カテゴリ:Eternal Mirage( 205 )

 

Eternal Mirage(201)

 春の嵐がきて気候も温かく落ち着いたここプロンテラ。今日も女所帯は朝から元気だった。
「ネリス! リンクのとこ行ってネイとパルティナ連れてきて!」
「はーい」
 クリシュナの言葉に元気よく家を出るネリス。
 クリシュナはクリシュナで、家の中から紙コップやら皿などをネリスが置いてったカートに積んでいく。
「伯母さん、氷持ってきたよ」
 早朝からラヘルに行っていたル・アージュが、大量の氷とともに帰ってきた。
「それはフレアに任せて、あんたはさっさと朝食摂りなさい。フレアが片づけに困ってるからね」
 クリシュナに言われるがまま、ル・アージュは食卓に着いた。
 ヴァーシュはその頃、自室で銀色の長い髪を梳いていた。もちろん鎧は着ている。
 窓から射す光が風になびく銀色の髪をきらきらと輝かせている。
「ごめんくださーい」
「あらお姉ちゃん。いらっしゃい」
 食卓で朝食をとっていたル・アージュが、不意の来客にいち早く反応する。女所帯にやってきたのはファ・リーナだった。
「クリシュナ伯母様、母からこれ預かってきました」
「お、精霊殺し(お酒)を3本も・・・、気が利くねぇ」
「母はお父様が行かないってことで来ていません」
「きたら酒が不味くなる。気にしないよ」
 クリシュナはお酒を受け取ると、大きなバケツに氷水をいれてそのバケツにお酒を入れる。そしてそのままネリスのカートに積み込んだ。
「ごちそう様」
 ル・アージュは朝食を撮り終えると、姉ファ・リーナとともに居間のソファーに腰を下ろす。
 女所帯で忙しい思いをしているのは、クリシュナとフレアの二人だけである。毎年恒例のアマツ花見宴会ツアーの準備をしているのだった。
 フレアはフレアでお酒の肴や料理をお重に詰め込んでいる。毎年の事だけあって手際は良い。
「伯母さんただいまー」
「伯母さんおはよー」
「姉様お邪魔します・・・」
 リンク宅から帰ってきたネリス、ネイ、パルティナがゆっくりと女所帯の中に入る。
「あ、ネイ。あんたから預かってた品物、完成したから持っていきな」
「え、もうできたの?! 伯母さんよくやるなぁ」
「もう! お姉ちゃん、お礼が先でしょ!」
「そうだった・・・。ありがと、伯母さん」
 クリシュナから渡される一振りのカタール。当面の狩りで使うトリプルマリシャスブラッディティアーをネイは受け取るのだった。
「言ってみるもんだ・・・」
 ネイは早速そのTM血涙を装着すると、まじまじとそのカタールを見つめるのであった。
「よし! 準備はできた。みんな、アマツに行くわよ!」
 鶴の一声、クリシュナの言葉に全員が外に出る。もちろんネリスはカートを引っ張り出した。
 そこでパルティナがワープポータルを出して全員がその光の柱に身を投じる。出先は年中桜舞うアマツの花見通りだ。
「やっと来たか・・・」
 大輪の桜咲く木の根元で、ルシアが場所取りをしていた。
 ルシアはクリシュナに言われ、一人アマツで場所取りをしながら茣蓙を引いて待っていたのである。
「やっとってあんた、1時間ぐらいなんてことないでしょ?」
「姉さんの時間間隔狂ってるわよ」
 文句もそこそこに女所帯の面々はお酒を出したりお重を広げたりと準備に入る。
「それにしてもクリシュナ伯母さん。花見だったらプロンテラでもできるじゃん?」
「プロは知り合い多いからゆっくり飲めない。だから家族で誰も知らないアマツにきてるのよ」
 ネイのつぶやきに素っ気なく答えるクリシュナ。
「さ、お花見開始! みんなお酒は持ってるわよね?」
 周りを確認しながらクリシュナは立ち上がる。
「かんぱーい!」
『かんぱーい』
 クリシュナの音頭に全員がお酒を口にする。
 花見の席は4人の年長者と、5人の若い衆に分かれた。クリシュナの考えでもある。
「パルティナと飲むのも久しぶりだねぇ」
「そうですね。私はあまり飲めませんでしたからね」
 そう言いながらパルティナはクリシュナのコップにお酒を注ぐ。ちなみに、パルティナが飲んでるのはアルコール度が低いモロク果実酒である。
 病気がちだったパルティナも、年始の実家帰りの時はそれとなく飲んではいたが、どちらかというと付き合い程度の摂取しかダメだと医者に言われてたからだ。だが今年は完治したところで医者の許可が下りたのでクリシュナの花見に賛同してついてきたのである。
 もちろんそれほど飲む方ではないので、とくに酔ったから変わるということもない。むしろ変わるのはルシアの方だ。
 ルシアは酔うと誰彼かまわず説教をするという迷惑な酔い方だが、酔うのも早いがつぶれるのも早い。だからクリシュナは先にルシアを酔い潰してからゆっくり飲むというのが恒例ともいえる。
「姉様、ルシア姉様寝ちゃいましたね」
「そうだねぇ、これでゆっくり飲める」
 90分ほどでつぶれたルシアの寝先はパルティナの膝の上だ。パルティナはこうなるのをわかっていたのであまり飲んではいなかった。そう、ルシアは酔っていても妹には甘いのを知っているクリシュナの年の功で彼女を連れてきたのだ。
「パルティナ、その後どうなのさ?」
「私ですか、そうですねぇ・・・。もう血を吐くことも急に倒れることもないので完治だとは言われました」
「それはよかった。でもあんたは下戸だからねぇ」
 クリシュナもグイグイ飲む方ではないが、こんな時ぐらいしか飲まないのでつぶれることも眠くなることもない。お酒の席では頬を軽く朱に染める程度の酔い方しかしない。むしろ対等にお酒が飲める家族はいないのが残念なところではある。

「へー、ルアは魔導剣2本ももってるのかぁ」
「狩場に応じて使い分けられるようにしてるんです」
「私は当面の武器があるから、お金稼ぎしてから二刀流の装備揃えよう」
 若い衆は若い衆で飲んでいるのだが、会話の内容は最近の狩りやら装備に関してだ。一向に浮いた話は出てこない。
「ヴァーシュは師団長にならないの?」
 ファ・リーナの質問がヴァーシュに飛ぶ。
「当分ならないわ。だって、私には実力不足だし・・・。リーナこそ、最近支援のお仕事ないんでしょ」
「そうねぇ、最近は大聖堂でのお仕事しかないわ」
 若い衆はゆっくりとしたペースで飲み、会話の方が主流であるようだ。
 もっとも、家族が揃うのは年始ぐらいなので会話の方が弾むようである。
「お姉ちゃん、眠い・・・」
「はいはい、こっちおいで」
 お酒に強くないネリスがネイの膝枕で寝に入った。
「それにしても・・・、姉妹でこんなにも差がでるのか・・・」
 そう言いながらネイは、ネリスの胸をさすったのちファ・リーナ、ル・アージュ姉妹を見る。
「ネイ姉さん何が言いたいの?」
「胸の発達度」
「さらっと言わないでよ、ルシア叔母さんじゃないんだから・・・」
「ははは、揉まないだけいいでしょ」
 照れ笑いするネイをため息で返すル・アージュ。
 するとファ・リーナは服の中を覗き、涙目でル・アージュを見た。
「お姉ちゃん、そこで私を見ない」
「こればっかりは遺伝かもねー」
 けらけらと笑うネイ。別に悪気がないだけに質が悪い。

 そうこうして3時間ほどの時間が流れた。

「よし、帰るわよー」
 クリシュナの声にネイはネリスを起し、ルシアはクリシュナがカートに乗せた。
 フレアはお重やら空の空き瓶やらを回収し、茣蓙とかも片づけた。
「ポタ出すわよー」とクリシュナ。光の柱が現れる。
 若い衆と年長者と全員がワープポータルに乗るとそこは女所帯の入り口であった。
「次に家族が揃うのは年始かぁ」
 しみじみつぶやくクリシュナ。
「姉様、今日は誘っていただきありがとうございました。ネイちゃん、帰るわよ」
「はーい。クリシュナ伯母さん武器ありがと」
 パルティナとネイは、パルティナが出したポタで帰っていく。
「ルア、伯母様私も帰りますね」
 ファ・リーナも自分のポタで帰って行った。

 こうして、女所帯の花見は終わるのであった。
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  by lywdee | 2017-04-18 13:03 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(200)

