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Eternal Mirage(183)

「おー、クリシュナさん久しぶり」
「相変わらず季節問わずあっついわねぇ、ここ・・・」
 鍛冶屋街にある男所帯の中に入り、手でひらひらと顔を煽るクリシュナ。
「今アイスティー作りますね」
「頼む、レイ」
 久しぶりに昼間の男所帯にいる渚 レイは、溶鉱炉の中に薪を突っ込んで火を移すと、厨房の窯に火をくべお湯を沸かし始めた。
「・・・で、クリシュナさんはこの間の装備の件かい?」
「うん、うちの若い衆の装備はこの間言ったとおりなんだけど、そっちの装備は聞いてなかったからね、うちらで集められそうなものを聞きに来た」
「ちょっと待ってくださいな。今鋼鉄作り終わるから、まぁ居間で座って待ってくだせぇ」
 そう言って溶鉱炉に向き直すセラフィー。

 それから30分後、ようやく鋼鉄を作り終えたセラフィーは、工房の片隅に置かれた丸めてある紙を取り出し居間につく。
 それとほぼ同時に、セラフィーとクリシュナの前に、渚 レイが作ったアイスティーが差し出された。
「さて、まずはクリシュナさんらの装備か・・・」
 居間のテーブルにバサァっと広げられた1枚の紙。消したり書き加えられたりと文字がびっしりと書き込まれている。
「ホドレムリンカードが2枚以上・・・、ネリスとうちらの用のか・・・」
「そうね、あの子はあと盾と服だからねぇ」
「ホドレムリンカードはルシアさんに任せたら?」
「そうだねぇ。聖域で平気で狩りできんのあいつだけだし、文句は聞かないけど・・・」
 アイスティー片手に紙を見つめるクリシュナ。
「あとは火鎧もしくはパサナカード・・・、なにこれ?」
「あー、それは後々でいい。「いるかも?」って話だから」
 ふむふむと煙草に火をつけるセラフィー。
「最後はメテオプレート・・・、しかも5~6着。これは兼用になるかもだから、カード待ちになるけどこれが優先か・・・」
「そうなるね。スタン対策らしいけど、ヴァルキリーアーマーだと高いし数集まらないから過剰むきではないね。あぁ、スプリントセットも忘れないでね」
 はいはいと紙に書き込むセラフィーがタバコの煙をくゆらせる。
「次はうちらの要望かぁ・・・」
「ん? 約束の聖書? レイ用かな?」
「そうですね。支援のアークビショップは、最近オラティオ+塩+おでんの力が流行ってるらしいね。まぁパーティー組むことの多い支援ABには欲しい装備だそうだ」
「それは非常に興味深いね」とアイスティーを飲み干すクリシュナ。
「アイスティーのおかわりです」
 二人の前に渚 レイがポットをもって現れる。
 そして二人の会話の合間に紅茶のおかわりを注ぎ、さりげなく氷を入れていく。
 そんなおり、ドアを叩く音が居間まで響いてきた。
「はぁい、今開けます」

