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Eternal Mirage(185)

 気候も緩やかに涼しくなり、プロンテラにも静かに冬を迎える準備に追われていた。
 クリシュナら女所帯も、ハロウィンも過ぎ去り毎年恒例の「セラフィー」の冬前チェックが始まっていた。
「暖炉は問題ないですね。あとは風呂か・・・」
 女所帯に来るのはこれが初めてじゃないので、メカニック「セラフィー」は用意された濡れタオルで顔を拭きながら立ち上がった。
「毎年お世話になります」
 女所帯の家事当番、レンジャーの「フレア」がエプロン姿でセラフィーに紅茶を差し出して頭を下げた。
 セラフィーが女所帯の火周りを見るようになったのはもう10年にもなる。もちろんクリシュナから報酬はもらっているが、セラフィーにしてみればもう一軒の自分の家のように寄らせてもらっているだけだ。
 別に他意はないのだが、女所帯の中に入ることに少々の抵抗はある。さすがに女だらけの家に入るということは、男の身としては気まずいことも少なくない。
「じゃあ風呂釜見てきますね」
「よろしくお願いいたします」
 セラフィーが女所帯の外に出て風呂釜へと向かうと、フレアは煤で汚れたタオルを洗濯かごに入れ彼の後を追う。
 セラフィーは金づちで風呂釜の鋼鉄部分を軽くたたいてその音を聞いていた。
「こちらもとくに問題はなさそうだ。春まで十分に使えるよ」
「そうですか。ありがとうございます」
 風呂釜に顔を突っ込んでいたためか、フレアはすぐにタオルをセラフィーに渡した。セラフィーも今に始まったことでもないのですぐにタオルで顔を綺麗に拭き始める。
「あ! セラフィーさんだ!」
 スーパーノービス「ネリス」の声が響き渡る。
「よう! 今日も露店か?」
「うん、クリシュナ伯母さんがスケワカc出したから売ってきた」
「よくやるよな、クリシュナさんも・・・」
 女所帯のメインの金策がクリシュナによる廃鉱でのスケルワーカーc狙いの狩りをしてるのはセラフィーも知ってる。彼にしてみれば、石炭や鉱石と鉄などをただで譲ってもらっているので大きなことは言えないが、クリシュナのカード運にはいつも脱帽していた。
 まぁ男所帯にしてみても、ロイヤルガード「リューディー」の集めるレイドリックカードやエルニウムで生計を立てているので、クリシュナの気持ちもわからない話ではない。むしろ羨ましいくらいでもある。
「じゃあ来年もよろしく」
 こうして、セラフィーの年間行事の一つが終わるのであった。

