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Eternal Mirage(210)

 季節は巡り、ハロウィンの後片付けに励む者も多いプロンテラの一角。「鍛冶屋街」と呼ばれるブラックスミス系が多い住宅街に男所帯はあった。
 この辺に住んでる鍛冶屋たちは、街の武器屋に卸す武器を製造する傍ら、こぞって製造する属性付き武器の仕上げに追われている。その分鍛冶屋街は連日のように鎚打つ響きに覆われている。無論、メカニック「セラフィー」も初心者向けの属性武器をたまに製造している。
 セラフィーが作る属性武器の多くは初心者でも扱える属性武器に星の欠片も含まれているので、威力の方は過剰精錬している分攻撃力には定評はある。ただ、本人は製造で飯食ってるわけではないのだが、家にルーンナイトの「白鳥」がいるおかげで、騎士団への武器調達なども兼務している。
 そこに住むアークビショップ「渚 レイ」も、大聖堂からの受注も少なくなく、初心者アコライトが修行の一環で鈍器を使っての鍛錬に励んでいるので、時々作っているのが星の欠片が二つ入った火属性の過剰チェインである。今はイズルードの近く、バイラン島でも使える風属性のチェインも並行して作っている。
 まぁそういったわけであり、男所帯はロイヤルガード「リューディー」が集めるエルニウムやレイドリックカードなどでも生計を立てているので、生活に困りはしなかった。
 今日はその中でも渚 レイにまつわる話でもしようか。

 渚 レイの朝は早い。
 セラフィーと交代で作る朝食や、朝の礼拝などもこなしている渚 レイ。料理も得意でその器用な手先で食事を作るのも上達している。時折大聖堂に転がり込む孤児たちの世話もしているので支援の仕事以外にも意外と多忙な毎日を送っている。
「刹那、今日はプリーストの支援でニブルヘイムですか?」
「ああ、退魔プリーストを目指す子たちが増えたからな。サンクチュアリやマグヌスエクソシズムの貼り方や、そのための資質を上げるための修行の仕方を1から教えなきゃいけない。手間だけが増えるさ」
「そうですか。頑張ってください」
 気の合う同期のアークビショップ「時津 刹那(ときつ せつな)」との会話をしながら渚 レイは一つ尋ねるのであった。
「刹那、私はもしかしたら大事な人ができるかもしれません。そうなると孤児たちの面倒も、支援プリーストの修練にも差し支えそうで悩んでいます。どうしたものでしょう?」
 それを聞いた時津 刹那は、「うーん」と悩みつつ一声かけた。
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「恋愛か? 私には縁がないがお前次第だろ?」
「そうですよね。愚問でした・・・」
「まぁそうなったら応援してやる。長い付き合いだからな」
 笑いながら刹那はそう答えた。
 午後からは交代のアークビショップが来たので渚 レイは男所帯に帰ることにした。
 とはいってもセラフィーに大聖堂からの受注品の目録を携えているので、また大聖堂に行くかもしれないと思っていた。
「セラフィーさん、いますか?」
「おお、おかえり。レイ、昼はできているから温めなおして食ってくれや。ってなんだ?」
「大聖堂からの目録です。多分製造依頼だと思いますが・・・」
 そう言って目録を手渡す渚 レイ。
「うーん・・・、風属性チェイン10本か・・・。数作るには鋼鉄が足らんな。ちょいとクリシュナさんのとこ行って石炭分けてもらうわ」
「そうですか。行ってらっしゃい」
 渚 レイはセラフィーを見送ると、厨房に置かれたチキンソテーを温めなおして遅い昼食をとるのであった。

 夕方、渚 レイはセラフィーの製造に協力していた。・・・と言っても少しでも製造の成功率を上げるためにグロリアなどで支援するだけであったが・・・。
「よし、とりあえず20本出来たか。あとは過剰だな」
「お手数かけます。ところでセラフィーさん、ルアさんのことどう思いますか?」
「突飛だな。ルアに惚れたのか?」
「わかりません。気にならないと言えば嘘になりますが、どう接したらいいかわからないもので・・・」
「へー・・・お前とルアか。いい組み合わせだと思うがな」
 真面目な顔でチェインを精錬するセラフィー。
「いいんじゃない。告白して付き合っちゃえよ?」
「そんな・・・、簡単に言ってくれますね」
「だっていい子じゃん、お前さんだってまんざらでもないんだろ? 誰かに取られちゃう前に自分からアピールすれよ」
「・・・」
「安心しろ。邪魔はしねーよ。自分が「好き」だと思うなら行動すれよ。じゃないと後で後悔してもしらないぞ?」
 チェインを精錬していたが、セラフィーは不意に渚 レイを見た。
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「ルアだけじゃない、女所帯の若い衆に身内感覚で付き合ってるからな。ルアにしたって、俺からしてみれば妹みたいなもんだ。特別な感情何てないわ」
 セラフィーはそう言うが、渚 レイにしてみれば深刻な問題ではないかと思っている。付き合いも長いし二人で狩りに行くのも一度きりってわけでもない。
 渚 レイは複雑な思いで自室へと戻るのであった。

「告白すれば? かぁ・・・」
 渚 レイはまだ薄明るい陽の光で目が覚めた。
(これが「恋」ってやつですか・・・)
 自分には縁のない話だろうと思っていた渚 レイであったが、日増しに大きくなるル・アージュへの想い。しかしながら渚 レイにも司祭としての立場もある。つらいところだ。
 その日は天気も良いので渚 レイは孤児たちを連れてプロンテラの南へ遠足に出かけることになった。もちろん一人では持て余すだろうと、他にも二人ほどシスターがついてきている。
 そして行きついた場所、それはよくル・アージュとともに語らったことのあるイズルード南の海岸線だ。
 孤児たちはそれぞれの水着を着て波打ち際で遊んでいる。そういう静かな光景を見るのが渚 レイの楽しみの一つでもある。
「ポリン叩いちゃダメよ。あぁー、クリーミーはもっとダメ!」
 シスター二人も、遊び盛りな子供たちの面倒で四苦八苦している。
「君たち、生き物はもっと大事にしなきゃ。むやみに傷つけるのはよくないですよ」
「はい! 司祭様」
 子供たちがまた波打ち際で遊ぶようになってから、渚 レイは少し離れた海岸線に腰を下ろした。
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(どうしたものかな・・・)
 海を見つめながら、渚 レイはふと笑うル・アージュの顔を思い出した。
「司祭様、そろそろ孤児院に戻りますわよ」
「はい、今行きます」
 すっと立ち上がり、渚 レイはワープポータルを開いた。
 子供たちとシスターが入っていく中、渚 レイは一人のシスターに「ちょっと一人になりたいので・・・」と告げ、一人プロンテラへと歩いて帰るのであった。

(ルアさんから見て、私はどう思われてるんだろう?)
 いろいろな思いが交錯する渚 レイの胸中。これが恋だという事には気づいていた。しかしル・アージュとの距離を考えると踏ん切りが中々つかなかった。
 そんなことを思っているうちに、いつのまにか渚 レイはプロンテラに戻ってきていた。
(子供たちにお菓子でも買って帰りましょうか・・・)
 気持ちを切り替えた渚 レイは、お菓子の売ってる店に行こうとして突如視界を奪われた。
「だーれだ?」
「カスミでしょ。声でわかりますよ」
「へへへ・・・」
 急に背後に立っていたのは、渚 レイの妹「渚 カスミ」であった。
「どうしたんですか? アマツでの契約はとっくに切れてるはずですが?」
「うん、それでね、お母さんの許可が取れたからプロンテラに住もうかな? って様子を見に来たの」
「そうですか。では一緒に家でも借りて住みますか?」
「冗談はやめてよ。私だって独り立ちしてるのよ」
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「お互い彼氏彼女できたら出てかなきゃいけないじゃない。だからお兄ちゃんとは暮らさないよ」
「そうですか、いや、そうですね」
 もう立派な女性になったのかと、渚 レイは少しうれしかった。
 子供の頃、あれだけ暴れまわっていた妹も成長したのだと、目の前の妹を見て時の流れを感じる渚 レイであった。

-その頃-

「あら? ルアちゃん、どうしたの?」
「パルティナ叔母さん、あのあとおやじどうなったのかなー? なんて思って・・・」
 プロンテラ大聖堂に来たル・アージュは、たまたま居合わせた叔母「パルティナ」にあの日の出来事がどうなったのか聞きに来ていた。
「兄様なら、お見合いは諦めて孫に期待するって言ってたわよ」
「ま、孫?!」
 突拍子もない言葉にル・アージュは固まった。
「孫も何も、どうしてそうなっちゃうわけ?!」
「兄様からしてみれば、男の子が欲しかったのでしょう。だからルアちゃんは諦めて、その子供に家を継がせるって言ってたわ」
「ははは」とあきれた笑い方をするル・アージュに、パルティナは優しく微笑んだ。
「ルアちゃん、なんか私はついでのように思うけど・・・」
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「大聖堂まで来たって事は、好きな子でもできたのかなって・・・?」
「そ!そそそそ、そんなわけじゃな、ないけど・・・」
「いいのよ。そんな照れなくても。若いんだから」
 顔が真っ赤になったル・アージュに優しく微笑むと、パルティナは奥へとひっそり消えてくのであった。
「もう! 叔母さんったら・・・」
「どうかしましたか?」
「ひっ?!」
 背後から不意に話しかけられたル・アージュは、背筋が凍る思いをしながら飛びのいた。
「れ、・・・レイさん?! 脅かさないでよ・・・」
「それはすいません」
 謝る渚 レイの顔を見ていたら、ル・アージュの脳裏にパルティナの「孫」という言葉が脳裏をよぎった。
「顔が真っ赤ですよ? 熱でもあるんじゃ・・・?」
「だだだだだだ、大丈夫です! な、なんでも・・・、なんでもないです!」
「そうですか・・・。私はてっきり私に会いに来たのかと・・・?」
「へ?」
「もちろん狩りにでも誘われるのかと・・・?」
 その台詞にル・アージュは思わず深呼吸した。
(よかった。気付かれてない。もー! 叔母さんったら、あんなこと言うから意識しちゃうじゃない!)
 ル・アージュはうつむいたまま深呼吸をする。
 そして意を決して渚 レイの顔を見るル・アージュ。
「レイさん、狩り行こ!」
「いいですよ。久しぶりですね」
 こうして二人は、新天地にむけて狩りに行くのであった。

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  by lywdee | 2017-11-14 11:10 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(209)

 木枯らし舞うプロンテラ。今年も街はハロウィンで盛り上がっていた。
 そんな中、祭りには似つかわしくないメカニック「セラフィー」は、カートを引きながらプロンテラ城前をゆっくり歩いていた。
「セラフィーさん!」
 背後からの声に気付いたセラフィーが振り返ると、これまたハロウィンには似つかわしくない鎧と竜の団体の中にル・アージュがいた。
「おー、ルアか。なんだ? 事件でもあったか?」
「違うよー。オートスペル型の新人のレクチャーでポートマラヤに行ってきたんだよ」
「へー・・・、部隊長ってやつか? ルアも偉くなったもんだ」
「へへへ、そんなことないよ」
 ル・アージュが照れ笑いするなか、一行はそのまま騎士団詰め所まで歩いて行くのであった。
「セラフィーさん、何の用で騎士団に?」
「仕事だよ。わりい、火もらえないか?」
「いいよー。ほら、火ぃ吐いて」
 ル・アージュの声に反応して、ドラゴンは空気を吸い一気に吐いた。
 その火に危険も熱も気にせずセラフィーは近づいてタバコに火をつける。
「ありがと」
「相変わらず恐れを知らないというか、火が怖くないというか・・・。セラフィーさんらしいね」
「火が怖くてメカニックなんかやっちゃいねーよ」
 笑いながら騎士団詰め所まで歩く一行。入り口までついて一旦セラフィーはル・アージュらと別れてカートを引っ張り詰め所に入った。
「すんませーん。団長殿はおられますか?」
「おー、待ちかねてたぞ。こっちだ」
「頼まれてた物資の一部ですが納品しにきました。確認してください」
「資材長、確認してくれ」
「団長! オートスペル部隊、遠征から帰還しました!」
 ル・アージュがそう叫ぶとほぼ同時に、騎士団資材長は団長に「確認できました。過剰ブリューナク確かに10本あります」と声をかけていた。
「過剰ブリューナク?」とル・アージュ。
 騎士団長はル・アージュらが帰還したのを見て、近くに寄れとばかりにル・アージュらを手招きした。
「ル・アージュ卿も持参しているようだが、オートスペル部隊に配給するブリューナクだ。諸君らもル・アージュ卿のヒールは受けたはずだ。城から予算が出たのでな、オートスペル部隊に配給するため、民間の精錬工に発注していたのだよ」
「へー・・・」
「オートスペル型ルーンナイト諸君らはル・アージュ卿のデータをもとに、生還率上昇の為ヒールを使えるようにしないとな」
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「確かに納品しました。残りの武防具に関しては供給が追い付いてないんでね、私としては露店から購入することをお勧めします。一応こちらでも用意はしますが時間かかりますよ?」
「そうだな。現状の部隊には前回手配したもので間に合ってる。では代金は追ってそちらの工房に持っていかせる。ご苦労だったな」
「ではサインを・・・」
「うむ」
 セラフィーは契約書と納品書に納品のサインを受け取り騎士団を後にした。
「ではル・アージュ卿、報告を聞こうか・・・」

