2017年 10月 31日 ( 1 )

 

Eternal Mirage(209)

 木枯らし舞うプロンテラ。今年も街はハロウィンで盛り上がっていた。
 そんな中、祭りには似つかわしくないメカニック「セラフィー」は、カートを引きながらプロンテラ城前をゆっくり歩いていた。
「セラフィーさん!」
 背後からの声に気付いたセラフィーが振り返ると、これまたハロウィンには似つかわしくない鎧と竜の団体の中にル・アージュがいた。
「おー、ルアか。なんだ? 事件でもあったか?」
「違うよー。オートスペル型の新人のレクチャーでポートマラヤに行ってきたんだよ」
「へー・・・、部隊長ってやつか? ルアも偉くなったもんだ」
「へへへ、そんなことないよ」
 ル・アージュが照れ笑いするなか、一行はそのまま騎士団詰め所まで歩いて行くのであった。
「セラフィーさん、何の用で騎士団に?」
「仕事だよ。わりい、火もらえないか?」
「いいよー。ほら、火ぃ吐いて」
 ル・アージュの声に反応して、ドラゴンは空気を吸い一気に吐いた。
 その火に危険も熱も気にせずセラフィーは近づいてタバコに火をつける。
「ありがと」
「相変わらず恐れを知らないというか、火が怖くないというか・・・。セラフィーさんらしいね」
「火が怖くてメカニックなんかやっちゃいねーよ」
 笑いながら騎士団詰め所まで歩く一行。入り口までついて一旦セラフィーはル・アージュらと別れてカートを引っ張り詰め所に入った。
「すんませーん。団長殿はおられますか?」
「おー、待ちかねてたぞ。こっちだ」
「頼まれてた物資の一部ですが納品しにきました。確認してください」
「資材長、確認してくれ」
「団長! オートスペル部隊、遠征から帰還しました!」
 ル・アージュがそう叫ぶとほぼ同時に、騎士団資材長は団長に「確認できました。過剰ブリューナク確かに10本あります」と声をかけていた。
「過剰ブリューナク?」とル・アージュ。
 騎士団長はル・アージュらが帰還したのを見て、近くに寄れとばかりにル・アージュらを手招きした。
「ル・アージュ卿も持参しているようだが、オートスペル部隊に配給するブリューナクだ。諸君らもル・アージュ卿のヒールは受けたはずだ。城から予算が出たのでな、オートスペル部隊に配給するため、民間の精錬工に発注していたのだよ」
「へー・・・」
「オートスペル型ルーンナイト諸君らはル・アージュ卿のデータをもとに、生還率上昇の為ヒールを使えるようにしないとな」
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「確かに納品しました。残りの武防具に関しては供給が追い付いてないんでね、私としては露店から購入することをお勧めします。一応こちらでも用意はしますが時間かかりますよ?」
「そうだな。現状の部隊には前回手配したもので間に合ってる。では代金は追ってそちらの工房に持っていかせる。ご苦労だったな」
「ではサインを・・・」
「うむ」
 セラフィーは契約書と納品書に納品のサインを受け取り騎士団を後にした。
「ではル・アージュ卿、報告を聞こうか・・・」

