カテゴリ:Eternal Mirage( 210 )

 

Eternal Mirage(206)

 季節は夏から秋へ、ゆっくりと変わりつつある今日この頃、女所帯の面々はそれぞれの思いにはせていた。
 中でもル・アージュは、朝からルシアに出された課題に取り組んでいた。

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「難しー」
 ソファーに座り魔導書を見ていたル・アージュ。対面にいたルシアは出かけている。
「ル・アージュ様、紅茶のおかわりをお持ちいたしました」
「ありがと、フレアさん」
 紅茶を口にしながらも課題である魔導書を自分なりに理解しようとする。
 魔力の上昇。それはル・アージュにとっても重要な課題である。
 純粋な魔力の上昇、それは物理的にもオートスペル的にも重要だからだ。ましてやル・アージュは父親と違って力はそれほど高くない。唯一上回ってるのは魔力ぐらい。
 それはエンチャントブレードにも効果のある資質。物理攻撃に端を発し、オートスペルで追撃する。今のル・アージュは完全に父との相反する攻撃スタイルになっていた。
「難しーよー・・・」
「それでも読めるだけ偉いわよ」
 ル・アージュの勉強姿に素直に褒めるクリシュナ。クリシュナはル・アージュの背中越しに魔導書を見てみる。
「ダメだ・・・、ぜんぜんわかんない」
「今日の課題、わかるところはわかるんだけどね。肝心な部分が難しくて・・・」
「ルシアはどこ行ったんだか・・・? 仕方のない妹だわ。ルア、私の部屋入ってルシアの本棚から参考になる物でも探したら?」
「そうさせてもらいます」
 ル・アージュは立ち上がってそのままクリシュナの部屋に向かってく。

 クリシュナの部屋はルシアと兼用なので割と広い。その中でびっしりと詰まった本棚に対峙するル・アージュ。

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「参考書は・・・っと」
 本棚には魔導書、文献、動物学などが詰まっている。
「あ、これだ! 魔力の流れ、武器に込める魔力編。これでいいはずだわ」
 棚から1冊の本を取り出すと、コンコンっとドアを叩く音がした。
「ルシア叔母さんならいないよー」
「そうですか」

 ガチャ

「失礼します」
「フレアさんどうしたの?」
 ドアをあけて入ってきたのはフレアだった。その腕には新しいシーツを抱えている。
「シーツの取り換えに参りました」
「私は出てくから空けといたままでいいよ」
 そう言ってル・アージュはクリシュナの部屋を後にした。

 居間に戻るとクリシュナの姿がない。ル・アージュはまた迷宮の森にでも行ったものだと判断する。
 ソファーに座り、参考書片手に課題の魔導書を読み始める。
 魔力の流れ、オートスペルの構築と発動。ぼんやりとしか理解してなかった課題の魔導書の中身が参考書とともに読み進めるうちに少しずつ理解していく。
 時には魔道剣片手に意識を集中したり、簡易的なエンチャントブレード試したりと無口になっていく。
 今現在のル・アージュの戦闘スタイルは、オーラブレード+コンセントレイション+エンチャントブレードで物理攻撃を強化、ツーハンドクイッケンで手数を増やし、魔道剣と悪霊糸でのオートスペルによる追撃がメインの戦い方だ。無論魔力は高まっているのでエンチャントブレードの攻撃力強化もバカにはならない。
 回復剤も用意してればバリオフォレストのブギスギス相手でも遜色ない戦い方を見せる。その上予備として持たされたブリューナクの効果でヒールの回復量も、クリシュナ、ヴァーシュのように極めた二人のそれに匹敵する。あとは素早さを上げれば回避率も高くなり、ソロでの戦闘でも困らない実力が証明している。

 ガチャ

「ただいまー」
「おかえり、ルシア叔母さん」
「お、だいぶ読み進めたみたいね?」
 ル・アージュの呼んでる魔導書のページ数を覗き込むように腰を曲げるルシア。
「それが読めるってことは、あんたもオートスペル型セージの上をいってるわよ」
「それって誉め言葉?」
「そうよー。セージの使うオートスペルはだいたいLv3クラスのボルトの威力。だけどあんたは魔道剣の効果でLv5クラスのボルト系ダメージ与えられるからねぇ」
 ルシアが対面のソファーに腰を下ろすと、タイミングよくフレアが紅茶を用意して持ってきた。
「あーーーーーーーーーーーー! やっと読み切れたー」
「はいおしまい。あとは少しでも実践して魔力上げてね」
「はーい・・・」
 気のない返事を返したル・アージュは、机に突っ伏すとため息ひとつ漏らすのであった。
 そんなとき、玄関から声が響いてきた。

「ル・アージュ殿! ル・アージュ殿は居られませんか?!」

「なんだろ・・・?」
ル・アージュが玄関を開けると、そこには伝令の騎士がいた。
「私に何か?」
「騎士団長からの招集です。騎士団詰め所まで来てください!」
「・・・わかりました」
 ル・アージュはそう言うと厩舎のドラゴンを離し、飛び乗ると急ぎ騎士団詰め所まで走らせた。

「おおー、よくぞ来てくれた!」
「団長、私をご指名されたようですが、何用で?」
「話は長くなるが簡潔に言う。ポートマラヤに向かい、バリオフォレストにて遭難中の1個師団からの伝書鳩で、支援型のアークビショップを伴い救出されたしとの一報を受けた。そこで前回の遠征で成績の良かった貴殿に向かってもらおうということになった」
「それならもう1個師団を出せばよいのでは?」
「それなんだがな、遭難した1個師団には密命があってあまり多くの騎士団を派遣できんのでな、今はポートマラヤに1個師団を送るには時が悪すぎる。そこで冒険者を装い秘密裏に救出してほしいのだ」
「はぁ・・・、それでは・・・」

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「大聖堂詰めのファ・リーナ・フラウディッシュ・シャナを同伴させてください」
「む? それはいいが、支援アークビショップなのだな?」
「はい、姉妹なら怪しまれないと・・・」
「・・・。わかった、すぐにでも呼び出そう。貴殿は準備ができ次第大聖堂まで行ってもらおうか。そこで合流してもらう」
「はい」

「バリオフォレストかぁ・・・、家に帰って火の魔道剣取ってくるか・・・」
 ル・アージュは詰め所を出るとドラゴンにまたがり、一路女所帯を目指した。
「あらおかえり。どっか行ってたの?」
「ちょっと緊急の任務でね、これから出かけるとこ」
 女所帯の帰り道で、ル・アージュはクリシュナと鉢合わせした。
 ル・アージュは一度厩舎にドラゴンをつなぐと、急ぎ家の中に入り自室へと駆け上がった。
 そして部屋の片隅に立てられた2本の魔道剣のうち、柄の赤い魔道剣を手にして腰に携えた。
「じゃあ行ってくる!」
 そう告げるとル・アージュは、また厩舎からドラゴンを連れ出し大聖堂へと走らせた。
 ドラゴンを外につなぎ、ル・アージュは大聖堂の奥へと歩いて行く。厳かな雰囲気に身震いするル・アージュの前に、蒼いロングヘアーのアークビショップが立っていた。
「お姉ちゃん!」
 ル・アージュが声をかけると、アークビショップが振り向いた。
「ルア! あなたが私を指名してくれたの?」
「うん。ちょっと訳ありの任務だし、お姉ちゃんなら支援だから助かるし、他のアークビショップつけられるのは嫌だったから・・・」

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「嬉しかった。ルアに必要とされたから・・・」
「話は聞いてるよね?」
「ええ。お姉ちゃんに任せなさい」
 こうしてファ・リーナと合流したル・アージュは、東門のカプラ職員のサービスでアルベルタへと向かった。

「船で行くの?」
「そ、表向きはあくまで冒険者ってことにしてるからね」
 船着き場までくると二人はポートマラヤ行の船に乗った。時折風に混じって飛んでくる潮風が心地よい。
 二人は船べりに背を当て座った。
「遠征以来ね、ルアと一緒になるのも」
「そうだねー」
「でもいいの? 私なんかより渚先輩の方が冒険者としては上よ?」
「んー。レイさんでもよかったんだけど、私としては気を遣わない分お姉ちゃんのほうが嬉しい」
「ありがと」
 そうしてとりとめのない会話を続けていたら、船はポートマラヤにたどり着くのであった。
 ル・アージュはドラゴンの背にファ・リーナを乗せると、怪しまれない程度に急いで森へと向かって行った。
「遭難場所はわかってるの?」
「伝書鳩には北の海岸沿いにいるって話だったわ。お姉ちゃんサポートよろしくね!」
「うん」
 そうして二人はゆっくりと北上していった。時折現れるモンスターは、支援してもらってるル・アージュによって駆逐されていく。
 ファ・リーナも、渚 レイが教えてくれたダメージをブーストさせるスキルでル・アージュをフォローする。
 ブーストスキル、それはオラティオで聖属性耐性を下げ、アスペルシオでル・アージュの魔道剣に聖属性を付与させ、オーディンの力で攻撃力を更にあげるというもの。それは攻撃重視のル・アージュにしてみればうれしいフォローで、自身のブーストスキル、オーラブレイド+コンセントレイション+エンチャントブレードと、防御を無視したスキルで物理攻撃力を上げることだった。
 ル・アージュにしてみれば、支援があるとわかってる分、多少囲まれてもオートスペルと姉のフォローもあることから、多少無茶しても少々急いで北上していった。
 数分後、二人は北の海岸沿いの岩場に上がっていた。すると、端の方で手を振る騎士団が見えた。
「騎士団からの使者です、大丈夫ですか?」
「ああ、うちのアークビショップがやられたうえに囲まれて負傷した騎士も数人いる。早く手当てを・・・」
「わかりました。お姉ちゃん!」
 ファ・リーナはまず倒れたアークビショップに回復スキルをかけてなんとか動けるようにした。あとは負傷兵を二人のアークビショップがそれぞれ回復させていく。
「密命があると聞いたんですが、任務は続行できますか?」
「回復さえしてくれれば、あとは我々だけで対処できます」
「そうですか。頑張ってください」
 小一時間回復に回っていたファ・リーナも一息ついたのか、肩を落としてため息一つついた。
「お姉ちゃんお疲れ」
「ふぅ、疲れたわ」
 額の汗をぬぐったファ・リーナは立ち上がってル・アージュのドラゴンに背を預けた。
「救援感謝です。あとは我々だけでなんとか任務を完遂できます」
「そうですか。これ、念のため預かった支給物資です。受け取りを・・・」
「ありがとうございます」
「じゃあお姉ちゃん、ポタよろしく」
「はい」
 こうして任務の終えた二人は、ファ・リーナのワープポータルでプロンテラへと帰ってきた。