 春の日差しが温かくなってきたここプロンテラ。
 その一角にあるクリシュナが主の女所帯。その主たるクリシュナは、ここ最近プロンテラの北にある迷宮の森に毎日足繁く通っていた。
 もちろんメインのターゲットはハンターフライなのだが、それと同じくいろいろな冒険者がきているせいもあり、狩りの方はぜんぜん苦労しているのだった。
「はぁ・・・、今日も対抗はいっぱいかぁ・・・」
 ため息混じりに木陰に腰を下ろして休むクリシュナ。その目の前を色々な職の冒険者がテレポートで入れ代わり立ち代わり現れては消えていく。
 クリシュナ自体は朝からやってきていて、時間帯的にも一人だと感じているのだが昼になると一転して冒険者が現れ増えていく。クリシュナとしてもテレポートすれば鉢合わせになったり、ハンターフライが駆除された後に出くわす事も多かった。
 彼女にしてみれば、廃鉱でスケルワーカーカードを出してきたように、副産物にも期待しているのだが、これと言って高額なドロップがあるわけでもなく、狩りのテンションはなかなか維持しがたいものであった。
 まぁここ(迷宮の森3層目)では、テレポートでの狩りが主流で、ともすればバフォメットに鉢合わせになることもしばしばあるのだがクリシュナは相手にせずひたすらハンターフライを狩っている。ただ、ハンターフライ同様数が多いのはバフォメットJrである。こちらは呪いとディスペル、幻覚と少々腹の立つスキルで邪魔してくるが、倒す見返りとしてはオリデオコンは出るし、イグドラシルの実もでるのでスキルで応対している。
 ただ、戦場としてはまちまちな地形に悩まされているがハンターフライを凌駕する金額で取引されるカードを持つMOBもいるので、一攫千金を目指すならこれ以上はない狩場の一つでもある。もっともそのせいで密集地帯で気をぬけば倒されてしまう危険性もあるので、制圧し続けては休息を取らないと狩りが続かないのも現実である。
 クリシュナとしては人の少ない時間帯に行くわけではあるが、時間が経つにつれて増える冒険者に、頭を悩まされている。これが廃鉱だったら、対抗も少ないので何時間でもいられるわけなのだが、さすがに人気狩場であるここではそんなことは通用しない。平たく言えば早い者勝ちなのである。だからクリシュナも苦労こそすれ一攫千金と需要と供給に適したここに腰を据えているのである。
「キラーマンティスカードか・・・。いくらするんだろ?」
 時折でるハンターフライとは別のカード。まとめ狩りのしている身なので、いつ何がカードを出したか一切わからない狩場。彼女は他にもウルフ、ポリン、ルナティックとカードを出したが経験上安い値段で取引されるカードである。
 テンションこそ上がらないモノの、これがエンジェリングやデビルリング、アークエンジェリングがカードを出せばそれこそ一攫千金だ。だからクリシュナは、バフォメット以外のモンスターも倒してはいる。保険に持ち歩いてる白ポーションの重さを考えればハンターフライが落とす結構かたい皮なんて拾っていられない。廃鉱ではそんなこともないのでランタンも拾ってどれぐらい倒したかの目安になるのだが、ここでそれをするには白ポが邪魔になってしまう。だからクリシュナは余計なものは拾わず、価値のあるものだけしか拾ってはいない。他の冒険者も同じようなものだから、ここではハンターフライの残骸と結構かたい皮、ジャルゴンはテレポートするたびに見受けられる。
 メカニックでもなければ拾っていられないドロップばかりだが、痕跡を残す人の方が多いのも実情。それだけここではハンターフライがそれこそ親の仇のように狩られていくのだ。
「ルアもラヘルで頑張っているんだ。私も頑張らなきゃ・・・」
 休息を取り終えたクリシュナが立ちあがる。家長としての責任が重いが養う義務のある彼女は、自身を慕って居候している家族を守るためにも、今日も頑張って迷宮の森の3層目で必死にテレポ狩りを続けるのであった。

「まぁ! 姉様がネイちゃんのためにハンターフライを?」
「そうなのよ。だから帰ってきたらストレスで吐くこともあるのよねぇ・・・」
 5兄弟の中間の立場にあるルシアは、リンク宅でパルティナとお茶していた。
「ルシア姉さんはこれからどうするのさ?」
 フラウディッシュ家次男のリンクがパルティナの横で紅茶を飲んでいた。
「私なんてサポート型のソーサラーだし、行けるとこなんて限られてるわ。それこそリンクだって同じでしょ? あんたもサポート型のロイヤルガードなんだし・・・」
「それはそうなんですが・・・」
「姉様も兄様も一人で狩りするなんて珍しいものですからね」
 微笑む末っ子のパルティナ。具合がよくなってからはよく笑うようになった。
「それにしても・・・。吐くまで狩りするなんてクリシュナ姉さんらしいな」
「そうなのよ。少しは肩の力抜いて姪っ子に頑張らせないといけないわ」
「それをしないのが姉様らしいですね。ねぇ兄様」
「家族を大事にする姉さんだからなぁ。いい加減にしないと胃に穴が開くんじゃないか?」
「それで済めばましよ。無理して体壊したら意味がないというのに・・・」
 ルシアもルシアなりにクリシュナの事を心配していた。
 今に始まったわけではないが、クリシュナの自己責任は家族が心配するほど重く感じている。ましてや3人も育ちざかりがいる女所帯の生計をほぼ一人で立てているせいか、居候のルシアにもわかるほど家計は安定している。出費が少ないのと、収入が平行線をたどってるせいだ。
「ルシア姉様。私もクリシュナ姉様に手を貸せないものですか?」
「やめときなさい。あんたまで行ったらテレポ狩りになんてならないわ。効率悪くなっちゃうもの・・・」
「そうですか・・・」
 落胆して肩が下がるパルティナ。
「私だってサポートしてやりたいけど、バキューム使ったらかえって邪魔になるもの」
「私も似たようなものですね」とリンク。
 苦笑するリンク。とてもじゃないがサポートしたくても姉クリシュナとはレベルが違いすぎるから、ともに狩りするなんてどだい無理な話だ。
「ところで。兄さんはその後ここに来た?」
「はい、パルティナが調子よくなってきてから一度・・・」
「なんか言ってた?」
「はい、実家に帰らないか? と・・・」
「ふーん」
 パルティナの言葉にルシアは紅茶を飲みながら聴いていた。
「人の事言えないけど、うちら姉妹は結婚してないからねぇ。兄さんにしてみても心配なんでしょ」
 ルシアはため息つきながら紅茶を飲み干す。
「ま、私は家事しなくていいなら結婚してもいいかな? とは思ってるけどねぇ」
「姉さんを前にして言いたくないけど、家事音痴の姉さんに似合う男ってほぼいないと思うよ」
 リンクのため息混じりの返答に、ルシアは苦虫をかみしめたような顔でパルティナを見る。
「なんですか? 姉様。何か言いたげな顔してますよ?」
「あんたを怒らす気はないから言わない」
 そう言いながら立ち上がるルシア。
「もう帰るんですか? 姉さん」
「そろそろ姉さん帰ってきそうな時間だからね。帰って愚痴ぐらい聴いてやらなきゃね」
 そう言ってルシアは、ウィンク一つしてリンク宅を出て行った。

「へー・・・、クリシュナさんがハンターフライをねぇ・・・」
 カンカンと鎚打つ音が響き渡る男所帯。セラフィーが製造してる背中を見るネリスとその姉ネイが見ていた。
「・・・で、その副産物でネイに武器を・・・ってかい?」
「本来私は二刀流ですからね。いい短剣が手に入る前で使えるものをって思ってネリスについてきたんだけど・・・」
「お姉ちゃんが使う武器ってなかなかないの」
「それで属性ダマを・・・ってかい?」
「うん。クリシュナ伯母さんが鋼鉄使っていいって言ってたから・・・」
 ネリスはクリシュナがためた鋼鉄を持ってセラフィーに属性ダマスカスの製造依頼しに姉ネイとともに男所帯を訪ねてきていたのだ。
「ほら出来たぞ。とりあえず土と風だけだが過剰もしてある」
「わぁ・・・、精錬までしてあるー」
「お姉ちゃん! ところでセラフィーさん。おいくらですか?」
「成功報酬で1本1Mだな。悪いが水までは材料が足らんかった」
 お金を渡すネリス。ネイは新しいダマスカスができて上機嫌である。
「ところで、なんで今頃ハンターフライなんだ? クリシュナさんなら廃鉱でスケルワーカー狩ってたほうが早いんじゃ?」
「買うならね。伯母さんは「私が出してやる!」って言ってそれっきり・・・」
「クリシュナさんらしいな」
 笑って答えるセラフィー。
「うちの生活費はリューディーが稼いでるからな。お互い様だから何も言えんや」
「しかし一本1Mなんて・・・。安すぎません?」
 ネイが出費を気にして尋ねた。
「うちは依頼品しか作らんし、生計立てるために製造してないし、身内から大金取る気はない」
「私も身内なんですね・・・?」
「そうさ。女所帯にいなくてもお前ら姉妹なんだろ? なら身内同然だ」
「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」
「いいってことさ」
 そう言ってセラフィーはタバコに火をつけると、製造用具を片付けにはいった。
 その帰り道、ネイはネリスに小声で話しかけた。
「あの人って、商売向きじゃないよね?」
「セラフィーさん? いつもあんな感じだけど、お金には困ってないって言ってたよ」
「へぇ・・・」
 姉妹二人で帰る道すがら、ネイはそのままネリスとともに女所帯に入っていった。
「あらおかえり。ネイがくるなんて珍しいわね」
 女所帯ではクリシュナが紅茶を飲んでいた。
「ネイ、あんたのお望みのものはあと1枚で完成するわよ」
「へ? 伯母さんハンターフライカードだしたの?」
「とりあえず2枚まではね。あんたが必要なのは3枚なんでしょ? もうちょい待ってね」
「言ってみるもんだ・・痛!」
 お礼も言わない姉の横腹を肘で打つネリス。恥ずかしいらしく顔は真っ赤だ。
「何するのよ?! ネリス!」
「お礼が先でしょお姉ちゃん!」
 二人のやり取りをみてクリシュナが笑う。
 その直後女所帯のドアが開いた。
「ただいまー」
 帰ってきたのはルシアだ。
「姉さん。パルティナ、調子いいって」
「あら、リンクのとこ行ってたんだ。それはよかった」
 紅茶を飲み干した後、フレアがお客様用のティーセットをだして食卓に並べ、あらかじめ温めておいた紅茶を4人に振舞う。
「ところでネイ。あんたこんな時間にどうしたの?」
「いや、別に・・・。暇だから来た」
「暇だからって、うち来ても何もないよ」
 クリシュナが言った直後ネイはクリシュナの目の前にカタールを置いた。
「なんだか早くできそうだから預けておくね。伯母様」
「ほいよ。完成したらネリスに届けさせるさね」
「じゃ、私帰るね」
 そう言うが否や、ネイは女所帯を後にした。
「今度の花見にパルティナも付き合わせるか・・・」
 クリシュナはそう言ってほほ笑むのであった。
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  by lywdee | 2017-03-14 14:06 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(199)