-昼下がり-

「アレスがルアを連れて来いだって? 何考えてんだあいつ・・・」
 女所帯の主クリシュナは、ファ・リーナの言葉に苦虫をかみしめたような顔でつぶやいた。
「細かいことは聞かされていませんわ。お父様はここ数日写真を見ながら悩んでた様子でしたよ」とファリーナ。
「まー兄さんの事だから、ルアを連れてったらまず喧嘩になるわね」
 紅茶を飲みながら居間のソファーでくつろぐルシアが言った。
 クリシュナも何やら考えているようだが、少なからず悪い予感はしていた。
「娘のリーナにも知らせてないなんて、何かあるわね」
 腕を組んで考えてるクリシュナは、ぽんと手のひらにこぶしを当ててネリスを呼んだ。
「なぁに? 伯母さん」
「これからリンクとパルティナの所に行って急いで実家に帰るよう言ってくれない?」
「いいよー。行ってきまーす」
「さて・・・、アレスのやつ、どう出るか・・・」
「何の話?」
 ネリスと入れ違いで帰ってきたル・アージュ。居間のファ・リーナに気付いて手を振る。
「ルア、悪いんだけど実家に行くよ」
「え?! 嫌よ! 親父の顔なんて見たくないわ!」
「安心して、あんた一人帰すわけじゃない。安心して」
「むー・・・、伯母さんがそう言うなら、考えないわけではないけど・・・」
 いぶかしげるル・アージュは、ファ・リーナの隣に腰を下ろす。
「お姉ちゃん、なんで今頃おやじから連絡入れてくるのさ?」
「ごめんねぇルア、私も連れて来いとしか言われてないの」
 その言葉にル・アージュは嫌な予感しかなかった。
「ルシア、あんたも来るのよ」
「へーい」
 クリシュナの言葉にいやいや立ち上がるルシア。
「フレア、留守をよろしく」
「かしこまりました」
 そうして女所帯からクリシュナ、ルシア、そしてファ・リーナとル・アージュの4人は実家たるシャナ家に向かうのであった。

-小一時間後-

「あー・・・、やだなぁ、うち帰るの・・・」
「ルア、それ10回目」
 ル・アージュとファ・リーナは揃ってクリシュナの後を歩いている。
 ル・アージュにしてみれば、年始の挨拶ぐらいしか帰ってないここ数年。できるだけ親の顔はみたくないと思っていた。
 15歳で家を出て、考えてみればもう十数年。祖母と母とファ・リーナがいるからこそ年始は帰っていたが、ル・アージュにしてみれば半分勘当されたも同然の家に帰るのだから、気が重くて仕方なかった。
 その実家とも言うシャナ家はプロンテラの高級住宅街にはいるのだが、実家に近づくにつれ、ル・アージュの足は重くなるのであった。
「姉さん! 急用ってなんだい?」
「ああリンク、パルティナ、悪いね、あんた達まで巻き込んで・・・」
 実家を前にして、リンク、パルティナ、ネイにネリスの4人はクリシュナが来るのを待っていた。
「ルアがピンチなんでしょ? 伯母さん」
「ネイは察しがいいねぇ」
 パルティナの背後から顔をのぞかせたネイ。
 大事になってしまったがシャナ家にクリシュナを先頭に入っていく。
「やっと帰ってきたか! この親不孝者!」
「アレス・・・、姉にむかってよくそんなことが言えるわね?」
 クリシュナは平静を装っていたが握り拳がプルプルと震えていた。
「なんでクリシュナが! リンクにパルティナまで・・・」
「ほう? 姉を呼び捨てにするなんて、ずいぶん偉くなったわねぇアレスちゃん」
「くっ・・・!」
「上がらせてもらうよ? いいわね!」
 玄関での雑言もそのままに、一行はシャナ家に入った。

