Eternal Mirage(212)

 粉雪舞う1月の終わり、プロンテラの朝はまだ肌寒い日が続く。そんな寒さの中、男所帯のアークビショップ「渚 レイ」は朝も早く大聖堂にいた。
(主よ、お許しください。私は神に仕える身でありながら一人の女性を愛してしまったようです。しかしこの気持ちを伝えていいものか悩んでいます)
 朝早くから渚 レイは、大聖堂のご神体を前に祈り続けていた。それを柱の陰に身を隠し、温かく見守る女性のアークビショップ「パルティナ・フラウディッシュ・シャナ」が微笑み見つめていた。
(若いっていいことね)
 パルティナは何するわけでもなく、胸元に抱える悪魔祓いの書を小脇に移し、一人大聖堂を後にした。
「あーもうじれったいな。そこまで悩んでるんだから、その気持ちを大事にしろよ。主はお許しになってくれるはずだ」
「刹那・・・」
 同期のアークビショップ、「時津刹那」が渚 レイの背中を押す。
「まじめすぎるんだよ、お前は。1日2日の悩みじゃないんだ、そろそろ行動に移せよ。みてられないんだよ」
「しかし・・・」
「しかし・・・、なんだ? まだ悩んでることでもあるのか?」
「いえ・・・、なんでもありません。孤児院に行ってきます」
「あんまり悩むと胃に穴があくぞー」
 刹那に後押しされながら、渚 レイは孤児院に向かうのであった。

「司祭様? 何かお悩みでも・・・?」
 孤児院で孤児たちに将来何になりたいかを考えさせてた渚 レイにシスターの一人が声をかけた。
「いえ、そういうわけでは・・・」
「もう、司祭様はすぐそうやってごまかします。子供たちも見ていられるのですから、この際はっきりさせた方が・・・」
「そうですね。このままでは執務に支障をきたしますね」
「司祭様・・・」
「ここを任せてもよろしいでしょうか?」
「はい、お任せを・・・」
 こうして渚 レイは孤児院を後にした。

「おはよー。ご飯できた?」
「あんたで最後よ。さっさと食卓につきなさい」
 寝起きのルーンナイト「ル・アージュ・フラウディッシュ・シャナ」が修羅「クリシュナ」に指示される。女所帯ではありがちな光景だ。
「ルア姉、さっきレイさんがきてこれを渡すように言われたんだけど・・・」
「手紙? なんだろ?」
「食事を先にしなさい!」
 クリシュナの激が飛ぶ。ル・アージュは手紙を懐に入れて食事を始めた。
 今日の朝食はミートソースパスタだった。ル・アージュはフレアの作るミートソースパスタが特に好きだった。

 数分後、女所帯の朝食が終わるとル・アージュは、自室に戻り椅子に座ると懐に入れてた渚 レイからの手紙を開けた。

―いつもの海岸線で待っています。 渚 レイ―

(いつもの海岸線? あぁあそこか)
 ル・アージュは手紙を読み終えるや否や、ルーンナイトの鎧を身につけ壁に立てかけた赤と茶色で色分けされた魔導剣を腰に携えた。
「ちょっと出かけてくる」
「いってらっしゃーい」
 ル・アージュはネリスに見送られ厩舎につながれたドラゴンを解放し背中に飛び乗ると、プロンテラ南門を超えてプロンテラ南を駆け抜けていった。

(なんだろいったい・・・? 狩りなら大聖堂で待ち合わせなんだろうけど・・・)
 疑問を抱きながらル・アージュは、南と呼ばれるプロンテラの平野を南下していく。

 数分後にはル・アージュがよく考え事をするイズルードから南にある海岸線にたどり着いた。
「来てくれましたか」
 そこには渚 レイが待っていた。
「どうしたのレイさん? 何かあった?」
「いえ、気持ちの整理をしていました」
「へ?」
 ル・アージュはドラゴンから降りると渚 レイのそばへと近づいた。
「ルアさん」
「はい」

f0158738_10171557.png
「あなたの事を愛しています」
「へ?」
 ル・アージュの時が止まった。
 頭の中では「愛してる」の言葉がこだまのように響き渡る。そして数秒後には、ル・アージュの顔がこれ以上無く赤くなり、擬音を使えばボッと紅潮していった。漫画であれば頭から煙が出ていることだろうその言葉に、ル・アージュの思考回路がショートした。
「ご、ごごご、ごめんなさいー」
 ル・アージュはドラゴンをそっちのけにして走り出していった。
「振られたのかな? 私・・・」
 渚 レイは、残されたドラゴンの手綱を引き、プロンテラへと帰るのであった。