-昼下がり-

「アレスがルアを連れて来いだって? 何考えてんだあいつ・・・」
 女所帯の主クリシュナは、ファ・リーナの言葉に苦虫をかみしめたような顔でつぶやいた。
「細かいことは聞かされていませんわ。お父様はここ数日写真を見ながら悩んでた様子でしたよ」とファリーナ。
「まー兄さんの事だから、ルアを連れてったらまず喧嘩になるわね」
 紅茶を飲みながら居間のソファーでくつろぐルシアが言った。
 クリシュナも何やら考えているようだが、少なからず悪い予感はしていた。
「娘のリーナにも知らせてないなんて、何かあるわね」
 腕を組んで考えてるクリシュナは、ぽんと手のひらにこぶしを当ててネリスを呼んだ。
「なぁに? 伯母さん」
「これからリンクとパルティナの所に行って急いで実家に帰るよう言ってくれない?」
「いいよー。行ってきまーす」
「さて・・・、アレスのやつ、どう出るか・・・」
「何の話?」
 ネリスと入れ違いで帰ってきたル・アージュ。居間のファ・リーナに気付いて手を振る。
「ルア、悪いんだけど実家に行くよ」
「え?! 嫌よ! 親父の顔なんて見たくないわ!」
「安心して、あんた一人帰すわけじゃない。安心して」
「むー・・・、伯母さんがそう言うなら、考えないわけではないけど・・・」
 いぶかしげるル・アージュは、ファ・リーナの隣に腰を下ろす。
「お姉ちゃん、なんで今頃おやじから連絡入れてくるのさ?」
「ごめんねぇルア、私も連れて来いとしか言われてないの」
 その言葉にル・アージュは嫌な予感しかなかった。
「ルシア、あんたも来るのよ」
「へーい」
 クリシュナの言葉にいやいや立ち上がるルシア。
「フレア、留守をよろしく」
「かしこまりました」
 そうして女所帯からクリシュナ、ルシア、そしてファ・リーナとル・アージュの4人は実家たるシャナ家に向かうのであった。

-小一時間後-

「あー・・・、やだなぁ、うち帰るの・・・」
「ルア、それ10回目」
 ル・アージュとファ・リーナは揃ってクリシュナの後を歩いている。
 ル・アージュにしてみれば、年始の挨拶ぐらいしか帰ってないここ数年。できるだけ親の顔はみたくないと思っていた。
 15歳で家を出て、考えてみればもう十数年。祖母と母とファ・リーナがいるからこそ年始は帰っていたが、ル・アージュにしてみれば半分勘当されたも同然の家に帰るのだから、気が重くて仕方なかった。
 その実家とも言うシャナ家はプロンテラの高級住宅街にはいるのだが、実家に近づくにつれ、ル・アージュの足は重くなるのであった。
「姉さん! 急用ってなんだい?」
「ああリンク、パルティナ、悪いね、あんた達まで巻き込んで・・・」
 実家を前にして、リンク、パルティナ、ネイにネリスの4人はクリシュナが来るのを待っていた。
「ルアがピンチなんでしょ? 伯母さん」
「ネイは察しがいいねぇ」
 パルティナの背後から顔をのぞかせたネイ。
 大事になってしまったがシャナ家にクリシュナを先頭に入っていく。
「やっと帰ってきたか! この親不孝者!」
「アレス・・・、姉にむかってよくそんなことが言えるわね?」
 クリシュナは平静を装っていたが握り拳がプルプルと震えていた。
「なんでクリシュナが! リンクにパルティナまで・・・」
「ほう? 姉を呼び捨てにするなんて、ずいぶん偉くなったわねぇアレスちゃん」
「くっ・・・!」
「上がらせてもらうよ? いいわね!」
 玄関での雑言もそのままに、一行はシャナ家に入った。

「で、父さん、なんで私なんかが呼び出されるのさ?」
 いやいや帰ってきたル・アージュは、居間に連れて行かれソファーに座って待てと言われた。
 他の保護者一同は、そのル・アージュの後やら横に立ち、アレスの一挙一動を見つめていた。
「お前にはこのままここにいてお見合いを受けてもらう」
「はぁ!?」
「ここ十数年自由にさせてやったんだ、いい加減帰って身を固めろ」
「じょ、冗談じゃないわよ! 見合いなんて、何勝手に決めてるのさ!」
(こんな事だと思ったわ・・・)
 クリシュナがため息を漏らす。
「私は見合いなんかしないわよ!」
「親不孝も大概にしろ! お前のおかげで何年迷惑をかければ気が済む!」
「勝手に迷惑がってるのは兄さんだけでしょ?」
「ルシアは黙ってろ! これはうちの問題だ!」
 ルシアもその一言にカチンときたのか、苦虫をかみしめたような顔で言葉を飲んだ。
 パルティナもアレスを落ち着かせようとするが、アレスの言葉は続いた。
「騎士になって家を継ぐ気になったかと思えば、年始しか帰らずに帰ってきても人の話を聞かず出ていく。そんな身勝手をいつまで続けるんだ! 今更見合いもうけないだと? どこまで父親の顔に泥を塗り続ければ気が済むんだ!」
「私は父さんみたくならない! 家の事とか、将来の事まで決めつけられるなんて、まっぴらごめんよ!」
「なんだと! 親が娘の将来考えなくてどうする! いつまでも子供じみた事を言うな!」
「それが迷惑だって言ってるでしょ! 私の道は私が決めるわ!」
 毅然とした態度で言い放ったル・アージュだが、目にはうっすらと涙を見せる。
 クリシュナら兄弟もアレスの言動を聞き捨てず、なんとか落ち着かせようとしてるがそれでもアレスの気持ちは静まらない。
 するとル・アージュはゆっくりと立ち上がった。
「もういい、わかった・・・」
「わかってくれたか」
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「私はあんたの人形なんかじゃない! 自分の道は自分で決める!」
「な! 待て! ルア!」
 ル・アージュは顔を伏せたまま家を飛び出した。
 そしてシュナ家の居間にしばし沈黙が流れた。
「アレス・・・、あんた最低だわ」
「そうよ兄さん、言いすぎよ」
 クリシュナとルシアはアレスの対面に腰を下ろして言い放った。
「何を言う、お前たちには家の事をとやかく言う資格なんぞないだろ。私は家長として家を守らなければならない義務がある」
「さっきルアに言った事、リーナにも言えるの?」とクリシュナ。
「・・・」
「兄さん、口げんかで私に勝てると本気で思ってる?」とルシア。
「・・・」
 何も言えなくなったアレスは、ゆっくり腰をおろしてため息をついた。
「リンク、パルティナ、お前達も同意見なのか?」
「兄さん、男親の立場としてはよくわからない。けど子供の意見を尊重せず頭ごなしに言うのは問題ありだと思うよ」
「そうです兄様。ルアちゃんのことを思うのはわかります。でも、親の一存で子供の未来を閉ざしてしまうのはいけませんわ」
 しばらく沈黙が続いたかと思えば、アレスは一人書斎へとむかっていく。
「すまん、一人にさせてくれ」

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
 ル・アージュは零れ落ちる涙も拭かずに走っていた。
 目的地なんぞなかった。ただプロンテラから離れたかった。

 ドン!

「すいません!」
 走りながら通りすがりのアークビショップにぶつかるル・アージュ。そのまま顔を上げることもなく走り去っていく。
(あれは・・・?)
 今のル・アージュには街の雑音など耳に入らなかった。ただ遠くに行きたい、その一念でプロンテラの南門をくぐって街の外に出ていった。
(もう嫌だ・・・、帰りたくない)
 立ち止まることもなくプロンテラから南下していくル・アージュ。
 零れ落ちる涙も拭くこともなく、ただ走っていくだけだった。
 それからどれくらい経っただろうか。ル・アージュはイズルードよりも南にある砂漠にほど近い海岸線のあたりでようやく走ることをやめた。
 はずむ息を抑えることもなくル・アージュは一人泣いた。
 膝を抱え顔をうずめ、あふれる涙を止めようとしなかった。
 それからしばらく時がたち、ル・アージュの隣に一人のアークビショップが現れた。
「やっぱり・・・、ル・アージュさんでしたか」
「レイさん?」
「なんとなくですが」
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「ここにきてるんじゃないか? って・・・」
 そう言うと渚 レイはル・アージュにハンカチを差し出した。
「どうしてここに・・・?」
 ル・アージュはハンカチで涙を拭きながら、渚 レイに背を向けた。
「街でぶつかったときに泣いてましたからね、何かあるなと思い追いかけてしまいました」
「でもどうしてこんな短時間にこの場所に?」
「以前・・・と言ってもかなり古い記憶ですが、ロードナイト時代のあなたがよくここで海を見ていたなと思い出しまして、勝手ではありますが追いかけさせてもらいました」
 笑顔で答える渚 レイの言葉にル・アージュは振り向いた。
「愚痴でもなんでも聞かせてください、こう見えても司祭ですから、お悩みぐらい聞きますよ。もちろん他人には話しませんから・・・」
「ありがと・・・」
 そう言ってハンカチを返すル・アージュ。
「レイさん、どうしても分かり合えない親を持つ子の気持ちなんてわからないよね?」
「はい。わかりませんね。私は父なし子ですから」
「え?」
「驚きましたか?」
 レイの言葉にあごを上下するル・アージュ。
「それでも司祭になって孤児の面倒も見ることになって、また、ル・アージュさんと狩りに行ったりして楽しかったですから、こんな風に楽しく過ごさせてもらってます」
「寂しくないの?」
「はい」
 渚 レイは物静かに話を続ける。
「親はなくとも子は育つと言いますしね。家族なんて十人十色ですよ? いがみ合うばっかりでもなく、放っておくこともなく、慣れ合うだけでもなく、ですよ」
「いいなぁ。そういう風に思えて・・・」
「ル・アージュさんに護衛してもらった記憶も、私にとっては大事な思い出です。あなたがいなければ、私はプリーストのままでそれだけの関係だけだったとしか思えませんからね」
「私も、騎士のままだったかもしれないね」
「出会いは人それぞれ・・・、すべてが悪いわけではありません。大事なのは、それを受け入れてどう生かすか。・・・ですよ」
 渚 レイと話していて気が楽になったのか、ル・アージュの顔も少しやわらかになっていく。
 ル・アージュも、いつからか笑うようにもなった。
 それから二人は海を眺めながら雑談に興じた。
「レイさん」
「なんでしょう? ル・アージュさん」
「短い付き合いじゃないんだから、私の事、ルアって呼んでくれない? いつまでも他人行儀みたいにさん付けしなくてもいいじゃない」
「そうですね。ルアさん」
「もー・・・、さん付けしないでって言ったばかりなのに・・・」
「すいません。こんな話し方が私なので・・・」
 二人は声に出して笑った。
 いつしか日は落ちて夕暮れも終わりに近い時間になっていた。
「帰りましょうか?」
「うん。いい加減帰らないと伯母さんに怒られちゃうからね」
「そうですね。どうです? 気は収まりましたか?」
「正直わかんない。でも帰ってどんな顔をすればいいのか・・・」
「笑顔が一番ですよ。私もルアさんの笑顔は好きですから」
 笑顔で返す、不意の渚 レイの言葉に、ル・アージュはちょっとだけ顔が熱くなった。
「あのー、レイさん」
「なんでしょ?」
「ううん、なんでもない。帰ろ!」
 ル・アージュが立ち上がると、渚 レイは立ち上がりワープポータルを出した。二人はその光の柱に飛び込み一瞬にして男所帯の前に降り立った。
「レイさん今日はありがと。おかげで少し楽になった」
「そうですか。それは何よりです」
「じゃ、帰るね」
「お気をつけて・・・」

