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Eternal Mirage(2)

「はぁ・・・」
 紅葉に染まる林の中で、一人の女性がため息をつきながら腰を下ろしていた。その姿からチャンピオンである事だけはわかる。
「このクリシュナ様ともあろうものが、あんな砂の塊に背を見せようとは・・・」
 自らをクリシュナと名乗った女性は、自身にヒールをかけながら空を見上げてまたもため息をつく。その腕や足にはヒールで薄くなりつつあるとはいえ、くっきりと青あざがいくつか出来上がっている。
 ここはジュノーのあるエルメスプレートのふもと、アルデバランから北西にあたる湖のある一角。修行中のモンクやチャンピオン達が時折すれ違う、その筋には有名な狩場である。
 クリシュナはそこで砂の塊スリーパーや、菌をまき散らかすデーモンパンクを気で倒し続ける修行をしていた。が、運悪く数匹のスリーパーに囲まれ、袋叩きにあう直前にテレポートで逃げてきたのである。
「黙っててもしょうがない。気を回復させてまた探さなきゃ」
 クリシュナはやおら立ち上がりズボンについた土ぼこりを払うと、目を閉じ大地の精から気を吸収していく。そして数分後、蓄えた気を一気に集中させる。
「よし、リベンジリベンジ」
 気が回復した事により、足取り軽く林の中から出る。
 歩く事数分、クリシュナはわずかな気配を感じて足を止める。
(いる!)
 姿は見えなくても、クリシュナは自分にブレッシングと速度増加をかけて臨戦態勢をとる。
「ルアフ!!」
 クリシュナの声と同時に彼女の周りに青白い球体が旋回する。するとバスバスと音を立て、二匹のスリーパーが彼女の眼前にその姿を晒けだす。
(二匹ならいける!)
 そう思うが矢先、体が自然と反応し一気に間合いをつめ、手のひらを目先のスリーパーに当てる。
「はっ!」

 バスッ!!

 鈍い音を立てスリーパーが砂にかえる。振り向き様に二匹目のスリーパーの攻撃を避け、手のひらを当て気を発する。だが今度は一撃では決まらなかった。クリシュナはよけながら再度間合いをつめてもう一度気を発する。
 するとスリーパーは音も無く砂にかえり、砂の中からグレイトネイチャが現れた。
「これで30個か」
 クリシュナは無造作にグレイトネイチャを掴み取り、背負った袋に詰め込んだ。その感触はずしりと重たい。
(一度プロンテラに帰るか・・・)
 少々悩んだ末、クリシュナはワープポータルを出し、光の柱にその身を投じる。そして次の瞬間、彼女はプロンテラに現れた。
「さて、とりあえず戦利品は倉庫だな」
 ずっしりと重くなった背袋を担ぎ直すとクリシュナはプロンテラ西口のカプラサービスのもとに歩いていく。もう何度も繰り返した作業だ。当たり前のように戦利品を倉庫に預けていく。
 溜まった戦利品の売却はもっぱらネリスの仕事だ。自分は集めるのが仕事と割り切っているので幾らで売れるのかなんて考えた事も無い。ただ、グレイトネイチャは集められるだけ集めてとネリスに言われている。どうやらそうとう儲かるらしいが、クリシュナはあまり資産の事までは考えていなかった。
 家路へと進む道をゆっくり歩いていると、なにやら冒険者達が露店街の方へ走っていく姿が見受けられる。耳を澄ませば露店街の方から悲鳴が聴こえてくる。
(またテロか・・・?!)
 クリシュナはため息をつきながらも露店街の方へと足を走らせる。
 狭い路地を抜け、露店街についた頃にはもうほとんどモンスターはいなかった。わりと早く発覚したせいか負傷者はそれほどいなかったし、治療中のプリーストの姿も見える。
 プロンテラではよくある光景ではあるが、いつになってもテロがなくなる事はない。
「叔母様!」
 クリシュナの背後から若い女性の声が響く。
 振り返ると赤いロングヘアーのスーパーノービスの少女が息を切らせて立ち止まっていた。
「あらネリス、あんたもいたの?」
「うん。買出しの途中・・・。でも、カーサとかいて動けなかったの」
「あぁ、それは無理な話だね。あたしでも逃げるわ」
 クリシュナは内心ほっとしていた。カーサといえばトール火山でもボスクラスのモンスターだ。チャンプやスパノビが単独で勝てる相手でもない。きっと名うての冒険者たちがうまく始末してくれたに違いない。
「じゃあ私買出ししてから帰るね」
 スパノビ特有のカートをひっぱりネリスは道具屋のほうへと向かっていった。
(帰るか・・・)
 ネリスを見送った後、クリシュナは何事も無かったように家路へと向かうのだった。

  by lywdee | 2009-01-06 12:40 | Eternal Mirage

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