「で、父さん、なんで私なんかが呼び出されるのさ?」
 いやいや帰ってきたル・アージュは、居間に連れて行かれソファーに座って待てと言われた。
 他の保護者一同は、そのル・アージュの後やら横に立ち、アレスの一挙一動を見つめていた。
「お前にはこのままここにいてお見合いを受けてもらう」
「はぁ!?」
「ここ十数年自由にさせてやったんだ、いい加減帰って身を固めろ」
「じょ、冗談じゃないわよ! 見合いなんて、何勝手に決めてるのさ!」
(こんな事だと思ったわ・・・)
 クリシュナがため息を漏らす。
「私は見合いなんかしないわよ!」
「親不孝も大概にしろ! お前のおかげで何年迷惑をかければ気が済む!」
「勝手に迷惑がってるのは兄さんだけでしょ?」
「ルシアは黙ってろ! これはうちの問題だ!」
 ルシアもその一言にカチンときたのか、苦虫をかみしめたような顔で言葉を飲んだ。
 パルティナもアレスを落ち着かせようとするが、アレスの言葉は続いた。
「騎士になって家を継ぐ気になったかと思えば、年始しか帰らずに帰ってきても人の話を聞かず出ていく。そんな身勝手をいつまで続けるんだ! 今更見合いもうけないだと? どこまで父親の顔に泥を塗り続ければ気が済むんだ!」
「私は父さんみたくならない! 家の事とか、将来の事まで決めつけられるなんて、まっぴらごめんよ!」
「なんだと! 親が娘の将来考えなくてどうする! いつまでも子供じみた事を言うな!」
「それが迷惑だって言ってるでしょ! 私の道は私が決めるわ!」
 毅然とした態度で言い放ったル・アージュだが、目にはうっすらと涙を見せる。
 クリシュナら兄弟もアレスの言動を聞き捨てず、なんとか落ち着かせようとしてるがそれでもアレスの気持ちは静まらない。
 するとル・アージュはゆっくりと立ち上がった。
「もういい、わかった・・・」
「わかってくれたか」
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「私はあんたの人形なんかじゃない! 自分の道は自分で決める!」
「な! 待て! ルア!」
 ル・アージュは顔を伏せたまま家を飛び出した。
 そしてシュナ家の居間にしばし沈黙が流れた。
「アレス・・・、あんた最低だわ」
「そうよ兄さん、言いすぎよ」
 クリシュナとルシアはアレスの対面に腰を下ろして言い放った。
「何を言う、お前たちには家の事をとやかく言う資格なんぞないだろ。私は家長として家を守らなければならない義務がある」
「さっきルアに言った事、リーナにも言えるの?」とクリシュナ。
「・・・」
「兄さん、口げんかで私に勝てると本気で思ってる?」とルシア。
「・・・」
 何も言えなくなったアレスは、ゆっくり腰をおろしてため息をついた。
「リンク、パルティナ、お前達も同意見なのか?」
「兄さん、男親の立場としてはよくわからない。けど子供の意見を尊重せず頭ごなしに言うのは問題ありだと思うよ」
「そうです兄様。ルアちゃんのことを思うのはわかります。でも、親の一存で子供の未来を閉ざしてしまうのはいけませんわ」
 しばらく沈黙が続いたかと思えば、アレスは一人書斎へとむかっていく。
「すまん、一人にさせてくれ」

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
 ル・アージュは零れ落ちる涙も拭かずに走っていた。
 目的地なんぞなかった。ただプロンテラから離れたかった。

 ドン!