「ただいまー」
 女所帯のドアを開くル・アージュ。
「おかえり」
 女所帯の住人すべてが食堂でル・アージュの帰りを待っていた。その表情からは日中の出来事があったときよりも明るい。
「ルア、安心しなさい。見合いは破談、アレスのやつにはルシアとパルティナの二人が説教したから」
「ほんと?! ありがとルシア叔母さん」
「これでしばらくは兄さんもおとなしくなるでしょ」
 ハハハと笑うクリシュナとルシアの二人につられて笑うル・アージュ。
「それと、ルアはこのままうちにいて好きにしなさいってさ」
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「ほんと! じゃあクリシュナ伯母さん。これからもよろしくね」

 こうして、ル・アージュはまた変わらない女所帯の日常に戻るのであった。

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  by lywdee | 2017-10-31 15:58 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(208)

 季節は夏から秋へと移り変わり、もうじきハロウィンが始まるであろう世界の端くれ、ポートマラヤでも祭り一色になり始めていた。
 そんな中、ルーンナイト「ル・アージュ」はソーサラー「ルシア」とともにバリオフォレストにいた。
「さぁ、課題の成果をみせてもらいましょか」
「うん、まずはどうすればいい?」
「そうねぇ、時間測りたいからまずはエンチャントブレードなしで戦ってもらうか」
「はーい」
 ルシアに言われるままル・アージュは、オーラブレードとコンセントレーションだけ発動してブギスギス1匹を相手に戦い始める。
 途中オートスペルの発動があったがそれでも無傷でブギスギスを倒す。
「約1分か・・・、じゃあ次はエンチャントブレード発動させて」
「はーい」
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 ル・アージュは言われるままエンチャントブレードを発動させてまたブギスギスと戦う。
「ふーん、約30秒か。ASの発動率もまぁまぁだし、魔力が上がってるからエンチャントブレードの効果もバカにならないわね」
「叔母さん、今度はどうする?」
「そうねぇ・・・、ものは試しで支援してあげる。それで戦ってみて」
「支援・・・?」
 いぶかしげるル・アージュに近づくルシア。懐からはレッドブラッドを一つ取り出す。
「フレイムランチャー! ストライキング! はいこれで戦って」
 ルシアが支援という名の付与をかけて、ル・アージュをもう一度ブギスギスに対面させる。
 そしてル・アージュが戦い始めると同時に、ルシアは「ボルケーノ!」と火属性の力場を発生させた。
「これで20秒弱か・・・、まぁまぁね。これでアークビショップの支援の25%ぐらいの差か・・・。ふむふむ・・・」
 ルシアはル・アージュの戦いを分析しながらもなにかメモを取り始める。
「今度は兄さん呼び出して素のルーンナイトの攻撃力見なきゃね」
「え? 親父呼ぶの・・・?」
「安心しなさい、ルアは一緒じゃないから喧嘩することもないでしょ?」
「だったらいいけど・・・」
 そうこう言いながら二人は1時間ほどバリオフォレストにいた。
 ルシアはル・アージュの戦闘を分析しながらブツブツといいなにやらメモを取り続ける。
「よし、ルアの戦果はこんなものね。あとは素のルーンナイトの戦果見なけりゃ対象になるものがない。兄さんはオートスペル型じゃないんでしょ?」
「たぶんね」
「だったらパルティナ連れて行くって言えば兄さんも断れないはず。今度連れ出そう」
 ル・アージュはブツブツとつぶやくルシアを見て、ただ単に知的好奇心を埋めようとしてるだけだと思った。

 プロンテラに帰ると、ル・アージュはルシアと別れた。騎士団への報告があるからだ。
 一応ル・アージュの所属は遊撃部隊で、冒険者としての一面が強いがそこは自由さが売りの部隊だ。もちろん騎士団への登録はされているので、有事の際は騎士団の管轄にはいる。そのため大規模作戦や密偵ということになれば断れない立場は否めない。
 まぁそんな大事は滅多にないが、ル・アージュは一応いつ呼ばれてもいいように鍛えてはいる。
 今回の調査というか検証に至っては、ルシアが騎士団に直接出向いてル・アージュを連れてくと断っての旅だった。
 そしてル・アージュが騎士団詰め所での報告を済ませて女所帯に帰る道のり、プロンテラ城の手前で今まさにグリフォンで飛びだとうとしてる銀髪のロイヤルガードの姿を見た。
(あれってもしかして・・・?)
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「あら、ルア、奇遇ね」
「やっぱヴァーシュか。今日は一人?」
「うん。りゅーさんなら今日は新人パラディンの指導でグラストヘイムよ」
「グランドクロス部隊かな?」
「たぶんね」
 二人はそのまま並走して女所帯に帰ろうとする。すると、女所帯の前でワープポータルの残光が立ち上っていることに気付く。
「あらお二人さん、今帰ってもお昼ご飯ないよ?」
「どうゆうこと? クリシュナ伯母さん」
「フレアが風邪ひいちゃってね、お昼は街で食べてきたのさね」
「ネリスも?」
「うん」
 ワープポータルから出てきたのはクリシュナだけでなくネリスも一緒だった。どうやら二人で食事してきたらしい。
「ルシア叔母さんは?」
「今頃どっかでご飯食べてんじゃない?」
 クリシュナはそう言うと、ネリスとともに女所帯に入っていく。
「あんたたち二人もどっかで食事しときなさい。晩御飯はルシアが作るみたいだから、その辺考えてお昼食べてきなさい」
「ハーイ」
 ル・アージュとヴァーシュは、厩舎にドラゴンとグリフォンをつなぎ、二人でプロンテラ市街へと歩き出した。
「フフフ、ルアと外食なんていつ以来だろうね?」
「そうだね。ご飯はいつもフレアさんが作ってたからねぇ・・・」
 二人は何気ない会話をしながらプロンテラ市街につく。
「何食べる?」
「うーん、なにか軽いものがいいかな? ルシア叔母さんなら肉料理だろうから、軽いものが食べたい」
「じゃあ、そこのバーにでも入ろっか?」
 とりとめのない会話の後、二人は酒場に入った。
 すると二人の背後にいきなり現れる女性が声をかけてきた。
「あらお二人さん。奇遇ね、これからお昼?」
「ネイ姉さん! いつの間に・・・?」
「これでもギロチンクロスだからね、癖で気配消しちゃうのよねぇ・・・」
 照れ笑いをするネイ。
「私も今からご飯なんだ。一緒にどう?」
「いいですよ。ネイ姉さんとのご飯なんて滅多にないから」
               
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「よし! 何食べる? お姉さんがおごって差し上げよう」
「え? いいんですか?」
「お給料はいったはいいけど、使い道ないのよねぇ」
「ではありがたくいただきます」
 こうして3人での昼食となったのだが、会話はもっぱら狩りの話や仕事の話だった。

 3人がご飯を食べ終えても話はまだ続いていた。
 年始以外滅多に会わないネイだから、妹の話や最近の女所帯の話は新鮮だった。
「え? ヴァーシュ、彼氏できたの?!」
「彼氏だなんて・・・、そんな・・・」
 照れたヴァーシュは、槍の代わりにフォークを片手でクルクルと回している。
「へー・・・羨ましいわね、私なんて出会いそのものがないわ」
「ネイ姉さんもですか? 姉さんもスタイルいいし、引く手あまたかと思った」
「だって、出会いって言ったってみんなアサシン系よ? 影で何してるかわかんないわよ」
 笑いながらお酒を飲むネイ。その言葉に力なく「ハハハ・・・」と答えるヴァーシュとル・アージュ。
 そんなやり取りを小一時間と時は流れ、3人は女所帯にきた。
「お姉ちゃんお酒くさーい」
「ネリスー、お酒は大人のたしなみよー」
 ネリスに絡むネイの姿は、中年の男が娘に絡むような感じに見えた。
「ネリス、ネイを家まで送ってやんな」
 クリシュナが言うと、居間にいたルシアが「私が連れてく」と言って立ち上がった。
 そしてネイの首根っこをつかむと、ずるずると引きづって女所帯を出ていった。

 その夜の事・・・

「なんで! なんでなの! ポリンの数が減らない!」
 ル・アージュは草原いっぱいのポリンに囲まれていた。
 斬っては分裂するポリン。ル・アージュは囲まれないようにイグニッションブレイクを仕掛けても、倒すどころかどんどん分裂していく。
「ポリンが! ポリンがぁ・・・!」
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 大量のポリンが一斉に襲ってきてタコ殴りに合うル・アージュ。
 次の瞬間、大量のポリンに押しつぶされるところでガバッと・・・と目覚めた。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・、夢?」
 真夜中に目覚めたル・アージュ。
(私・・・、ポリンに何かしたっけ?)
 夢で起きた出来事に、記憶を辿るル・アージュだったが、身に覚えのない出来事だから理解に苦しんだ。
 ベッドから立ち上がってカーテンを開けるル・アージュ。外はうっすらと明るくなってきている。どうやら早朝のようだ。
(変な夢・・・)

(ネイ姉さん綺麗だったなぁ・・・。私も髪伸ばそうかしら・・・)

 二度寝しようとしたル・アージュだったが、先ほどの悪夢が気になるのか、寝ることのできないル・アージュだった。

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  by lywdee | 2017-10-10 12:34 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(207)

 季節は夏から秋へと変わり、過ごしやすい気温になってきたプロンテラ。
 その城下町を飛ぶ二匹のグリフォン。ロイヤルガードのリューディーとヴァーシュである。
「よし、噴水の前で小休止だ」
 リューディーの一言に頷くヴァーシュ。二人はグリフォンを操り、プロンテラ中央の噴水までおりてきた。
 二人がグリフォンから降りると、二匹のグリフォンは噴水の水を飲み始める。その光景を見ていたヴァーシュは流れるような銀髪をなびかせ、黙ってグリフォンを見ているリューディーの横顔を見つめていた。
 二人は何を話すわけでもなくベンチに腰を下ろすとそこへ、小さな男の子を連れた女性が、男の子に引っ張られるまま噴水の前に来た。
「わー、ぐりふぉんだー」
「これ! 聖騎士様の邪魔になるでしょ!」
「いいですよ別に、うちのグリフォンはおとなしいですから。ロット、いつまでも水飲んでないで撫でさせてやれ」
 リューディーがそう言うと、彼のグリフォンは振り向き、男の子の前で伏せるのだった。
「わー、ふっさふさー」
「すいません、この子のために・・・」
(りゅーさん優しいなぁ・・・)
 男の子はグリフォンに抱き着いたり頭をなでたりして満足したのか、母親と一緒に手を振り噴水から離れていく。
 リューディーは手を振り応えるとやおら立ち上がりグリフォンにまたがる。
「そろそろ衣替えの時期だろ? お前のとこの衣替えが近づいたら言ってくれ。暇にしてやる」
「そんな・・・、無理に合わせなくてもいいですよ」
「そうか? 私は別にかまわんが・・・。それより、12月かららしいぞ。女性だけの部隊作るって話題が本気になるのは」
「え?」
「なんだ、聞いてないのか? 前々から話題にはなってるだろ? お偉いさんたちは男女混合の遊撃部隊から何人かの女性騎士をまとめて再編成するらしい。セクハラを訴える女性騎士も多いらしいからな」
「そうですか・・・」
 ヴァーシュは何故か胸の前でこぶしを握る。何故かはわからないが、胸のあたりが苦しく感じられた。
「お前さんもいつまでも私にくっつけられるのもなんだろ? お互い冒険者として扱いを受けてるとはいえ、女性としての悩みもあるだろ」
「私は・・・別に・・・ゴニョゴニョ・・・」
 視線を外して口ごもるヴァーシュ。リューディーはそれを見てため息をついた。
「私も遊撃部隊の部隊長やらされてるが、城のお偉いさんは冒険者のまま階級をくれるような口ぶりだ。前より自由に動ける機会は減るだろうな」
「私もですか?」
「たぶんな。だからいつでも言ってくれ」
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「私が師団長に推薦してやる」
「そんな・・・、私なんかが師団長なんて・・・」
「その気がないならしばらくは私にくっつけられるぞ? 遊撃部隊にはそれなりの権限というか、自由があるからな」
「りゅーさんは、私と一緒じゃ嫌なんですか?」
 ヴァーシュは張り裂けそうな胸の内をかかえてリューディーに尋ねた。
「そうは言ってないが、男と組んでるとそれなりの不便さはあるだろ? 現に私だって・・・、いや、なんでもない。それより報告だ。城に急ぐぞ」
「はい・・・」
 こうして二人はプロンテラ城へとグリフォンを飛ばした。
 道中ヴァーシュは、うつむいたままリューディーの後を追う。
(なんだろこの気持ち・・・、わからない)
 自身に目覚め始めた気持ちがヴァーシュを苦しめる。
 理由もわからぬ胸騒ぎが、このあと理解するまでそう時間はかからなかった。