 季節は流れ、正月気分もすっかり抜けきってるプロンテラ。今では節分を超えもうバレンタインの季節になった。
 この季節になると憂鬱になるのが女所帯のル・アージュである。
 理由こそないのだけれども何故かバレンタインになると、表現こそしづらいが気分が重くなる。
「ル・アージュ様、ホットチョコレートです。温かいうちにどうぞ」
「ありがと」
 バレンタインがくると、女所帯では毎年フレア特製のホットチョコレートが振舞われる。クリシュナの付き人として長い間一緒に生活しているが、感情を表に出さないせいで誤解されがちになるが、今では詮索する者もいない。
「あらルア。いたんだ」
 ルシアが声をかけた時、ル・アージュはホットチョコレートを飲み切っていた。
「あんたは毎年毎年この時期になったら仏頂面になってるわねぇ」
「ルシア叔母さんこそ。最近になって狩りに行くとか言っといて、ぜんぜん出かけないじゃない」
「私なんか、サポート型のソーサラーだし、行けるところは限られてるのよ。一人で行く分にはね・・・。まぁネリスが出かけてるときについでに臨公やら何やら調べてもらってはいるけどね。あ、フレア、私は紅茶でよろしく」
「かしこまりました」
 食堂のテーブルにつくルシア。対面には仏頂面のル・アージュがいる。
「そういえば姉さんどこ行った?」
「クリシュナ伯母さん? 確か迷宮の森に行くとか行かないとか・・・」
「あー、そういう事なら行ってるわね。姉さんお茶を濁すようなこと言う時は、大抵前者を選ぶからね」
 目の前に静かに出された紅茶を口にしながら、ルシアはため息をついた。
 長年一緒にいる姉妹だからこそ分かる事もある。ルシアにしてみれば、クリシュナが何故迷宮のもろに行ったかぐらいはすぐにわかる。
「若cがハンターフライcに変わったか・・・」
「へ?」
「金策の話よ。もっとも今回はそれだけじゃなさそうだけどね」
 静かに紅茶を飲むルシア。ル・アージュは叔母の言葉に呆気に取られていた。
「たぶんこの間の温泉での話でも思い出したんでしょ? 姉さん地獄耳だから・・・」
「あー、なんかネイ姉さん言ってたね。ハンターフライがどうこうって・・・」
「ネリスはついでに軍資金を倹約しなければって言ってたし、需要と供給を鑑みれば、対抗は多そうだけどハンターフライに落ち着くよなーって」
 ルシアが紅茶を飲み干すと同時に、フレアがかわりの紅茶を注ぎいれ、厨房から焼き上がりのクッキーを持ってきた。
「ま、姉さんなら、テレポもあるし一応範囲攻撃あるし、バフォメットに喧嘩売らなければ怪我することもないっしょ」
 いれたての紅茶を口にするルシアは、目を閉じてため息一つついた。なんだか呆れている節もあるが、どうやら心配はしていないようだ。

 ガランゴロン・・・。

「噂をすればなんとやら・・・。姉さんおかえり」
「ただいま・・・」
 女所帯に帰ってきたクリシュナは、そのまま食堂の椅子に座り突っ伏した。
「その様子じゃ収穫なさそうね」
「いや、ハンターフライカードは手に入れた」
「あら、よかったじゃない。でもなんで浮かない顔してるのよ?」
 顔も上げずカードをひらひらと見せたクリシュナに、ルシアは突っ込んだ。
「いやね、対抗が多すぎてテレポばっかしてたら吐き気がして、正直疲れた・・・」
「へー・・・、スキル疲れか・・・。フレア、紅茶おかわり」
 ルシアの言葉に、フレアは紅茶のおかわりとホットチョコレートを持って食堂にきた。
「・・・で、対抗は何人?」
「レンジャーとメカニックと修羅とロイヤルガードと朧、わかってるだけでその5人」
「ふーん。お疲れ様」
 ルシアの労いの言葉に、クリシュナはようやく頭をあげてホットチョコレートを口にした。
「ネリスは?」
「2階じゃない?」とル・アージュ。
「ネリスー!」
「はーい」
 クリシュナの声に2階からネリスが降りてくる。
「伯母さんなぁに?」
「コレ売ってきて。値段は任せる」
「ハンターフライカードじゃない! 伯母さんが出したの?!」
「まぁね。じゃよろしく。私仮眠取るわ・・・」
 ネリスにカードを渡すと、クリシュナはフラフラしながらも自室に入っていった。
「ところでネリス、それって相場いくらなの?」
 ル・アージュが尋ねると、ネリスは記憶を探ってこう答えた。
「28~32Mかな? たしかそんぐらい」
「けっこう高いのね・・・」
「じゃあ露店出してくる」
 こうしてネリスはカートを引っ張り出し露店街へと向かった。
「それにしても・・・。クリシュナ伯母さんのカード運には頭が下がるわ」
「そりゃー数狩ってるもの。姉さんしつこいから・・・」
 ルシアの返答に「ははは・・・」と力なく笑うル・アージュ。
「まぁ姉さんの場合、自給自足がモットーだし、タダでは転ばないからね」
 姉の性格を熟知してるルシアには、クリシュナがカードを自分で出してくるのは目に見えているし、カードを買うということは、自分で出しに行けないものしか購入しない。そのための時間も惜しまないし、あきらめが悪い。そこでついたのが「撲殺天使」という通り名になったのだろうと思ってる。
 通り名についてはル・アージュも一度クリシュナと行ったお花見で理由を聞いたことがあるが、それはクリシュナのモンク時代から今にかけて、徹底した狩りと辻支援、面倒見のよい性格とのギャップで生まれた言葉だと聞いたことがある。
 現にクリシュナのスタイルは、ソロでは高い回避率とパーティーでの壁役を担う守備型のスキル振り、そして二つを兼用する身体能力の高さ。弟子こそ取らないけど性格的に育てることは嫌いじゃないらしいから、南と呼ばれるプロンテラ南の広場では知らない人は少ない有名人の一人であると聞いたこともあるし、知らない人も少ないと噂されている。
 特にクリシュナは、女所帯でもその性格から「放っては置けない」「アタシが何とかする!」と言って女所帯全体の装備とかを調達するぐらいだし、それに見越したカード運もある。もっとも、女所帯の生活費はほぼカードの売却で工面するぐらいだ。その背中を見てル・アージュもスノウアーカード狙いの狩りをして補助してるともいえる。言わば稼ぎ頭とも言っていい。
「ただいまー」
 そんな折帰ってきたネリス。満面の笑顔でカートをしまう。
「早いね。いくらで売れたのよ?」
「んーと、28Mだよ。クリシュナ伯母さんは?」
「仮眠取ってる。静かにしてやりなよ」
 ル・アージュもクリシュナの体は心配している。自身も狩りで疲れたらクリシュナに介抱されたこともあるのでわりと小声でネリスに言った。
「とにかく、ほとぼりが冷めるまで姉さんは迷宮の森だろうねぇ」
 ルシアは素っ気なく言ったが、ル・アージュとネリスは力なく笑うだけなのであった。
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  by lywdee | 2017-02-14 16:27 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(198)

「付き合えって、こういう事だったのね・・・」
 苦虫をかみしめたような顔でルシアを見るクリシュナ。
「しょうがないでしょ。私とパルティナだけだったら、オーディン神殿で薬草探しなんてできないわ」
 そう、彼女たちは今、オーディン神殿の深層部にいた。
 フィゲルの医者にパルティナを診てもらい、効果のある薬ができるとは言われたものの、その薬の素となるものがオーディン神殿とトール火山にしか存在しないと言われたからだ。
 医者の話を聞かされたあと、薬草が足りないから取ってきてくれと言われ、パルティナがいるってことで比較的安全なオーディン神殿をルシアが選んだ。医者の方はというと、じゃあトール火山は俺が行くって事になり、3人はここ、オーディン神殿にきたのだ。
「あの医者、信用できるの?」
 クリシュナが不安な口ぶりになるのも仕方ない。医者自ら危険なところに生える薬草の知識と採取する行動力は認めるものの、正規の病院じゃないことがクリシュナにとって疑心暗鬼にならざるをえなかった。
「まぁとりあえず姉さんは金剛あるでしょ? 私じゃ壁できないし、パルティナもプルスとスコグルはMEで焼けても、スケゴルトは私達じゃ無理だもの。姉さんにかかっているのよ、私たちが行動できるのは・・・」
「姉様、辛いのなら、私が我慢してもいいのよ? 私のせいで姉様が苦労するのは心苦しいもの・・・」
「いんや、あんたの為なら、私達姉妹が頑張ればいいことさね。あんたはあんたで、無理せずMEで焼いてればいいのよ」
 口ぶりは厳しいものの、クリシュナは警戒しながら歩を進めていた。
 医者の話ではパルティナの病気に効く薬はできると断言していたので、クリシュナもルシアも、末妹パルティナのためになるならと選んだ道。簡単にあきらめることなどできなかった。
 それ以前に、ルシアがクリシュナを連れてきた意味がわかったので、長女としては責任があると思い、ただ耐えることに徹していたのだ。
「・・・で、目的の薬草は見つかったの?」
「んー、地図ではこの辺りなんだけど・・・。あ、これかも?」
 ルシアが草むらに群生してる薬草を見つけた。医者からもらった絵と特徴は一致している。
 クリシュナがあたりを警戒しているうちにルシアが薬草を集める。その途中、こちらに気付いたモンスターの軍勢が押し寄せてきた。
「パルティナ! 頼んだわよ!」
 クリシュナが金剛をつかいモンスターの軍勢を一手に引き受ける。そこへ詠唱の終わったパルティナのマグヌスエクソシズムが光をあげる。
 光の結界がプルスやスコグルを焼き始める。その断末魔の悲鳴が他のプルスやスコグルを呼ぶが、そのすべてをクリシュナが足止めする。
 パルティナは、吐血しながらも次のMEの詠唱を始める。
「姉さん! パルティナ! 薬草は取り終えたわ! あとは帰るだけよ! 踏ん張って!」
 ルシアがサイキックウェーブで応戦する。その結果、詠唱が間に合ったパルティナのMEが敵を焼き尽くした。
「パルティナ! 大丈夫⁈」
 膝から崩れ落ちたパルティナをルシアが抱き止める。
「姉様、大丈夫です。ちょっと長く行動しただけですから・・・。ワープポータル、出しますね」
 にっこりとほほ笑む妹の姿をみて、クリシュナもルシアもホッとため息をついた。