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「お姉ちゃんが一緒でよかった」
「ルアにそう言ってもらえると、頑張った甲斐があったわ」
 帰り際ル・アージュはファ・リーナの住んでる家の前にいた。
「どうする? お母様に会ってく?」
「いんや、任務の報告もあるし、おやじがいないとしても勘当された身。年始でもないのに帰る気にはなれないわ」
「そっか・・・」
「じゃ、私詰め所に戻らないといけないから。もう行くね」
 一瞬寂しさが顔に現れたが、ル・アージュはファ・リーナに背を向けごまかした。
 そしてル・アージュは騎士団詰め所に戻り報告すると、一人女所帯へと帰るのであった。

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  by lywdee | 2017-09-19 13:00 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(205)

 季節は夏から秋になり始めていく中、女所帯の面々は常夏の観光地「ブラジリス」に来ていた。
 理由は簡単、今年はまだ海に行ってない。ただそれだけだった。
 だが、喜ぶ女所帯の面々の中で、一人だけ仏頂面でやる気のない者が一人いた。

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「伯母さん泳がないの?」
「私は泳げないって言ってるでしょ!」
 そう、自他ともに認める金づち、ルシアだった。
 ネリスの言葉に怒気を見せ、一人波打ち際に一人用エアベッドのようなものを膨らませ、その上にゴロンと横になっていた。
(まったく・・・、何が楽しいのやら・・・)
 不機嫌なまま潮風を頬に受け、ルシアはそのうちうとうとと眠りにつくのであった。

「ヴァーシュ、また胸が大きくなったんじゃない?」
「そ、そうかしら?」
 ル・アージュはヴァーシュの水着姿を見て、自分の胸と比較した。
 ビキニから零れ落ちそうなヴァーシュの胸を見て、ネリスはおもむろにヴァーシュの胸を触らせてもらい今度は自分の胸を触る。すると何故か涙目になって離れるのであった。
「あの子、まだあきらめつかないのか・・・」
 ル・アージュとヴァーシュは、ネリスの後を追い慰めるがネリスは機嫌が悪いのかそっぽを向いて、「羨ましくなんか・・・、ないんだからね!」と強がって見せていた。
「まぁそれは置いといて、みんなでアイス食べに行こ!」
 ル・アージュはネリスの手を引き立たせると、ヴァーシュと3人で中心街まで向かうことにした。
「ねぇルア姉、ルシア伯母さん寝てるけど、ほっといていいの?」
「起こすのも悪いからね、それにクリシュナ伯母さんもいるもの。大丈夫でしょ?」
 こうして若い3人はブラジリスの中心街まで歩いて行くのだった。

 それから数分後、中心街のベンチで腰を下ろし、若い3人は談笑していた。
 そこへ現れたのがクリシュナとフレアの二人がきた。
「あれ、ルシアと一緒じゃなかったのか?」
「へ? ルシア叔母さんなら海岸に・・・」
「え、いなかったわよ? てっきりあんたたちとぶらぶらしてるものだと・・・」
「・・・」
『まさか!?』
 5人ははっとして海岸に急ぐ、しかし波打ち際で寝ているはずのルシアはそこにいなかった。
「伯母さんアレ!?」
 ネリスが海岸に漂うエアベットを見つけた。その上にルシアの姿はない。
 5人は慌てて海に入り、エアベットのある海域に急ぎ泳いだ。

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 ブクブクブク・・・。
「いた! この下よ!」
 ルシアを見つけたクリシュナがヴァーシュとル・アージュを呼び、数分後なんとか波打ち際まで引き上げるのだった。
「ルア、心臓マッサージを。ヴァーシュは腹を押して海水を吐き出させて!」
 クリシュナはル・アージュとヴァーシュに指示を出し、自身はルシアの鼻をつまんで人工呼吸を始めた。
 時折吐き出される海水。結構飲んでるように見えた。
 多分ではあるが、波打ち際で寝ていたルシアは、満ち潮で沖へと流されていったのであろう。

「ひどいじゃない! みんなで私の事忘れるなんて・・・!」
「いやー、満ち潮の事まで考えてなくて・・・」
 クリシュナは申し訳なさそうに笑顔を作るが、ルシアは涙目で背を向け、膝を抱え込んで座っていた。
「ルシア様、替えの下着とソーサラーの服です。お着替えにならないと風邪をひきますわ」
 フレアはルシアに着替えの入ったバックを手渡す。何かあったらと、ルシアは一応着替えを用意していたのだ。
 ルシアは黙ってそれを受け取ると一人着替えに歩いて行くのであった。
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ジャー・・・。

「ひどい目にあった・・・」
 ルシアは着替えを済ませトイレにいた。
 よもや溺れるとは思ってもいなかったのだろう。
「これだから海は嫌いなのよ!」
 一人ブツブツと文句を言いながら更衣室を出ていくのであった。
「おかえり伯母さん」
「ただいま。姉さん、私帰りたい」
 ネリスのお迎えに頭をなでなでするルシア。
 クリシュナ達も着替えを済ませていたので、全員そろってることを確認してワープポータルを出した。

 プロンテラに帰った後もルシアの機嫌は治らなかった。放置されたことがよっぽど腹に据えかねていたのだろう。
「ルシア様、紅茶です」
 居間で文献をあさっているルシアの前のテーブルにフレアは紅茶を置く。
「悪かったって言ってるでしょ? まだ怒ってんの?」
 クリシュナも対面のソファーに腰を下ろしていたが、ルシアはジト目でクリシュナを見つめる。
「本当にそう思ってる?」
 紅茶を飲みながらも、ルシアの機嫌は悪かった。
「私たちも起こすの悪いかなー? って・・・」
「すいません伯母様、まさか流されてるなんて思いもよらなかったもので・・・」
 ル・アージュとヴァーシュもルシアに謝る。
 するとルシアは、やおら立ち上がりネリスのカートに借りてきた文献をすべて乗せた。
「ネリス、図書館に付き合って」
「いいよー」
 こうして二人はプロンテラの中心へと歩いて行った。

「伯母さんまだ怒ってんの?」
「別に・・・」
 表情からはわからなかったが、ネリスはルシアの機嫌がまだ悪いと思った。
 図書館に入ってからは少し機嫌がよくなったのか、ルシアは一人図書館の奥に入っていく。
 ネリスも何回か来ているところなので、カートに積まれた文献や本を受付に返していく。すべて返した後はルシアの後を追って図書館の奥へと向かって行った。

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 ルシアは魔導書などの文献や本を見繕って、時には手に取って呼んだりしながらネリスを待っていた。
「次のルアの課題、何にしよ・・・」
 本に囲まれたことでルシアの機嫌は少し良くなっていた。
「これとこれならルアの魔道剣に力を与えてくれそうね。もうちょいルシアの魔力を上げる課題になればいいんだけどなー」
「伯母さんお待たせ」
「うん」
 ネリスのカートにあれもこれもと本と文献を積むルシア。当然自分の読む物も積んでいる。
「これって、全部ルア姉の課題?」
「私の知的好奇心を満たす物も混じってるけどね」
「ふーん」と積まれた本を開いてみるネリス。だが彼女にしてみれば何書いてあるのか全然わからないものばかりであった。
「これってルア姉読めるの?」
「そうよ。あんたも勉強する?」
「遠慮しときます」
 ネリスの言葉に「ふふふ」と笑うルシア。本に囲まれたことで機嫌がよくなっているようだ。
 そうして数分後、カートに積まれた魔導書なりの本と文献を受付で確認してもらうと、ルシアはネリスのワープポータルで女所帯へと帰っていくのであった。

 夏は終わりを告げ始めるのであった。

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  by lywdee | 2017-09-12 13:08 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(204)

 聖カピトリーナ修道院での慰霊祭の中、クリシュナとその弟子、カー・リーは沈みゆく太陽に照らされながら、他の参加者とともに灯篭を作っていた。
 カー・リーは隣で灯篭を作る師、クリシュナの憂いに満ちた顔を眺めながら朝に言っていた最初の弟子の墓でのセリフが耳について離れなかった。
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「もう弟子は取らない」
 
 師の過去を知ることになったカー・リーは、クリシュナの自分に対する態度が最初の弟子と重なったのかわからずにいたが、今のクリシュナの顔には弟子を取りたくなかったというクリシュナの言葉が胸に突き刺さっていた。

「無茶する子は嫌いよ」

 あの時言った言葉の意味を知ったからといって、クリシュナを責めることなどできはしない。
 むしろ自分に対する優しさが文句は聞かないという意味では理由が分かったのだが、弟子は自分で最後なのだろうと悟った。
 そして灯篭の中のろうそくに火を灯し、参加者が海へ流していく様はもの悲しさだけを残していく。
「師匠が転生するまで阿修羅覇王拳はいらないと言った意味は分かりました」
「そうね。あんたが最後の弟子なのだから過去の事を話したのよ。ここでの事は他の修羅もだいたい知っているわ。でも私は弟子を取る資格なんてないのよ。無責任だからね」
「そんな事・・・、私は無いと思います!」
「ありがと・・・」
 もの悲しげな顔で笑顔を作るクリシュナ。その顔を見ると、カー・リーもうつむいて視線を離すしかなかった。
「師匠は・・・、私にとっての憧れです。過去は変えられない、でも師匠は私の事を考えてくれました。弟子にもしてくれました。とても無責任だとは思っていません」
「過去は過去、事実は事実よ。あんな思いをするくらいなら弟子は取りたくなかった。あんたといると調子が狂うわ。でもあんたはそんな私についてきた。だからありがとうと言わせて」
「師匠・・・」

 その夜、カー・リーは寝付けずにいた。師の過去を知っても自分にとっては胸を張って「撲殺天使の弟子」を名乗れると思っていた。でもそれは自己満足なのかもしれないと思わずにはいられなかった。
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「師匠にあんな過去があったなんて・・・、ショックだったなぁ・・・」
 ベッドで横になりながら、カー・リーは帰り際のクリシュナの顔が離れなかった。
(撲殺天使の弟子かぁ・・・、みんな同じことを言う理由って師匠の過去を知ってるからなのだろうか?)
 ゴロゴロと寝返りをうつカー・リーは、クリシュナが弟子を取りたくなかったという事実に悶々としていた。
「カー・リー! ご飯よ!」
 カー・リーの母の自分を呼ぶ声が響く。
「わかってる! すぐ行くから!」
 上体を起こすと、カー・リーは両手で左右の頬を叩く。
(私が弟子としてできること。それは師匠を悲しませることはできない・・・って事だわ。卒業と言われても、師匠は私の事をちゃんと弟子として見てくれてる。だったらなおさら無茶はできない。私が、撲殺天使の弟子としてできるのはそれくらいだ)
 カー・リーはベッドから起き上がると、自分の部屋から出て1階に降りていくのだった。

