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Eternal Mirage(213)

 桜舞い散る初夏のプロンテラ。今日は男所帯が午前からにぎわっていた。
 ・・・と言うのも、ヴァーシュとル・アージュが朝から来ていたからだ。

「よく来たな、ヴァーシュ」
「はい、父上」
「旦那。ヴァーシュと正式に付き合うことになったから、遅くなったが挨拶に来た」
 男所帯の白鳥 悠の部屋に、私服姿のリューディーとヴァーシュが入ってきた。
 それというのも、二人はお互いの気持ちを確認したまではよかったが、その後任務が重なりなかなか二人そろっての休みが取れなかったせいでもある。
「とりあえず同棲はしないがここにはちょくちょく来ると思う」
「そうか、まぁ今更だが交際は認めるし、お前さんなら安心して娘を任せられるからな。とくに反対はせんよ」
(あらいい槍)
 リューディーと白鳥が話し合ってる中、ヴァーシュは白鳥の槍、アルシェピースに視線が取られた。
「今のところ男所帯を出るまではしないが、いいところが見つかれば二人で暮らすかもしれない。もっとも、結婚してからここを出るかもしれませんが・・・」
「なぁに、二人で決めてくれればそれでいいさ。私からは何もないし、ヴァーシュが幸せなら何も言うまい」
「恐縮です」
 軽く会釈するリューディー。
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「安心しろ、お屋敷を出た身だ。子供に過度な期待はせんよ」
「あらやだ父上、子供だなんて・・・、まだ早いですわ」
 そう言ってヴァーシュは、顔を紅潮させアルシェピースをくるくると回した。
(いつの間に?!)
 二人は同時に同じことを思った。

 時同じくして同じ男所帯の中で、ル・アージュは渚 レイの部屋に通されていた。
「へー・・・、レイさんの部屋ってこんなだったのか・・・」
 初めて入る異性の部屋に、ル・アージュは感嘆な声をあげた。
「何もお構いできませんが、お茶でも持ってきますね」
 そう言って渚 レイは部屋を出ていった。
(司祭の部屋ってこんなものなのだろうか? そう言えばお姉ちゃんやパルティナ叔母さんの部屋って見たことないや)
 ル・アージュはイメージ的に司祭の部屋って十字架やご神体があるものだと思っていたが、割と普通なんだな・・・と思っていただけに、殺風景な渚 レイの部屋をきょろきょろと見まわしていた。
 ただ、最初は椅子に座っていたル・アージュだったが、そのうち落ち着かずうろうろと渚 レイの部屋を見て回っていた。
「何もない部屋で驚いたでしょう?」
「へっ?!」
 いつの間にか戻ってきた渚 レイの声に、ル・アージュは驚いてしまった。
「私自身部屋をどうこうしようかなんて考えたこともなかったですからね」
 渚 レイは何食わぬ顔をして、ル・アージュの立っているところにある小さなテーブルに紅茶を二つ置く。その後ベッドの横に立つと思い出したように手をポンっと叩く。
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「正式に付き合うためにも、まずはご両親には挨拶しないと・・・」
「う、うちに来るの?」
「はい」
 真面目に答える渚 レイの言葉に、ル・アージュはどぎまぎして椅子に腰かけた。
「私の実家は母しかいませんから後でもいいですね。ルアさんの所は先に顔を出した方がいいでしょう」
「うちかぁ・・・、気が重いなあ」
「まぁ早いうちにご両親に会いましょう。とりあえず紅茶が冷めないうちにどうぞ」
 渚 レイに促されるまま紅茶を口にするル・アージュ。
(うー・・・。うちに帰るのはいいとして、おやじの事だから絶対ぐちぐちとうるさいだろうからなぁ。なんかいい方法ないかなぁ)
 ル・アージュは紅茶を飲みながら少々考え事を始めた。
(クリシュナ伯母さん連れてくと絶対おやじと喧嘩はじめるだろうし、ルシア叔母さんだと小言で会話が進まないだろう。多分・・・)
「ルアさん?」
(そうだ! パルティナ叔母さんに頼もう! パルティナ叔母さんならやんわり話が進むはず!)
「そうだそうしよう!」
「?」
 考えがまとまるといきなり立ち上がるル・アージュ。
「ルアさん。何か考え事でも?」
「あ、こっちのこと・・・。レイさん、明日休み?」
「はい。それが何か?」
「挨拶は明日の午後行こう。それと、私ちょっと用が出来たから帰るね。紅茶ごちそう様」
 ル・アージュはそう言うと渚 レイの部屋を飛び出した。
「あ、セラフィ―さん。ヴァーシュに先帰っててって伝えといて!」
「お、おう・・・」
 工房で精錬の準備をしていたセラフィ―に一声かけると、ル・アージュは取り急ぎ男所帯を後にした。
「何かあったのか?」
「さぁ?」
 セラフィーは紅茶セットを乗せたお盆を持って厨房に行こうとした渚 レイに声をかけたが、当の渚 レイもわからず二人して首をかしげるのであった。