「おー! これだけの薬草をよく集めてくれた。俺の方も余分に取ってきたから、これでその子の病気に効く薬ができる。まぁ待っててくれ。おっと、そこのお嬢ちゃんはそっちのベッドで休ませてやれ」
 フィゲルに帰ってきたクリシュナらは、先に帰ってきた医者「キシャル」に言われるがままパルティナをベッドに寝かす。
 パルティナは顔色こそ少々悪いが、「すみません」と一言残してベッドに横になった。

 それから小一時間ほど経った頃、キシャルは出来上がった薬をもって現れた。
「出来上がったぞ。はやくそのお嬢ちゃんに飲ませてやれ」
「パルティナ、起きて、薬よ!」
 クリシュナがパルティナを抱き起すと、ルシアがゆっくりと薬を飲ませる。
「どう? パルティナ・・・」
 クリシュナはパルティナの様子を伺ってたところ、彼女の顔色が少し良くなったようにも見えた。
「まぁすぐには効かんが、もう少し横にさせてやれ」
 キシャルは自分の体の傷も気にせず奥に入ってしまった。
 クリシュナらもパルティナを横にさせると、ホッとしたのかルシア共々椅子に腰を下ろした。
「苦労した甲斐があったのかな?」
 ルシアはクリシュナにそうつぶやいた。
「ここまで苦労して効果がないって言われたら、私だってつらいわよ。でも、パルティナの様子は安定してるみたいだから、少しは良かったのかもね」
「姉様たちに苦労かけて心苦しいです」
「いいのよ。血を分けた姉妹なんだから。私たちはあんたがよくなることを願ってるのよ」
「あ、そうだ・・・」
 ルシアがやおら立ち上がりパルティナのそばに立つ。
「あん!」
「やっぱり大きい・・・」

 ゴン!

「あーんーたーはー! 何やってるの!」
「・・・・・・!」
 頭を押さえしゃがみ込むルシア。クリシュナのげんこつをもろに喰らったのだ。
「姉様! 誰と比べてるの⁉」
 そう、ルシアは横になっているパルティナの胸を揉んだので、クリシュナのきつい一発を喰らったのだ。
「いや、ルアがね、パルティナと温泉行ったときに大きいなって言ってたから。ルアの疑問に答えてやろうと・・・」
「そんな疑問はこたえんでいい!」
 そんな二人のやり取りを見てて、不意にパルティナは笑った。
「パルティナ・・・?」
 涙目でしゃがんでいるルシアがパルティナの方を見た。
「姉様らしいですね。それで、どっちが大きかったのかしら?」
「パールーティーナー・・・!」
「ルアより大きいわよ」

 ポカ!

 また小突かれるルシア。クリシュナもここまでくるとあきれ顔だ。
「そんなに乳揉みたいんなら、自分のでも揉んでたら?」
「いや、あたし揉むほど胸でかくないし・・・」
 ははは、ふふふと笑う姉と妹。ルシアも微笑むとキシャルが包帯まみれで戻ってきた。
「どうやら効いてきたようだな。その様子だと薬があってるようだ。ほれ1週間分の薬ができたぞ。もってけ!」
「あの・・・? お代は?」
「いらん! そんなもの。お嬢ちゃんの薬は特殊なんだ。金で買えるようなもんじゃない」
「え? いらないの?」
 ルシアがきょとんとした顔で医者を見る。
「そうよ、持ち合わせで足りないならすぐ持ってくるわよ」
 クリシュナはそう言ってネリスから渡された財布を出す。
「うちは正規の病院ではないんでね。金なんかもらったら取っ捕まるわ」
「あ、そういう事・・・」
 ルシアが納得すると、クリシュナも財布をひっこめた。
「まぁアンタが症状書いて送ってきたときから「これしかない!」って薬なんだ。うちは金のために病人診てるんじゃない」
「珍しい男だねぇ」
「そういうことだ。おとなしく薬を受け取れ」
「ではありがたく・・・」
「その薬で足りなかったらまた言ってくれ。あんたらが余分に取ってきた薬草がまだあるからな」
 そう言ってキシャルはまた奥へと帰って行った。
「パルティナ。起きれる? 帰るわよ」
「はい、姉様」

 1週間後

「もう薬はいらないと?」
「はい、もう血を吐くこともないし、体もすこぶる調子がいいのです。お医者様ももう大丈夫だと・・・」
「私たちが出張った甲斐があったか・・・」
 女所帯に訪れたパルティナが、クリシュナ、ルシアを前に微笑んでいた。
「・・・で、ルシア姉様。ルアには報告したの?」
「したよ。ルアが悔しがってたわ」
 紅茶を口にしながら悪びれずルシアが答えた。
「姉様、今度から本人が来るようにと・・・」

 ゴゴゴ・・・とパルティナの顔が赤らんでく。それを見たクリシュナは微笑んだパルティナの心境を読んだ。

「あーあ、パルティナが怒ったか。私しーらないっと・・・」
 そう言ってクリシュナは、紅茶をもって食堂へと退避した。
 そしてルシアは、パルティナに小一時間文句を言われるのであった。
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  by lywdee | 2017-01-17 10:36 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage197

 クリスマスも近づいてる冬の寒さが日ごと増すプロンテラ。今年ももう半月も過ぎれば年が変わるころになってきていた。
 そんな賑わいを見せるプロンテラの郊外に、クリシュナら女所帯がある。
「はぁ・・・、今年ももう半月で新年か・・・」
 紅茶を飲みながら窓の外を眺めるクリシュナがため息をついた。
「姉さん、それ去年も言ってたよ」
 居間で文献をあさるルシアが視線すら変えずそう言った。
「クリシュナ様、ルシア様。紅茶のおかわりをお持ちしました」
「ありがと、フレア」
「・・・で、どうなの? パルティナの病気に効く薬でも見つかったの? いっつもいっつも文献あさってるけどさ」
 紅茶のおかわりをもらいながら、クリシュナはルシアの対面に腰を下ろした。
 ルシアも耳にタコができるほど聞かされた言葉。本人も困惑顔で紅茶を口にした。
「こればっかりはねぇ・・・、パルティナをモルモットにするわけにもいかないし、あの子の主治医と話し合わなければなんとも・・・」
 お手上げ状態のルシアにため息一つつくクリシュナ。
 ルシアの文献あさりは今に始まったわけではないが、知識ばっかりついて肝心のパルティナの病気に効く薬に関しては、眉唾なものばかりで実際役に立つ薬の情報は少ないのが事実である。
 ただその恩恵がないわけではない。
 現にルシアが知識の宝庫になってることで、オートスペル型になったル・アージュの魔力が上がってるのも事実。決して無駄とは言えない。
「もう昼か・・・」
 やおら立ち上がるルシア。
「どこ行くのさね?」
「今日はパルティナと病院行く約束してるのよねぇ」
 文献を整理して、必要なものだけもって外に出るルシア。
「アスティナ、行くよ」
 ルシアは厩舎の九尾狐の鎖を外してそれにまたがる。アスティナはルシア専用の騎乗動物なのだ。

「パルティナ、なんか嬉しそうだな?」
「ええ、リンク兄様。今日はルシア姉様と病院に行くの」
「そうか、お前が病院の日なのにうれしそうなのはそういう事か・・・」
 嬉しそうに外出の準備をするパルティナにリンクは腰に両手をついてため息をついた。
 事実パルティナ一人の外出については、いつも悲しそうな顔をしてる妹が、嬉しそうにするのは姉ルシアの存在があるからなのだろう。
 リンクもたまに病院について行くことがあるのだが、その時もパルティナはうれしそうな顔を見せるので、リンク自身もできるだけ休暇申請をだしたり、妻に付き添わせてみたりと気を使っていたのだ。

 コンコン・・・。

「パルティナ、姉さんが来たみたいだぞ」
「はい、今開けます」
 ガチャっとドアを開けると、ルシアが「やほー」と家の中に入ってきた。
「リンク、少しパルティナを預かるわよ」
「それはいいけど・・・、どこに連れてくつもりですか?」
「ちょっと薬に詳しい医師がプロンテラの旅館にいるそうだから、ちょっと薬の配分とかを聞きにね・・・」
「あてになるんですか?」
「ちょっとね。噂じゃマミーの体調をよくしたって言う噂があるのよ。だからパルティナの病状をじかに診てもらって、薬の事聞きたいのよ。って、パルティナ、準備いい?」
「はい姉様」
「じゃあ行ってくるね」
 こうしてルシアとパルティナは、プロンテラの病院へと出かけて行った。

「あれから調子いいの? パルティナ」
「はい、でも完治までは遠いと・・・」
「まぁ無理すんじゃないよ」
 さしあたって特別な話もなく病院への道を歩く二人の目の前に、青髪のアークビショップが立ちはだかった。
「あら珍し・・・、リーナじゃない」
「パルティナ叔母さんと一緒ってことは、ルシア叔母さんも病院ですか?」
 突如現れたファ・リーナに足を止める二人。
「リーナこそ・・・、この道歩いてるってことはリンクの家にでも行くのかい?」
「はい。父から病院代の足しにしてくれと、お金を預かってきました」
「兄様らしいですね。姉様」
「そうだねぇ。直接くればいいものを・・・」
 微笑む妹に対してあきれ顔のルシア。大金を娘に預けるのは信頼してることだと理解できるが、強盗がでたらどうするのかとルシアは思った。
 まぁルシアにしてみれば、兄が姉に出会う偶然を考えれば直接行くことは喧嘩の要因になるんだろうということが目に見えている。
「リーナ。それは直接リンク兄様に渡しといてもらえる? 私達これから病院だから・・・」
「わかりました叔母様」
 こうしてリーナと別れたルシアらは病院へとまた歩き出した。