「ネリス様。お昼ご飯は少々お待ちいただけますか?」
「ふえ? 何かあるの?」
「いえ、もうじきクリシュナ様がおかえりになられると思いますので・・・」
 フレアの勘がクリシュナの帰宅を予想していた。
 女所帯の中で一番勘のさえるフレアの予想は当たっていた。ネリスの帰宅から小一時間ほど経ち、煤汚れのクリシュナが廃鉱から帰ってきたのだ。
「フレア、ご飯の前にお風呂入りたいんだけど、準備してくれる?」
 さらしを巻き取りながらクリシュナはパンツ1枚というあられもない姿になる。理由は簡単、フレアが洗濯するからであるが、フレアが気にしているのは家の中が煤で汚れるのは掃除の手間がかかるからである。
「伯母さん、若c売れたよ」
「そ、ありがと。また近いうちに出してくるからよろしくね」
 そっけない返事をしたあと、クリシュナは自分の部屋へと入っていく。
「ただいまー」
 外からルーンナイト「ル・アージュ」の声が響き渡る。
 ドアが開かれたとき、ル・アージュの後ろから髪色こそ違うが同じ顔をしたアークビショップもひょこっと現れた。
「お邪魔しまーす」
 ル・アージュと一緒に入ってきたのは彼女の双子の姉、「ファ・リーナ」であった。
「リーナ姉久しぶり。あとルア姉おかえり」
「私はついでかい」
「まぁまぁ、ルアもそう言わないの」
 鎧を脱ぐ妹をなだめながらファ・リーナも女所帯の中に入ってくる。
「珍しいね、リーナ姉がうちくるの・・・」
「そうね。たまたまルアと会ったから、お昼ご飯一緒にねってことになったのよ」
 ル・アージュとファ・リーナがともに食卓の椅子に座ると、ネリスもカートを片付けル・アージュの対面の席に腰を下ろした。
「お昼はクリシュナ伯母さんのお風呂の後になるよ」
「へ、そうなの? だったら急いで帰ってくることもなかったのか」
「いいじゃないルア、私そんなにおなかすいてないから」
 微笑んで答える姉にため息をつくル・アージュ。するとフレアが厨房に現れかまどに火をくべる。
「ファ・リーナ様もお昼ご飯ご一緒ですか? 少々お待ちくださいね」
 ポットを釜戸に用意したのち、フレアはクリシュナの部屋の扉をノックした。
「クリシュナ様、お風呂の用意ができました」
「わかったわ。すぐ入るね」
 ガチャッと自分の部屋から出たクリシュナは、小脇に着替えを抱えバスタオルで体を包んだ姿で出てきた。
「あら? リーナも来てたのね。じゃあさっさとお風呂はいってくるわ」
「お邪魔してます」
 挨拶もその辺でクリシュナは浴室に向かった。
「フレア姉、お昼何?」
 少々空腹感のあるネリスがフレアに尋ねた。すると、紅茶をいれたフレアが食卓の前まで来て3人に差し出しながら「今日はミートソースパスタにグリーンサラダです」と答えて厨房に戻っていった。
「ねぇお姉ちゃん。今度二人でバリオ行かない?」
「私なんかでいいの? そりゃあ支援の練習したいし、迷惑じゃなければいいわよ。でも、なんで私?」
「私支援いないと白ポの消費激しいから」
「そうねぇ。こないだの遠征でも同じこと言ってたものね」
 姉妹の和気藹藹な会話を眺めながら、ネリスは自分の姉ギロチンクロスの「ネイ」を思い浮かべていた。
(ネイ姉どうしてるだろ?)
「ネリス? 何ボーっとしてるの?」
 心ここにあらずな雰囲気のネリスにル・アージュが突っ込む。
「え、ネイ姉どうしてるかなぁ? って・・・」
「ネイ姉さんか・・・噂じゃグラストヘイムで狩りしてるって聞いたなぁ」
 遠い目をしながら答えたル・アージュ。
「ネイ姉さんかぁ。年始に会って以降見てないね。ル・アージュ」
 ファ・リーナは紅茶を口にしながらル・アージュを見ていた。
 それから数分後、セイントローブを着たクリシュナが食堂に現れる。
「ふぅ、いい風呂だった。・・・で、何の話?」
 姪たちの会話に入るクリシュナ。
「いや、ネリスがね、ネイ姉どうしてるかなって・・・」
「あの子なら、異世界行く準備してるわよ」
「へ? なんで伯母さんが知ってるわけ?」
 不思議に思ったル・アージュが聞き返す。
「あんたの遠征中に弟が来てね、「今何がいる?」って聞いてきたからブラディウムが欲しいって言ったら、「それならネイに行かせる」って答えたのよ」
「ブラディウム?」
「そ、ちょっとギャンブルになるけど、安いインバーススケイルをキープさせたからね、スロットエンチャントさせて過剰しようかなってセラフィーと話してたのよ」
「それでブラディウムが・・・」
「カードだけで生計は立っても、それ以上に必要な装備とかあるしね、まとまったお金が欲しいのよ。うちもあっちも」
「お昼できました」
 クリシュナの話が終わると同時に、フレアが4人分のパスタとサラダを持ってきた。
「ま、装備と言ってもほぼルアのだけどね・・・。いただきます」
『いただきます』
 こうして4人の昼食が始まった。無論、フレアは一人厨房で食べているが・・・。
 食事の合間にも話題はル・アージュの装備の話が上がっていた。ル・アージュいわく、自分の装備はあとアクセサリーと靴で完成だということ。そのアクセサリーも靴も数十M単位だけあって、すぐに揃えられるものでもない。
 魔導剣型のル・アージュには、あと欲しいものが悪霊糸と俊敏の時空ブーツだけあって手が出しづらい。そうルシアが語っていた。
「魔導剣だけじゃダメなの?」
 素朴なネリスの返答に、ル・アージュは「ルシア叔母さんにオートスペル型になれば?」って答えた。
 確かにオートスペル型になることのメリットは大きい。現在魔導剣型のRKになっているル・アージュなら、悪霊糸の効果は大きい。その上俊敏の時空ブーツで回避率をあげればバリオフォレストでの単独の狩りもできないわけではない。そこをルシアがついたのだ。
「やっぱり知識ではルシア叔母さんにはかなわないわ」
 食後ファ・リーナはそう言葉をもらした。
「そうね。伊達に文献あさってるわけじゃないか・・・」
 クリシュナもルシアの知識だけは認めていた。
「ねえお姉ちゃん、どうせだからうちで風呂入っていけば?」
「いいの?」
「リーナ姉も入るなら私も入るー」
「じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」
 こうして食事を済ませた3人は、揃ってお風呂に入ることになった。無論会話もはずみ、ル・アージュにしてみれば久しぶりの姉妹での入浴となったのだ。

 プロンテラは今日も平和であった。

  by lywdee | 2015-11-04 11:59 | Eternal Mirage

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