「ごちそう様・・・」
「はいって・・・、どうしたのヴァーシュ? そんなにご飯残して・・・」
「食欲がわかないんです・・・」
 夕食時、ヴァーシュは夕ご飯を残して自室へと帰る。

 パタン

(なんだろこの気持ち・・・? 私・・・、どうかしちゃったのかな?)
 答えの出ない気持ちを抱き、ヴァーシュは鎧を脱いで部屋着になり、バサっとベッドに寝転んだ。
 それまでなんとも思わなかったリューディーとの行動。だが、改めて考えると2年もずっとリューディーの部隊の一員として扱われていたのが、急に師団長へと推薦すると言われ、何かが狂い始めた。
 師団長への推薦の件は過去に何度か言われている。そのときは冗談だと聞き流してきたが、今回は少し本気な気がした。
 ヴァーシュは、自信に芽生えた不思議で不安な思いを理解できぬまま、そのまま眠りにつくのであった。

-翌日-

「今日は警護任務だ。いつもどおり二人での行動になる」
「はい・・・」
 朝から悶々とした気持ちのままヴァーシュはリューディーの後を追った。
 今日の任務はロイヤルガード西方方面部隊長の護衛である。最近になってグラストヘイムで冒険者が倒され続けるという問題が発生して、騎士団か聖騎士団のどちらかを調査に送るということになり、その部隊長を警護するという特別な任務を与えられたのだ。
「どうしたヴァーシュ、顔色が悪いぞ」
「大丈夫です! なんでもありません」
「そうか・・・? ならいいんだが・・・」
 ゲフェンからグリフォンを飛ばしてグラストヘイムへ向かう道中、リューディーはヴァーシュの様子が変だと感じたが、任務中であるため先を急いだ。
 グラストヘイムにたどり着くと部隊長は城と呼ばれる建物の前で勢ぞろいしている考古学者たちと話を始めていた。
 そのあいだリューディーとヴァーシュは、部隊長に言われるがまま周囲の状況を確認するため別行動になった。
(どうしたんだろ? 私・・・)
 心なくグラストヘイム内を歩くヴァーシュ。そんな心境でさまよっていたためか、ヴァーシュは背後から迫る気配を感じられずにいた。
 そしてそのまま迫りくるものの気配が放つ殺気に気付くのが遅れた。
(え?! 深淵の騎士?)
 近づきすぎて反撃の態勢も後退することもできないまま、ヴァーシュは深淵の騎士が放つブランディッシュスピアを間近で受けてしまった。
(殺される!)
 グリフォンから離され、武器も落としてしまったヴァーシュに迫る深淵の騎士。
 だが次の瞬間ヴァーシュの目の前に空から飛びこむ一つの影が光を放った。
「グランドクロス!」
 その影はリューディーだった。
 リューディーの放つグランドクロスで深淵の騎士は倒されたが、同時にリューディーも、深淵の騎士の刃を受けただけではなく、高所から飛び降りたことによる足が骨折してしまった。
「迂闊だぞ、ヴァーシュ・・・」
「りゅーさん! りゅーさん!!」
「このバカたれが・・・」

 結局のところ、調査に出ていた部隊長も収穫のないまま、リューディー達はプロンテラに帰るのであった。
 そのまま休暇を与えられた二人、リューディーは自己ヒールで回復したからいいものの、ヴァーシュは自宅でベッドに顔をうずめて泣いていた。
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(嫌われた・・・、絶対嫌われた・・・!)
 ヴァーシュは初めて抱いた気持ちが何だったのかを、今はっきりと理解した。
(バカだ・・・、私はバカだ・・・。師団長のことだって、部隊編成のことだって・・・、離れたくなかっただけだったんだ)
 シーツにどんどん染みていく涙。ヴァーシュは深く顔をうずめ、嗚咽が響かないよう、音をたてぬように泣いた。
(りゅーさんのことが・・・、好きだったんだ・・・!)
 ヴァーシュは今、はっきりとリューディーに恋心を抱いてたことに気付いた。
 同時にそれを理解すると、涙があふれて止まらなかった。
(もう合わす顔がないよぉ・・・。どんな顔して合えばいいのさ?)
 ヴァーシュはもう何が何だか分からなくなってきた。自分のせいで傷ついたリューディーに謝ることもできず帰ってきてしまった。それがよけいにヴァーシュの心を傷つけていく。


 その頃男所帯では・・・。

「セラフィー・・・、自分のせいで女の子泣かせたことはあるか?」
「なんだ改まって?」
 リューディーは、工房で鋼鉄を作っているセラフィーに問いかけた。
「俺に惚れてる女の子なんていないさ」
「そうか・・・。私は、泣かせてしまった・・・」
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「深く考えすぎじゃね?」
「そうだろうか? 私にはわからない・・・」
「とりあえず謹慎中なんだろ? だったら行動すればいいんじゃね。お互い話し合わないと分かり合えるもんもわからんだろ?」
「今は・・・、そんな気にはなれない」
 振り向き自分の部屋に戻るリューディー。
「ふーん、俺にはお似合いのカップルだと思うんだけどなぁ」
 誰もいない工房で独り言ちるセラフィーだった。

 その夜

 コンコン・・・

「リューディー、少しいいか?」
「旦那か? 開いてるよ」

 ギィ・・・

「ヴァーシュを泣かせたそうだな?」
「セラフィーが言ったのか? すまない、旦那に迷惑かけそうだわ」
「事実ならしかたない。ヴァーシュももう年頃の女の子だ。今更おやじ面して何言えばいいのかもわからない」
「面目次第もないよ」
 白鳥は椅子に座ると、リューディーの顔をじっと見て何か考え事を始めた。
 リューディーにしてみれば気まずさ満点なのだが、自分がしたことが間違ってるとか、どうすればよかったのかさえ分からなかった。
「お前なら、娘を任せてもいいと思ったんだがな・・・」
「私がか? 冗談はよしてくれ。こんな不器用、誰が好きになる?」
「そう言うな。これでも既婚者だ。そんな経験何度もしてるよ」
「旦那ぁ?」
「そんな経験できるのはまだ若いってことだ。それで率直に聞く」
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「お前は、私の娘をどうしたいんだ?」
「・・・」
 黙り込むリューディーの言葉を待つように、白鳥は黙ってリューディーの目を見た。
 リューディーはため息一つこぼして「はぁ・・・」と息を吐いた。
「旦那だから正直に言う。私はヴァーシュを女として見ている。悪く取らんでくれ、ただ、優しいし綺麗だし、そのままだと任務に支障をきたしかねん。でも、それが彼女のためになるかがわからない」
「ふむ・・・。だから距離を置こうとして師団長に推薦してやるって言いたいのか?」
「旦那、どこでそれを?」
「たまたま仕事でプロンテラ内の警護をしていてな。悪いと思ったが立ち聞きしてしまった」
「はぁ・・・、まぁ、その・・・、なんだ・・・。これ以上コンビで任務を与えられたら本当に惚れそうになる。そうなったら遅い気がして、ヴァーシュを遠ざけようとしたのは事実だ」
「なるほどな。ヴァーシュが惚れるのがよくわかる。これでも父親だからな、娘の顔色みれば想像がつく」
「すいません」
「謝るな。私も、お前さんだったら娘を嫁に出してもいいと思ってる。それだけ付き合いが長いってこともあるがな」
 白鳥は微笑むと立ち上がりドアの前に立った。
「娘を幸せにしてやってくれ。ここから先はお前さん次第だ」
 そういって白鳥は出ていくのであった。
(私なんかにヴァーシュを幸せにしてやれるのか?)
 リューディーは窓を開けて暮れ行く空を見つめるのだった。

 翌朝リューディーはプロンテラ南の平原に呼び出された。
「ヴァーシュ、改まってなんだ?」
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「私、りゅーさんが好きなんです!」
 突然の告白。ヴァーシュは今にも泣きそうな顔をしている。
「嫌われたかもしれない。それでも私の気持ちを伝えずにはいられなかった」
 ヴァーシュの言葉にリューディーは少し戸惑った。まさまヴァーシュも同じ気持ちだったなんて想像もつかなかったからだ。
「本気・・・なんだな?」
「はい、これで振られたら私も決心つきます」
 ヴァーシュが本気で自分の事を好きだと言ったのが鈍感なリューディーでもわかる。
 それだけ自分がヴァーシュを追い込んでいたことが悔やまれる。
「私でいいんだな?」
「はい!」
 涙目になって答えるヴァーシュに、リューディーも男として腹をくくった。
「まぁ、その・・・、なんだ・・・。私からもお願いするよ。不器用なところもあるが、よろしく頼む」
 リューディーの不器用な返答。それでもヴァーシュにはこの上ない言葉だった。
 グリフォンから飛び降り抱き着くヴァーシュ。
 そして二人は、人目もはばからず口づけをかわすのであった。

「よかったねヴァーシュ・・・」
「そうだねぇ」
 誰もいないはずのプロンテラ南の木陰で、一部始終を眺める二人の女性。クリシュナとルシアだった。
 二人はヴァーシュの様子が変だったのに気づいて話を聞き、こうなる算段を立ててヴァーシュに進言したのだ。
「帰るよ。二人の邪魔はできない」
 そう言ってクリシュナはワープポータルを出し女所帯へと帰っていくのであった。

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  by lywdee | 2017-10-03 13:02 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(206)

 季節は夏から秋へ、ゆっくりと変わりつつある今日この頃、女所帯の面々はそれぞれの思いにはせていた。
 中でもル・アージュは、朝からルシアに出された課題に取り組んでいた。

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「難しー」
 ソファーに座り魔導書を見ていたル・アージュ。対面にいたルシアは出かけている。
「ル・アージュ様、紅茶のおかわりをお持ちいたしました」
「ありがと、フレアさん」
 紅茶を口にしながらも課題である魔導書を自分なりに理解しようとする。
 魔力の上昇。それはル・アージュにとっても重要な課題である。
 純粋な魔力の上昇、それは物理的にもオートスペル的にも重要だからだ。ましてやル・アージュは父親と違って力はそれほど高くない。唯一上回ってるのは魔力ぐらい。
 それはエンチャントブレードにも効果のある資質。物理攻撃に端を発し、オートスペルで追撃する。今のル・アージュは完全に父との相反する攻撃スタイルになっていた。
「難しーよー・・・」
「それでも読めるだけ偉いわよ」
 ル・アージュの勉強姿に素直に褒めるクリシュナ。クリシュナはル・アージュの背中越しに魔導書を見てみる。
「ダメだ・・・、ぜんぜんわかんない」
「今日の課題、わかるところはわかるんだけどね。肝心な部分が難しくて・・・」
「ルシアはどこ行ったんだか・・・? 仕方のない妹だわ。ルア、私の部屋入ってルシアの本棚から参考になる物でも探したら?」
「そうさせてもらいます」
 ル・アージュは立ち上がってそのままクリシュナの部屋に向かってく。

 クリシュナの部屋はルシアと兼用なので割と広い。その中でびっしりと詰まった本棚に対峙するル・アージュ。

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「参考書は・・・っと」
 本棚には魔導書、文献、動物学などが詰まっている。
「あ、これだ! 魔力の流れ、武器に込める魔力編。これでいいはずだわ」
 棚から1冊の本を取り出すと、コンコンっとドアを叩く音がした。
「ルシア叔母さんならいないよー」
「そうですか」

