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Eternal Mirage(204)

 聖カピトリーナ修道院での慰霊祭の中、クリシュナとその弟子、カー・リーは沈みゆく太陽に照らされながら、他の参加者とともに灯篭を作っていた。
 カー・リーは隣で灯篭を作る師、クリシュナの憂いに満ちた顔を眺めながら朝に言っていた最初の弟子の墓でのセリフが耳について離れなかった。
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「もう弟子は取らない」
 
 師の過去を知ることになったカー・リーは、クリシュナの自分に対する態度が最初の弟子と重なったのかわからずにいたが、今のクリシュナの顔には弟子を取りたくなかったというクリシュナの言葉が胸に突き刺さっていた。

「無茶する子は嫌いよ」

 あの時言った言葉の意味を知ったからといって、クリシュナを責めることなどできはしない。
 むしろ自分に対する優しさが文句は聞かないという意味では理由が分かったのだが、弟子は自分で最後なのだろうと悟った。
 そして灯篭の中のろうそくに火を灯し、参加者が海へ流していく様はもの悲しさだけを残していく。
「師匠が転生するまで阿修羅覇王拳はいらないと言った意味は分かりました」
「そうね。あんたが最後の弟子なのだから過去の事を話したのよ。ここでの事は他の修羅もだいたい知っているわ。でも私は弟子を取る資格なんてないのよ。無責任だからね」
「そんな事・・・、私は無いと思います!」
「ありがと・・・」
 もの悲しげな顔で笑顔を作るクリシュナ。その顔を見ると、カー・リーもうつむいて視線を離すしかなかった。
「師匠は・・・、私にとっての憧れです。過去は変えられない、でも師匠は私の事を考えてくれました。弟子にもしてくれました。とても無責任だとは思っていません」
「過去は過去、事実は事実よ。あんな思いをするくらいなら弟子は取りたくなかった。あんたといると調子が狂うわ。でもあんたはそんな私についてきた。だからありがとうと言わせて」
「師匠・・・」

 その夜、カー・リーは寝付けずにいた。師の過去を知っても自分にとっては胸を張って「撲殺天使の弟子」を名乗れると思っていた。でもそれは自己満足なのかもしれないと思わずにはいられなかった。
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「師匠にあんな過去があったなんて・・・、ショックだったなぁ・・・」
 ベッドで横になりながら、カー・リーは帰り際のクリシュナの顔が離れなかった。
(撲殺天使の弟子かぁ・・・、みんな同じことを言う理由って師匠の過去を知ってるからなのだろうか?)
 ゴロゴロと寝返りをうつカー・リーは、クリシュナが弟子を取りたくなかったという事実に悶々としていた。
「カー・リー! ご飯よ!」
 カー・リーの母の自分を呼ぶ声が響く。
「わかってる! すぐ行くから!」
 上体を起こすと、カー・リーは両手で左右の頬を叩く。
(私が弟子としてできること。それは師匠を悲しませることはできない・・・って事だわ。卒業と言われても、師匠は私の事をちゃんと弟子として見てくれてる。だったらなおさら無茶はできない。私が、撲殺天使の弟子としてできるのはそれくらいだ)
 カー・リーはベッドから起き上がると、自分の部屋から出て1階に降りていくのだった。

