曲げるルシア。
「それが読めるってことは、あんたもオートスペル型セージの上をいってるわよ」
「それって誉め言葉?」
「そうよー。セージの使うオートスペルはだいたいLv3クラスのボルトの威力。だけどあんたは魔道剣の効果でLv5クラスのボルト系ダメージ与えられるからねぇ」
 ルシアが対面のソファーに腰を下ろすと、タイミングよくフレアが紅茶を用意して持ってきた。
「あーーーーーーーーーーーー! やっと読み切れたー」
「はいおしまい。あとは少しでも実践して魔力上げてね」
「はーい・・・」
 気のない返事を返したル・アージュは、机に突っ伏すとため息ひとつ漏らすのであった。
 そんなとき、玄関から声が響いてきた。

「ル・アージュ殿! ル・アージュ殿は居られませんか?!」

「なんだろ・・・?」
ル・アージュが玄関を開けると、そこには伝令の騎士がいた。
「私に何か?」
「騎士団長からの招集です。騎士団詰め所まで来てください!」
「・・・わかりました」
 ル・アージュはそう言うと厩舎のドラゴンを離し、飛び乗ると急ぎ騎士団詰め所まで走らせた。

「おおー、よくぞ来てくれた!」
「団長、私をご指名されたようですが、何用で?」
「話は長くなるが簡潔に言う。ポートマラヤに向かい、バリオフォレストにて遭難中の1個師団からの伝書鳩で、支援型のアークビショップを伴い救出されたしとの一報を受けた。そこで前回の遠征で成績の良かった貴殿に向かってもらおうということになった」
「それならもう1個師団を出せばよいのでは?」
「それなんだがな、遭難した1個師団には密命があってあまり多くの騎士団を派遣できんのでな、今はポートマラヤに1個師団を送るには時が悪すぎる。そこで冒険者を装い秘密裏に救出してほしいのだ」
「はぁ・・・、それでは・・・」

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「大聖堂詰めのファ・リーナ・フラウディッシュ・シャナを同伴させてください」
「む? それはいいが、支援アークビショップなのだな?」
「はい、姉妹なら怪しまれないと・・・」
「・・・。わかった、すぐにでも呼び出そう。貴殿は準備ができ次第大聖堂まで行ってもらおうか。そこで合流してもらう」
「はい」

「バリオフォレストかぁ・・・、家に帰って火の魔道剣取ってくるか・・・」
 ル・アージュは詰め所を出るとドラゴンにまたがり、一路女所帯を目指した。
「あらおかえり。どっか行ってたの?」
「ちょっと緊急の任務でね、これから出かけるとこ」
 女所帯の帰り道で、ル・アージュはクリシュナと鉢合わせした。
 ル・アージュは一度厩舎にドラゴンをつなぐと、急ぎ家の中に入り自室へと駆け上がった。
 そして部屋の片隅に立てられた2本の魔道剣のうち、柄の赤い魔道剣を手にして腰に携えた。
「じゃあ行ってくる!」
 そう告げるとル・アージュは、また厩舎からドラゴンを連れ出し大聖堂へと走らせた。
 ドラゴンを外につなぎ、ル・アージュは大聖堂の奥へと歩いて行く。厳かな雰囲気に身震いするル・アージュの前に、蒼いロングヘアーのアークビショップが立っていた。
「お姉ちゃん!」
 ル・アージュが声をかけると、アークビショップが振り向いた。
「ルア! あなたが私を指名してくれたの?」
「うん。ちょっと訳ありの任務だし、お姉ちゃんなら支援だから助かるし、他のアークビショップつけられるのは嫌だったから・・・」

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「嬉しかった。ルアに必要とされたから・・・」
「話は聞いてるよね?」
「ええ。お姉ちゃんに任せなさい」
 こうしてファ・リーナと合流したル・アージュは、東門のカプラ職員のサービスでアルベルタへと向かった。

