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Eternal Mirage(168)

 季節は巡り、今年もプロンテラは春の陽気に誘われ、露店街にも桜が開花し始めていた。
 女所帯でも例年通り、アマツへと花見に出かける時期にさしかかっている。
「来週にでもアマツに行くか」
 女所帯の主、クリシュナは光差し込む居間の窓辺でチャンピオンの衣服に身を包み始めていた。姪っ子2人が揃って朝から狩りに出かけているので、居間ではルシアが紅茶を飲みながら読書にいそしんでいる。
「叔母さん今日はどこ行くの?」
 食卓で紅茶を飲んでいるネリスがクリシュナに問う。
「今日はスフィンクスダンジョンにでも行こうかねぇ。そろそろカードが出そうな雰囲気がするのよねぇ」
「ふぅん・・・。私もコンバーターあることだし、龍の城にでも行こうかな?」
 紅茶を飲み終えネリスがカートの中身を調べ始める。
「ネリス様もお弁当をご用意しましょうか?」
「ううん、お昼には帰ってくるよ。叔母さんもそうでしょ?」
「私? 調子次第だからお昼に帰ってこられるかわからないわよ」
 クリシュナが狩りの準備を終えたとき、ネリスもチンクエディアを磨いて狩りの支度を終えていた。
 フレアはフレアで、居間のルシアのティーカップに紅茶を注いでお茶請けも新しいものに取り替えていた。
 ル・アージュが追い込みを始めてからというもの、女所帯の朝は静かなものになっていた。無論、ル・アージュとヴァーシュが朝から狩りに出かけるようになって、クリシュナも出費を抑えるためのカード探しに毎日のように出かけているものだから、朝食が済んだ頃には大体ルシアとネリスがフレアとともにお留守番となっている。
「じゃあ出かけてくるわ」
 クリシュナが玄関を開け外に出ると同時にネリスもカートとともに外へ出る。
 玄関を出てクリシュナがワープポータルを出すと、ネリスを呼び止めブレッシングと速度増加のスキルをネリスにかける。
「頑張ってきなさいな」
「ありがと叔母さん」
 手を振るネリスを見て、クリシュナはワープポータルにその身を投じる。
(アルベルタ行くんだから、ついでにルア姉のレモンも買ってこよう)
 東門のカプラ職員にアルベルタまで飛ばしてもらうと、ネリスはいつものように桟橋へと歩いていき、龍の城行きの船に乗るのであった。

 一方、スフィンクスダンジョン内ではクリシュナがドレインリアーと格闘していた。
「三段掌!!」
 愛用のスピリットハリケーンフィンガーで群がるドレインリアーを叩き落していく。
「ドレインリアーカード安くならないもんかねぇ・・・」
 愚痴をこぼしながらも家族のためにカードを狙うクリシュナ。それだけ数を狩ってるつもりでも、相性が悪いのか中々お目当てのカードが出ないもどかしさがクリシュナを襲う。
(やはりこれはスケ若カードで生計を立て露店で買えってところかしら・・・)
 気持ちが折れそうになることもしばしばあるが、クリシュナはそれでもダンジョン内を歩きつつターゲットを探すのであった。
(とにかく、一匹でも多く倒していくか・・・)
 気持ちを切り替えまた歩き出すクリシュナ。この辺が家族思いのクリシュナの優しさなのだろう。

 場所は戻って龍の城のネリスはと言うと・・・。
「えい! えい!」
 チンクエディア片手に土精と格闘していた。
 コンバーターを駆使しての土精狩りも、今では定着してきたが資産管理も彼女の役割のため、経験にはならないが土精のみならず、キャラメルも相手にするようになってカード運が試される狩りになってきていた。
 ヒールは持っているものの、体力回復にはお魚も併用しているので出費の面でも元手を取りたいのがネリスの本音。これでキャラメルカードでも出れば懐が潤うのだが、そう簡単に出るならネリスもこんなに苦労することもない。
 むしろキャラメルカードが出ないことにはル・アージュに文句を言われるのだから、お財布係としては出費をなるべく抑えたいのが心情。
 そんなネリスの気持ちを知る由もなく、今日もカードが出ない狩りに心が折れそうになる。
「ハァ・・・、今日はこれぐらいにしておかないとコンバータもだいぶ使っちゃったしなぁ・・・」
 独り言が始まる頃にはネリスの集中力もだいぶ切れてきたところ。彼女はそのまま桟橋に歩を進める。
 アルベルタ行きの船に乗った頃にはおなかがぐぅっと鳴る。日の高さから言ってもうお昼のようである。とりあえず空腹はお魚である程度緩和されるのでいいのだが、空腹を満たすほどお魚を食べてしまうと家に帰ったときに何も入らなくなるので、ネリスはアルベルタまで着く間、甲板の片隅で仮眠をとることにした。
 アルベルタに到着すると船員に起こされそのままアユタヤ行きの船に乗り換え、また甲板で仮眠を取りアユタヤについてまた起こされる。
 その後ネリスはレモン栽培をしている「チュンおじさん」のもとに向かいレモンを購入していく。
 必要個数を購入すると、ネリスは蝶の羽を使いプロンテラへと帰ってカプラ職員の倉庫に買ったばかりのレモンを預けていく。すると背後からネリスの肩をポンポンと叩かれる。振り向けばそこにはクリシュナが立っていた。
「あんたも今帰りかい?」
「うん。叔母さんは?」
「私も戦利品預けたら帰るところよ」
 そうして倉庫に預けるものを預けたら二人揃って女所帯へと帰る。
 厩舎を覗けばペコペコは一頭もつながれていない。どうやらル・アージュとヴァーシュはまだ狩りのようだ。
「ただいま」
 玄関に入り、チャンピオンの衣服とスーパーノービスの服を脱ぐ2人。そのまま下着姿で自分の部屋に戻り着替えを持ち出し、そのままお風呂場へと直行していく。
 お風呂場へとつくと、クリシュナは湯船に浸かり、ネリスは髪を洗い始める。
「その様子だとお互い収穫はなかったようだねぇ」
 ネリスの背中を見ながらクリシュナは呟いた。
 ネリスは何も言わなかったが、それでも狩りの調子を見透かされてるので黙って頷くしかなかった。
 クリシュナも昼までスフィンクスダンジョンにいたが、ハイスピードポーションが切れたため狩りを断念したようだ。
 お風呂から上がると食卓には昼食の準備がなされていた。今日の昼食はボンバーステーキであった。
「いただきます」
 クリシュナの声のもとルシアとネリスがそれに続く。
「ネリス、あんたは育ち盛りなんだからしっかり食べなよ」
「クリシュナ叔母さん、お胸もおっきくなるかなぁ?」
「母親に似ればおっきくなるだろうねぇ。父親に似たら・・・」
「似たら?」
「こうなる」
 そう言ってルシアの胸元を指差すクリシュナ。
「どうせ私は母さんに似て胸ないわよ」
 確かにルシアの胸のサイズはネリスとほぼ同等といっていいほどふくらみはない。ルシアもそれには少し憤りを感じているようではある。
 それをじーっと見ていたネリスが涙目になる。
「ネリス・・・、ここで泣かれると私の立場ないんだけど・・・」
 ルシアが涙目のネリスに呟く。
「どっちに似てるかなんてまだわからないんだし、ここはお肉を食べて少しでも身にしたら?」
 そう言うクリシュナは、黙ってステーキを食べ始めている。

 はたして、ネリスの願いはどうなることやら・・・。

  by lywdee | 2012-03-13 11:26 | Eternal Mirage

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