 数日後

 クリシュナは一人迷宮の森に来ていた。当然生活費のためのハンターフライ狩りのためである。
 だが、それは現実から逃げているのではなく、過去を受け入れたうえでの家族を養う家長としての務めでもあった。
 クリシュナは、休憩がてら芝生の上で寝転がると近づいてくる人の気配を感じて起き上がることになった。
「パルティナ・・・? どうしてここに?」
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「姉様ならここにいると思って・・・」
 やわらかな笑みを見せるパルティナがそこにいた。
「姉様なら、一人でいたいときは静かな誰も来ない場所にいるだろうなぁって・・・」
「あんたこそ。ここは退魔アクビがくるとこでもないだろうに」
「えへへ・・・、なんだか姉様に会いたくなって・・・」
 パルティナはクリシュナの隣に腰を下ろす。それを見たクリシュナもまた腰を下ろすのだった。
「あんた、体の調子は?」
「見てのとおりです。姉様たちのおかげですわ」
「そ・・・、ならいいんだけどね」
 涼しげな風が二人の髪を揺らす。
 二人は何を話すわけでもなく、静かな時間を共に過ごす。
「相談事でもあるの?」
 沈黙に耐えかねたクリシュナが切り出す。
「わかっちゃいましたか?」
「あんたは昔から相談事があると、きまって私ら兄弟のそばで黙って遠くを見るからね。何年姉妹やってると思ってるのよ」
「ははは・・・」
「あんたは隠し事向きじゃない性格してるからね」
「そうですね・・・」
 パルティナはクリシュナの言うように遠くを見つめて黙っている。
 クリシュナも黙って妹からの言葉を待っていた。
「姉様、私、姉様の胸の苦しみを取り除いて差し上げたいのです」
「はぁ?」
 妹からの突飛な台詞にクリシュナは自分の耳を疑った。
「姉様もなんでも胸の内に秘めて、私達兄弟にも何も言ってくれないじゃないですか」
「そんなつもりは・・・」
「長女だからですか? それとも私達じゃ相談相手にもなりませんか?」
「・・・」
 パルティナからの視線を外すクリシュナ。
「私思うんです。姉様には幸せになってもらいたいと・・・」
「私は・・・、今のままでも幸せよ?」
「ウソ。ではいつまで過去の事を気に病まれるのですか?」
「それは・・・、私が無責任だったからよ。弟子の暴走を止められなかったのは私の責任だもの・・・」
「そうですね。だからっていつまでそのまま踏みとどまるのですか?」
「私にどうすれと?」
「もっと私たちに頼ってください! 力量不足ですが、一人で抱え込むより楽になりますよ」
 屈託のない末妹の笑顔に、クリシュナは照れながらそっぽを向いた。
「過去を受け入れるのは悪いことでもありません。でも気にしすぎもよくありません。発散させることも重要ですよ」
「シスターみたいなことを言うのね」
「はい! 私シスターですから」
 クリシュナはパルティナの言葉に思わず吹き出して笑うのだった。
「アークビショップって言ってもシスター同然よね。ごめん笑っちゃった」
「姉様には笑顔がよく似会いますよ。主は人の心に満ちた不満、葛藤、後悔を取り除くために我ら司祭を地に降ろしたのです。人の心の支えになるのが我らシスターの務め。主はすでに姉様をお許しになられてるのです。だから姉様も、もっと笑っていてください」
「妹にそこまで言われるとわね・・・、ありがと、少し楽になったわ」
 笑って立ち上がるクリシュナ。
 それを見たパルティナも笑って立ち上がる。
「なんか二人で甘いものでも食べに行きますか」
「はい!」
 クリシュナの出したワープポータルに二人は飛び込む。そして一瞬のうちにプロンテラにつく。
 二人はそのままプロンテラのカフェへと消え去るのだった。

 その頃ルシアは・・・。

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「落ち着くなぁ」
 ルシアは一人、ジュノーの図書館にいた。
「姉さん、パルティナにはあまいからなぁ。なんとか説得できるでしょう」
 一人読書に没頭しているルシア。
 末妹に姉の事を任せて自分はル・アージュの課題にもなる資料を考えていたのだ。
 本に囲まれたこのジュノーの共和国図書館は、ルシアにとって天国のようなものなのだ。
「そろそろ合流した頃かしらね?」
 そう、パルティナをクリシュナのもとに送ったのはルシアの策略みたいなものだった。
「ま、姉さんなら私の言う事よりパルティナの言うことを聞くだろうし、何とかなるっしょ」
 無責任にも聞こえるルシアの独り言。
 妹がかわいいと思うのはクリシュナもルシアも同じなのだ。
 適材適所。ルシアの思惑は当たっていた。ルシアもなんだかんだ言っても姉、クリシュナの事が好きなのだ。 
「後は頼んだわよ。パルティナ」
 クスクス笑いながら、妹に説教されてるクリシュナを思い浮かべ、ルシアは本を閉じるのであった。

 こうしてルシアのたくらみとも知らぬクリシュナは、パルティナとスイーツを楽しんでいるのであった。

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  by lywdee | 2017-09-07 17:49 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(203)

「あなたが殺した・・・」
 それはチャンピオンだったクリシュナだった。
「ちがっ! 私は・・・」
「チャンピオンのくせに・・・、モンクのあの子を殺した・・・!」
「私は・・・、私は・・・!」

 ガバッ!

「はぁ・・・はぁ・・・、夢? またあの頃の・・・」
 クリシュナは上体を起こした状態で、隣のベッドで寝ているルシアを見た。
 カーテンの隙間からは薄明るい光が差し込んでる。どうやら早朝のようだった。
(なんであの頃の夢を・・・?)
 パジャマの袖で滴る汗をぬぐうクリシュナ。そしてベッドから出てパジャマを脱ぎながら「ふぅ」っとため息一つついた。
(今日は・・・、・・・そっか、もうそんな時期がきたのね・・・)
 一人で納得したような顔をしたクリシュナは、妹、ルシアを起こさないように一人胸にさらしを巻く。
 そして修羅のいでたちに着替え終わると、汗で濡れたパジャマを持って居間に向かった。
「おはようございますクリシュナ様。洗濯ものですか?」
「相変わらず朝早いわね、フレア。これ洗濯しといて」
「かしこまりました」
 クリシュナは洗濯かごに濡れたパジャマを入れると、ため息をつきながら食堂の椅子に腰を下ろした。
「クリシュナ様、まことに言いづらいのですが、先ほどカピトリーナ修道院から使者がきまして、これをクリシュナ様にと・・・」
「修道院から? また面倒ごとかしら・・・?」
 クリシュナはフレアから一通の手紙を受け取ると、頬杖ついて手紙の内容を見始めた。
 それは慰霊祭の通達であった。
「今年ももうそんな時期か・・・」
「クリシュナ様、アイスレモンティーが出来上がりました。どうぞ・・・」
「ありがと、フレア」
 冷えた紅茶が少し火照った体を冷やしてくれる。
「あら伯母様、おはようございます」
「おはようヴァーシュ。あんたも早いねぇ・・・」
 ロイヤルガードの鎧を着たヴァーシュが、クリシュナの対面の椅子に腰かける。
「伯母様? 顔色が悪いわよ。何かあったのですか?」
「ちょっとね・・・。まぁあんたが気にするようなことじゃないのだけは確かね」
「はぁ・・・」
 いぶかしげな顔でクリシュナを見るヴァーシュ。しかしそれ以上の詮索はしなかった。
 クリシュナは修道院からの手紙を伏せると、長い髪を少し櫛でとかしてポニーテールに結わえる。
 それから程なく女所帯の面々が食堂に集まる。少々早い朝食の始まりである。
「フレア、私の昼ごはんいらないから、帰りは夕方になると思うわ」
「かしこまりました」

 コンコン。

「はい、ただ・・・」
「いいわ。私が出る」
 エプロンで手を拭くフレアを制して、クリシュナは女所帯のドアを開けた。
「師匠! 慰霊祭です! ご一緒できますか!」
「カー・リーじゃない。言ったでしょ、もうあなたは私から卒業だと・・・」
「師匠は師匠じゃないですか! 弟子としてご一緒したいです!」
 朝からテンションの高いカー・リーを見て、クリシュナはため息一つこぼすのであった。
「いいわ、行く前に寄るとこあるけど、ついてきなさい」
「はい! 師匠!」

 クリシュナはカー・リーを引き連れて、プロンテラ南口にほど近い花屋にきた。
「花束一つください。比較的地味なやつを・・・」
「はい! 少々お待ちを・・・」
「私も買うんですか? 師匠」
「あんたは関係ない。私の野暮用よ」
「おまたせしました。2000zです」
「はい、ありがと」
 クリシュナは花束を受け取ると、カー・リーを引き連れて冒険者たちが「精算広場」と呼ぶ花屋の北にある広報員のそばに向かった。
「この辺らしいわね?」
「何がですか?」
「あんた・・・、ちゃんと手紙読まなかったの? 修道院付きがこの辺で送迎ポタ出してくれる話になってるのよ」
「それって・・・、アレじゃないですか?」
 そう言ってカー・リーはプレゼント屋台のそばの看板もちのチャンピオンを指さした。
 確かにその看板にはカピトリーナ行きという看板を持っている。
「あれか・・・。行くわよ」
「はい!」
 カー・リーを引き連れたクリシュナは、修道院付きのチャンピオンに話しかけ、出してくれたワープポータルの光の柱に飛び込む。
 目を開くとそこはカピトリーナ修道院の中ほどの公園だった。
「まだ慰霊祭まで時間があるわね。ちょっと野暮用を終わらせてくるから、あんたはここにいなさい」
「いえ! 師匠の行くところはどこまでも! です!」
「はぁ・・・、好きにしなさい・・・」
 クリシュナにはカー・リーのテンションの高さに呆れていた。
(根は良いやつなんだけどね・・・)とため息ついてクリシュナは修道院内の墓地まで歩き始めた。

 墓地につくとクリシュナは、中ほどにある小さな墓の前で歩を止めた。
 そして墓の前で膝をつくと、プロンテラで買った花束を供えた。
「師匠の知り合いのお墓なんですか?」
「私の最初の弟子だった孤児の墓よ。黙ってなさい」
 クリシュナの静かな声に、カー・リーは声を飲んだ。