「船で行くの?」
「そ、表向きはあくまで冒険者ってことにしてるからね」
 船着き場までくると二人はポートマラヤ行の船に乗った。時折風に混じって飛んでくる潮風が心地よい。
 二人は船べりに背を当て座った。
「遠征以来ね、ルアと一緒になるのも」
「そうだねー」
「でもいいの? 私なんかより渚先輩の方が冒険者としては上よ?」
「んー。レイさんでもよかったんだけど、私としては気を遣わない分お姉ちゃんのほうが嬉しい」
「ありがと」
 そうしてとりとめのない会話を続けていたら、船はポートマラヤにたどり着くのであった。
 ル・アージュはドラゴンの背にファ・リーナを乗せると、怪しまれない程度に急いで森へと向かって行った。
「遭難場所はわかってるの?」
「伝書鳩には北の海岸沿いにいるって話だったわ。お姉ちゃんサポートよろしくね!」
「うん」
 そうして二人はゆっくりと北上していった。時折現れるモンスターは、支援してもらってるル・アージュによって駆逐されていく。
 ファ・リーナも、渚 レイが教えてくれたダメージをブーストさせるスキルでル・アージュをフォローする。
 ブーストスキル、それはオラティオで聖属性耐性を下げ、アスペルシオでル・アージュの魔道剣に聖属性を付与させ、オーディンの力で攻撃力を更にあげるというもの。それは攻撃重視のル・アージュにしてみればうれしいフォローで、自身のブーストスキル、オーラブレイド+コンセントレイション+エンチャントブレードと、防御を無視したスキルで物理攻撃力を上げることだった。
 ル・アージュにしてみれば、支援があるとわかってる分、多少囲まれてもオートスペルと姉のフォローもあることから、多少無茶しても少々急いで北上していった。
 数分後、二人は北の海岸沿いの岩場に上がっていた。すると、端の方で手を振る騎士団が見えた。
「騎士団からの使者です、大丈夫ですか?」
「ああ、うちのアークビショップがやられたうえに囲まれて負傷した騎士も数人いる。早く手当てを・・・」
「わかりました。お姉ちゃん!」
 ファ・リーナはまず倒れたアークビショップに回復スキルをかけてなんとか動けるようにした。あとは負傷兵を二人のアークビショップがそれぞれ回復させていく。
「密命があると聞いたんですが、任務は続行できますか?」
「回復さえしてくれれば、あとは我々だけで対処できます」
「そうですか。頑張ってください」
 小一時間回復に回っていたファ・リーナも一息ついたのか、肩を落としてため息一つついた。
「お姉ちゃんお疲れ」
「ふぅ、疲れたわ」
 額の汗をぬぐったファ・リーナは立ち上がってル・アージュのドラゴンに背を預けた。
「救援感謝です。あとは我々だけでなんとか任務を完遂できます」
「そうですか。これ、念のため預かった支給物資です。受け取りを・・・」
「ありがとうございます」
「じゃあお姉ちゃん、ポタよろしく」
「はい」
 こうして任務の終えた二人は、ファ・リーナのワープポータルでプロンテラへと帰ってきた。

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「お姉ちゃんが一緒でよかった」
「ルアにそう言ってもらえると、頑張った甲斐があったわ」
 帰り際ル・アージュはファ・リーナの住んでる家の前にいた。
「どうする? お母様に会ってく?」
「いんや、任務の報告もあるし、おやじがいないとしても勘当された身。年始でもないのに帰る気にはなれないわ」
「そっか・・・」
「じゃ、私詰め所に戻らないといけないから。もう行くね」
 一瞬寂しさが顔に現れたが、ル・アージュはファ・リーナに背を向けごまかした。
 そしてル・アージュは騎士団詰め所に戻り報告すると、一人女所帯へと帰るのであった。

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  by lywdee | 2017-09-19 13:00 | Eternal Mirage | Comments(0)

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