「すいません!」
 走りながら通りすがりのアークビショップにぶつかるル・アージュ。そのまま顔を上げることもなく走り去っていく。
(あれは・・・?)
 今のル・アージュには街の雑音など耳に入らなかった。ただ遠くに行きたい、その一念でプロンテラの南門をくぐって街の外に出ていった。
(もう嫌だ・・・、帰りたくない)
 立ち止まることもなくプロンテラから南下していくル・アージュ。
 零れ落ちる涙も拭くこともなく、ただ走っていくだけだった。
 それからどれくらい経っただろうか。ル・アージュはイズルードよりも南にある砂漠にほど近い海岸線のあたりでようやく走ることをやめた。
 はずむ息を抑えることもなくル・アージュは一人泣いた。
 膝を抱え顔をうずめ、あふれる涙を止めようとしなかった。
 それからしばらく時がたち、ル・アージュの隣に一人のアークビショップが現れた。
「やっぱり・・・、ル・アージュさんでしたか」
「レイさん?」
「なんとなくですが」
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「ここにきてるんじゃないか? って・・・」
 そう言うと渚 レイはル・アージュにハンカチを差し出した。
「どうしてここに・・・?」
 ル・アージュはハンカチで涙を拭きながら、渚 レイに背を向けた。
「街でぶつかったときに泣いてましたからね、何かあるなと思い追いかけてしまいました」
「でもどうしてこんな短時間にこの場所に?」
「以前・・・と言ってもかなり古い記憶ですが、ロードナイト時代のあなたがよくここで海を見ていたなと思い出しまして、勝手ではありますが追いかけさせてもらいました」
 笑顔で答える渚 レイの言葉にル・アージュは振り向いた。
「愚痴でもなんでも聞かせてください、こう見えても司祭ですから、お悩みぐらい聞きますよ。もちろん他人には話しませんから・・・」
「ありがと・・・」
 そう言ってハンカチを返すル・アージュ。
「レイさん、どうしても分かり合えない親を持つ子の気持ちなんてわからないよね?」
「はい。わかりませんね。私は父なし子ですから」
「え?」
「驚きましたか?」
 レイの言葉にあごを上下するル・アージュ。
「それでも司祭になって孤児の面倒も見ることになって、また、ル・アージュさんと狩りに行ったりして楽しかったですから、こんな風に楽しく過ごさせてもらってます」
「寂しくないの?」
「はい」
 渚 レイは物静かに話を続ける。
「親はなくとも子は育つと言いますしね。家族なんて十人十色ですよ? いがみ合うばっかりでもなく、放っておくこともなく、慣れ合うだけでもなく、ですよ」
「いいなぁ。そういう風に思えて・・・」
「ル・アージュさんに護衛してもらった記憶も、私にとっては大事な思い出です。あなたがいなければ、私はプリーストのままでそれだけの関係だけだったとしか思えませんからね」
「私も、騎士のままだったかもしれないね」
「出会いは人それぞれ・・・、すべてが悪いわけではありません。大事なのは、それを受け入れてどう生かすか。・・・ですよ」
 渚 レイと話していて気が楽になったのか、ル・アージュの顔も少しやわらかになっていく。
 ル・アージュも、いつからか笑うようにもなった。
 それから二人は海を眺めながら雑談に興じた。
「レイさん」
「なんでしょう? ル・アージュさん」
「短い付き合いじゃないんだから、私の事、ルアって呼んでくれない? いつまでも他人行儀みたいにさん付けしなくてもいいじゃない」
「そうですね。ルアさん」
「もー・・・、さん付けしないでって言ったばかりなのに・・・」
「すいません。こんな話し方が私なので・・・」
 二人は声に出して笑った。
 いつしか日は落ちて夕暮れも終わりに近い時間になっていた。
「帰りましょうか?」
「うん。いい加減帰らないと伯母さんに怒られちゃうからね」
「そうですね。どうです? 気は収まりましたか?」
「正直わかんない。でも帰ってどんな顔をすればいいのか・・・」
「笑顔が一番ですよ。私もルアさんの笑顔は好きですから」
 笑顔で返す、不意の渚 レイの言葉に、ル・アージュはちょっとだけ顔が熱くなった。
「あのー、レイさん」
「なんでしょ?」
「ううん、なんでもない。帰ろ!」
 ル・アージュが立ち上がると、渚 レイは立ち上がりワープポータルを出した。二人はその光の柱に飛び込み一瞬にして男所帯の前に降り立った。
「レイさん今日はありがと。おかげで少し楽になった」
「そうですか。それは何よりです」
「じゃ、帰るね」
「お気をつけて・・・」

「ただいまー」
 女所帯のドアを開くル・アージュ。
「おかえり」
 女所帯の住人すべてが食堂でル・アージュの帰りを待っていた。その表情からは日中の出来事があったときよりも明るい。
「ルア、安心しなさい。見合いは破談、アレスのやつにはルシアとパルティナの二人が説教したから」
「ほんと?! ありがとルシア叔母さん」
「これでしばらくは兄さんもおとなしくなるでしょ」
 ハハハと笑うクリシュナとルシアの二人につられて笑うル・アージュ。
「それと、ルアはこのままうちにいて好きにしなさいってさ」
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「ほんと! じゃあクリシュナ伯母さん。これからもよろしくね」

 こうして、ル・アージュはまた変わらない女所帯の日常に戻るのであった。

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  by lywdee | 2017-10-31 15:58 | Eternal Mirage | Comments(0)

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