「え? 最初の弟子? 聞いたことないわよ」
「そりゃーあんたたちがここに来るだいぶ前の話だし、私も聞いただけだからね」
 ヴァーシュがクリシュナの態度の変化に気付いて、ルシアに話しかけてみたところ、意外な言葉に若いル・アージュら3人は驚いていた。
「私も聞いただけだからね、詳しくないんだけど。姉さん、チャンピオンになったころ修道院に捨てられた孤児らの面倒をみてたのよ。その一人がモンクになって姉さんの弟子になったの」
「そのお弟子さんはどうなされたので?」とヴァーシュ。
 ルシアははっきりしない態度でごまかそうとしたが、3人に詰め寄られて諦めて話し出した。
「死んだわ」
「え・・・?」
「あの頃の姉さんは攻撃型チャンピオンだったからね、教育方針もくらって覚えろって感じだったし、今とは比べ物にならないほど修行はハードだったらしいわ。
 その弟子も姉さんに負けず劣らずの負けん気だったそうでね、姉さんもかなり手を焼いたって聞いたわ。・・・でね、喧嘩もしょっちゅうだったうえにその子、かなりの自信家でね、ある日姉さんの目を盗んでグラストヘイムに一人で行くと置手紙があったそうで、姉さんのモンク時代に倒したダークイリュージョンを倒せば一人前になれると信じて、自分もと一人で修道院に行っちゃって・・・。
 ここまで言えば想像つくでしょ? その子、阿修羅型モンクだったけど、ダークイリュージョンのメテオに焼かれて、姉さんがついたころには原型をとどめないくらいの火傷で亡くなってたそうよ」

「だから師匠は弟子は取らないと決めたんですね?」
「そうよ。同じ過ちは繰り返したくないんでね。あんな思いするくらいなら弟子はもう取りたくなかった」
 愁いを帯びた目でカー・リーを見るクリシュナ。
「それで私には文句は聞かないと釘を刺したんですね」
「私がちゃんと指導してればそうはならなかったはず。若かったのよ、私も・・・」
 カー・リーは何故クリシュナが、厳しくも優しく導いてくれた理由を初めて知った。
 文句こそ言えなかったが、自分のレベルに合った狩場で地力をつけさせてくれた裏にそんなことがあったなんて、今のクリシュナからは想像もつかなかったが、自分の事をそこまで考えて指導してくれたことがうれしく思えた。
「昔話はここでおしまい。慰霊祭に行くわよ」
「はい、師匠!」

「そんなことがあったんだ・・・」
「伯母様優しいからかなりショックを受けたのでしょうね」
「そうよ。だから姉さんは守備型の修羅になったのよ。それと、私が話したってことは内緒にしてくれない? ばれたら殺されそうだわ」
 ルシアの最後の言葉に、ヴァーシュ、ル・アージュ、ネリスは笑った。
 初めて知った伯母の過去、深い優しさが導いた若さゆえの失敗。悲しそうな顔して慰霊祭に向かったクリシュナの事は心配だったが、帰ってくればまたいつもの明るいクリシュナが帰ってくるだろうと、若い3人はそう思わずにはいられなかった。
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  by lywdee | 2017-08-16 11:37 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(202)

 梅雨も明けたここプロンテラ。さんさんと輝く太陽が眩しく暑い夏。
 クリシュナら女所帯もこの暑さに夏バテとは言わないものの、フレアが淹れたアイスティーを飲みながら静かな日常におのおの行動を開始していた。

「ルア、そこ間違ってるわよ」
「え、あ、ほんとだ・・・」
「いつもいつも詰めが甘いわよ」
 居間で勉強にいそしむル・アージュと文献あさりのルシアが、知識向上のために黙々と課題に取り組んでいた。
 ル・アージュは魔導剣や悪霊糸のオートスペルの威力向上のため、1週間に2回はルシアの課題に頭を悩ませていた。が、最近では魔導書や文献のルシアの手伝いもできるまでに成長していた。

「クリシュナ伯母さんまた迷宮の森に?」
「うん。生活費のためにまたシャアc出そうとしてるよ」
 食堂ではヴァーシュとネリスが、アイスティー片手に武器の点検をしていた。
 特にネリスは、星屑剣を多用しているせいか、切れ味が落ちたようにも感じていた。
「ヴァーシュ姉、そろそろセラフィーさんとこ持ってく?」
「そうねぇ・・・、ルア、ちょっといい?」
「なーにー?」
「武器の手入れにセラフィーさんの所に行くけど、どうする?」
 ヴァーシュの提案に筆を止め、傍らに置いていた魔導剣を抜いた。
「あー・・・、私のもそろそろ手入れ必要かぁ」
 鞘に剣を収め、ル・アージュはまた筆を手に取った。
「もうちょいで課題終わるから待ってて」
 真剣なまなざしで課題に取り組むル・アージュ。ルシアもため息混じりにル・アージュの課題を見つめていた。
「叔母さん終わったよ」
「どれどれ・・・」
 ゴクンと生唾を飲みルシアの返答を待つル・アージュ。
「まあこんなものか・・・、いいわよ。でかけてらっしゃい」
「やたー! ヴァーシュ、ネリス、セラフィーさんとこ行こ」
 こうしてル・アージュ、ヴァーシュ、ネリスの3人は、男所帯のある鍛冶屋街に出かけて行った。

 女所帯から男所帯までは30分くらいの道程だ。3人は談笑しながらゆっくりと歩いて行く。
「ヴァーシュも勉強に付き合うって?」
「うん、ヒールの回復量上げれば、もっと回復剤代浮くかなぁって・・・」
 夏着の袖なしシャツを着た3人は、ハンカチで額の汗を拭きながら歩いて行く。
「それにしても暑いね・・・」
 ネリスがぼそっとつぶやく。
「夏だからね」
 ル・アージュが素っ気なく返答をする。
 私服に身を包んだ3人は、ル・アージュがシャツに短パン。ヴァーシュはシャツにロングスカート。ネリスはシャツにミニスカートと、夏の暑さに薄着になっていた。
 街中もパラソルを掲げた露店が多く目立つ。この暑さでも繁盛しているのはアイスクリーム商人の露店ぐらいだ。
「アイス買ってこうか?」
 ル・アージュの提案に乗っかる二人。お代は言い出しっぺのル・アージュが3人分出した。
 アイスを食べながら男所帯に向かう3人。冷たいアイスが気持ちいいくらいにおいしく感じる。そうこうして3人は男所帯にたどり着いた。
「セラフィーさんいるー?」
「開いてるよ! 勝手に入ってきな」
 男所帯の中からセラフィーの声が響く。
「お邪魔しまーす」
 通い慣れたネリスが男所帯のドアを開く。今日は珍しく精錬していないセラフィーの姿に、ネリスは首を傾げた。
「いらっしゃい。今日は武器の手入れか?」
「はい、そろそろ切れ味が・・・」
 3人は厨房から歩いてきたセラフィーに、各々の武器を差し出す。
「なんだ? 3人揃ってアイスか。羨ましいねぇ・・・」
「私が買ってきましょうか?」
 同じく厨房から出てきた渚 レイが手を拭きながらセラフィーに問う。
「わりぃ、頼めるか?」
「いいですよ。今日のお勤めは午後からですし、昼食は作っておきましたから冷やして食べてくださいね」
 そう言って渚 レイは若い3人に軽く会釈をし出かけていった。
 セラフィーは溶鉱炉に火を入れ、金敷を出す。そして3人から武器を受け取り刃先をまじまじと眺めた。
「ふむ・・・、それほど痛んではないが、問題は切れ味か・・・」
 セラフィーは砥石も用意して3人の武器をくまなくチェックし、焼き入れをしたり研いだり叩いたりして始めた。
 その間3人は、セラフィーの手入れを眺めながら買ってきたアイスを食べ終わるのだった。
「ただいま帰りました」
「ナイスタイミングだ、レイ。ちょうど終わったところだ」
「それは何より・・・」
 渚 レイはセラフィーにアイスクリームを渡すと、居間に置いてあったビレタをかぶった。
「ん? 出かけるのか?」
「はい。騎士団から動けるアークビショップを何人か用意してくれとのことづけを言いつかりましたから、ちょっと大聖堂へ・・・」
「急な話だな。ま、気をつけてな」
「はい」
 そうして渚 レイは出かけていった。
「3人とも、武器の手入れは終わったぞ。気になったらまた持ってこい」
『ありがとうございます』
 ル・アージュら3人は、手入れの終わった各々の武器を手に男所帯を出ていく。
「旦那ぁ、いいのかい? せっかく娘がきてたのに・・・?」
 その声を聞いて物陰からヴァーシュの父親、白鳥が出てきた。
「もうヴァーシュだっていい歳の娘だ。私の出る幕はないさ」
「そんなもんかねぇ・・・」
 アイスを食べながら精錬道具を片付けるセラフィー。白鳥は何も言い返さず自室へと戻って行った。

「海に行きたいねー」
 女所帯への帰り道、ル・アージュが空を見上げつぶやいた。
「小母様に提案してみる?」
 ヴァーシュが相槌を打ってみるが、ル・アージュは何も言わない。
 ネリスはそんな二人の跡を追っているが、黙って歩いて行く。
「ルア、海に行くならそろそろ水着の買い替えとかあるんじゃない?」
「そうなのよねー」
「ルア姉、あれって・・・?」
「あー・・・、お姉ちゃんだ・・・」
 ル・アージュの背中をつついたネリスが先ほどのアイスクリーム商人の方を指さす。それを見るとル・アージュが呟いた。
「お姉ちゃん、何してるのさ?」
「あらルア・・・。見つかっちゃった」
 微笑むファ・リーナにため息をつくル・アージュ。
「お姉ちゃんもこれから大聖堂?」
「そうなのよー。だからその前に甘いものでも・・・って、なんでルアがそんな事知ってるの?」
 不思議そうな顔で妹を見るファ・リーナ。
「うちらさっきまでセラフィーさんとこ行っててね、レイさんが大聖堂に呼ばれたって言ってたから、お姉ちゃんもかなー? ってね」
「ふーん・・・、前衛職って大変ねぇ」
「そういうこと、じゃあね、お姉ちゃん」
 そう告げて立ち去るル・アージュ。

「ただいまー」
 ネリスが女所帯のドアを開ける。
「おかえり。遅かったじゃない」
「クリシュナ伯母さん、帰ってたんだ・・・」
「セラフィーのとこ行ってたんでしょ? 武器の手入れでもしてたのかい?」
 女所帯の食堂で、アイスティーを飲みながらクリシュナは3人を見た。
「うん! 武器の手入れしてもらったのー」
「そうかいそうかい。もうじきお昼よ。食卓に着きなさい」
『はーい』
 女所帯のお昼はカレーライスだった。クリシュナ曰く、暑い時こそ辛いもの! らしい。
 こうして食卓に5人ともつき、フレア特製のカレーを静かに摂り始めるのだった。
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  by lywdee | 2017-06-27 11:09 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(201)