 ガチャ

「失礼します」
「フレアさんどうしたの?」
 ドアをあけて入ってきたのはフレアだった。その腕には新しいシーツを抱えている。
「シーツの取り換えに参りました」
「私は出てくから空けといたままでいいよ」
 そう言ってル・アージュはクリシュナの部屋を後にした。

 居間に戻るとクリシュナの姿がない。ル・アージュはまた迷宮の森にでも行ったものだと判断する。
 ソファーに座り、参考書片手に課題の魔導書を読み始める。
 魔力の流れ、オートスペルの構築と発動。ぼんやりとしか理解してなかった課題の魔導書の中身が参考書とともに読み進めるうちに少しずつ理解していく。
 時には魔道剣片手に意識を集中したり、簡易的なエンチャントブレード試したりと無口になっていく。
 今現在のル・アージュの戦闘スタイルは、オーラブレード+コンセントレイション+エンチャントブレードで物理攻撃を強化、ツーハンドクイッケンで手数を増やし、魔道剣と悪霊糸でのオートスペルによる追撃がメインの戦い方だ。無論魔力は高まっているのでエンチャントブレードの攻撃力強化もバカにはならない。
 回復剤も用意してればバリオフォレストのブギスギス相手でも遜色ない戦い方を見せる。その上予備として持たされたブリューナクの効果でヒールの回復量も、クリシュナ、ヴァーシュのように極めた二人のそれに匹敵する。あとは素早さを上げれば回避率も高くなり、ソロでの戦闘でも困らない実力が証明している。

 ガチャ

「ただいまー」
「おかえり、ルシア叔母さん」
「お、だいぶ読み進めたみたいね?」
 ル・アージュの呼んでる魔導書のページ数を覗き込むように腰を曲げるルシア。
「それが読めるってことは、あんたもオートスペル型セージの上をいってるわよ」
「それって誉め言葉?」
「そうよー。セージの使うオートスペルはだいたいLv3クラスのボルトの威力。だけどあんたは魔道剣の効果でLv5クラスのボルト系ダメージ与えられるからねぇ」
 ルシアが対面のソファーに腰を下ろすと、タイミングよくフレアが紅茶を用意して持ってきた。
「あーーーーーーーーーーーー! やっと読み切れたー」
「はいおしまい。あとは少しでも実践して魔力上げてね」
「はーい・・・」
 気のない返事を返したル・アージュは、机に突っ伏すとため息ひとつ漏らすのであった。
 そんなとき、玄関から声が響いてきた。

「ル・アージュ殿! ル・アージュ殿は居られませんか?!」

「なんだろ・・・?」
ル・アージュが玄関を開けると、そこには伝令の騎士がいた。
「私に何か?」
「騎士団長からの招集です。騎士団詰め所まで来てください!」
「・・・わかりました」
 ル・アージュはそう言うと厩舎のドラゴンを離し、飛び乗ると急ぎ騎士団詰め所まで走らせた。

「おおー、よくぞ来てくれた!」
「団長、私をご指名されたようですが、何用で?」
「話は長くなるが簡潔に言う。ポートマラヤに向かい、バリオフォレストにて遭難中の1個師団からの伝書鳩で、支援型のアークビショップを伴い救出されたしとの一報を受けた。そこで前回の遠征で成績の良かった貴殿に向かってもらおうということになった」
「それならもう1個師団を出せばよいのでは?」
「それなんだがな、遭難した1個師団には密命があってあまり多くの騎士団を派遣できんのでな、今はポートマラヤに1個師団を送るには時が悪すぎる。そこで冒険者を装い秘密裏に救出してほしいのだ」
「はぁ・・・、それでは・・・」

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「大聖堂詰めのファ・リーナ・フラウディッシュ・シャナを同伴させてください」
「む? それはいいが、支援アークビショップなのだな?」
「はい、姉妹なら怪しまれないと・・・」
「・・・。わかった、すぐにでも呼び出そう。貴殿は準備ができ次第大聖堂まで行ってもらおうか。そこで合流してもらう」
「はい」

「バリオフォレストかぁ・・・、家に帰って火の魔道剣取ってくるか・・・」
 ル・アージュは詰め所を出るとドラゴンにまたがり、一路女所帯を目指した。
「あらおかえり。どっか行ってたの?」
「ちょっと緊急の任務でね、これから出かけるとこ」
 女所帯の帰り道で、ル・アージュはクリシュナと鉢合わせした。
 ル・アージュは一度厩舎にドラゴンをつなぐと、急ぎ家の中に入り自室へと駆け上がった。
 そして部屋の片隅に立てられた2本の魔道剣のうち、柄の赤い魔道剣を手にして腰に携えた。
「じゃあ行ってくる!」
 そう告げるとル・アージュは、また厩舎からドラゴンを連れ出し大聖堂へと走らせた。
 ドラゴンを外につなぎ、ル・アージュは大聖堂の奥へと歩いて行く。厳かな雰囲気に身震いするル・アージュの前に、蒼いロングヘアーのアークビショップが立っていた。
「お姉ちゃん!」
 ル・アージュが声をかけると、アークビショップが振り向いた。
「ルア! あなたが私を指名してくれたの?」
「うん。ちょっと訳ありの任務だし、お姉ちゃんなら支援だから助かるし、他のアークビショップつけられるのは嫌だったから・・・」

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「嬉しかった。ルアに必要とされたから・・・」
「話は聞いてるよね?」
「ええ。お姉ちゃんに任せなさい」
 こうしてファ・リーナと合流したル・アージュは、東門のカプラ職員のサービスでアルベルタへと向かった。

「船で行くの?」
「そ、表向きはあくまで冒険者ってことにしてるからね」
 船着き場までくると二人はポートマラヤ行の船に乗った。時折風に混じって飛んでくる潮風が心地よい。
 二人は船べりに背を当て座った。
「遠征以来ね、ルアと一緒になるのも」
「そうだねー」
「でもいいの? 私なんかより渚先輩の方が冒険者としては上よ?」
「んー。レイさんでもよかったんだけど、私としては気を遣わない分お姉ちゃんのほうが嬉しい」
「ありがと」
 そうしてとりとめのない会話を続けていたら、船はポートマラヤにたどり着くのであった。
 ル・アージュはドラゴンの背にファ・リーナを乗せると、怪しまれない程度に急いで森へと向かって行った。
「遭難場所はわかってるの?」
「伝書鳩には北の海岸沿いにいるって話だったわ。お姉ちゃんサポートよろしくね!」
「うん」
 そうして二人はゆっくりと北上していった。時折現れるモンスターは、支援してもらってるル・アージュによって駆逐されていく。
 ファ・リーナも、渚 レイが教えてくれたダメージをブーストさせるスキルでル・アージュをフォローする。
 ブーストスキル、それはオラティオで聖属性耐性を下げ、アスペルシオでル・アージュの魔道剣に聖属性を付与させ、オーディンの力で攻撃力を更にあげるというもの。それは攻撃重視のル・アージュにしてみればうれしいフォローで、自身のブーストスキル、オーラブレイド+コンセントレイション+エンチャントブレードと、防御を無視したスキルで物理攻撃力を上げることだった。
 ル・アージュにしてみれば、支援があるとわかってる分、多少囲まれてもオートスペルと姉のフォローもあることから、多少無茶しても少々急いで北上していった。
 数分後、二人は北の海岸沿いの岩場に上がっていた。すると、端の方で手を振る騎士団が見えた。
「騎士団からの使者です、大丈夫ですか?」
「ああ、うちのアークビショップがやられたうえに囲まれて負傷した騎士も数人いる。早く手当てを・・・」
「わかりました。お姉ちゃん!」
 ファ・リーナはまず倒れたアークビショップに回復スキルをかけてなんとか動けるようにした。あとは負傷兵を二人のアークビショップがそれぞれ回復させていく。
「密命があると聞いたんですが、任務は続行できますか?」
「回復さえしてくれれば、あとは我々だけで対処できます」
「そうですか。頑張ってください」
 小一時間回復に回っていたファ・リーナも一息ついたのか、肩を落としてため息一つついた。
「お姉ちゃんお疲れ」
「ふぅ、疲れたわ」
 額の汗をぬぐったファ・リーナは立ち上がってル・アージュのドラゴンに背を預けた。
「救援感謝です。あとは我々だけでなんとか任務を完遂できます」
「そうですか。これ、念のため預かった支給物資です。受け取りを・・・」
「ありがとうございます」
「じゃあお姉ちゃん、ポタよろしく」
「はい」
 こうして任務の終えた二人は、ファ・リーナのワープポータルでプロンテラへと帰ってきた。

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「お姉ちゃんが一緒でよかった」
「ルアにそう言ってもらえると、頑張った甲斐があったわ」
 帰り際ル・アージュはファ・リーナの住んでる家の前にいた。
「どうする? お母様に会ってく?」
「いんや、任務の報告もあるし、おやじがいないとしても勘当された身。年始でもないのに帰る気にはなれないわ」
「そっか・・・」
「じゃ、私詰め所に戻らないといけないから。もう行くね」
 一瞬寂しさが顔に現れたが、ル・アージュはファ・リーナに背を向けごまかした。
 そしてル・アージュは騎士団詰め所に戻り報告すると、一人女所帯へと帰るのであった。

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  by lywdee | 2017-09-19 13:00 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(205)

 季節は夏から秋になり始めていく中、女所帯の面々は常夏の観光地「ブラジリス」に来ていた。
 理由は簡単、今年はまだ海に行ってない。ただそれだけだった。
 だが、喜ぶ女所帯の面々の中で、一人だけ仏頂面でやる気のない者が一人いた。

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「伯母さん泳がないの?」
「私は泳げないって言ってるでしょ!」
 そう、自他ともに認める金づち、ルシアだった。
 ネリスの言葉に怒気を見せ、一人波打ち際に一人用エアベッドのようなものを膨らませ、その上にゴロンと横になっていた。
(まったく・・・、何が楽しいのやら・・・)
 不機嫌なまま潮風を頬に受け、ルシアはそのうちうとうとと眠りにつくのであった。

「ヴァーシュ、また胸が大きくなったんじゃない?」
「そ、そうかしら?」
 ル・アージュはヴァーシュの水着姿を見て、自分の胸と比較した。
 ビキニから零れ落ちそうなヴァーシュの胸を見て、ネリスはおもむろにヴァーシュの胸を触らせてもらい今度は自分の胸を触る。すると何故か涙目になって離れるのであった。
「あの子、まだあきらめつかないのか・・・」
 ル・アージュとヴァーシュは、ネリスの後を追い慰めるがネリスは機嫌が悪いのかそっぽを向いて、「羨ましくなんか・・・、ないんだからね!」と強がって見せていた。
「まぁそれは置いといて、みんなでアイス食べに行こ!」
 ル・アージュはネリスの手を引き立たせると、ヴァーシュと3人で中心街まで向かうことにした。
「ねぇルア姉、ルシア伯母さん寝てるけど、ほっといていいの?」
「起こすのも悪いからね、それにクリシュナ伯母さんもいるもの。大丈夫でしょ?」
 こうして若い3人はブラジリスの中心街まで歩いて行くのだった。

 それから数分後、中心街のベンチで腰を下ろし、若い3人は談笑していた。
 そこへ現れたのがクリシュナとフレアの二人がきた。
「あれ、ルシアと一緒じゃなかったのか?」
「へ? ルシア叔母さんなら海岸に・・・」
「え、いなかったわよ? てっきりあんたたちとぶらぶらしてるものだと・・・」
「・・・」
『まさか!?』
 5人ははっとして海岸に急ぐ、しかし波打ち際で寝ているはずのルシアはそこにいなかった。
「伯母さんアレ!?」
 ネリスが海岸に漂うエアベットを見つけた。その上にルシアの姿はない。
 5人は慌てて海に入り、エアベットのある海域に急ぎ泳いだ。

