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Eternal Mirage(202)

 梅雨も明けたここプロンテラ。さんさんと輝く太陽が眩しく暑い夏。
 クリシュナら女所帯もこの暑さに夏バテとは言わないものの、フレアが淹れたアイスティーを飲みながら静かな日常におのおの行動を開始していた。

「ルア、そこ間違ってるわよ」
「え、あ、ほんとだ・・・」
「いつもいつも詰めが甘いわよ」
 居間で勉強にいそしむル・アージュと文献あさりのルシアが、知識向上のために黙々と課題に取り組んでいた。
 ル・アージュは魔導剣や悪霊糸のオートスペルの威力向上のため、1週間に2回はルシアの課題に頭を悩ませていた。が、最近では魔導書や文献のルシアの手伝いもできるまでに成長していた。

「クリシュナ伯母さんまた迷宮の森に?」
「うん。生活費のためにまたシャアc出そうとしてるよ」
 食堂ではヴァーシュとネリスが、アイスティー片手に武器の点検をしていた。
 特にネリスは、星屑剣を多用しているせいか、切れ味が落ちたようにも感じていた。
「ヴァーシュ姉、そろそろセラフィーさんとこ持ってく?」
「そうねぇ・・・、ルア、ちょっといい?」
「なーにー?」
「武器の手入れにセラフィーさんの所に行くけど、どうする?」
 ヴァーシュの提案に筆を止め、傍らに置いていた魔導剣を抜いた。
「あー・・・、私のもそろそろ手入れ必要かぁ」
 鞘に剣を収め、ル・アージュはまた筆を手に取った。
「もうちょいで課題終わるから待ってて」
 真剣なまなざしで課題に取り組むル・アージュ。ルシアもため息混じりにル・アージュの課題を見つめていた。
「叔母さん終わったよ」
「どれどれ・・・」
 ゴクンと生唾を飲みルシアの返答を待つル・アージュ。
「まあこんなものか・・・、いいわよ。でかけてらっしゃい」
「やたー! ヴァーシュ、ネリス、セラフィーさんとこ行こ」
 こうしてル・アージュ、ヴァーシュ、ネリスの3人は、男所帯のある鍛冶屋街に出かけて行った。