 春の嵐がきて気候も温かく落ち着いたここプロンテラ。今日も女所帯は朝から元気だった。
「ネリス! リンクのとこ行ってネイとパルティナ連れてきて!」
「はーい」
 クリシュナの言葉に元気よく家を出るネリス。
 クリシュナはクリシュナで、家の中から紙コップやら皿などをネリスが置いてったカートに積んでいく。
「伯母さん、氷持ってきたよ」
 早朝からラヘルに行っていたル・アージュが、大量の氷とともに帰ってきた。
「それはフレアに任せて、あんたはさっさと朝食摂りなさい。フレアが片づけに困ってるからね」
 クリシュナに言われるがまま、ル・アージュは食卓に着いた。
 ヴァーシュはその頃、自室で銀色の長い髪を梳いていた。もちろん鎧は着ている。
 窓から射す光が風になびく銀色の髪をきらきらと輝かせている。
「ごめんくださーい」
「あらお姉ちゃん。いらっしゃい」
 食卓で朝食をとっていたル・アージュが、不意の来客にいち早く反応する。女所帯にやってきたのはファ・リーナだった。
「クリシュナ伯母様、母からこれ預かってきました」
「お、精霊殺し(お酒)を3本も・・・、気が利くねぇ」
「母はお父様が行かないってことで来ていません」
「きたら酒が不味くなる。気にしないよ」
 クリシュナはお酒を受け取ると、大きなバケツに氷水をいれてそのバケツにお酒を入れる。そしてそのままネリスのカートに積み込んだ。
「ごちそう様」
 ル・アージュは朝食を撮り終えると、姉ファ・リーナとともに居間のソファーに腰を下ろす。
 女所帯で忙しい思いをしているのは、クリシュナとフレアの二人だけである。毎年恒例のアマツ花見宴会ツアーの準備をしているのだった。
 フレアはフレアでお酒の肴や料理をお重に詰め込んでいる。毎年の事だけあって手際は良い。
「伯母さんただいまー」
「伯母さんおはよー」
「姉様お邪魔します・・・」
 リンク宅から帰ってきたネリス、ネイ、パルティナがゆっくりと女所帯の中に入る。
「あ、ネイ。あんたから預かってた品物、完成したから持っていきな」
「え、もうできたの?! 伯母さんよくやるなぁ」
「もう! お姉ちゃん、お礼が先でしょ!」
「そうだった・・・。ありがと、伯母さん」
 クリシュナから渡される一振りのカタール。当面の狩りで使うトリプルマリシャスブラッディティアーをネイは受け取るのだった。
「言ってみるもんだ・・・」
 ネイは早速そのTM血涙を装着すると、まじまじとそのカタールを見つめるのであった。
「よし! 準備はできた。みんな、アマツに行くわよ!」
 鶴の一声、クリシュナの言葉に全員が外に出る。もちろんネリスはカートを引っ張り出した。
 そこでパルティナがワープポータルを出して全員がその光の柱に身を投じる。出先は年中桜舞うアマツの花見通りだ。
「やっと来たか・・・」
 大輪の桜咲く木の根元で、ルシアが場所取りをしていた。
 ルシアはクリシュナに言われ、一人アマツで場所取りをしながら茣蓙を引いて待っていたのである。
「やっとってあんた、1時間ぐらいなんてことないでしょ?」
「姉さんの時間間隔狂ってるわよ」
 文句もそこそこに女所帯の面々はお酒を出したりお重を広げたりと準備に入る。
「それにしてもクリシュナ伯母さん。花見だったらプロンテラでもできるじゃん?」
「プロは知り合い多いからゆっくり飲めない。だから家族で誰も知らないアマツにきてるのよ」
 ネイのつぶやきに素っ気なく答えるクリシュナ。
「さ、お花見開始! みんなお酒は持ってるわよね?」
 周りを確認しながらクリシュナは立ち上がる。
「かんぱーい!」
『かんぱーい』
 クリシュナの音頭に全員がお酒を口にする。
 花見の席は4人の年長者と、5人の若い衆に分かれた。クリシュナの考えでもある。
「パルティナと飲むのも久しぶりだねぇ」
「そうですね。私はあまり飲めませんでしたからね」
 そう言いながらパルティナはクリシュナのコップにお酒を注ぐ。ちなみに、パルティナが飲んでるのはアルコール度が低いモロク果実酒である。
 病気がちだったパルティナも、年始の実家帰りの時はそれとなく飲んではいたが、どちらかというと付き合い程度の摂取しかダメだと医者に言われてたからだ。だが今年は完治したところで医者の許可が下りたのでクリシュナの花見に賛同してついてきたのである。
 もちろんそれほど飲む方ではないので、とくに酔ったから変わるということもない。むしろ変わるのはルシアの方だ。
 ルシアは酔うと誰彼かまわず説教をするという迷惑な酔い方だが、酔うのも早いがつぶれるのも早い。だからクリシュナは先にルシアを酔い潰してからゆっくり飲むというのが恒例ともいえる。
「姉様、ルシア姉様寝ちゃいましたね」
「そうだねぇ、これでゆっくり飲める」
 90分ほどでつぶれたルシアの寝先はパルティナの膝の上だ。パルティナはこうなるのをわかっていたのであまり飲んではいなかった。そう、ルシアは酔っていても妹には甘いのを知っているクリシュナの年の功で彼女を連れてきたのだ。
「パルティナ、その後どうなのさ?」
「私ですか、そうですねぇ・・・。もう血を吐くことも急に倒れることもないので完治だとは言われました」
「それはよかった。でもあんたは下戸だからねぇ」
 クリシュナもグイグイ飲む方ではないが、こんな時ぐらいしか飲まないのでつぶれることも眠くなることもない。お酒の席では頬を軽く朱に染める程度の酔い方しかしない。むしろ対等にお酒が飲める家族はいないのが残念なところではある。

「へー、ルアは魔導剣2本ももってるのかぁ」
「狩場に応じて使い分けられるようにしてるんです」
「私は当面の武器があるから、お金稼ぎしてから二刀流の装備揃えよう」
 若い衆は若い衆で飲んでいるのだが、会話の内容は最近の狩りやら装備に関してだ。一向に浮いた話は出てこない。
「ヴァーシュは師団長にならないの?」
 ファ・リーナの質問がヴァーシュに飛ぶ。
「当分ならないわ。だって、私には実力不足だし・・・。リーナこそ、最近支援のお仕事ないんでしょ」
「そうねぇ、最近は大聖堂でのお仕事しかないわ」
 若い衆はゆっくりとしたペースで飲み、会話の方が主流であるようだ。
 もっとも、家族が揃うのは年始ぐらいなので会話の方が弾むようである。
「お姉ちゃん、眠い・・・」
「はいはい、こっちおいで」
 お酒に強くないネリスがネイの膝枕で寝に入った。
「それにしても・・・、姉妹でこんなにも差がでるのか・・・」
 そう言いながらネイは、ネリスの胸をさすったのちファ・リーナ、ル・アージュ姉妹を見る。
「ネイ姉さん何が言いたいの?」
「胸の発達度」
「さらっと言わないでよ、ルシア叔母さんじゃないんだから・・・」
「ははは、揉まないだけいいでしょ」
 照れ笑いするネイをため息で返すル・アージュ。
 するとファ・リーナは服の中を覗き、涙目でル・アージュを見た。
「お姉ちゃん、そこで私を見ない」
「こればっかりは遺伝かもねー」
 けらけらと笑うネイ。別に悪気がないだけに質が悪い。

 そうこうして3時間ほどの時間が流れた。

「よし、帰るわよー」
 クリシュナの声にネイはネリスを起し、ルシアはクリシュナがカートに乗せた。
 フレアはお重やら空の空き瓶やらを回収し、茣蓙とかも片づけた。
「ポタ出すわよー」とクリシュナ。光の柱が現れる。
 若い衆と年長者と全員がワープポータルに乗るとそこは女所帯の入り口であった。
「次に家族が揃うのは年始かぁ」
 しみじみつぶやくクリシュナ。
「姉様、今日は誘っていただきありがとうございました。ネイちゃん、帰るわよ」
「はーい。クリシュナ伯母さん武器ありがと」
 パルティナとネイは、パルティナが出したポタで帰っていく。
「ルア、伯母様私も帰りますね」
 ファ・リーナも自分のポタで帰って行った。

 こうして、女所帯の花見は終わるのであった。
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  by lywdee | 2017-04-18 13:03 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(200)

 春の日差しが温かくなってきたここプロンテラ。
 その一角にあるクリシュナが主の女所帯。その主たるクリシュナは、ここ最近プロンテラの北にある迷宮の森に毎日足繁く通っていた。
 もちろんメインのターゲットはハンターフライなのだが、それと同じくいろいろな冒険者がきているせいもあり、狩りの方はぜんぜん苦労しているのだった。
「はぁ・・・、今日も対抗はいっぱいかぁ・・・」
 ため息混じりに木陰に腰を下ろして休むクリシュナ。その目の前を色々な職の冒険者がテレポートで入れ代わり立ち代わり現れては消えていく。
 クリシュナ自体は朝からやってきていて、時間帯的にも一人だと感じているのだが昼になると一転して冒険者が現れ増えていく。クリシュナとしてもテレポートすれば鉢合わせになったり、ハンターフライが駆除された後に出くわす事も多かった。
 彼女にしてみれば、廃鉱でスケルワーカーカードを出してきたように、副産物にも期待しているのだが、これと言って高額なドロップがあるわけでもなく、狩りのテンションはなかなか維持しがたいものであった。
 まぁここ(迷宮の森3層目)では、テレポートでの狩りが主流で、ともすればバフォメットに鉢合わせになることもしばしばあるのだがクリシュナは相手にせずひたすらハンターフライを狩っている。ただ、ハンターフライ同様数が多いのはバフォメットJrである。こちらは呪いとディスペル、幻覚と少々腹の立つスキルで邪魔してくるが、倒す見返りとしてはオリデオコンは出るし、イグドラシルの実もでるのでスキルで応対している。
 ただ、戦場としてはまちまちな地形に悩まされているがハンターフライを凌駕する金額で取引されるカードを持つMOBもいるので、一攫千金を目指すならこれ以上はない狩場の一つでもある。もっともそのせいで密集地帯で気をぬけば倒されてしまう危険性もあるので、制圧し続けては休息を取らないと狩りが続かないのも現実である。
 クリシュナとしては人の少ない時間帯に行くわけではあるが、時間が経つにつれて増える冒険者に、頭を悩まされている。これが廃鉱だったら、対抗も少ないので何時間でもいられるわけなのだが、さすがに人気狩場であるここではそんなことは通用しない。平たく言えば早い者勝ちなのである。だからクリシュナも苦労こそすれ一攫千金と需要と供給に適したここに腰を据えているのである。
「キラーマンティスカードか・・・。いくらするんだろ?」
 時折でるハンターフライとは別のカード。まとめ狩りのしている身なので、いつ何がカードを出したか一切わからない狩場。彼女は他にもウルフ、ポリン、ルナティックとカードを出したが経験上安い値段で取引されるカードである。
 テンションこそ上がらないモノの、これがエンジェリングやデビルリング、アークエンジェリングがカードを出せばそれこそ一攫千金だ。だからクリシュナは、バフォメット以外のモンスターも倒してはいる。保険に持ち歩いてる白ポーションの重さを考えればハンターフライが落とす結構かたい皮なんて拾っていられない。廃鉱ではそんなこともないのでランタンも拾ってどれぐらい倒したかの目安になるのだが、ここでそれをするには白ポが邪魔になってしまう。だからクリシュナは余計なものは拾わず、価値のあるものだけしか拾ってはいない。他の冒険者も同じようなものだから、ここではハンターフライの残骸と結構かたい皮、ジャルゴンはテレポートするたびに見受けられる。
 メカニックでもなければ拾っていられないドロップばかりだが、痕跡を残す人の方が多いのも実情。それだけここではハンターフライがそれこそ親の仇のように狩られていくのだ。
「ルアもラヘルで頑張っているんだ。私も頑張らなきゃ・・・」
 休息を取り終えたクリシュナが立ちあがる。家長としての責任が重いが養う義務のある彼女は、自身を慕って居候している家族を守るためにも、今日も頑張って迷宮の森の3層目で必死にテレポ狩りを続けるのであった。

