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Eternal Mirage(211)

 ここはゲフェンの東にあるミョルニール山脈にある廃鉱。昔は鉄や石炭が多く取れていた時期もあったが、今はモンスターが闊歩する危険な鉱山跡地となっていた。
 そこに来る冒険者も、今じゃスケルワーカーカードを狙う冒険者がたまにくるダンジョンとなっていたが、ここを修行場にしている冒険者も数が減り、女所帯の主、修羅「クリシュナ」がよく金策に通うダンジョンの一つとなっていた。
 しかもここは、クリシュナが8時間こもったことが何度もあるダンジョンで、そのことから仲間内ではクリシュナの事を「撲殺天使」と呼ぶようになったいわくつきのダンジョンでもあった。
「さて、まずは鈍った体を起こさないとね」
 入り口に立ったクリシュナは、テレポートでまず2層目を目指す。1層目に大量にいるミストを見向きもせず、何度目かのテレポートで2層目の入り口に立った。
「今日は何周しようかねぇ・・・。金策に来たわけじゃないし、4周ぐらい回って迷宮の森に行くか・・・」
 もう迷路のような2層目もクリシュナにしてみればもはや関係ない。通ってる年季からしてもう迷うこともない。
 さっそく砂時計代わりのハイスピードポーションを飲み、自身にブレッシングと速度増加スキルを使ってスケルワーカーを殴り始める。
 そして3周目の中盤に差し掛かったところだろうか、ドレインリアーを殴り倒したらひらひらと紙きれらしきものが落ちる。

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「あら珍し、ドレインリアーカードだなんて・・・。出るのも久しぶりだねぇ・・・」
 クリシュナはゆっくりそれを拾うと、ひらひらと目の前で揺らした。
「年末だしね、あの子たちのお年玉にでもするか・・・?」
 カードを荷物入れに入れると、クリシュナはテレポートでプロンテラに帰るのだった。

-翌日-

「ヴァーシュ! ルア! ネリス! ついでにルシア。ちょっとおいで」
 女所帯にクリシュナの声が響き渡る。
「私はついでかい・・・」
 ルシアも重い腰をあげ、居間から食堂のテーブルについた。
 それにちょっと遅れて2階から若い衆3人が降りてきてこちらも食堂のテーブルについた。
「なあに? 伯母さん」とネリス。
「ちょっと早いがお年玉よ。公平に分けるからね」
 そう言いながらクリシュナは、テーブルについた4人の目の前に封筒を一つずつ置いてった。
「伯母さんこれって昨日のカード売れたお金?」
「そうよー。生活費に困ってないし、アンタたちもたまにはほしいものがあるでしょ? 服とか本とか、その他もろもろ・・・」
 ル・アージュが早速封筒を開ける。そして中身を確認すると・・・。
「叔母さん、50万ゼニーもあるじゃない! ほんとにいいの?」
「いいのよいいのよ。ルアとヴァーシュはお給料もらってるとはいえ、年頃だし、ネリスとルシアは給料もらってないんだから。臨時収入としてもらっておきな」
「姉さん、なんで私まで? あとで体で稼げとか言わないよね?」
「アンタにはやる気ももらう気もない。ついでだって言ったでしょ」
「ついで・・・ねぇ・・・」
 いぶかしげるルシアだったがとりあえず封筒を懐に入れた。
「・・・で、姉さん。フレアにもあげたの?」
「当然。ボーナスとしてあげたわよ。じゃ、私迷宮の森で鍛えてくるから。これにて解散」
『伯母さんありがとー』
 若い衆の言葉に、クリシュナは笑顔で出かけるのであった。