 数日後

 クリシュナは一人迷宮の森に来ていた。当然生活費のためのハンターフライ狩りのためである。
 だが、それは現実から逃げているのではなく、過去を受け入れたうえでの家族を養う家長としての務めでもあった。
 クリシュナは、休憩がてら芝生の上で寝転がると近づいてくる人の気配を感じて起き上がることになった。
「パルティナ・・・? どうしてここに?」
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「姉様ならここにいると思って・・・」
 やわらかな笑みを見せるパルティナがそこにいた。
「姉様なら、一人でいたいときは静かな誰も来ない場所にいるだろうなぁって・・・」
「あんたこそ。ここは退魔アクビがくるとこでもないだろうに」
「えへへ・・・、なんだか姉様に会いたくなって・・・」
 パルティナはクリシュナの隣に腰を下ろす。それを見たクリシュナもまた腰を下ろすのだった。
「あんた、体の調子は?」
「見てのとおりです。姉様たちのおかげですわ」
「そ・・・、ならいいんだけどね」
 涼しげな風が二人の髪を揺らす。
 二人は何を話すわけでもなく、静かな時間を共に過ごす。
「相談事でもあるの?」
 沈黙に耐えかねたクリシュナが切り出す。
「わかっちゃいましたか?」
「あんたは昔から相談事があると、きまって私ら兄弟のそばで黙って遠くを見るからね。何年姉妹やってると思ってるのよ」
「ははは・・・」
「あんたは隠し事向きじゃない性格してるからね」
「そうですね・・・」
 パルティナはクリシュナの言うように遠くを見つめて黙っている。
 クリシュナも黙って妹からの言葉を待っていた。
「姉様、私、姉様の胸の苦しみを取り除いて差し上げたいのです」
「はぁ?」
 妹からの突飛な台詞にクリシュナは自分の耳を疑った。
「姉様もなんでも胸の内に秘めて、私達兄弟にも何も言ってくれないじゃないですか」
「そんなつもりは・・・」
「長女だからですか? それとも私達じゃ相談相手にもなりませんか?」
「・・・」
 パルティナからの視線を外すクリシュナ。
「私思うんです。姉様には幸せになってもらいたいと・・・」
「私は・・・、今のままでも幸せよ?」
「ウソ。ではいつまで過去の事を気に病まれるのですか?」
「それは・・・、私が無責任だったからよ。弟子の暴走を止められなかったのは私の責任だもの・・・」
「そうですね。だからっていつまでそのまま踏みとどまるのですか?」
「私にどうすれと?」
「もっと私たちに頼ってください! 力量不足ですが、一人で抱え込むより楽になりますよ」
 屈託のない末妹の笑顔に、クリシュナは照れながらそっぽを向いた。
「過去を受け入れるのは悪いことでもありません。でも気にしすぎもよくありません。発散させることも重要ですよ」
「シスターみたいなことを言うのね」
「はい! 私シスターですから」
 クリシュナはパルティナの言葉に思わず吹き出して笑うのだった。
「アークビショップって言ってもシスター同然よね。ごめん笑っちゃった」
「姉様には笑顔がよく似会いますよ。主は人の心に満ちた不満、葛藤、後悔を取り除くために我ら司祭を地に降ろしたのです。人の心の支えになるのが我らシスターの務め。主はすでに姉様をお許しになられてるのです。だから姉様も、もっと笑っていてください」
「妹にそこまで言われるとわね・・・、ありがと、少し楽になったわ」
 笑って立ち上がるクリシュナ。
 それを見たパルティナも笑って立ち上がる。
「なんか二人で甘いものでも食べに行きますか」
「はい!」
 クリシュナの出したワープポータルに二人は飛び込む。そして一瞬のうちにプロンテラにつく。
 二人はそのままプロンテラのカフェへと消え去るのだった。

 その頃ルシアは・・・。

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「落ち着くなぁ」
 ルシアは一人、ジュノーの図書館にいた。
「姉さん、パルティナにはあまいからなぁ。なんとか説得できるでしょう」
 一人読書に没頭しているルシア。
 末妹に姉の事を任せて自分はル・アージュの課題にもなる資料を考えていたのだ。
 本に囲まれたこのジュノーの共和国図書館は、ルシアにとって天国のようなものなのだ。
「そろそろ合流した頃かしらね?」
 そう、パルティナをクリシュナのもとに送ったのはルシアの策略みたいなものだった。
「ま、姉さんなら私の言う事よりパルティナの言うことを聞くだろうし、何とかなるっしょ」
 無責任にも聞こえるルシアの独り言。
 妹がかわいいと思うのはクリシュナもルシアも同じなのだ。
 適材適所。ルシアの思惑は当たっていた。ルシアもなんだかんだ言っても姉、クリシュナの事が好きなのだ。 
「後は頼んだわよ。パルティナ」
 クスクス笑いながら、妹に説教されてるクリシュナを思い浮かべ、ルシアは本を閉じるのであった。

 こうしてルシアのたくらみとも知らぬクリシュナは、パルティナとスイーツを楽しんでいるのであった。

  by lywdee | 2017-09-07 17:49 | Eternal Mirage

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