「まぁ! 姉様がネイちゃんのためにハンターフライを?」
「そうなのよ。だから帰ってきたらストレスで吐くこともあるのよねぇ・・・」
 5兄弟の中間の立場にあるルシアは、リンク宅でパルティナとお茶していた。
「ルシア姉さんはこれからどうするのさ?」
 フラウディッシュ家次男のリンクがパルティナの横で紅茶を飲んでいた。
「私なんてサポート型のソーサラーだし、行けるとこなんて限られてるわ。それこそリンクだって同じでしょ? あんたもサポート型のロイヤルガードなんだし・・・」
「それはそうなんですが・・・」
「姉様も兄様も一人で狩りするなんて珍しいものですからね」
 微笑む末っ子のパルティナ。具合がよくなってからはよく笑うようになった。
「それにしても・・・。吐くまで狩りするなんてクリシュナ姉さんらしいな」
「そうなのよ。少しは肩の力抜いて姪っ子に頑張らせないといけないわ」
「それをしないのが姉様らしいですね。ねぇ兄様」
「家族を大事にする姉さんだからなぁ。いい加減にしないと胃に穴が開くんじゃないか?」
「それで済めばましよ。無理して体壊したら意味がないというのに・・・」
 ルシアもルシアなりにクリシュナの事を心配していた。
 今に始まったわけではないが、クリシュナの自己責任は家族が心配するほど重く感じている。ましてや3人も育ちざかりがいる女所帯の生計をほぼ一人で立てているせいか、居候のルシアにもわかるほど家計は安定している。出費が少ないのと、収入が平行線をたどってるせいだ。
「ルシア姉様。私もクリシュナ姉様に手を貸せないものですか?」
「やめときなさい。あんたまで行ったらテレポ狩りになんてならないわ。効率悪くなっちゃうもの・・・」
「そうですか・・・」
 落胆して肩が下がるパルティナ。
「私だってサポートしてやりたいけど、バキューム使ったらかえって邪魔になるもの」
「私も似たようなものですね」とリンク。
 苦笑するリンク。とてもじゃないがサポートしたくても姉クリシュナとはレベルが違いすぎるから、ともに狩りするなんてどだい無理な話だ。
「ところで。兄さんはその後ここに来た?」
「はい、パルティナが調子よくなってきてから一度・・・」
「なんか言ってた?」
「はい、実家に帰らないか? と・・・」
「ふーん」
 パルティナの言葉にルシアは紅茶を飲みながら聴いていた。
「人の事言えないけど、うちら姉妹は結婚してないからねぇ。兄さんにしてみても心配なんでしょ」
 ルシアはため息つきながら紅茶を飲み干す。
「ま、私は家事しなくていいなら結婚してもいいかな? とは思ってるけどねぇ」
「姉さんを前にして言いたくないけど、家事音痴の姉さんに似合う男ってほぼいないと思うよ」
 リンクのため息混じりの返答に、ルシアは苦虫をかみしめたような顔でパルティナを見る。
「なんですか? 姉様。何か言いたげな顔してますよ?」
「あんたを怒らす気はないから言わない」
 そう言いながら立ち上がるルシア。
「もう帰るんですか? 姉さん」
「そろそろ姉さん帰ってきそうな時間だからね。帰って愚痴ぐらい聴いてやらなきゃね」
 そう言ってルシアは、ウィンク一つしてリンク宅を出て行った。

「へー・・・、クリシュナさんがハンターフライをねぇ・・・」
 カンカンと鎚打つ音が響き渡る男所帯。セラフィーが製造してる背中を見るネリスとその姉ネイが見ていた。
「・・・で、その副産物でネイに武器を・・・ってかい?」
「本来私は二刀流ですからね。いい短剣が手に入る前で使えるものをって思ってネリスについてきたんだけど・・・」
「お姉ちゃんが使う武器ってなかなかないの」
「それで属性ダマを・・・ってかい?」
「うん。クリシュナ伯母さんが鋼鉄使っていいって言ってたから・・・」
 ネリスはクリシュナがためた鋼鉄を持ってセラフィーに属性ダマスカスの製造依頼しに姉ネイとともに男所帯を訪ねてきていたのだ。
「ほら出来たぞ。とりあえず土と風だけだが過剰もしてある」
「わぁ・・・、精錬までしてあるー」
「お姉ちゃん! ところでセラフィーさん。おいくらですか?」
「成功報酬で1本1Mだな。悪いが水までは材料が足らんかった」
 お金を渡すネリス。ネイは新しいダマスカスができて上機嫌である。
「ところで、なんで今頃ハンターフライなんだ? クリシュナさんなら廃鉱でスケルワーカー狩ってたほうが早いんじゃ?」
「買うならね。伯母さんは「私が出してやる!」って言ってそれっきり・・・」
「クリシュナさんらしいな」
 笑って答えるセラフィー。
「うちの生活費はリューディーが稼いでるからな。お互い様だから何も言えんや」
「しかし一本1Mなんて・・・。安すぎません?」
 ネイが出費を気にして尋ねた。
「うちは依頼品しか作らんし、生計立てるために製造してないし、身内から大金取る気はない」
「私も身内なんですね・・・?」
「そうさ。女所帯にいなくてもお前ら姉妹なんだろ? なら身内同然だ」
「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」
「いいってことさ」
 そう言ってセラフィーはタバコに火をつけると、製造用具を片付けにはいった。
 その帰り道、ネイはネリスに小声で話しかけた。
「あの人って、商売向きじゃないよね?」
「セラフィーさん? いつもあんな感じだけど、お金には困ってないって言ってたよ」
「へぇ・・・」
 姉妹二人で帰る道すがら、ネイはそのままネリスとともに女所帯に入っていった。
「あらおかえり。ネイがくるなんて珍しいわね」
 女所帯ではクリシュナが紅茶を飲んでいた。
「ネイ、あんたのお望みのものはあと1枚で完成するわよ」
「へ? 伯母さんハンターフライカードだしたの?」
「とりあえず2枚まではね。あんたが必要なのは3枚なんでしょ? もうちょい待ってね」
「言ってみるもんだ・・痛!」
 お礼も言わない姉の横腹を肘で打つネリス。恥ずかしいらしく顔は真っ赤だ。
「何するのよ?! ネリス!」
「お礼が先でしょお姉ちゃん!」
 二人のやり取りをみてクリシュナが笑う。
 その直後女所帯のドアが開いた。
「ただいまー」
 帰ってきたのはルシアだ。
「姉さん。パルティナ、調子いいって」
「あら、リンクのとこ行ってたんだ。それはよかった」
 紅茶を飲み干した後、フレアがお客様用のティーセットをだして食卓に並べ、あらかじめ温めておいた紅茶を4人に振舞う。
「ところでネイ。あんたこんな時間にどうしたの?」
「いや、別に・・・。暇だから来た」
「暇だからって、うち来ても何もないよ」
 クリシュナが言った直後ネイはクリシュナの目の前にカタールを置いた。
「なんだか早くできそうだから預けておくね。伯母様」
「ほいよ。完成したらネリスに届けさせるさね」
「じゃ、私帰るね」
 そう言うが否や、ネイは女所帯を後にした。
「今度の花見にパルティナも付き合わせるか・・・」
 クリシュナはそう言ってほほ笑むのであった。
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  by lywdee | 2017-03-14 14:06 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(199)

 季節は流れ、正月気分もすっかり抜けきってるプロンテラ。今では節分を超えもうバレンタインの季節になった。
 この季節になると憂鬱になるのが女所帯のル・アージュである。
 理由こそないのだけれども何故かバレンタインになると、表現こそしづらいが気分が重くなる。
「ル・アージュ様、ホットチョコレートです。温かいうちにどうぞ」
「ありがと」
 バレンタインがくると、女所帯では毎年フレア特製のホットチョコレートが振舞われる。クリシュナの付き人として長い間一緒に生活しているが、感情を表に出さないせいで誤解されがちになるが、今では詮索する者もいない。
「あらルア。いたんだ」
 ルシアが声をかけた時、ル・アージュはホットチョコレートを飲み切っていた。
「あんたは毎年毎年この時期になったら仏頂面になってるわねぇ」
「ルシア叔母さんこそ。最近になって狩りに行くとか言っといて、ぜんぜん出かけないじゃない」
「私なんか、サポート型のソーサラーだし、行けるところは限られてるのよ。一人で行く分にはね・・・。まぁネリスが出かけてるときについでに臨公やら何やら調べてもらってはいるけどね。あ、フレア、私は紅茶でよろしく」
「かしこまりました」
 食堂のテーブルにつくルシア。対面には仏頂面のル・アージュがいる。
「そういえば姉さんどこ行った?」
「クリシュナ伯母さん? 確か迷宮の森に行くとか行かないとか・・・」
「あー、そういう事なら行ってるわね。姉さんお茶を濁すようなこと言う時は、大抵前者を選ぶからね」
 目の前に静かに出された紅茶を口にしながら、ルシアはため息をついた。
 長年一緒にいる姉妹だからこそ分かる事もある。ルシアにしてみれば、クリシュナが何故迷宮のもろに行ったかぐらいはすぐにわかる。
「若cがハンターフライcに変わったか・・・」
「へ?」
「金策の話よ。もっとも今回はそれだけじゃなさそうだけどね」
 静かに紅茶を飲むルシア。ル・アージュは叔母の言葉に呆気に取られていた。
「たぶんこの間の温泉での話でも思い出したんでしょ? 姉さん地獄耳だから・・・」
「あー、なんかネイ姉さん言ってたね。ハンターフライがどうこうって・・・」
「ネリスはついでに軍資金を倹約しなければって言ってたし、需要と供給を鑑みれば、対抗は多そうだけどハンターフライに落ち着くよなーって」
 ルシアが紅茶を飲み干すと同時に、フレアがかわりの紅茶を注ぎいれ、厨房から焼き上がりのクッキーを持ってきた。
「ま、姉さんなら、テレポもあるし一応範囲攻撃あるし、バフォメットに喧嘩売らなければ怪我することもないっしょ」
 いれたての紅茶を口にするルシアは、目を閉じてため息一つついた。なんだか呆れている節もあるが、どうやら心配はしていないようだ。

