Eternal Mirage(205)
季節は夏から秋になり始めていく中、女所帯の面々は常夏の観光地「ブラジリス」に来ていた。
理由は簡単、今年はまだ海に行ってない。ただそれだけだった。
だが、喜ぶ女所帯の面々の中で、一人だけ仏頂面でやる気のない者が一人いた。
「伯母さん泳がないの?」
「私は泳げないって言ってるでしょ!」
そう、自他ともに認める金づち、ルシアだった。
ネリスの言葉に怒気を見せ、一人波打ち際に一人用エアベッドのようなものを膨らませ、その上にゴロンと横になっていた。
(まったく・・・、何が楽しいのやら・・・)
不機嫌なまま潮風を頬に受け、ルシアはそのうちうとうとと眠りにつくのであった。
「ヴァーシュ、また胸が大きくなったんじゃない?」
「そ、そうかしら?」
ル・アージュはヴァーシュの水着姿を見て、自分の胸と比較した。
ビキニから零れ落ちそうなヴァーシュの胸を見て、ネリスはおもむろにヴァーシュの胸を触らせてもらい今度は自分の胸を触る。すると何故か涙目になって離れるのであった。
「あの子、まだあきらめつかないのか・・・」
ル・アージュとヴァーシュは、ネリスの後を追い慰めるがネリスは機嫌が悪いのかそっぽを向いて、「羨ましくなんか・・・、ないんだからね!」と強がって見せていた。
「まぁそれは置いといて、みんなでアイス食べに行こ!」
ル・アージュはネリスの手を引き立たせると、ヴァーシュと3人で中心街まで向かうことにした。
「ねぇルア姉、ルシア伯母さん寝てるけど、ほっといていいの?」
「起こすのも悪いからね、それにクリシュナ伯母さんもいるもの。大丈夫でしょ?」
こうして若い3人はブラジリスの中心街まで歩いて行くのだった。
それから数分後、中心街のベンチで腰を下ろし、若い3人は談笑していた。
そこへ現れたのがクリシュナとフレアの二人がきた。
「あれ、ルシアと一緒じゃなかったのか?」
「へ? ルシア叔母さんなら海岸に・・・」
「え、いなかったわよ? てっきりあんたたちとぶらぶらしてるものだと・・・」
「・・・」
『まさか!?』
5人ははっとして海岸に急ぐ、しかし波打ち際で寝ているはずのルシアはそこにいなかった。
「伯母さんアレ!?」
ネリスが海岸に漂うエアベットを見つけた。その上にルシアの姿はない。
5人は慌てて海に入り、エアベットのある海域に急ぎ泳いだ。
ブクブクブク・・・。
「いた! この下よ!」
ルシアを見つけたクリシュナがヴァーシュとル・アージュを呼び、数分後なんとか波打ち際まで引き上げるのだった。
「ルア、心臓マッサージを。ヴァーシュは腹を押して海水を吐き出させて!」
クリシュナはル・アージュとヴァーシュに指示を出し、自身はルシアの鼻をつまんで人工呼吸を始めた。
時折吐き出される海水。結構飲んでるように見えた。
多分ではあるが、波打ち際で寝ていたルシアは、満ち潮で沖へと流されていったのであろう。
「ひどいじゃない! みんなで私の事忘れるなんて・・・!」
「いやー、満ち潮の事まで考えてなくて・・・」
クリシュナは申し訳なさそうに笑顔を作るが、ルシアは涙目で背を向け、膝を抱え込んで座っていた。
「ルシア様、替えの下着とソーサラーの服です。お着替えにならないと風邪をひきますわ」
フレアはルシアに着替えの入ったバックを手渡す。何かあったらと、ルシアは一応着替えを用意していたのだ。
ルシアは黙ってそれを受け取ると一人着替えに歩いて行くのであった。
ジャー・・・。
「ひどい目にあった・・・」
ルシアは着替えを済ませトイレにいた。
よもや溺れるとは思ってもいなかったのだろう。
「これだから海は嫌いなのよ!」
一人ブツブツと文句を言いながら更衣室を出ていくのであった。
「おかえり伯母さん」
「ただいま。姉さん、私帰りたい」
ネリスのお迎えに頭をなでなでするルシア。
クリシュナ達も着替えを済ませていたので、全員そろってることを確認してワープポータルを出した。
プロンテラに帰った後もルシアの機嫌は治らなかった。放置されたことがよっぽど腹に据えかねていたのだろう。
「ルシア様、紅茶です」
居間で文献をあさっているルシアの前のテーブルにフレアは紅茶を置く。
「悪かったって言ってるでしょ? まだ怒ってんの?」
クリシュナも対面のソファーに腰を下ろしていたが、ルシアはジト目でクリシュナを見つめる。
「本当にそう思ってる?」
紅茶を飲みながらも、ルシアの機嫌は悪かった。
「私たちも起こすの悪いかなー? って・・・」
「すいません伯母様、まさか流されてるなんて思いもよらなかったもので・・・」
ル・アージュとヴァーシュもルシアに謝る。
するとルシアは、やおら立ち上がりネリスのカートに借りてきた文献をすべて乗せた。
「ネリス、図書館に付き合って」
「いいよー」
こうして二人はプロンテラの中心へと歩いて行った。
「伯母さんまだ怒ってんの?」
「別に・・・」
表情からはわからなかったが、ネリスはルシアの機嫌がまだ悪いと思った。
図書館に入ってからは少し機嫌がよくなったのか、ルシアは一人図書館の奥に入っていく。
ネリスも何回か来ているところなので、カートに積まれた文献や本を受付に返していく。すべて返した後はルシアの後を追って図書館の奥へと向かって行った。
ルシアは魔導書などの文献や本を見繕って、時には手に取って呼んだりしながらネリスを待っていた。
「次のルアの課題、何にしよ・・・」
本に囲まれたことでルシアの機嫌は少し良くなっていた。
「これとこれならルアの魔道剣に力を与えてくれそうね。もうちょいルシアの魔力を上げる課題になればいいんだけどなー」
「伯母さんお待たせ」
「うん」
ネリスのカートにあれもこれもと本と文献を積むルシア。当然自分の読む物も積んでいる。
「これって、全部ルア姉の課題?」
「私の知的好奇心を満たす物も混じってるけどね」
「ふーん」と積まれた本を開いてみるネリス。だが彼女にしてみれば何書いてあるのか全然わからないものばかりであった。
「これってルア姉読めるの?」
「そうよ。あんたも勉強する?」
「遠慮しときます」
ネリスの言葉に「ふふふ」と笑うルシア。本に囲まれたことで機嫌がよくなっているようだ。
そうして数分後、カートに積まれた魔導書なりの本と文献を受付で確認してもらうと、ルシアはネリスのワープポータルで女所帯へと帰っていくのであった。
夏は終わりを告げ始めるのであった。
by lywdee | 2017-09-12 13:08 | Eternal Mirage