「・・・と言うわけなのよ叔母さん」
「ルアちゃんのお願いはわかったけど、私なんかでいいの?」
「パルティナ叔母さんじゃなきゃ話がこじれたときやんわりといかないもの。こればっかりはクリシュナ伯母さんにもルシア叔母さんにも頼めないわ」
 パルティナは自室の椅子に腰を下ろし、不意に微笑んだ。
「杞憂だと思うんだけどなぁ。兄様ならもう大丈夫だと思うわよ?」

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「それに、兄様も喜んでたわ」
「喜ぶ? 何が?」
「ルアちゃんはルアちゃんで、ちゃんと彼氏見つけたんだなぁって」
「へ?」
「あの後私、実家に顔を出してきたのよ。そのとき兄様もいたから、それとなくレイ君のこと伝えたのよ」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
 素っ頓狂な声をあげるル・アージュ。
「そしたら兄様ったら、ルーンナイトじゃないことにがっかりしたけど、『アークビショップならまだましか』って。顔には出してないけど喜んでたのは事実よ」
 微笑んでル・アージュの顔を見るパルティナ。ル・アージュにいたっては顔がトマトのように真っ赤になってる。
「だから大丈夫だと思うわ」
「でもでも! なんかあったら怖いからパルティナ叔母さんも付き合って!」
「はいはい」
 悪びれなく笑う叔母を前に、ル・アージュはため息ひとつついた。
「じゃあ私、母さんにおやじの事頼みに行くから、明日よろしくね」
 こうしてル・アージュは、微笑んでるパルティナを残し、リンク宅を出ていった。

「ふー、そうかぁ・・・。二人とも考えは一緒か・・・」
 タバコをふかしながらセラフィーはリューディーと渚 レイの顔を見た。
「ま、女性と付き合うとなれば、うちじゃうるさいだろうしなぁ」
「悪いな。急ぎじゃないが当面の生活のめどが立つまではここにいるが、結婚してからはここじゃ住めない」
「私も同意見です。男所帯に女性を住まわせるには暑いですからね」
 セラフィーとしても、男ばかりで気兼ねなく精錬するのには困らなかったが、二人が女性と付き合いだすのがほぼ一緒ということに頭を抱えた。
 もっとも、リューディーと渚 レイがいなくとも男所帯の生活は成り立ってるし、別に食事に困ることもない。
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「それでも、二人に出ていかれるのは痛いな」
「何か問題でも?」
 セラフィーの発言に渚 レイは頭をかしげた。
「何、大したことじゃない。エルニウムのあてと飯の準備が遅くなるだけの話さ」
 セラフィーは灰皿にタバコを捨てると、ソファーに座ってため息をついた。
「まぁ急ぎじゃないし、なんとかなるだろ」
 男所帯の主として、同居人が減るのがうれしいわけもなく、セラフィ―は心から二人を祝福した。
「結婚式には呼んでくれよ?」
「だからまだ先だって・・・」
「わかってる。冗談だよ」
 呆れるリューディーにセラフィーは笑って答えるのであった。

  by lywdee | 2018-05-01 16:13 | Eternal Mirage

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