 ガランゴロン・・・。

「噂をすればなんとやら・・・。姉さんおかえり」
「ただいま・・・」
 女所帯に帰ってきたクリシュナは、そのまま食堂の椅子に座り突っ伏した。
「その様子じゃ収穫なさそうね」
「いや、ハンターフライカードは手に入れた」
「あら、よかったじゃない。でもなんで浮かない顔してるのよ?」
 顔も上げずカードをひらひらと見せたクリシュナに、ルシアは突っ込んだ。
「いやね、対抗が多すぎてテレポばっかしてたら吐き気がして、正直疲れた・・・」
「へー・・・、スキル疲れか・・・。フレア、紅茶おかわり」
 ルシアの言葉に、フレアは紅茶のおかわりとホットチョコレートを持って食堂にきた。
「・・・で、対抗は何人?」
「レンジャーとメカニックと修羅とロイヤルガードと朧、わかってるだけでその5人」
「ふーん。お疲れ様」
 ルシアの労いの言葉に、クリシュナはようやく頭をあげてホットチョコレートを口にした。
「ネリスは?」
「2階じゃない?」とル・アージュ。
「ネリスー!」
「はーい」
 クリシュナの声に2階からネリスが降りてくる。
「伯母さんなぁに?」
「コレ売ってきて。値段は任せる」
「ハンターフライカードじゃない! 伯母さんが出したの?!」
「まぁね。じゃよろしく。私仮眠取るわ・・・」
 ネリスにカードを渡すと、クリシュナはフラフラしながらも自室に入っていった。
「ところでネリス、それって相場いくらなの?」
 ル・アージュが尋ねると、ネリスは記憶を探ってこう答えた。
「28~32Mかな? たしかそんぐらい」
「けっこう高いのね・・・」
「じゃあ露店出してくる」
 こうしてネリスはカートを引っ張り出し露店街へと向かった。
「それにしても・・・。クリシュナ伯母さんのカード運には頭が下がるわ」
「そりゃー数狩ってるもの。姉さんしつこいから・・・」
 ルシアの返答に「ははは・・・」と力なく笑うル・アージュ。
「まぁ姉さんの場合、自給自足がモットーだし、タダでは転ばないからね」
 姉の性格を熟知してるルシアには、クリシュナがカードを自分で出してくるのは目に見えているし、カードを買うということは、自分で出しに行けないものしか購入しない。そのための時間も惜しまないし、あきらめが悪い。そこでついたのが「撲殺天使」という通り名になったのだろうと思ってる。
 通り名についてはル・アージュも一度クリシュナと行ったお花見で理由を聞いたことがあるが、それはクリシュナのモンク時代から今にかけて、徹底した狩りと辻支援、面倒見のよい性格とのギャップで生まれた言葉だと聞いたことがある。
 現にクリシュナのスタイルは、ソロでは高い回避率とパーティーでの壁役を担う守備型のスキル振り、そして二つを兼用する身体能力の高さ。弟子こそ取らないけど性格的に育てることは嫌いじゃないらしいから、南と呼ばれるプロンテラ南の広場では知らない人は少ない有名人の一人であると聞いたこともあるし、知らない人も少ないと噂されている。
 特にクリシュナは、女所帯でもその性格から「放っては置けない」「アタシが何とかする!」と言って女所帯全体の装備とかを調達するぐらいだし、それに見越したカード運もある。もっとも、女所帯の生活費はほぼカードの売却で工面するぐらいだ。その背中を見てル・アージュもスノウアーカード狙いの狩りをして補助してるともいえる。言わば稼ぎ頭とも言っていい。
「ただいまー」
 そんな折帰ってきたネリス。満面の笑顔でカートをしまう。
「早いね。いくらで売れたのよ?」
「んーと、28Mだよ。クリシュナ伯母さんは?」
「仮眠取ってる。静かにしてやりなよ」
 ル・アージュもクリシュナの体は心配している。自身も狩りで疲れたらクリシュナに介抱されたこともあるのでわりと小声でネリスに言った。
「とにかく、ほとぼりが冷めるまで姉さんは迷宮の森だろうねぇ」
 ルシアは素っ気なく言ったが、ル・アージュとネリスは力なく笑うだけなのであった。
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  by lywdee | 2017-02-14 16:27 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(198)

「付き合えって、こういう事だったのね・・・」
 苦虫をかみしめたような顔でルシアを見るクリシュナ。
「しょうがないでしょ。私とパルティナだけだったら、オーディン神殿で薬草探しなんてできないわ」
 そう、彼女たちは今、オーディン神殿の深層部にいた。
 フィゲルの医者にパルティナを診てもらい、効果のある薬ができるとは言われたものの、その薬の素となるものがオーディン神殿とトール火山にしか存在しないと言われたからだ。
 医者の話を聞かされたあと、薬草が足りないから取ってきてくれと言われ、パルティナがいるってことで比較的安全なオーディン神殿をルシアが選んだ。医者の方はというと、じゃあトール火山は俺が行くって事になり、3人はここ、オーディン神殿にきたのだ。
「あの医者、信用できるの?」
 クリシュナが不安な口ぶりになるのも仕方ない。医者自ら危険なところに生える薬草の知識と採取する行動力は認めるものの、正規の病院じゃないことがクリシュナにとって疑心暗鬼にならざるをえなかった。
「まぁとりあえず姉さんは金剛あるでしょ? 私じゃ壁できないし、パルティナもプルスとスコグルはMEで焼けても、スケゴルトは私達じゃ無理だもの。姉さんにかかっているのよ、私たちが行動できるのは・・・」
「姉様、辛いのなら、私が我慢してもいいのよ? 私のせいで姉様が苦労するのは心苦しいもの・・・」
「いんや、あんたの為なら、私達姉妹が頑張ればいいことさね。あんたはあんたで、無理せずMEで焼いてればいいのよ」
 口ぶりは厳しいものの、クリシュナは警戒しながら歩を進めていた。
 医者の話ではパルティナの病気に効く薬はできると断言していたので、クリシュナもルシアも、末妹パルティナのためになるならと選んだ道。簡単にあきらめることなどできなかった。
 それ以前に、ルシアがクリシュナを連れてきた意味がわかったので、長女としては責任があると思い、ただ耐えることに徹していたのだ。
「・・・で、目的の薬草は見つかったの?」
「んー、地図ではこの辺りなんだけど・・・。あ、これかも?」
 ルシアが草むらに群生してる薬草を見つけた。医者からもらった絵と特徴は一致している。
 クリシュナがあたりを警戒しているうちにルシアが薬草を集める。その途中、こちらに気付いたモンスターの軍勢が押し寄せてきた。
「パルティナ! 頼んだわよ!」
 クリシュナが金剛をつかいモンスターの軍勢を一手に引き受ける。そこへ詠唱の終わったパルティナのマグヌスエクソシズムが光をあげる。
 光の結界がプルスやスコグルを焼き始める。その断末魔の悲鳴が他のプルスやスコグルを呼ぶが、そのすべてをクリシュナが足止めする。
 パルティナは、吐血しながらも次のMEの詠唱を始める。
「姉さん! パルティナ! 薬草は取り終えたわ! あとは帰るだけよ! 踏ん張って!」
 ルシアがサイキックウェーブで応戦する。その結果、詠唱が間に合ったパルティナのMEが敵を焼き尽くした。
「パルティナ! 大丈夫⁈」
 膝から崩れ落ちたパルティナをルシアが抱き止める。
「姉様、大丈夫です。ちょっと長く行動しただけですから・・・。ワープポータル、出しますね」
 にっこりとほほ笑む妹の姿をみて、クリシュナもルシアもホッとため息をついた。

「おー! これだけの薬草をよく集めてくれた。俺の方も余分に取ってきたから、これでその子の病気に効く薬ができる。まぁ待っててくれ。おっと、そこのお嬢ちゃんはそっちのベッドで休ませてやれ」
 フィゲルに帰ってきたクリシュナらは、先に帰ってきた医者「キシャル」に言われるがままパルティナをベッドに寝かす。
 パルティナは顔色こそ少々悪いが、「すみません」と一言残してベッドに横になった。

 それから小一時間ほど経った頃、キシャルは出来上がった薬をもって現れた。
「出来上がったぞ。はやくそのお嬢ちゃんに飲ませてやれ」
「パルティナ、起きて、薬よ!」
 クリシュナがパルティナを抱き起すと、ルシアがゆっくりと薬を飲ませる。
「どう? パルティナ・・・」
 クリシュナはパルティナの様子を伺ってたところ、彼女の顔色が少し良くなったようにも見えた。
「まぁすぐには効かんが、もう少し横にさせてやれ」
 キシャルは自分の体の傷も気にせず奥に入ってしまった。
 クリシュナらもパルティナを横にさせると、ホッとしたのかルシア共々椅子に腰を下ろした。
「苦労した甲斐があったのかな?」
 ルシアはクリシュナにそうつぶやいた。
「ここまで苦労して効果がないって言われたら、私だってつらいわよ。でも、パルティナの様子は安定してるみたいだから、少しは良かったのかもね」
「姉様たちに苦労かけて心苦しいです」
「いいのよ。血を分けた姉妹なんだから。私たちはあんたがよくなることを願ってるのよ」
「あ、そうだ・・・」
 ルシアがやおら立ち上がりパルティナのそばに立つ。
「あん!」
「やっぱり大きい・・・」

 ゴン!