「ただいまーって、やっぱりか・・・」
 女所帯に帰ってきたル・アージュがそう言った。
「何がやっぱりなのさね?」
 クリシュナはソファーから立ち上がりル・アージュのそばへと歩いてきた。
「いや、厩舎にアスティナいなかったから、ルシア叔母さん出掛けたのかと・・・」
「ああ、ルシアならパルティナと病院行ったわよ」
 ふーんと聞き流したル・アージュは、フレアを呼び出し厩舎のドラゴンから氷を運び出した。
「ル・アージュ様にはいつもお手数をかけます」
 フレアは厨房の保存庫に氷を敷き詰めては肉を入れ直している。
「叔母さん早くよくなるといいね」
「そうだねぇ・・・」
 ル・アージュは氷を運び終えるとそのまま2階へと上がって行った。
 クリシュナとしても、立場上長女なのだからなんとかしてやりたいのだが、こればっかりは専門外なので、ルシアの文献あさりを止めることはできない。むしろそれがきっかけで妹の病状が収まることを祈ってる節もある。
「今度は私も行ってみるかねぇ・・・」
 ため息一つついてクリシュナは紅茶を飲み干した。

「姉様、今日はどうもありがとうございました」
「いいのよ別に・・・。またなんかあったらこっちから出向くわ」
 夕暮れに包まれたプロンテラの一角でパルティナは姉、ルシアに深々と頭を下げた。
 ルシアも、何の力にもなれなくてと肩を落としていた。
「それでは私、帰りますね。リンク兄様も心配してると思いますし・・・」
「うんそうしてやって、じゃあまたね」
 ルシアはワープポータルで帰る妹を見送ったのち、女所帯へと帰っていくのだった。

 ルシアが女所帯に帰ってきたときにはすでに日はどっぷりと落ちていた。
「ただいまー」
「おかえり。・・・で、どうだった?」
 クリシュナの言葉にルシアは首を横に振った。
「そうか、残念だわね」
「まぁそう肩を落とすんじゃない。紅茶でも飲んだら?」
「そうする」
 素直に紅茶を飲むルシアだったが、居間のソファーに腰かけた時、自分あての封書に目がいった。
「ああそれ、あんたが外出中に来た手紙よ。フィゲルからみたいだけど、なんか頼んだの?」
「うん、フィゲルにいるお医者さんなんだけど、病院じゃないけど処方に詳しい人がいるってことで、ちょっとコンタクト取れないかな? ってね」
「ほー、まだあてがあったとは・・・」
「できることはなんでもね。・・・てことよ」
 ペーパーナイフで封書を開け、ルシアは手紙を読み始めた。
「姉さん」
「何?」
「明日フィゲルに行くから付き合って」
「突飛だねぇ。パルティナの事?」
 突然の言葉にクリシュナはルシアの対面に座ると、ルシアは黙って頷いた。
「訳ありみたいだけど、付き合うわ」
 こうして、ルシアの文献あさりの副産物に期待しようと、クリシュナは二つ返事で返すのだった。
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  by lywdee | 2016-12-13 15:10 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(196)

 季節はめぐり、初秋の紅葉が色づき始めたプロンテラ。気温もだいぶ下がり始めたがそれでもまだ温かみのある気候。そんな中、女所帯の玄関ではクリシュナをはじめ、女所帯の面々とファ・リーナ、パルティナ、ネイがきていた。
「じゃあフレア、留守番よろしく」
「かしこまりました」
 エプロン姿のレンジャー「フレア」が会釈すると、パルティナがワープポータルを展開する。
「さて、行きますか」
 展開されたワープポータルに私服の女所帯の面々達が、順を追って突入していく。
 ワープポータルの出口は季節感のない桜咲くアマツだった。
「パルティナ、ここかい?」
「はい、姉様。8名全員の名前で予約をとっていますわ」
「ん。上出来よ。みんな! 今日一泊だけど、思う存分羽を伸ばしなさい」
 幹事になってしまったルシアが、クリシュナの号令の前にさっさと宿に入っていく。
「ようこそおいでくださいました。当館女将でございます。クリシュナ様御一行ですね、予約承ってございます。どうぞ中へ・・・」
 宿の女将が8人を案内する。(当然靴は脱いでる)
「わー・・・、情緒あるねぇ、お姉ちゃん」
「ほんとね。私も初めてみる空間だわ」
 ル・アージュとファ・リーナが並んで廊下を歩いてる。目の前を歩くネイ、ネリス姉妹も感嘆な声をあげている。
 案内された客間は2つ、年長者の3名と若い衆5人は別々の部屋に通された。ルシアなりの心遣いなのだろう。
「ネイお姉ちゃん、これ何?」
「あぁ、それね。「浴衣」ってやつで、宿で着る服みたいなものよ」
 ふむふむとネイの着替えに食い入る4人。ネイも実際は以前リンク親子の旅行で着たことがあるだけで、なんとなく覚えてるだけだった。
 5人全員が浴衣に着替えると同時に若い衆の部屋へ入ってきたのはクリシュナだった。その後ろには浴衣に着替えたルシア、パルティナもいる。
「みんな! 露天風呂に行くわよ!」
 クリシュナの一言に若い衆5人はパルティナの後ろについて歩いて行く。
 ネイを抜かせば4人にとって初めての和風旅館である。おのずと視線が右にいったり左にいったりの繰り返しである。
「ここの温泉は疲労回復や肌にもいいのよ。あとは入ってのお楽しみよ」
 パルティナが若い衆4人にそう言ってほほ笑んだ。
 そしていざ露天風呂というところでル・アージュ、ファ・リーナ、ヴァーシュ、ネリスの4人は揃って「わー・・・、広ーい!」と声をあげた。
 初めての露天風呂に歓喜する4人。
「パ、パルティナ叔母さん、ここって・・・」
「安心して。ここは女風呂だから殿方は別にいるわよ」
「よかった・・・」
 ル・アージュの素朴な疑問に答えたパルティナは、慣れた手つきで髪をあげ手ぬぐいを頭に巻いた。
「アンタたちもボーっとしてないでさっさと入りなさい」
 同じように髪をまとめて手ぬぐいを巻くルシアがそう言った。
「うちの風呂とえらい違いだね。ヴァーシュ」
「ほんとね。ああぁ、いいお湯」
 8人全員が露天風呂のお湯に浸かると、ルシアは殺気を感じ振り返った。もちろんそこには握り拳を見せてニッコリ微笑むクリシュナの姿がある。
 するとルシアは、残念そうな顔でパルティナの隣に腰かけた。
「ルシア姉様、若い子の胸を揉む癖直したらいかが?」
「私の楽しみがぁ・・・」
「どつかれる覚悟があるならおやりなさい」
「うう・・・」
 渋々諦めるルシア。それを見てパルティナがほほ笑む。
「ルア、アンタAS型のルーンナイトなんだってねぇ?」
「はい、そうですが・・・」
 ファ・リーナと話していたル・アージュをネイが呼ぶ。
「マランエンチャントしたってホントかい?」
「はい、まだ伸びしろがありますがいい感じで力になってます」
「そっかぁ・・・、私もインバースにエンチャントしようかなぁ」
「ネイお姉ちゃん。ここで狩りの話はしない約束じゃ・・・?」
「あらそうだっけ? 忘れてたわ」
 ネリスの介入で照れ笑いするネイ。
「ルアはじっくり浸かってたまった疲労を流しなさいね」
「はーい」
 クリシュナは中居さんが持ってきたお酒を口にしていた。自身も海底神殿での狩りで疲れてるせいもあってか、温泉を満喫しているようだ。
 それから30分ほど経った頃、露天風呂から上がった8人は宴会場に連れて行かれた。そこで待ってたものはアマツ近郊でとれる新鮮な魚料理が用意されていた。
「わー、これが活け造りってやつか」
 初めて見る魚料理に感嘆な声があがる。
「魚って頭にいいのよ。ルアにはもってこいの料理ね」
 ルシアが説明すると、クリシュナが横に座ってルシアの飲み物を奪い取る。
「姉さん・・・?」
「あんたは酔うと絡むから飲ませないよ」
 そう、クリシュナが奪ったそれはお酒だった。
「私も我慢するからあんたもお茶で我慢しなさい」
「はーい・・・」
 もともとル・アージュの為の温泉旅行なので、クリシュナは疲れがでることは避けたかったのが本音。でも自分は年長者なのだからという責任感もある。
 クリシュナにしてみれば露天風呂で軽くお酒をいただいているので、この場はお茶で我慢していたのだ。
 こうして夕食は静かに終わるのだった。