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 ブクブクブク・・・。
「いた! この下よ!」
 ルシアを見つけたクリシュナがヴァーシュとル・アージュを呼び、数分後なんとか波打ち際まで引き上げるのだった。
「ルア、心臓マッサージを。ヴァーシュは腹を押して海水を吐き出させて!」
 クリシュナはル・アージュとヴァーシュに指示を出し、自身はルシアの鼻をつまんで人工呼吸を始めた。
 時折吐き出される海水。結構飲んでるように見えた。
 多分ではあるが、波打ち際で寝ていたルシアは、満ち潮で沖へと流されていったのであろう。

「ひどいじゃない! みんなで私の事忘れるなんて・・・!」
「いやー、満ち潮の事まで考えてなくて・・・」
 クリシュナは申し訳なさそうに笑顔を作るが、ルシアは涙目で背を向け、膝を抱え込んで座っていた。
「ルシア様、替えの下着とソーサラーの服です。お着替えにならないと風邪をひきますわ」
 フレアはルシアに着替えの入ったバックを手渡す。何かあったらと、ルシアは一応着替えを用意していたのだ。
 ルシアは黙ってそれを受け取ると一人着替えに歩いて行くのであった。
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ジャー・・・。

「ひどい目にあった・・・」
 ルシアは着替えを済ませトイレにいた。
 よもや溺れるとは思ってもいなかったのだろう。
「これだから海は嫌いなのよ!」
 一人ブツブツと文句を言いながら更衣室を出ていくのであった。
「おかえり伯母さん」
「ただいま。姉さん、私帰りたい」
 ネリスのお迎えに頭をなでなでするルシア。
 クリシュナ達も着替えを済ませていたので、全員そろってることを確認してワープポータルを出した。

 プロンテラに帰った後もルシアの機嫌は治らなかった。放置されたことがよっぽど腹に据えかねていたのだろう。
「ルシア様、紅茶です」
 居間で文献をあさっているルシアの前のテーブルにフレアは紅茶を置く。
「悪かったって言ってるでしょ? まだ怒ってんの?」
 クリシュナも対面のソファーに腰を下ろしていたが、ルシアはジト目でクリシュナを見つめる。
「本当にそう思ってる?」
 紅茶を飲みながらも、ルシアの機嫌は悪かった。
「私たちも起こすの悪いかなー? って・・・」
「すいません伯母様、まさか流されてるなんて思いもよらなかったもので・・・」
 ル・アージュとヴァーシュもルシアに謝る。
 するとルシアは、やおら立ち上がりネリスのカートに借りてきた文献をすべて乗せた。
「ネリス、図書館に付き合って」
「いいよー」
 こうして二人はプロンテラの中心へと歩いて行った。

「伯母さんまだ怒ってんの?」
「別に・・・」
 表情からはわからなかったが、ネリスはルシアの機嫌がまだ悪いと思った。
 図書館に入ってからは少し機嫌がよくなったのか、ルシアは一人図書館の奥に入っていく。
 ネリスも何回か来ているところなので、カートに積まれた文献や本を受付に返していく。すべて返した後はルシアの後を追って図書館の奥へと向かって行った。

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 ルシアは魔導書などの文献や本を見繕って、時には手に取って呼んだりしながらネリスを待っていた。
「次のルアの課題、何にしよ・・・」
 本に囲まれたことでルシアの機嫌は少し良くなっていた。
「これとこれならルアの魔道剣に力を与えてくれそうね。もうちょいルシアの魔力を上げる課題になればいいんだけどなー」
「伯母さんお待たせ」
「うん」
 ネリスのカートにあれもこれもと本と文献を積むルシア。当然自分の読む物も積んでいる。
「これって、全部ルア姉の課題?」
「私の知的好奇心を満たす物も混じってるけどね」
「ふーん」と積まれた本を開いてみるネリス。だが彼女にしてみれば何書いてあるのか全然わからないものばかりであった。
「これってルア姉読めるの?」
「そうよ。あんたも勉強する?」
「遠慮しときます」
 ネリスの言葉に「ふふふ」と笑うルシア。本に囲まれたことで機嫌がよくなっているようだ。
 そうして数分後、カートに積まれた魔導書なりの本と文献を受付で確認してもらうと、ルシアはネリスのワープポータルで女所帯へと帰っていくのであった。

 夏は終わりを告げ始めるのであった。

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  by lywdee | 2017-09-12 13:08 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(204)

 聖カピトリーナ修道院での慰霊祭の中、クリシュナとその弟子、カー・リーは沈みゆく太陽に照らされながら、他の参加者とともに灯篭を作っていた。
 カー・リーは隣で灯篭を作る師、クリシュナの憂いに満ちた顔を眺めながら朝に言っていた最初の弟子の墓でのセリフが耳について離れなかった。
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「もう弟子は取らない」
 
 師の過去を知ることになったカー・リーは、クリシュナの自分に対する態度が最初の弟子と重なったのかわからずにいたが、今のクリシュナの顔には弟子を取りたくなかったというクリシュナの言葉が胸に突き刺さっていた。

「無茶する子は嫌いよ」

 あの時言った言葉の意味を知ったからといって、クリシュナを責めることなどできはしない。
 むしろ自分に対する優しさが文句は聞かないという意味では理由が分かったのだが、弟子は自分で最後なのだろうと悟った。
 そして灯篭の中のろうそくに火を灯し、参加者が海へ流していく様はもの悲しさだけを残していく。
「師匠が転生するまで阿修羅覇王拳はいらないと言った意味は分かりました」
「そうね。あんたが最後の弟子なのだから過去の事を話したのよ。ここでの事は他の修羅もだいたい知っているわ。でも私は弟子を取る資格なんてないのよ。無責任だからね」
「そんな事・・・、私は無いと思います!」
「ありがと・・・」
 もの悲しげな顔で笑顔を作るクリシュナ。その顔を見ると、カー・リーもうつむいて視線を離すしかなかった。
「師匠は・・・、私にとっての憧れです。過去は変えられない、でも師匠は私の事を考えてくれました。弟子にもしてくれました。とても無責任だとは思っていません」
「過去は過去、事実は事実よ。あんな思いをするくらいなら弟子は取りたくなかった。あんたといると調子が狂うわ。でもあんたはそんな私についてきた。だからありがとうと言わせて」
「師匠・・・」

 その夜、カー・リーは寝付けずにいた。師の過去を知っても自分にとっては胸を張って「撲殺天使の弟子」を名乗れると思っていた。でもそれは自己満足なのかもしれないと思わずにはいられなかった。
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「師匠にあんな過去があったなんて・・・、ショックだったなぁ・・・」
 ベッドで横になりながら、カー・リーは帰り際のクリシュナの顔が離れなかった。
(撲殺天使の弟子かぁ・・・、みんな同じことを言う理由って師匠の過去を知ってるからなのだろうか?)
 ゴロゴロと寝返りをうつカー・リーは、クリシュナが弟子を取りたくなかったという事実に悶々としていた。
「カー・リー! ご飯よ!」
 カー・リーの母の自分を呼ぶ声が響く。
「わかってる! すぐ行くから!」
 上体を起こすと、カー・リーは両手で左右の頬を叩く。
(私が弟子としてできること。それは師匠を悲しませることはできない・・・って事だわ。卒業と言われても、師匠は私の事をちゃんと弟子として見てくれてる。だったらなおさら無茶はできない。私が、撲殺天使の弟子としてできるのはそれくらいだ)
 カー・リーはベッドから起き上がると、自分の部屋から出て1階に降りていくのだった。

 数日後

 クリシュナは一人迷宮の森に来ていた。当然生活費のためのハンターフライ狩りのためである。
 だが、それは現実から逃げているのではなく、過去を受け入れたうえでの家族を養う家長としての務めでもあった。
 クリシュナは、休憩がてら芝生の上で寝転がると近づいてくる人の気配を感じて起き上がることになった。
「パルティナ・・・? どうしてここに?」
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「姉様ならここにいると思って・・・」
 やわらかな笑みを見せるパルティナがそこにいた。
「姉様なら、一人でいたいときは静かな誰も来ない場所にいるだろうなぁって・・・」
「あんたこそ。ここは退魔アクビがくるとこでもないだろうに」
「えへへ・・・、なんだか姉様に会いたくなって・・・」
 パルティナはクリシュナの隣に腰を下ろす。それを見たクリシュナもまた腰を下ろすのだった。
「あんた、体の調子は?」
「見てのとおりです。姉様たちのおかげですわ」
「そ・・・、ならいいんだけどね」
 涼しげな風が二人の髪を揺らす。
 二人は何を話すわけでもなく、静かな時間を共に過ごす。
「相談事でもあるの?」
 沈黙に耐えかねたクリシュナが切り出す。
「わかっちゃいましたか?」
「あんたは昔から相談事があると、きまって私ら兄弟のそばで黙って遠くを見るからね。何年姉妹やってると思ってるのよ」
「ははは・・・」
「あんたは隠し事向きじゃない性格してるからね」
「そうですね・・・」
 パルティナはクリシュナの言うように遠くを見つめて黙っている。
 クリシュナも黙って妹からの言葉を待っていた。
「姉様、私、姉様の胸の苦しみを取り除いて差し上げたいのです」
「はぁ?」
 妹からの突飛な台詞にクリシュナは自分の耳を疑った。
「姉様もなんでも胸の内に秘めて、私達兄弟にも何も言ってくれないじゃないですか」
「そんなつもりは・・・」
「長女だからですか? それとも私達じゃ相談相手にもなりませんか?」
「・・・」
 パルティナからの視線を外すクリシュナ。
「私思うんです。姉様には幸せになってもらいたいと・・・」
「私は・・・、今のままでも幸せよ?」
「ウソ。ではいつまで過去の事を気に病まれるのですか?」
「それは・・・、私が無責任だったからよ。弟子の暴走を止められなかったのは私の責任だもの・・・」
「そうですね。だからっていつまでそのまま踏みとどまるのですか?」
「私にどうすれと?」
「もっと私たちに頼ってください! 力量不足ですが、一人で抱え込むより楽になりますよ」
 屈託のない末妹の笑顔に、クリシュナは照れながらそっぽを向いた。
「過去を受け入れるのは悪いことでもありません。でも気にしすぎもよくありません。発散させることも重要ですよ」
「シスターみたいなことを言うのね」
「はい! 私シスターですから」
 クリシュナはパルティナの言葉に思わず吹き出して笑うのだった。
「アークビショップって言ってもシスター同然よね。ごめん笑っちゃった」
「姉様には笑顔がよく似会いますよ。主は人の心に満ちた不満、葛藤、後悔を取り除くために我ら司祭を地に降ろしたのです。人の心の支えになるのが我らシスターの務め。主はすでに姉様をお許しになられてるのです。だから姉様も、もっと笑っていてください」
「妹にそこまで言われるとわね・・・、ありがと、少し楽になったわ」
 笑って立ち上がるクリシュナ。
 それを見たパルティナも笑って立ち上がる。
「なんか二人で甘いものでも食べに行きますか」
「はい!」
 クリシュナの出したワープポータルに二人は飛び込む。そして一瞬のうちにプロンテラにつく。
 二人はそのままプロンテラのカフェへと消え去るのだった。

 その頃ルシアは・・・。

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「落ち着くなぁ」
 ルシアは一人、ジュノーの図書館にいた。
「姉さん、パルティナにはあまいからなぁ。なんとか説得できるでしょう」
 一人読書に没頭しているルシア。
 末妹に姉の事を任せて自分はル・アージュの課題にもなる資料を考えていたのだ。
 本に囲まれたこのジュノーの共和国図書館は、ルシアにとって天国のようなものなのだ。
「そろそろ合流した頃かしらね?」
 そう、パルティナをクリシュナのもとに送ったのはルシアの策略みたいなものだった。
「ま、姉さんなら私の言う事よりパルティナの言うことを聞くだろうし、何とかなるっしょ」
 無責任にも聞こえるルシアの独り言。
 妹がかわいいと思うのはクリシュナもルシアも同じなのだ。
 適材適所。ルシアの思惑は当たっていた。ルシアもなんだかんだ言っても姉、クリシュナの事が好きなのだ。 
「後は頼んだわよ。パルティナ」
 クスクス笑いながら、妹に説教されてるクリシュナを思い浮かべ、ルシアは本を閉じるのであった。

 こうしてルシアのたくらみとも知らぬクリシュナは、パルティナとスイーツを楽しんでいるのであった。

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  by lywdee | 2017-09-07 17:49 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(203)

「あなたが殺した・・・」
 それはチャンピオンだったクリシュナだった。
「ちがっ! 私は・・・」
「チャンピオンのくせに・・・、モンクのあの子を殺した・・・!」
「私は・・・、私は・・・!」

 ガバッ!