「あーんーたーはー! 何やってるの!」
「・・・・・・!」
 頭を押さえしゃがみ込むルシア。クリシュナのげんこつをもろに喰らったのだ。
「姉様! 誰と比べてるの⁉」
 そう、ルシアは横になっているパルティナの胸を揉んだので、クリシュナのきつい一発を喰らったのだ。
「いや、ルアがね、パルティナと温泉行ったときに大きいなって言ってたから。ルアの疑問に答えてやろうと・・・」
「そんな疑問はこたえんでいい!」
 そんな二人のやり取りを見てて、不意にパルティナは笑った。
「パルティナ・・・?」
 涙目でしゃがんでいるルシアがパルティナの方を見た。
「姉様らしいですね。それで、どっちが大きかったのかしら?」
「パールーティーナー・・・!」
「ルアより大きいわよ」

 ポカ!

 また小突かれるルシア。クリシュナもここまでくるとあきれ顔だ。
「そんなに乳揉みたいんなら、自分のでも揉んでたら?」
「いや、あたし揉むほど胸でかくないし・・・」
 ははは、ふふふと笑う姉と妹。ルシアも微笑むとキシャルが包帯まみれで戻ってきた。
「どうやら効いてきたようだな。その様子だと薬があってるようだ。ほれ1週間分の薬ができたぞ。もってけ!」
「あの・・・? お代は?」
「いらん! そんなもの。お嬢ちゃんの薬は特殊なんだ。金で買えるようなもんじゃない」
「え? いらないの?」
 ルシアがきょとんとした顔で医者を見る。
「そうよ、持ち合わせで足りないならすぐ持ってくるわよ」
 クリシュナはそう言ってネリスから渡された財布を出す。
「うちは正規の病院ではないんでね。金なんかもらったら取っ捕まるわ」
「あ、そういう事・・・」
 ルシアが納得すると、クリシュナも財布をひっこめた。
「まぁアンタが症状書いて送ってきたときから「これしかない!」って薬なんだ。うちは金のために病人診てるんじゃない」
「珍しい男だねぇ」
「そういうことだ。おとなしく薬を受け取れ」
「ではありがたく・・・」
「その薬で足りなかったらまた言ってくれ。あんたらが余分に取ってきた薬草がまだあるからな」
 そう言ってキシャルはまた奥へと帰って行った。
「パルティナ。起きれる? 帰るわよ」
「はい、姉様」

 1週間後

「もう薬はいらないと?」
「はい、もう血を吐くこともないし、体もすこぶる調子がいいのです。お医者様ももう大丈夫だと・・・」
「私たちが出張った甲斐があったか・・・」
 女所帯に訪れたパルティナが、クリシュナ、ルシアを前に微笑んでいた。
「・・・で、ルシア姉様。ルアには報告したの?」
「したよ。ルアが悔しがってたわ」
 紅茶を口にしながら悪びれずルシアが答えた。
「姉様、今度から本人が来るようにと・・・」

 ゴゴゴ・・・とパルティナの顔が赤らんでく。それを見たクリシュナは微笑んだパルティナの心境を読んだ。

「あーあ、パルティナが怒ったか。私しーらないっと・・・」
 そう言ってクリシュナは、紅茶をもって食堂へと退避した。
 そしてルシアは、パルティナに小一時間文句を言われるのであった。
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  by lywdee | 2017-01-17 10:36 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage197

 クリスマスも近づいてる冬の寒さが日ごと増すプロンテラ。今年ももう半月も過ぎれば年が変わるころになってきていた。
 そんな賑わいを見せるプロンテラの郊外に、クリシュナら女所帯がある。
「はぁ・・・、今年ももう半月で新年か・・・」
 紅茶を飲みながら窓の外を眺めるクリシュナがため息をついた。
「姉さん、それ去年も言ってたよ」
 居間で文献をあさるルシアが視線すら変えずそう言った。
「クリシュナ様、ルシア様。紅茶のおかわりをお持ちしました」
「ありがと、フレア」
「・・・で、どうなの? パルティナの病気に効く薬でも見つかったの? いっつもいっつも文献あさってるけどさ」
 紅茶のおかわりをもらいながら、クリシュナはルシアの対面に腰を下ろした。
 ルシアも耳にタコができるほど聞かされた言葉。本人も困惑顔で紅茶を口にした。
「こればっかりはねぇ・・・、パルティナをモルモットにするわけにもいかないし、あの子の主治医と話し合わなければなんとも・・・」
 お手上げ状態のルシアにため息一つつくクリシュナ。
 ルシアの文献あさりは今に始まったわけではないが、知識ばっかりついて肝心のパルティナの病気に効く薬に関しては、眉唾なものばかりで実際役に立つ薬の情報は少ないのが事実である。
 ただその恩恵がないわけではない。
 現にルシアが知識の宝庫になってることで、オートスペル型になったル・アージュの魔力が上がってるのも事実。決して無駄とは言えない。
「もう昼か・・・」
 やおら立ち上がるルシア。
「どこ行くのさね?」
「今日はパルティナと病院行く約束してるのよねぇ」
 文献を整理して、必要なものだけもって外に出るルシア。
「アスティナ、行くよ」
 ルシアは厩舎の九尾狐の鎖を外してそれにまたがる。アスティナはルシア専用の騎乗動物なのだ。

「パルティナ、なんか嬉しそうだな?」
「ええ、リンク兄様。今日はルシア姉様と病院に行くの」
「そうか、お前が病院の日なのにうれしそうなのはそういう事か・・・」
 嬉しそうに外出の準備をするパルティナにリンクは腰に両手をついてため息をついた。
 事実パルティナ一人の外出については、いつも悲しそうな顔をしてる妹が、嬉しそうにするのは姉ルシアの存在があるからなのだろう。
 リンクもたまに病院について行くことがあるのだが、その時もパルティナはうれしそうな顔を見せるので、リンク自身もできるだけ休暇申請をだしたり、妻に付き添わせてみたりと気を使っていたのだ。

 コンコン・・・。

「パルティナ、姉さんが来たみたいだぞ」
「はい、今開けます」
 ガチャっとドアを開けると、ルシアが「やほー」と家の中に入ってきた。
「リンク、少しパルティナを預かるわよ」
「それはいいけど・・・、どこに連れてくつもりですか?」
「ちょっと薬に詳しい医師がプロンテラの旅館にいるそうだから、ちょっと薬の配分とかを聞きにね・・・」
「あてになるんですか?」
「ちょっとね。噂じゃマミーの体調をよくしたって言う噂があるのよ。だからパルティナの病状をじかに診てもらって、薬の事聞きたいのよ。って、パルティナ、準備いい?」
「はい姉様」
「じゃあ行ってくるね」
 こうしてルシアとパルティナは、プロンテラの病院へと出かけて行った。

「あれから調子いいの? パルティナ」
「はい、でも完治までは遠いと・・・」
「まぁ無理すんじゃないよ」
 さしあたって特別な話もなく病院への道を歩く二人の目の前に、青髪のアークビショップが立ちはだかった。
「あら珍し・・・、リーナじゃない」
「パルティナ叔母さんと一緒ってことは、ルシア叔母さんも病院ですか?」
 突如現れたファ・リーナに足を止める二人。
「リーナこそ・・・、この道歩いてるってことはリンクの家にでも行くのかい?」
「はい。父から病院代の足しにしてくれと、お金を預かってきました」
「兄様らしいですね。姉様」
「そうだねぇ。直接くればいいものを・・・」
 微笑む妹に対してあきれ顔のルシア。大金を娘に預けるのは信頼してることだと理解できるが、強盗がでたらどうするのかとルシアは思った。
 まぁルシアにしてみれば、兄が姉に出会う偶然を考えれば直接行くことは喧嘩の要因になるんだろうということが目に見えている。
「リーナ。それは直接リンク兄様に渡しといてもらえる? 私達これから病院だから・・・」
「わかりました叔母様」
 こうしてリーナと別れたルシアらは病院へとまた歩き出した。

「ただいまーって、やっぱりか・・・」
 女所帯に帰ってきたル・アージュがそう言った。
「何がやっぱりなのさね?」
 クリシュナはソファーから立ち上がりル・アージュのそばへと歩いてきた。
「いや、厩舎にアスティナいなかったから、ルシア叔母さん出掛けたのかと・・・」
「ああ、ルシアならパルティナと病院行ったわよ」
 ふーんと聞き流したル・アージュは、フレアを呼び出し厩舎のドラゴンから氷を運び出した。
「ル・アージュ様にはいつもお手数をかけます」
 フレアは厨房の保存庫に氷を敷き詰めては肉を入れ直している。
「叔母さん早くよくなるといいね」
「そうだねぇ・・・」
 ル・アージュは氷を運び終えるとそのまま2階へと上がって行った。
 クリシュナとしても、立場上長女なのだからなんとかしてやりたいのだが、こればっかりは専門外なので、ルシアの文献あさりを止めることはできない。むしろそれがきっかけで妹の病状が収まることを祈ってる節もある。
「今度は私も行ってみるかねぇ・・・」
 ため息一つついてクリシュナは紅茶を飲み干した。

「姉様、今日はどうもありがとうございました」
「いいのよ別に・・・。またなんかあったらこっちから出向くわ」
 夕暮れに包まれたプロンテラの一角でパルティナは姉、ルシアに深々と頭を下げた。
 ルシアも、何の力にもなれなくてと肩を落としていた。
「それでは私、帰りますね。リンク兄様も心配してると思いますし・・・」
「うんそうしてやって、じゃあまたね」
 ルシアはワープポータルで帰る妹を見送ったのち、女所帯へと帰っていくのだった。

 ルシアが女所帯に帰ってきたときにはすでに日はどっぷりと落ちていた。
「ただいまー」
「おかえり。・・・で、どうだった?」
 クリシュナの言葉にルシアは首を横に振った。
「そうか、残念だわね」
「まぁそう肩を落とすんじゃない。紅茶でも飲んだら?」
「そうする」
 素直に紅茶を飲むルシアだったが、居間のソファーに腰かけた時、自分あての封書に目がいった。
「ああそれ、あんたが外出中に来た手紙よ。フィゲルからみたいだけど、なんか頼んだの?」
「うん、フィゲルにいるお医者さんなんだけど、病院じゃないけど処方に詳しい人がいるってことで、ちょっとコンタクト取れないかな? ってね」
「ほー、まだあてがあったとは・・・」
「できることはなんでもね。・・・てことよ」
 ペーパーナイフで封書を開け、ルシアは手紙を読み始めた。
「姉さん」
「何?」
「明日フィゲルに行くから付き合って」
「突飛だねぇ。パルティナの事?」
 突然の言葉にクリシュナはルシアの対面に座ると、ルシアは黙って頷いた。
「訳ありみたいだけど、付き合うわ」
 こうして、ルシアの文献あさりの副産物に期待しようと、クリシュナは二つ返事で返すのだった。
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  by lywdee | 2016-12-13 15:10 | Eternal Mirage | Comments(0)

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