 そして夜の事だった。

 浴衣姿のヴァーシュは一人庭園のある廊下に座り込んでいた。
「眠れないのかい?」
 そこに現れたのはクリシュナだった。
「伯母様こそ・・・、どうしたんですか?」
「いや、ちょっとね」
 そう言ってヴァーシュの隣に腰を下ろすクリシュナ。
「あんたが若い衆の中で浮いてるだろうなぁって心配になったのよ」
 そう言われてヴァーシュは、ため息とともに視線を煌々と照り付ける満月に視線をやった。
「あんただけだからね、姉妹いないの・・・」
「わかりますか?」
「そりゃね、伊達に年くってないわよ」
 クリシュナも月に視線を移すと言葉をつづけた。
「こうなることはわかっていたけど、だからと言ってアンタを特別視する気もないし、慰める気にもならない。だって、私たちはそれでも家族だもの」
「伯母様・・・」
「あの子たちは姉妹がいる、それでもバラバラになって暮らしてるもの、たまには一緒にすごすことも大事だわ。私たち姉妹だって、パルティナがリンクにお世話になっていても、ルシアが居候決め込んでいるのも家族だからだし、あんたが寂しい気持ちになるのは私たちではわからないし何も言えない。一人っ子の気持ちなんて私にはわからない。でも家族の一員が悩んでるのを見過ごすことはできない。こんなでも保護者だからね」
 そう言ってクリシュナはヴァーシュの顔を見てにこっと笑った。
「まぁネリスとルアにたまには姉妹だってことを実感させたかったのも本音よ。じゃ、私は寝るわ」
「おやすみなさい、伯母様」
 腰をあげたクリシュナに言葉を返すと、クリシュナはヴァーシュの頭をポンポンと優しくたたいてそのまま部屋に戻って行った。
「家族か・・・」
 クリシュナの気配が消えたころ合いでヴァーシュはまた月に視線を移した。
「ヴァーシュ、ここにいたのね。探したわ」
 廊下に現れたのはル・アージュだった。
「起きたらいなかったんだもん、心配するじゃない!」
「寝付けなくてね・・・、ルアこそ、リーナと寝てたんじゃないの? いいの? 起きて」
「何言ってんの、今生の別れになるわけでもないし、家族が突然消えたら心配するのが当然でしょ?」
 ルアの言葉を聞いて、ヴァーシュの瞳に涙が浮かんだ。
「どうしたの? どっか痛むの?」
「何でもない。ちょっとうれしくて・・・」
 涙を浮かべながらもヴァーシュは微笑んだ。
「ルア」
「・・・?」
「家族っていいね」
 ヴァーシュは涙をふいて気丈に明るく振舞った。

 そして夜は静かに過ぎていくのだった。
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  by lywdee | 2016-10-18 16:12 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage195

 初秋を迎えたプロンテラ。女所帯の面々も衣替えを終え、賑わいの中ちょっと遅い昼食を囲んでいた。
「・・・で、ルア、強化された魔導剣の調子はどうなの?」
 パンを食べながらクリシュナはル・アージュに問うた。
「そうねぇ・・・、ASの威力も上がってるし、エンチャントブレードの効果も上がってる。いい感じじゃないかな?」
 スープを口にしてル・アージュは答えた。
「個人的にはもうちょっと威力上げたいな。・・・て言うのが本音かな?」
「まだ伸びしろあるという事か」
 最近になって、マラン島でのエンチャントが高確率で強化されると聞いて、ル・アージュは二本の魔導剣を強化したのだ。
 マランエンチャント自体はお金もかからないし、効果はランダムだがアイテムさえあれば何回でも挑戦できる。納得いくまでエンチャントしてれば40M位はかかるのが欠点ではあるが、ル・アージュにしてみればお金もかけず、狩りにも行かなくても強くなれるエンチャントで魔導剣を強化したのだ。
「ほんとはヴァーシュの槍も強化したかったんだけど、まだ型が決まってない以上何をエンチャントしたらいいのかわからないしねぇ」
 クリシュナは紅茶を飲み干し、不意に立ち上がってヴァーシュの肩を叩いた。
「私のは・・・、伯母さんが言う金策が終わってからでいいですよ」
「そう言ってくれると助かるわ。時にヴァーシュ」
「はい?」
「最近パトロールだけだけど、狩りに行きたくはないの?」
 不意の質問だった。
 ヴァーシュは食事の手をとめ、天井を見つめ何か考え始めた。
「今は・・・、無理して狩りに出かけるという気にはなれませんね」
「そう・・・、ならいいんだけどね」
 クリシュナはヴァーシュの答えを聞いて自室に戻っていった。
「ごちそうさま」
 食事の終わったル・アージュは、傍らに置いていた魔導剣(風&土)を手に取り出かけて行った。日課のラヘルへ行くためだ。
 相変わらずのカード金策だが、毎日のようにラヘルへ通うル・アージュなのだが最近疲れ気味である。その辺はヴァーシュも心配している事案でもある。
「あら、ルアも出かけたか・・・。私も頑張らないとな」
 支度の終えたクリシュナが食卓を見回した後、ヴァーシュの顔をみて何かを察した。
「今度、家族全員で温泉にでも行きたいねぇ。狩りのことなんか忘れてさ」
「いいの? 伯母さん」
 ネリスがクリシュナに問いかけた。
「それぐらいのお金はあるでしょ。ルアみたいに根詰めて狩りしたって疲れるだけでしょ? たまには狩りの事も金策の事も忘れてパァっと羽伸ばさなきゃ」
「伯母さんが言うならそれでもいいけど・・・」
「とりあえず私も神殿行ってくるわ。ルシア! 文献ばっかあさってないで、体休める温泉宿でも探しといてよね!」
「はいはい」
 気のない返事のルシアを横目に、クリシュナは出かけていくのであった。

「そんなことがあったのか・・・」
 プロンテラの上空を舞うグリフォンの上で、リューディーはヴァーシュの話を聞いていた。
「ル・アージュはまじめだからな」
「それが心配なのですわ」
「なら丁度朗報があるぞ」
「?」
 リューディーとヴァーシュはグリフォンをプロンテラ中央の噴水まで降ろした。
「近々騎士団が本職のパトロールに戻るらしい。私たちロイヤルガードも下旬にはまとまった休みがもらえるそうだ」
「本当ですか?」
「ああ、リンク隊長の話だから信用できるだろう」
 噴水の冷たい水を飲んでる自身のグリフォンに寄りかかりヴァーシュの顔を見るリューディー。
 彼にしてみれば、毎回報告書を書かなきゃいけないパトロールは頭の痛い問題であったが、騎士団がプロンテラの警備に戻ると聞いて機嫌がいいようだ。
 ここ数日のプロンテラのパトロールは、ロイヤルガードの遊撃部隊が中心となって警備していたのだが、本職の騎士団が戻るという朗報は彼にしてみれば救いの手なのかもしれない。

 そしてプロンテラの南側に住んでるリンクの家。つまりネリスの実家では・・・。
「温泉ですか?」
 不意の来客の言葉に意表を突かれたリンク。
「姉さんのいつもの悪い癖よ。どうせならアンタたちも誘おうかな? っていうのは私の考えだけどね」
「ルシア姉さんがねぇ・・・。クリシュナ姉さんならそんなこと言うのも珍しくはないが・・・」
 リンク宅の居間でくつろぐルシア。対面に座るリンクとパルティナは困惑顔だ。
「ルシア伯母さん久しぶりー!」
 ソファーに座るルシアの首元に抱き着くギロチンクロス。ネイだ。
「何、ネイ。乳揉まれたいの?」
「それは遠慮しとく。ネリスは?」
「あぁ、あの子なら姉さんが集めたスタッフオブピアーシングの投げ売りでもやってるんじゃない?」
「なーんだ。残念」
 ルシアから離れるネイ。そのままソファーの背もたれを飛び越えルシアの横に腰を下ろした。
「・・・で、父さん何の話?」
「クリシュナ姉さんの悪い癖の話だ」
「何? 温泉にでも行きたいー! って話?」
「察しがいいな、お前は・・・」
 へへへ・・・と照れ笑いを浮かべるネイ。
「でも姉様。アレス兄様に声をかけなくていいのですか?」
「いいのよ。どうせ兄さんの事だから、姉さん主催と言えばついてこないし、ルアの為の湯治なんだから気分害しちゃかわいそうでしょ」
 紅茶を飲みながらルシアはいたって冷静に答えた。
「まぁ、リーナぐらいなら誘うけどね」
「兄さんは、子供のころからクリシュナ姉さん苦手にしてるからなぁ」
 リンクも兄の性格を知ってるだけに、苦笑いで答えるしかなかった。
「・・・で、合計何人になるんですか?」
「そうねぇ・・・。フレアも行かないと言うだろうし、私にクリシュナ姉さん、ルアにヴァーシュにネリス。あんたとパルティナ、ネイ。それにリーナか・・・。9人ってとこか」
「私も強制ですか?」
「あんたは別にきても来なくてもいいわよ。どうせ女だらけだし、気を使わせるのもなんだからね」
「では私と妻は留守番ってことで・・・」
「じゃあ8人か。パルティナ、あんたいい温泉宿知らない?」
「私の湯治先ですか? アマツならよく行きますが・・・」
「じゃあそこでいいから、ポタ取っといてね。スケジュールが決まったらまた来る」
 矢継ぎ早の会話が終わるとルシアは立ち上がる。
「気乗りしないが、リーナ誘うのに兄さんとこ行ってくるかぁ」
 軽く背伸びをしたルシアがリンク宅を出て行った。

 そして夕方。

「姉さん、女8人話はつけたわよ」
「ご苦労さん。ヴァーシュも下旬にはスケジュールあくし、ルアには休暇届け出させるから、予約とってきてね」
「私が行くの?」
「ほかに暇な人いるか?」
「はいはい、パルティナの湯治先だからアマツの宿に予約入れてくるわ・・・」
 頭をかくルシアがため息混じりに返事をした。
(主催者動かず、私が幹事になるのか・・・)
 はたして、ルシアの苦労は報われるのだろうか・・・。
 それは誰にもわからぬことだった。
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  by lywdee | 2016-09-13 10:33 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(194)

 真夏の日差しが眩しいプロンテラ。クリシュナはプロンテラ南の広場で交流のある冒険者と語り合っていた。というか、愚痴をこぼしていた。
 クリシュナが愚痴ることは珍しいと、冒険者仲間はねぎらいの言葉をかけてくれた。
 そのついでではないが、「インバースも集めてる」の言葉に、久しぶりにプロ南にきていたギロチンクロスの一人が、「これあげるよ」と大量のインバーススケイルを譲ってくれたのだ。
「なんか悪いわねぇ」
「いやいや、SEする気ないし、しばらくこれないから・・・」
(こいつは穴開けてセラフィーのもとにもっていって過剰してもらうか・・・)
 クリシュナは当初の目的、閃光の爪10個(集まってからの)SEをひとまず置いといて、確率のいいインバースの穴あけをセラフィーと相談しようかと思った。
(ひとまず伊豆行きながらMH回ってみるか・・・)
 クリシュナにはある種の勘が働いていた。それは、以前セラフィーがやっていたギャンブル。突撃隊の広場にいるSE兄弟による高確率のSE。プロンテラ内でやっているSEと比べてもはるかに上回る成功率で、インバーススケイルを過剰するといったギャンブルだったが、今はさらにマラン島でやっているマランエンチャントのレパートリーにインバースが加わったために7段階過剰のインバースが高騰しているという情報もある。それに付け加え突撃隊の広場でSEを行えば、材料だけでお金は取られないという豪華さ。もちろん突撃隊に参加しなければいけないという負担もあるが、閃光の爪集めに比べればそれほどでもない。
 ここはいっそ、閃光の爪が集まるより早いだろうという計算がクリシュナにはあった。