「はぁ・・・はぁ・・・、夢? またあの頃の・・・」
 クリシュナは上体を起こした状態で、隣のベッドで寝ているルシアを見た。
 カーテンの隙間からは薄明るい光が差し込んでる。どうやら早朝のようだった。
(なんであの頃の夢を・・・?)
 パジャマの袖で滴る汗をぬぐうクリシュナ。そしてベッドから出てパジャマを脱ぎながら「ふぅ」っとため息一つついた。
(今日は・・・、・・・そっか、もうそんな時期がきたのね・・・)
 一人で納得したような顔をしたクリシュナは、妹、ルシアを起こさないように一人胸にさらしを巻く。
 そして修羅のいでたちに着替え終わると、汗で濡れたパジャマを持って居間に向かった。
「おはようございますクリシュナ様。洗濯ものですか?」
「相変わらず朝早いわね、フレア。これ洗濯しといて」
「かしこまりました」
 クリシュナは洗濯かごに濡れたパジャマを入れると、ため息をつきながら食堂の椅子に腰を下ろした。
「クリシュナ様、まことに言いづらいのですが、先ほどカピトリーナ修道院から使者がきまして、これをクリシュナ様にと・・・」
「修道院から? また面倒ごとかしら・・・?」
 クリシュナはフレアから一通の手紙を受け取ると、頬杖ついて手紙の内容を見始めた。
 それは慰霊祭の通達であった。
「今年ももうそんな時期か・・・」
「クリシュナ様、アイスレモンティーが出来上がりました。どうぞ・・・」
「ありがと、フレア」
 冷えた紅茶が少し火照った体を冷やしてくれる。
「あら伯母様、おはようございます」
「おはようヴァーシュ。あんたも早いねぇ・・・」
 ロイヤルガードの鎧を着たヴァーシュが、クリシュナの対面の椅子に腰かける。
「伯母様? 顔色が悪いわよ。何かあったのですか?」
「ちょっとね・・・。まぁあんたが気にするようなことじゃないのだけは確かね」
「はぁ・・・」
 いぶかしげな顔でクリシュナを見るヴァーシュ。しかしそれ以上の詮索はしなかった。
 クリシュナは修道院からの手紙を伏せると、長い髪を少し櫛でとかしてポニーテールに結わえる。
 それから程なく女所帯の面々が食堂に集まる。少々早い朝食の始まりである。
「フレア、私の昼ごはんいらないから、帰りは夕方になると思うわ」
「かしこまりました」

 コンコン。

「はい、ただ・・・」
「いいわ。私が出る」
 エプロンで手を拭くフレアを制して、クリシュナは女所帯のドアを開けた。
「師匠! 慰霊祭です! ご一緒できますか!」
「カー・リーじゃない。言ったでしょ、もうあなたは私から卒業だと・・・」
「師匠は師匠じゃないですか! 弟子としてご一緒したいです!」
 朝からテンションの高いカー・リーを見て、クリシュナはため息一つこぼすのであった。
「いいわ、行く前に寄るとこあるけど、ついてきなさい」
「はい! 師匠!」

 クリシュナはカー・リーを引き連れて、プロンテラ南口にほど近い花屋にきた。
「花束一つください。比較的地味なやつを・・・」
「はい! 少々お待ちを・・・」
「私も買うんですか? 師匠」
「あんたは関係ない。私の野暮用よ」
「おまたせしました。2000zです」
「はい、ありがと」
 クリシュナは花束を受け取ると、カー・リーを引き連れて冒険者たちが「精算広場」と呼ぶ花屋の北にある広報員のそばに向かった。
「この辺らしいわね?」
「何がですか?」
「あんた・・・、ちゃんと手紙読まなかったの? 修道院付きがこの辺で送迎ポタ出してくれる話になってるのよ」
「それって・・・、アレじゃないですか?」
 そう言ってカー・リーはプレゼント屋台のそばの看板もちのチャンピオンを指さした。
 確かにその看板にはカピトリーナ行きという看板を持っている。
「あれか・・・。行くわよ」
「はい!」
 カー・リーを引き連れたクリシュナは、修道院付きのチャンピオンに話しかけ、出してくれたワープポータルの光の柱に飛び込む。
 目を開くとそこはカピトリーナ修道院の中ほどの公園だった。
「まだ慰霊祭まで時間があるわね。ちょっと野暮用を終わらせてくるから、あんたはここにいなさい」
「いえ! 師匠の行くところはどこまでも! です!」
「はぁ・・・、好きにしなさい・・・」
 クリシュナにはカー・リーのテンションの高さに呆れていた。
(根は良いやつなんだけどね・・・)とため息ついてクリシュナは修道院内の墓地まで歩き始めた。

 墓地につくとクリシュナは、中ほどにある小さな墓の前で歩を止めた。
 そして墓の前で膝をつくと、プロンテラで買った花束を供えた。
「師匠の知り合いのお墓なんですか?」
「私の最初の弟子だった孤児の墓よ。黙ってなさい」
 クリシュナの静かな声に、カー・リーは声を飲んだ。

「え? 最初の弟子? 聞いたことないわよ」
「そりゃーあんたたちがここに来るだいぶ前の話だし、私も聞いただけだからね」
 ヴァーシュがクリシュナの態度の変化に気付いて、ルシアに話しかけてみたところ、意外な言葉に若いル・アージュら3人は驚いていた。
「私も聞いただけだからね、詳しくないんだけど。姉さん、チャンピオンになったころ修道院に捨てられた孤児らの面倒をみてたのよ。その一人がモンクになって姉さんの弟子になったの」
「そのお弟子さんはどうなされたので?」とヴァーシュ。
 ルシアははっきりしない態度でごまかそうとしたが、3人に詰め寄られて諦めて話し出した。
「死んだわ」
「え・・・?」
「あの頃の姉さんは攻撃型チャンピオンだったからね、教育方針もくらって覚えろって感じだったし、今とは比べ物にならないほど修行はハードだったらしいわ。
 その弟子も姉さんに負けず劣らずの負けん気だったそうでね、姉さんもかなり手を焼いたって聞いたわ。・・・でね、喧嘩もしょっちゅうだったうえにその子、かなりの自信家でね、ある日姉さんの目を盗んでグラストヘイムに一人で行くと置手紙があったそうで、姉さんのモンク時代に倒したダークイリュージョンを倒せば一人前になれると信じて、自分もと一人で修道院に行っちゃって・・・。
 ここまで言えば想像つくでしょ? その子、阿修羅型モンクだったけど、ダークイリュージョンのメテオに焼かれて、姉さんがついたころには原型をとどめないくらいの火傷で亡くなってたそうよ」

「だから師匠は弟子は取らないと決めたんですね?」
「そうよ。同じ過ちは繰り返したくないんでね。あんな思いするくらいなら弟子はもう取りたくなかった」
 愁いを帯びた目でカー・リーを見るクリシュナ。
「それで私には文句は聞かないと釘を刺したんですね」
「私がちゃんと指導してればそうはならなかったはず。若かったのよ、私も・・・」
 カー・リーは何故クリシュナが、厳しくも優しく導いてくれた理由を初めて知った。
 文句こそ言えなかったが、自分のレベルに合った狩場で地力をつけさせてくれた裏にそんなことがあったなんて、今のクリシュナからは想像もつかなかったが、自分の事をそこまで考えて指導してくれたことがうれしく思えた。
「昔話はここでおしまい。慰霊祭に行くわよ」
「はい、師匠!」

「そんなことがあったんだ・・・」
「伯母様優しいからかなりショックを受けたのでしょうね」
「そうよ。だから姉さんは守備型の修羅になったのよ。それと、私が話したってことは内緒にしてくれない? ばれたら殺されそうだわ」
 ルシアの最後の言葉に、ヴァーシュ、ル・アージュ、ネリスは笑った。
 初めて知った伯母の過去、深い優しさが導いた若さゆえの失敗。悲しそうな顔して慰霊祭に向かったクリシュナの事は心配だったが、帰ってくればまたいつもの明るいクリシュナが帰ってくるだろうと、若い3人はそう思わずにはいられなかった。
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  by lywdee | 2017-08-16 11:37 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(202)

 梅雨も明けたここプロンテラ。さんさんと輝く太陽が眩しく暑い夏。
 クリシュナら女所帯もこの暑さに夏バテとは言わないものの、フレアが淹れたアイスティーを飲みながら静かな日常におのおの行動を開始していた。

「ルア、そこ間違ってるわよ」
「え、あ、ほんとだ・・・」
「いつもいつも詰めが甘いわよ」
 居間で勉強にいそしむル・アージュと文献あさりのルシアが、知識向上のために黙々と課題に取り組んでいた。
 ル・アージュは魔導剣や悪霊糸のオートスペルの威力向上のため、1週間に2回はルシアの課題に頭を悩ませていた。が、最近では魔導書や文献のルシアの手伝いもできるまでに成長していた。

「クリシュナ伯母さんまた迷宮の森に?」
「うん。生活費のためにまたシャアc出そうとしてるよ」
 食堂ではヴァーシュとネリスが、アイスティー片手に武器の点検をしていた。
 特にネリスは、星屑剣を多用しているせいか、切れ味が落ちたようにも感じていた。
「ヴァーシュ姉、そろそろセラフィーさんとこ持ってく?」
「そうねぇ・・・、ルア、ちょっといい?」
「なーにー?」
「武器の手入れにセラフィーさんの所に行くけど、どうする?」
 ヴァーシュの提案に筆を止め、傍らに置いていた魔導剣を抜いた。
「あー・・・、私のもそろそろ手入れ必要かぁ」
 鞘に剣を収め、ル・アージュはまた筆を手に取った。
「もうちょいで課題終わるから待ってて」
 真剣なまなざしで課題に取り組むル・アージュ。ルシアもため息混じりにル・アージュの課題を見つめていた。
「叔母さん終わったよ」
「どれどれ・・・」
 ゴクンと生唾を飲みルシアの返答を待つル・アージュ。
「まあこんなものか・・・、いいわよ。でかけてらっしゃい」
「やたー! ヴァーシュ、ネリス、セラフィーさんとこ行こ」
 こうしてル・アージュ、ヴァーシュ、ネリスの3人は、男所帯のある鍛冶屋街に出かけて行った。

 女所帯から男所帯までは30分くらいの道程だ。3人は談笑しながらゆっくりと歩いて行く。
「ヴァーシュも勉強に付き合うって?」
「うん、ヒールの回復量上げれば、もっと回復剤代浮くかなぁって・・・」
 夏着の袖なしシャツを着た3人は、ハンカチで額の汗を拭きながら歩いて行く。
「それにしても暑いね・・・」
 ネリスがぼそっとつぶやく。
「夏だからね」
 ル・アージュが素っ気なく返答をする。
 私服に身を包んだ3人は、ル・アージュがシャツに短パン。ヴァーシュはシャツにロングスカート。ネリスはシャツにミニスカートと、夏の暑さに薄着になっていた。
 街中もパラソルを掲げた露店が多く目立つ。この暑さでも繁盛しているのはアイスクリーム商人の露店ぐらいだ。
「アイス買ってこうか?」
 ル・アージュの提案に乗っかる二人。お代は言い出しっぺのル・アージュが3人分出した。
 アイスを食べながら男所帯に向かう3人。冷たいアイスが気持ちいいくらいにおいしく感じる。そうこうして3人は男所帯にたどり着いた。
「セラフィーさんいるー?」
「開いてるよ! 勝手に入ってきな」
 男所帯の中からセラフィーの声が響く。
「お邪魔しまーす」
 通い慣れたネリスが男所帯のドアを開く。今日は珍しく精錬していないセラフィーの姿に、ネリスは首を傾げた。
「いらっしゃい。今日は武器の手入れか?」
「はい、そろそろ切れ味が・・・」
 3人は厨房から歩いてきたセラフィーに、各々の武器を差し出す。
「なんだ? 3人揃ってアイスか。羨ましいねぇ・・・」
「私が買ってきましょうか?」
 同じく厨房から出てきた渚 レイが手を拭きながらセラフィーに問う。
「わりぃ、頼めるか?」
「いいですよ。今日のお勤めは午後からですし、昼食は作っておきましたから冷やして食べてくださいね」
 そう言って渚 レイは若い3人に軽く会釈をし出かけていった。
 セラフィーは溶鉱炉に火を入れ、金敷を出す。そして3人から武器を受け取り刃先をまじまじと眺めた。
「ふむ・・・、それほど痛んではないが、問題は切れ味か・・・」
 セラフィーは砥石も用意して3人の武器をくまなくチェックし、焼き入れをしたり研いだり叩いたりして始めた。
 その間3人は、セラフィーの手入れを眺めながら買ってきたアイスを食べ終わるのだった。
「ただいま帰りました」
「ナイスタイミングだ、レイ。ちょうど終わったところだ」
「それは何より・・・」
 渚 レイはセラフィーにアイスクリームを渡すと、居間に置いてあったビレタをかぶった。
「ん? 出かけるのか?」
「はい。騎士団から動けるアークビショップを何人か用意してくれとのことづけを言いつかりましたから、ちょっと大聖堂へ・・・」
「急な話だな。ま、気をつけてな」
「はい」
 そうして渚 レイは出かけていった。
「3人とも、武器の手入れは終わったぞ。気になったらまた持ってこい」
『ありがとうございます』
 ル・アージュら3人は、手入れの終わった各々の武器を手に男所帯を出ていく。
「旦那ぁ、いいのかい? せっかく娘がきてたのに・・・?」
 その声を聞いて物陰からヴァーシュの父親、白鳥が出てきた。
「もうヴァーシュだっていい歳の娘だ。私の出る幕はないさ」
「そんなもんかねぇ・・・」
 アイスを食べながら精錬道具を片付けるセラフィー。白鳥は何も言い返さず自室へと戻って行った。