 ガチャ・・・。

「お兄ちゃん! 久しぶり!!」
 渚 レイを兄と呼ぶ朧が、ずいっと顔を近づけ入ってきた。
「カスミじゃないですか。どうしてここに?」
「どうしてもこうしてもないわよ! 家にお茶置いといたまま帰ってこないから、私に持って行けって母さんに言われたのよ!」
 ずいっと突き出された袋を受け取る渚 レイ。
「それは申し訳ない。それにしてもよくここがわかりましたね」
「もう道がわかんないから、教会探してたらそこのロイヤルガードさんに案内されたの」
「お前の妹だと思って連れてきた」
 そう言ったのはリューディーだった。しかし彼はグリフォンから降りる様子はない。
「じゃあ仕事中だから戻るわ」
「ありがとうリューディー」
 後ろ向きで手だけをあげるリューディーを見送る渚 レイ。
「カスミ、立ち話もなんだからこちらに来なさい」
「ハーイ」
 居間に案内された渚 カスミは、クリシュナの隣に腰を下ろした。
「レイの妹だって?」
「はい! 渚 カスミと言います! いつも兄がお世話になってまして・・・」
 深々と頭を下げる渚 カスミ。
 渚 レイは厨房に戻り何やら食器を探している。
「そういやレイがアマツ出身だってこと今頃思い出したわ」とクリシュナ。
「私は忍び向きではありませんからね」
 居間の3人に、渚 レイはまたお茶を運んできた。
 そしてクリシュナとセラフィーには紅茶を、渚 カスミと自分用に緑茶を用意した。
「やはり緑茶は新茶にかぎりますねぇ」
「そうだねぇ」
 兄妹揃って熱い緑茶をすするのを見て、セラフィーはアマツ出身者の理解に苦しんだが、ここにいないリューディーも熱い緑茶が好きなので、あえて何も言わなかった。
「ところで、妹さんはこのままプロンテラに移住ですか?」
「うーん、そうしたいところですが、まずはアマツ忍軍の契約が切れるまでは向こうで活動ですかね?」
 セラフィーの質問に真剣に悩む渚 カスミ。
「ふむ・・・、もしプロンテラに移住するなら、俺たちも微力ながら協力するよ」
「ありがとうございます。あ、そろそろ帰らなくては・・・」
 そう言って渚 カスミは懐から蝶の羽を取り出し消えていった。
「来るのも帰るのもあわただしいわね」とクリシュナは苦笑いを浮かべた。
「そうですね。セラフィー、もしもの話で悪いんですが・・・」
 クリシュナに相槌をいれた渚 レイがセラフィーに言った。
「もし妹がプロンテラに移住することを決めたら、私もここを出ることに考えといてください」
「一緒に住むってことかい?」
「もしもの話ですがね」
「そいつはちょっと痛いな・・・」
 男所帯の家事を分担しているセラフィーとしてはちょっと難しい話であった。
「じゃあ私もそろそろ帰るわ」
 紅茶を飲み干したクリシュナが立ち上がる。
「紅茶ごちそうさま。まぁ嫌がるだろうけど、ルシアの尻でも叩いておくわ」
「うちらカード運ないんでよろしく」
「ハイハイ」
 クリシュナも先のリューディーよろしく、振り向くことなく手を上げひらひらと振って男所帯を出ていくのであった。
「しかしまぁ・・・、レイに妹がいたとはね・・・」
「話してませnでしたか?」
「少なくとも俺は聞いていない」
 紅茶を飲み干し立ち上がるセラフィー。
「小さいときから忍者を目指して怪我ばかりしてましたし、そのたびに私が治療してましたからねぇ。だからでしょうか、私が忍者ではなくアコライト目指したのは・・・」
 お茶をすすりながら遠い目をする渚 レイ。そんな彼をみてセラフィーはため息一つついた。
「世の中適材適所ってことか・・・」
 ソファーから立ち上がり、セラフィーは空いたティーカップや湯飲みを片付けていく。

 そして夕方。

「ルシアー、聖域での狩りはどうなの?」
 クリシュナが居間で文献をあさっているルシアに声をかける。
「順調ではないけど行ってるわよ。でも、私に期待されてもねぇ・・・」
 ため息をつくルシアは、クリシュナが何を言いたいのかわかっていた。
 聖域で狩りできる家族は自分ひとりだけだし、慣れてもいる。しかもホドレムリンぐらいならサイキックウェーブ一つで倒せるし、アクティブな敵なので必ず倒さなくてはいけない。
 しかし文系のソーサラーであるため、実力としてはそれほど強くないと自分は思ってる。そこを期待されるのもどうかとため息ばかり出るのであった。それと今は精霊の扱いに慣れたいのが本音でもある。
「ルアも! 勉強もいいけど実践してかないと強くなれないわよ!」
「はい・・・」
「じゃあ二人とも頑張ってね」
 明るいクリシュナの言葉に、ルシアとル・アージュの二人は肩を落とすのであった。

  by lywdee | 2015-08-18 14:21 | Eternal Mirage

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