「なるほどねぇ」
 昼時を迎えた男所帯でセラフィーはクリシュナからいきさつを聞いた。
「確かに今は7段階過剰したインバースは20Mで売買されてるね。あとはマランエンチャント次第だが・・・、閃光の爪が集まるよりかは早い段階でインバースの穴あけできそうだ」
「でしょ? 閃光の爪はなんとか5個集まったけど、心もとないからとりあえず10個溜めてからSEしてみる」
 クリシュナもセラフィーと今後の相談がまとまってきたところで男所帯を後にした。

「・・・と言うわけなのよ。ネリス、安めのオリデオコン見つけたら少しキープしといてくれない?」
「それはいいけど、何個ぐらいが目安?」
「そうねぇ、以前のインバースの過剰の時は40個ぐらい使ったって聞いたから、そのあたりかな?」
「わかった。できるだけ露店チェックの回数増やしとく」
 クリシュナのかいつまんだ情報をもとに、ネリスはお財布の確認を始めた。もともと閃光の爪が集まった後のことでオリデオコンは買わないといけないことをネリスは知っている。もちろん成否にかかわらずオリデオコンは余裕をもって用意したい。ネリス自体も覚悟してた範疇だし、狙いが変わったところで同じLv4武器の過剰だ。1個でも成功すれば条件次第で利益は出る。その分露店街でのオリデオコンの相場が荒れてることも知ってる。ここはネリスの出番である。
「・・・で、クリシュナ伯母さんは突撃隊に参加するのね」
「週二回だからね。忘れてなければ行ってくるさね」
 クリシュナの金策に降って沸いた大量のインバース。狙いが変わったからと言っても結局はセラフィーの腕の見せ所な分、ネリスは出資的にサポートに回らざるをえないのだった。
 まぁネリス的には、インバースの過剰が成功することを祈るしかない。が、それと同時にブラディウムも余分に集めて、閃光の爪のSEがすぐできるようにしないともいけないことを感じていた。
「時に姉さん。閃光の爪の集まり具合は?」
「んー、それなんだけど。今のところ墨汁1K個以上で閃光の爪1個って感じだしなぁ」
「まぁフルボッコ喰らわないことを祈るわ」
 居間で紅茶を飲むルシアは視線も変えずに文献を読み漁っていた。
「なぁに、だんだん慣れてきたから、そうそう危ない橋を渡るような狩りはしてないわよ」
「だったらいいんだけど・・・」
 ルシアは読みかけの文献に栞を立ておもむろに立ち上がった。
「あら珍しい、出かけるの?」
「ちょっとパルティナと病院に行ってくるわ」
「なんしに?」
「パルティナの病状がどんなものか知りたいし、妹の顔も見ておきたいからね」
 そう言ってルシアは女所帯を出て行った。

 ところ変わって男所帯では・・・。

「シル・クス。頼みがある」
「なんだ?」
 男所帯に久しぶりに帰ってきたシル・クスを捕まえるセラフィー。
「伊豆の海底神殿に行ってできれば閃光の爪を出すなり盗むなりしてほしいんだが。頼めるかい?」
「装備次第だな」
「その点は俺がなんとか調達する。いけるか?」
「いきさつまでは聞かないが。装備を揃えてくれれば、ASSにつてはある」
 淡々としゃべるシル・クスに、セラフィーはクリスナーガを手渡す。
「対水属性仕様か・・・。あとはアンフロ風服でも用意してくれればいけるな」
「わかった、近日中に用意しとく」
「金策か・・・。期待しないでくれよな」
「わかってるって・・・」
「じゃあクローンスキルのつてを当たってみる」
「いってらっしゃーい」
 帰ってきたばかりのシル・クスを、またでかけさせるセラフィー。ちょっと鬼のような扱いだとシル・クスはため息一つつくのだった。
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  by lywdee | 2016-08-16 15:05 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(193)

 初夏を超え夏の日差しに変わりつつあるプロンテラ。女所帯の面々も暑さにやられている者、そうでない者、めいめい好きな事をやったり狩りの準備に追われたりしていた。
「クリシュナ伯母さーん・・・、スタッフオブピアーシング集めてどうすんの?」
 カプラ倉庫から帰ってきたネリスが、狩りの準備をしているクリシュナに問いただす。
「別に好きでSOP集めてるわけじゃないわよ」
 ぶっきらぼうに答えるクリシュナ。心なしか元気がない。
「伊豆神殿で狩りしてたら、目的のモノよりSOPの方ばっかり出ちゃうのよ」
「セドラ多いもんね、あそこ・・・」
 居間のソファーで文献をあさっているルシアが、視線も変えずつぶやく。
「ルシアの言う通り、ルアフじゃ狩りきついけど、セラフィーのとこからサイトクリップ借りてるから、ボス級さえ相手にしなければドフレに集中できるんだけど、セドラ多いからすぐ囲まれちゃうわ」
 クリシュナのため息がでるのはそこである。
 現在金策の狩りをしているのは二人、クリシュナとル・アージュである。もっとも、ル・アージュは堅実(?)にラヘルの氷Dでウアcを狙っている。クリシュナはと言うと伊豆海底神殿での閃光の爪集めと言うギャンブルチックな狩りなのである。
 ドフレが落とす閃光の爪が狙いなのだが、ハイディングして近づいてくるセドラの処理が大変で、しかもドフレは盗蟲と同じでアイテムかっさらっていくわ叩けばわらわらと群がってくるわで、狩りとしては難航中。むしろセドラの方が多く倒してるようなありさまだ。クリシュナの苦労は尽きない。
「ネリス、暇なら倉庫の不良在庫と一緒にSOP売っといて。値段は任せるから」
「はーい」
「じゃあ行ってくる」
 そうしてクリシュナは今日もイズルードに向かうのだった。
「ねぇ、ルシア伯母さん」
「なぁに?」
「なんでクリシュナ伯母さんルアフあるのにサイトクリップ使ってるの?」
 素朴な疑問をぶつけられたルシアは、ネリスを手招きし、ソファーに座らせる。
「あそこね、ルアフだと余計なものまで倒さなきゃならないのよ」
「余計なもの?」
「そ、スロフォっていう電気ウナギがね、ルアフだとダメ与えていぶりだしちゃうのよ」
「サイトだと?」
「いぶりだすけどダメは与えない。だから倒さなくても済むのよ」
「ふーん」
「いくら姉さんが強くても、5匹も6匹も抱えてなんていられないわ」
 紅茶を口にしながらルシアは話をつづけた。
「せっかくのアンフロ風服でも、スロフォにはユピテルサンダーあるし、喰らってたら効率なんて悪すぎるわ。だからサイトクリップなのよ」
「いぶりだしても大丈夫なの? 襲われない?」
「その点は大丈夫。スロフォはね、一定以上の強さを持ってる相手には攻撃してこないから」
「へー」
 ルシアの講義(?)が終わるとネリスは出かけて行った。もちろん、不良在庫とSOPの処分に露店を開くためだ。
 ネリスとしても、倉庫の不良在庫の他に日に日に溜まっていく墨汁も何とかしたかった。
 クリシュナはドロップ運を維持するのにだいたいのドロップ品は拾ってくる。ましてやセドラもドフレも墨汁を落とすので、自然と倉庫に墨汁が溜まっていく。こちらはある程度溜まったら売却しているので問題はない。むしろSOPの方が、高値で売れない、過剰しても元を取れないので困りものではある。
 ネリスが出かけた後、女所帯では「寝過ごしたー!」とル・アージュの悲鳴にも似た叫び声が響いた。
「今頃起きたか・・・」
 ルシアはため息一つついて紅茶を飲み干した。
「ルシア叔母さん! ラヘル行ってくるー!」
「はいはい。気を付けてね」
 ルーンナイトの鎧をまといながらル・アージュは、ラヘルでもらった指輪でラヘルへと飛んで行った。
「あわただしい事ねぇ」
 ルシアはようやく静かになったかと胸をなでおろした。

 その頃イズルード海底神殿では・・・。

「相変わらずセドラが多い・・・」
 クリシュナがサイトをたきながらセドラと交戦していた。
「私はドフレを倒したいの!」
 文句を言いながらセドラの処理をするクリシュナ。ルアフからサイトクリップに変えたことでよけいなMOBには襲われることはないが、それでも狩りが進んでるわけではなかった。
 神殿ではアンフロ風服のおかげか、フロストダイバーを喰らっても凍結することもないし、スロフォにも襲われない。むしろ数的にはセドラの方が多いし、サイトをたいてからじゃないとドフレと戦ってる最中にセドラが姿を消して近づいてくることの方が多い。
 結果としてセドラ狩りしてるんじゃないかと言うほど倒してる。
 クリシュナが狙う閃光の爪、需要があるうちに金策対象として狙ってるのだが今のところ出たのは1個だけ。セラフィーも過剰するなら5個は欲しいと言うし、SE成功率でも10個はほしいなとクリシュナは考えてるのだった。
 とりわけ難易度の高い狩場だけあって、クリシュナの狩りは1時間もてばいい方と割り切ってる。むしろ軍資金があるうちに出したいのが本音。
 そのクリシュナのテンションを下げるのが1日一本はでるSOP、+10過剰ならいい値が付くもののセラフィーには頭の痛い代物だと煙たがられている。
「ルシア連れてきて付与かけてほしいぐらいだわ」
 セドラを倒すたびに漏れる愚痴。ドフレも注意しなければならない。何故なら、周囲を注意しなければ文字通りタコ殴りにあうからだ。無詠唱ハイディングには困ってるぐらいだ。
「サイトじゃないと私でも無理だわ」
 実質この狩場で狩ってるのはセドラとドフレだけ。ルシアが言うには閃光の爪のドロップ率はカード並みぐらいだと言われてる。
 苦しい狩りだからこそ得られる軍資金は高い。スロットエンチャントした閃光の爪でも高値で売れるくらいだ。過剰すればそれこそ当分の生活費は保証される。クリシュナの腕の見せどころでもある。
「はぁ、1時間ぐらい経ったかな? 今日の収穫もSOP1本かぁ・・・。帰ろう」
 荷物袋を抱えてクリシュナはプロンテラへと帰っていった。