 女所帯から男所帯までは30分くらいの道程だ。3人は談笑しながらゆっくりと歩いて行く。
「ヴァーシュも勉強に付き合うって?」
「うん、ヒールの回復量上げれば、もっと回復剤代浮くかなぁって・・・」
 夏着の袖なしシャツを着た3人は、ハンカチで額の汗を拭きながら歩いて行く。
「それにしても暑いね・・・」
 ネリスがぼそっとつぶやく。
「夏だからね」
 ル・アージュが素っ気なく返答をする。
 私服に身を包んだ3人は、ル・アージュがシャツに短パン。ヴァーシュはシャツにロングスカート。ネリスはシャツにミニスカートと、夏の暑さに薄着になっていた。
 街中もパラソルを掲げた露店が多く目立つ。この暑さでも繁盛しているのはアイスクリーム商人の露店ぐらいだ。
「アイス買ってこうか?」
 ル・アージュの提案に乗っかる二人。お代は言い出しっぺのル・アージュが3人分出した。
 アイスを食べながら男所帯に向かう3人。冷たいアイスが気持ちいいくらいにおいしく感じる。そうこうして3人は男所帯にたどり着いた。
「セラフィーさんいるー?」
「開いてるよ! 勝手に入ってきな」
 男所帯の中からセラフィーの声が響く。
「お邪魔しまーす」
 通い慣れたネリスが男所帯のドアを開く。今日は珍しく精錬していないセラフィーの姿に、ネリスは首を傾げた。
「いらっしゃい。今日は武器の手入れか?」
「はい、そろそろ切れ味が・・・」
 3人は厨房から歩いてきたセラフィーに、各々の武器を差し出す。
「なんだ? 3人揃ってアイスか。羨ましいねぇ・・・」
「私が買ってきましょうか?」
 同じく厨房から出てきた渚 レイが手を拭きながらセラフィーに問う。
「わりぃ、頼めるか?」
「いいですよ。今日のお勤めは午後からですし、昼食は作っておきましたから冷やして食べてくださいね」
 そう言って渚 レイは若い3人に軽く会釈をし出かけていった。
 セラフィーは溶鉱炉に火を入れ、金敷を出す。そして3人から武器を受け取り刃先をまじまじと眺めた。
「ふむ・・・、それほど痛んではないが、問題は切れ味か・・・」
 セラフィーは砥石も用意して3人の武器をくまなくチェックし、焼き入れをしたり研いだり叩いたりして始めた。
 その間3人は、セラフィーの手入れを眺めながら買ってきたアイスを食べ終わるのだった。
「ただいま帰りました」
「ナイスタイミングだ、レイ。ちょうど終わったところだ」
「それは何より・・・」
 渚 レイはセラフィーにアイスクリームを渡すと、居間に置いてあったビレタをかぶった。
「ん? 出かけるのか?」
「はい。騎士団から動けるアークビショップを何人か用意してくれとのことづけを言いつかりましたから、ちょっと大聖堂へ・・・」
「急な話だな。ま、気をつけてな」
「はい」
 そうして渚 レイは出かけていった。
「3人とも、武器の手入れは終わったぞ。気になったらまた持ってこい」
『ありがとうございます』
 ル・アージュら3人は、手入れの終わった各々の武器を手に男所帯を出ていく。
「旦那ぁ、いいのかい? せっかく娘がきてたのに・・・?」
 その声を聞いて物陰からヴァーシュの父親、白鳥が出てきた。
「もうヴァーシュだっていい歳の娘だ。私の出る幕はないさ」
「そんなもんかねぇ・・・」
 アイスを食べながら精錬道具を片付けるセラフィー。白鳥は何も言い返さず自室へと戻って行った。

「海に行きたいねー」
 女所帯への帰り道、ル・アージュが空を見上げつぶやいた。
「小母様に提案してみる?」
 ヴァーシュが相槌を打ってみるが、ル・アージュは何も言わない。
 ネリスはそんな二人の跡を追っているが、黙って歩いて行く。
「ルア、海に行くならそろそろ水着の買い替えとかあるんじゃない?」
「そうなのよねー」
「ルア姉、あれって・・・?」
「あー・・・、お姉ちゃんだ・・・」
 ル・アージュの背中をつついたネリスが先ほどのアイスクリーム商人の方を指さす。それを見るとル・アージュが呟いた。
「お姉ちゃん、何してるのさ?」
「あらルア・・・。見つかっちゃった」
 微笑むファ・リーナにため息をつくル・アージュ。
「お姉ちゃんもこれから大聖堂?」
「そうなのよー。だからその前に甘いものでも・・・って、なんでルアがそんな事知ってるの?」
 不思議そうな顔で妹を見るファ・リーナ。
「うちらさっきまでセラフィーさんとこ行っててね、レイさんが大聖堂に呼ばれたって言ってたから、お姉ちゃんもかなー? ってね」
「ふーん・・・、前衛職って大変ねぇ」
「そういうこと、じゃあね、お姉ちゃん」
 そう告げて立ち去るル・アージュ。

「ただいまー」
 ネリスが女所帯のドアを開ける。
「おかえり。遅かったじゃない」
「クリシュナ伯母さん、帰ってたんだ・・・」
「セラフィーのとこ行ってたんでしょ? 武器の手入れでもしてたのかい?」
 女所帯の食堂で、アイスティーを飲みながらクリシュナは3人を見た。
「うん! 武器の手入れしてもらったのー」
「そうかいそうかい。もうじきお昼よ。食卓に着きなさい」
『はーい』
 女所帯のお昼はカレーライスだった。クリシュナ曰く、暑い時こそ辛いもの! らしい。
 こうして食卓に5人ともつき、フレア特製のカレーを静かに摂り始めるのだった。

  by lywdee | 2017-06-27 11:09 | Eternal Mirage

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