「海に行きたいねー」
 女所帯への帰り道、ル・アージュが空を見上げつぶやいた。
「小母様に提案してみる?」
 ヴァーシュが相槌を打ってみるが、ル・アージュは何も言わない。
 ネリスはそんな二人の跡を追っているが、黙って歩いて行く。
「ルア、海に行くならそろそろ水着の買い替えとかあるんじゃない?」
「そうなのよねー」
「ルア姉、あれって・・・?」
「あー・・・、お姉ちゃんだ・・・」
 ル・アージュの背中をつついたネリスが先ほどのアイスクリーム商人の方を指さす。それを見るとル・アージュが呟いた。
「お姉ちゃん、何してるのさ?」
「あらルア・・・。見つかっちゃった」
 微笑むファ・リーナにため息をつくル・アージュ。
「お姉ちゃんもこれから大聖堂?」
「そうなのよー。だからその前に甘いものでも・・・って、なんでルアがそんな事知ってるの?」
 不思議そうな顔で妹を見るファ・リーナ。
「うちらさっきまでセラフィーさんとこ行っててね、レイさんが大聖堂に呼ばれたって言ってたから、お姉ちゃんもかなー? ってね」
「ふーん・・・、前衛職って大変ねぇ」
「そういうこと、じゃあね、お姉ちゃん」
 そう告げて立ち去るル・アージュ。

「ただいまー」
 ネリスが女所帯のドアを開ける。
「おかえり。遅かったじゃない」
「クリシュナ伯母さん、帰ってたんだ・・・」
「セラフィーのとこ行ってたんでしょ? 武器の手入れでもしてたのかい?」
 女所帯の食堂で、アイスティーを飲みながらクリシュナは3人を見た。
「うん! 武器の手入れしてもらったのー」
「そうかいそうかい。もうじきお昼よ。食卓に着きなさい」
『はーい』
 女所帯のお昼はカレーライスだった。クリシュナ曰く、暑い時こそ辛いもの! らしい。
 こうして食卓に5人ともつき、フレア特製のカレーを静かに摂り始めるのだった。
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  by lywdee | 2017-06-27 11:09 | Eternal Mirage | Comments(0)

Eternal Mirage(201)

 春の嵐がきて気候も温かく落ち着いたここプロンテラ。今日も女所帯は朝から元気だった。
「ネリス! リンクのとこ行ってネイとパルティナ連れてきて!」
「はーい」
 クリシュナの言葉に元気よく家を出るネリス。
 クリシュナはクリシュナで、家の中から紙コップやら皿などをネリスが置いてったカートに積んでいく。
「伯母さん、氷持ってきたよ」
 早朝からラヘルに行っていたル・アージュが、大量の氷とともに帰ってきた。
「それはフレアに任せて、あんたはさっさと朝食摂りなさい。フレアが片づけに困ってるからね」
 クリシュナに言われるがまま、ル・アージュは食卓に着いた。
 ヴァーシュはその頃、自室で銀色の長い髪を梳いていた。もちろん鎧は着ている。
 窓から射す光が風になびく銀色の髪をきらきらと輝かせている。
「ごめんくださーい」
「あらお姉ちゃん。いらっしゃい」
 食卓で朝食をとっていたル・アージュが、不意の来客にいち早く反応する。女所帯にやってきたのはファ・リーナだった。
「クリシュナ伯母様、母からこれ預かってきました」
「お、精霊殺し(お酒)を3本も・・・、気が利くねぇ」
「母はお父様が行かないってことで来ていません」
「きたら酒が不味くなる。気にしないよ」
 クリシュナはお酒を受け取ると、大きなバケツに氷水をいれてそのバケツにお酒を入れる。そしてそのままネリスのカートに積み込んだ。
「ごちそう様」
 ル・アージュは朝食を撮り終えると、姉ファ・リーナとともに居間のソファーに腰を下ろす。
 女所帯で忙しい思いをしているのは、クリシュナとフレアの二人だけである。毎年恒例のアマツ花見宴会ツアーの準備をしているのだった。
 フレアはフレアでお酒の肴や料理をお重に詰め込んでいる。毎年の事だけあって手際は良い。
「伯母さんただいまー」
「伯母さんおはよー」
「姉様お邪魔します・・・」
 リンク宅から帰ってきたネリス、ネイ、パルティナがゆっくりと女所帯の中に入る。
「あ、ネイ。あんたから預かってた品物、完成したから持っていきな」
「え、もうできたの?! 伯母さんよくやるなぁ」
「もう! お姉ちゃん、お礼が先でしょ!」
「そうだった・・・。ありがと、伯母さん」
 クリシュナから渡される一振りのカタール。当面の狩りで使うトリプルマリシャスブラッディティアーをネイは受け取るのだった。
「言ってみるもんだ・・・」
 ネイは早速そのTM血涙を装着すると、まじまじとそのカタールを見つめるのであった。
「よし! 準備はできた。みんな、アマツに行くわよ!」
 鶴の一声、クリシュナの言葉に全員が外に出る。もちろんネリスはカートを引っ張り出した。
 そこでパルティナがワープポータルを出して全員がその光の柱に身を投じる。出先は年中桜舞うアマツの花見通りだ。
「やっと来たか・・・」
 大輪の桜咲く木の根元で、ルシアが場所取りをしていた。
 ルシアはクリシュナに言われ、一人アマツで場所取りをしながら茣蓙を引いて待っていたのである。
「やっとってあんた、1時間ぐらいなんてことないでしょ?」
「姉さんの時間間隔狂ってるわよ」
 文句もそこそこに女所帯の面々はお酒を出したりお重を広げたりと準備に入る。
「それにしてもクリシュナ伯母さん。花見だったらプロンテラでもできるじゃん?」
「プロは知り合い多いからゆっくり飲めない。だから家族で誰も知らないアマツにきてるのよ」
 ネイのつぶやきに素っ気なく答えるクリシュナ。
「さ、お花見開始! みんなお酒は持ってるわよね?」
 周りを確認しながらクリシュナは立ち上がる。
「かんぱーい!」
『かんぱーい』
 クリシュナの音頭に全員がお酒を口にする。
 花見の席は4人の年長者と、5人の若い衆に分かれた。クリシュナの考えでもある。
「パルティナと飲むのも久しぶりだねぇ」
「そうですね。私はあまり飲めませんでしたからね」
 そう言いながらパルティナはクリシュナのコップにお酒を注ぐ。ちなみに、パルティナが飲んでるのはアルコール度が低いモロク果実酒である。
 病気がちだったパルティナも、年始の実家帰りの時はそれとなく飲んではいたが、どちらかというと付き合い程度の摂取しかダメだと医者に言われてたからだ。だが今年は完治したところで医者の許可が下りたのでクリシュナの花見に賛同してついてきたのである。
 もちろんそれほど飲む方ではないので、とくに酔ったから変わるということもない。むしろ変わるのはルシアの方だ。
 ルシアは酔うと誰彼かまわず説教をするという迷惑な酔い方だが、酔うのも早いがつぶれるのも早い。だからクリシュナは先にルシアを酔い潰してからゆっくり飲むというのが恒例ともいえる。
「姉様、ルシア姉様寝ちゃいましたね」
「そうだねぇ、これでゆっくり飲める」
 90分ほどでつぶれたルシアの寝先はパルティナの膝の上だ。パルティナはこうなるのをわかっていたのであまり飲んではいなかった。そう、ルシアは酔っていても妹には甘いのを知っているクリシュナの年の功で彼女を連れてきたのだ。
「パルティナ、その後どうなのさ?」
「私ですか、そうですねぇ・・・。もう血を吐くことも急に倒れることもないので完治だとは言われました」
「それはよかった。でもあんたは下戸だからねぇ」
 クリシュナもグイグイ飲む方ではないが、こんな時ぐらいしか飲まないのでつぶれることも眠くなることもない。お酒の席では頬を軽く朱に染める程度の酔い方しかしない。むしろ対等にお酒が飲める家族はいないのが残念なところではある。

「へー、ルアは魔導剣2本ももってるのかぁ」
「狩場に応じて使い分けられるようにしてるんです」
「私は当面の武器があるから、お金稼ぎしてから二刀流の装備揃えよう」
 若い衆は若い衆で飲んでいるのだが、会話の内容は最近の狩りやら装備に関してだ。一向に浮いた話は出てこない。
「ヴァーシュは師団長にならないの?」
 ファ・リーナの質問がヴァーシュに飛ぶ。
「当分ならないわ。だって、私には実力不足だし・・・。リーナこそ、最近支援のお仕事ないんでしょ」
「そうねぇ、最近は大聖堂でのお仕事しかないわ」
 若い衆はゆっくりとしたペースで飲み、会話の方が主流であるようだ。
 もっとも、家族が揃うのは年始ぐらいなので会話の方が弾むようである。
「お姉ちゃん、眠い・・・」
「はいはい、こっちおいで」
 お酒に強くないネリスがネイの膝枕で寝に入った。
「それにしても・・・、姉妹でこんなにも差がでるのか・・・」
 そう言いながらネイは、ネリスの胸をさすったのちファ・リーナ、ル・アージュ姉妹を見る。
「ネイ姉さん何が言いたいの?」
「胸の発達度」
「さらっと言わないでよ、ルシア叔母さんじゃないんだから・・・」
「ははは、揉まないだけいいでしょ」
 照れ笑いするネイをため息で返すル・アージュ。
 するとファ・リーナは服の中を覗き、涙目でル・アージュを見た。
「お姉ちゃん、そこで私を見ない」
「こればっかりは遺伝かもねー」
 けらけらと笑うネイ。別に悪気がないだけに質が悪い。

 そうこうして3時間ほどの時間が流れた。

「よし、帰るわよー」
 クリシュナの声にネイはネリスを起し、ルシアはクリシュナがカートに乗せた。
 フレアはお重やら空の空き瓶やらを回収し、茣蓙とかも片づけた。
「ポタ出すわよー」とクリシュナ。光の柱が現れる。
 若い衆と年長者と全員がワープポータルに乗るとそこは女所帯の入り口であった。
「次に家族が揃うのは年始かぁ」
 しみじみつぶやくクリシュナ。
「姉様、今日は誘っていただきありがとうございました。ネイちゃん、帰るわよ」
「はーい。クリシュナ伯母さん武器ありがと」
 パルティナとネイは、パルティナが出したポタで帰っていく。
「ルア、伯母様私も帰りますね」
 ファ・リーナも自分のポタで帰って行った。

 こうして、女所帯の花見は終わるのであった。
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  by lywdee | 2017-04-18 13:03 | Eternal Mirage | Comments(0)

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