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「カード売ってお年玉とは・・・、クリシュナさんらしいな」
「でしょー。私たちも驚いたわ」
 若い衆3人は各々の武器をもって男所帯に来ていた。
「でもいいのですか? お金も取らずに武器の手入れしてもらうなんて・・・」
 ヴァーシュが椅子に座って槍をぶら下げる。
「いいんだいいんだ。お金に困ってないし、お前らとの付き合いも長いから、身内から金取る気なんてさらさらないさ」
 一つ一つ武器を手入れするセラフィーは、「時間がかかるから買い物行ってこい」と若い衆を締め出した。
 こうしてヴァーシュ、ル・アージュ、ネリスの3人は、久しぶりにショッピングにプロンテラの中心街まで歩いて行くのだった。
「ヴァーシュ、リューさんとのデートのために新しい服買ったら?」
「そんな・・・デートだなんて・・・」
 ル・アージュの言葉にヴァーシュは、顔を赤らめ右手の人差し指が空中に円を描いている。
(そっか、回すものないと指が回るのね)
 照れるヴァーシュをみてル・アージュはそう思った。
「ネリス、アンタは欲しいものなんてないの?」
「うーん、これと言ってほしいものってないなぁ」
「じゃあ、まずは腹ごしらえでもしようか。伯母さんたちには外食してくるって言ってあるし」
「そうね。そうしましょ」
 こうして3人はレストランに入っていくのであった。

「シル・クス、いるか?」
 セラフィーは同じ男所帯の住人、シャドウチェイサーの「シル・クス」を呼んだ。
「何か用か?」
「ああ、お前さんにしか頼めないことがあってな」
「・・・話を聞こうか」
 二人は居間のソファーに向かい合って座る。
「・・・で話ってなんだ?」
「うん、生活費も半年くらいもつからな、お前さんにイズルードの海底神殿まで行ってドフレから閃光の爪を集めてきてもらいたいんだ」
「何個だ?」
「16個くらい・・・。報酬は出す。頼めるか?」
 セラフィーがそう言うと、シル・クスはすっと立ち上がり背を向けた。

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「報酬があるなら仕方ない。16個だな」
「頼めるか」
「例のごとく倉庫に回復剤を用意しといてくれ。しばらく帰らん」
「わかった」
 そこまで言うとシル・クスの気配は消えた。さっそくイズルードまで出かけていったのだろう。
(これでクリシュナさんの装備はなんとかなるだろう)
 セラフィーはタバコに火をつけると、「フゥー」っと煙を吐いた。

 ガランガラン

「セラフィーさん手入れ終わった?」
 ネリスの声が男所帯に響く。
「ああ、全部終わったよ。大事に扱ってくれよ」
「うん!」
 若い衆3人はそれぞれの武器を手に取って刃先などを入念に見つめた。
「ありがとうセラフィーさん」とル・アージュ。
「いいってことだ。何かある前にまたもってこい。手入れはいつでもしてやる」
 セラフィーに見送られて3人は帰っていった。

「ただいまー」
 ネリスを先頭に若い衆が女所帯に帰ってきた。だがそこにクリシュナはいなかった。
「ルシア叔母さん。クリシュナ伯母さんは?」
「ああ、迷宮の森に行くって」
「最近よく行くね」
「ルアが急成長したからね。負けてられないんでしょ?」
 居間のソファ―に腰を下ろしているルシアは、本を読みながら視線も変えず答えた。
「ルアは攻撃型ルーンナイトだからね、防御型の姉さんにしてみれば、成長は早いからねぇ。私からしてみれば、ルアは攻撃力だけなら姉さんを超えてるわよ」
「そうかな? 実感がわかない」
「それならまた今度あんた連れてバリオフォレスト行ったげる。それで実証するわ」
「わかった」
「まぁ魔力だけなら、オーラまとったハイウィザード超えてるわよ。私が保証してあげる」
 読んでた本を閉じてルシアが笑う。
「で、伯母さんは金策? それとも修行?」
「たぶん自分で使うカードでも探してんじゃない? 今の武器じゃ限界が近いらしいからね」

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「ま、姉さんに狙われたら最後よねぇ」
「ははははは・・・」
 ルシアの一言に、ル・アージュとヴァーシュは力なく笑った。
「我が姉ながら、尊敬に値するわ。あの執着心・・・」
 想像に難くないクリシュナの狩り。あの集中力は真似できないと若い衆は思った。
「ネリス、暇でしょ? 暇に決まってる。ジュノーまで付き合って」
「はーい」
 そしてルシアとネリスは出かけていった。
 残されたル・アージュとヴァーシュの二人は、各々鎧を着こんで狩りに出かけるのであった。

  by lywdee | 2017-12-26 12:13 | Eternal Mirage

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