 渚 レイがプロンテラにたどり着いたころ、ル・アージュは鎧姿のまま自室のベッドにもぐりこんでいた。
(こ、告白されちゃった・・・)
 うつ伏せ状態で毛布を頭からかぶり、渚 レイからの告白を思い出すたびに顔が紅潮し、心臓の音が誰かに聞かれるんじゃと思うほどドキドキと波打っている。
(ど、どどど・・・、どうしよう!)
 あまりの恥ずかしさに、ル・アージュは自分のドラゴンを置いてきたことすら忘れていた。
(返事もせず帰ってきちゃったよぉ)
「ルアー、レイがドラゴン連れてきてくれたよー」
 少し冷静になってきたところで、ル・アージュは自分のドラゴンを置いてきたことに気付いた。それと同時に下からルシアの声が響いてきた。
(ちゃんと返事しなきゃ・・・)
 ベッドから抜け出て下に降りるル・アージュ。
 しかしル・アージュが降りてきたところで渚 レイの姿はなかった。
「あれ? レイさんは?」
「帰ったよ。あんた、ドラゴン置いてきて何があったのさ?」
 ルシアの一言にル・アージュは、またボッとまた顔が赤くなった。
(ははーん、そう言う事ね)
 ルシアはル・アージュの態度で何があったのか大まか予想できた。
「ルア、私パルティナのとこに行ってくるわ」
「う・・・うん」
(純情だねぇ・・・、ヴァーシュとは正反対だ)
 ルシアは笑いながら女所帯を出ていくのであった。

 ところ変わって鍛冶屋街の男所帯では・・・。
f0158738_11303922.png
「報酬は受け取った」
「おう、またなんかあったら頼むわ」
「・・・」
 メカニック「セラフィー」がシャドウチェイサー「シル・クス」にお金の入った袋を渡し、代わりに16個もの閃光の爪を受け取ったところで渚 レイが帰ってきた。
「おや、シル・クスさんも帰られたのですか? ではお昼でも作りましょうか?」
 工房を抜け厨房に入る渚 レイ。
「レイ、ため息なんぞついてどうした?」
「いえ、別に・・・」
「まぁ恋愛話なら聞かんけどな」
「ではいいです。」
(恋愛話か! 冗談だったのに・・・)
 セラフィーは「ははは」と力なく笑った。
「と、とにかく、俺、ちょっとスロットエンチャントに行ってくるから、飯はそのままでいいわ」
「はい、わかりました」
 荷物を抱え、プロンテラの南西まで出かけるセラフィー。シル・クスは「飯ができたら呼んでくれ」と自室に帰っていった。

「まぁ、そんなことが・・・」
「そーなのよパルティナ。だからさ、大聖堂であったらそれとなくね・・・」
 ソーサラー「ルシア・フラウディッシュ・シャナ」は、妹、「パルティナ」と揃ってネリスの実家にて何やら算段を立てていた。
「姉様、それは本当の事ですよね?」
「多分間違いない。あの子、あぁ見えて純情だから、顔にすぐ出るからね」
 ルシアは自分の事は棚にあげといて、姪のル・アージュの事でパルティナと話をしていた。もちろんネリスの実親であるロイヤルガード「リンク・フラウディッシュ・シャナ」がいないことを察しての訪問である。