 テンションが上がらないまま、クリシュナはカプラ倉庫に寄って戦利品を預けると女所帯へと帰っていった。
「ただいまー」
「姉さんおかえり。調子は・・・聞くほどでもないか、お疲れ」
「ちょっと寝かせて・・・」
 クリシュナはそう言って自室へと向かっていった。
「たーだーいーまー・・・」
 次に帰ってきたのはル・アージュだった。こちらも戦果は上がってないようだ。何も言わず自室へと帰っていく。
「フレアー、早めに風呂準備してあげたら? 私の紅茶はしばらく心配いらないから」
「かしこまりました、ルシア様」
 そう言ってフレアはエプロンを外し、家の裏の風呂釜に向かっていった。
(30分経ったら起こしてやるか・・・)
 居間の鳩時計をみてルシアはそう思うのだった。
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  by lywdee | 2016-07-12 10:24 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(192)

 梅雨開けしたプロンテラ。季節の変わり目を迎えるように日差しが暑い今日この頃。
 クリシュナは次の金策を兼ねて、ネリスを引き連れ鍛冶屋街のセラフィーを訪ねていた。
「・・・というわけで、軍資金があるうちに閃光の爪を集めてみたのさね」
 クリシュナ曰く、若cウアcの露店普及率が上がっているので、軍資金があるうちに次の金策に走ってみた。・・・というわけなのである。
「スロットエンチャントはしたけど、3つじゃ過剰厳しいかい?」
「ん~、どうでしょ? 挑戦するのはいいですが、このまま売っても大丈夫なんじゃ?」
「問題はそこなのよ。s3閃光の爪が3個でしょ、このまま売ったら多分±0だと思うのよ?」
 クリシュナはいぶかしんだ眼差しで出来上がった閃光の爪を見る。
 相場ではSE成功しただけで25Mはする。しかも3つなら元手は取れなくもない。その辺はネリスとセラフィーが頭を抱えてる。
 汎用性と需要を考えれば閃光の爪は爪の中では最強と言ってもいい。しかもLv4武器でスロット3つともなれば、+7まで過剰すれば80Mを超える。それでも需要が減らないところを見ると安いくらいだとクリシュナは思ってる。
 事実、今クリシュナが使ってる閃光の爪は+7まで過剰されてるがs2でも問題ないくらいだ。もっとも、金策に走りながら普通の狩りもできるから、彼女にしてみればなんの問題もない。
 ただ、需要を考えるにあたって、s3にもなればボス狩りにも使えるし、爪の可能性を引き上げてるからなんとしても+7にしたいのがクリシュナの考えである。
「まぁ3つもあれば+7の1個ぐらいはできると思いますが、そうなるとせいぜい5Mのプラスになるくらいですね。ネリスはどう思ってんのよ?」
「私ですか? 私は売り専門なのであんまり高望みはしてないよ」
 セラフィーの質問に紅茶を飲みながら答えるネリス。できれば高額で売りたいが、その辺のリスクは承知している。彼女はセラフィーと違って薄利多売派だからだ。
 クリシュナもその辺は理解しているが、なるべくならリスクと天秤に乗せても高値で売りたい。
「まぁ急ぎじゃないならもう少し余裕をみましょう。まだs2の閃光の爪が出ないとも限りませんからね」
 その場を整えたいらしいセラフィーがクリシュナにそう提案した。
 確かに、この1か月余りで閃光の爪が結構並んでた事実を知ってるセラフィーはリスクを少しでも下げたいらしい。
「セラフィーが言うのなら、私たちも少し待ってみるわ。また市場に出ないとも限らないしね」
 そう言ってクリシュナは紅茶を口にするのであった。

 その頃女所帯では・・・。

「ほんとーにパルティナはお人よしだねぇ・・・」
 クリシュナ不在の女所帯の居間に、クリシュナ兄弟の末妹「パルティナ」が来ていた。
「兄様にも言われましたが、たまには家族水入らずで買い物させてあげたいのですよ」
 紅茶を口にしながらルシアとパルティナは面と向かい合っていた。
「でもネリスはどうすんのかねぇ?」
「後で合流するらしいですわ。コホっコホっ・・・」
 軽くせき込むパルティナ。その姿を見てルシアがため息ひとつつく。
「まぁ、あんたの行ってる病院なら、リンクの家の次に近いのここだからねぇ」
「ご迷惑でしたか?」
「いんや、うちの方が女だらけだし、気は使わなくてもいいからねぇ。姉さんも喜ぶでしょ」
 軽く微笑んで紅茶を口にするルシア。
「それにしても、あんたが母さんと同じ退魔ABになるとはねぇ・・・」
「意外ですか?」
「いや、あの親にしてこの娘ありか程度よ。フレアー! 終わった?」
 ルシアが声をかけた先、食堂ではル・アージュがフレアに髪を切ってもらっていた。
「ル・アージュ様、どうでしょうか?」
 手鏡を二つ使い、ル・アージュは髪型を気にしていた。
「んー、これくらいでいいかな」
「では片付けさせていただきます」
 ほうきで床に散らばったル・アージュの髪を集めるフレア。
 ル・アージュは首に巻いていたシーツを取ると、おもむろに居間にやってきた。
「ルア、スッキリしたわね」
「エヘヘ、だいぶ伸びてたからね。ヴァーシュみたいに長くできないけど、この髪型も気にいってるのよねぇ」
「紅茶のおかわりをお持ちいたしました」
 食堂の片づけが終わったフレアが居間の3人に紅茶のおかわりを注ぎにきた。
 それとほぼ同時に、女所帯のドアが開いた。
「ただいまー。フレア、今日の昼ごはんは何?」
 帰ってきたのはクリシュナだった。
「姉さん、ネリスは?」
「ん? あの子ならリンクたちと昼ごはん食べに行ったわよ」
「姉様、お邪魔してます」
「いらっしゃい。何もないけどくつろいでいなさいな」
「いーなー、ネリスは・・・。リンク叔父さん優しいからなぁ」
 居間のテーブルに突っ伏すル・アージュ。
「ル・アージュ。アレス兄様も優しいわよ」
「冗談! 親父が優しいのはリーナ姉の前だけだよ! 私なんか・・・」
「はいはい」
 ル・アージュの言葉に軽く微笑むパルティナ。それを前にルシアが苦笑いしていた。
 クリシュナもハハハと気の抜けた笑い声を出し居間のソファーに腰を下ろした。
「姉さんどうだったの? 話はまとまった?」
 ルシアがクリシュナに問いただすと、クリシュナは黙って目を閉じ首を横に振った。
「ありゃ・・・? セラフィーと意見が合わなかったか・・・」
「まぁね、今はリスクの方が大きいから、しばらく様子見するって・・・」
「だよねー。インバースと違って元値が違いすぎるしね」
 ルシアはそう言って紅茶を飲み干す。
「まぁ軍資金がある今なら、別に失敗しても取り戻せるから、強く出てもよかったのかしらね」
 ため息ひとつこぼしたクリシュナも、ルシア同様紅茶を飲み干す。
「ところでヴァーシュは? あの子非番じゃなかったの?」
「あぁ、ヴァーシュならプロンテラ城よ。なんでも騎士団との会議らしいわね」
「・・・で、ルアは呼ばれなかったの?」
「私? 昼過ぎから会合があるって伝令がきたわ」
「ふーん」
「お昼御飯ができました。皆さま食堂へどうぞ」
 フレアの言葉に、居間の4人は食堂へと向かった。
 お昼ご飯は薬膳スープとサンドイッチだった。パルティナの体調を考慮した軽めのラインナップである。
 クリシュナ家としては静かな昼食となったが、ル・アージュはまじまじとパルティナの顔を見ていた。
「ル・アージュ、どうしたの? 私の顔に何か?」
「いや、パルティナ叔母さん綺麗だなぁって」
「お世辞でもうれしいわ」
「パルティナは母さん似だからね」
 サンドイッチを食べながらクリシュナがそう言った。
「私たちは父親似だって母さん言ってたものね」
 ルシアもスープを口にしながらクリシュナの顔を見る。
「まぁそう言っちゃうと姉さんも母さん似だよね」
「そうらしいわね」
 クリシュナはルシアの言葉を聞き流しつつサンドイッチを食べている。
 
 そうこうして夕方になる。

 クリシュナ宅にリンク親子が訪れた。
「姉さんすいません。パルティナを預かってもらって・・・」
「何言ってるのさね。姉妹なら当たり前でしょ」
「パルティナ、帰るぞ」
「はい」
 パルティナはクリシュナに抱き着くと、「ありがとう姉様」と言葉を残しワープポータルを開いた。
「ネイ姉、またね!」
「あんたもね。今度は二人でどっか行こうか」
「うん!」
 こうして女所帯からリンク親子が飛んでいった。
「パルティナも気晴らしにはなったのかな?」
「どうだろうねぇ・・・。思った事口にしない子だから・・・」
 どこか寂しげな面持ちのクリシュナに、ルシアはそれ以上口にしなかった。
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  by lywdee | 2016-06-21 12:23 | Eternal Mirage | Comments(0)

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