-翌日-

(ちゃんとレイさんの告白に答えなきゃ・・・)
 ル・アージュは朝からプロンテラ大聖堂前に佇んでいた。でも本心は今すぐにでも逃げだしたいくらいの恥ずかしさが歩みを止める。
(えぇーい、ままよ!)
 勇気を振り絞って大聖堂に入るル・アージュ。
 大聖堂の中はいつもより静かな気がした。
(レイさん何処かな?)
「あら、ルアちゃん。おはよう」
「ひぃっ!」
 突如背後からかけられた声に、ル・アージュは素っ頓狂な声をあげた。
 振り向くとそこには、満面の笑みでほほ笑むパルティナがいた。
「叔母さん驚かさないでよ」
「ふふふ・・・、誰かさんの心が浮ついてるから気付かないのよ」
 悪びれることなく微笑む叔母に、ル・アージュはため息一つつくのであった。
「あのー、お姉・・・ちゃんはいないよね?」
「リーナちゃんなら今日は非番よ。でも、会いたい子は違うんでしょ?」
「そうだけど・・・、お姉ちゃんがいたら恥ずかしいし・・・」
(ホント姉様の言うとおりね。もう顔が赤いわ)
 フフフとほほ笑むパルティナ。ル・アージュの態度で、前日ルシアが話したことが本当であることを証明している。

「きびきびした態度は取れるけど、ルアは自分の事になると恥ずかしさが顔に露呈するから。きっと渚 レイに告白されたのよきっと」

 パルティナは姉、ルシアの言葉を思い出してほほ笑んだ。まったくその通りなのだから尚更である。
「ルアちゃん、それは決して恥ずかしいことなんかじゃないのよ」

f0158738_12515393.png
「あなたの想いはちゃんと伝わるわ。本気ならね」
「叔母さん?」
「想いを伝えたい人なら、今はルティエにいるわ。一人で孤児たちのおもちゃを受け取りに行ってるから、おもちゃ工場の近くまで行ってらっしゃい。運命の人なら、出会えるわ。きっと・・・」
「うん! 行ってみる!」
「あなたに神の祝福を・・・」
 ル・アージュは駆けだした。叔母パルティナに後押しされたんだ。きっと出会える。その想いが勇気となった。

 ルティエについたル・アージュは、おもちゃ工場の入り口でドラゴンから降りた。
(大丈夫・・・、きっと会える)
 顔は赤くないものの、ル・アージュの心臓はドクンドクンと高鳴っていた。
(落ち着け・・・、落ち着け私)
 何度も深呼吸をしては、逃げ出したい気持ちを押し殺す。すると30分くらい経った頃だろうか、大きな袋を抱えた渚 レイが出てきた。
「おや、ルアさん。奇遇ですね、こんなところ出会うなんて・・・」
「私、レイさんに話があるのついてきて・・・ください」
 ル・アージュはドラゴンの手綱を引きながら、袋を担いだ渚 レイとともに歩き出す。
「レイさん、私ね・・・、ずっと考えてたの。レイさんのこと・・・」
「私も、ルアさんの事を考えていました」
「この間の事謝りたくて・・・」
「・・・」
「レイさんに愛してるって言われて嬉しかった。でも恥ずかしくて逃げちゃったこと後悔してるんだ」
 ル・アージュは顔を朱に染めながら歩き続けた。そして何気ない話や、親が孫に期待していることやら、自分の事やらで何を話してるのか脈絡もなく話し続けた。
 渚 レイも、そんなル・アージュの話を聞きながらともに並んで歩いていた。
 そして数分後、二人はルティエの教会前の広場に出た。
「レイさんありがとう。こんな私を好きになってくれて・・・、でね私の答えを聞いてほしい」
「はい」
「私、レイさんの事・・・」
f0158738_13192344.png
「愛してます」
 勇気を振り絞って吐き出した言葉。ル・アージュの顔はもう真っ赤になっている。
 そんなル・アージュを、渚 レイは何も言わず抱きしめた。
 粉雪舞うルティエの教会で、二人は気持ちを通わせいつまでも抱きしめ合うのであった。

  by lywdee | 2018-01-30 13:32 | Eternal Mirage | Comments(0)

<< 一富士二鷹三カード? 泣きたい >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE