クリスマスシーズンも終わり、プロンテラの街中は年の瀬を迎えるべく賑わいたっていた。
「年末って感じがするね」とル・アージュが言う。
隣に立って歩くヴァーシュも食材の入った紙袋を抱えて「そうね」と答える。二人揃って買い物に出かけるのは珍しい事ではないのだが、気持ちは何故か浮かれてはいなかった。
「イズはどうだった? 試し斬りに行ったんでしょ?」
「うーん、悪くはなかったけど、カードが揃ってないからちょっと物足りなかったわ。そう言うル・アージュはどうだったの?」
「私? まだ試し斬りしてないわよ」
とても女の子同士の会話とは思えないが、二人の話題はもっぱら狩りの話が多い。
「でもル・アージュがそこまで髪短くしたのってクリシュナ叔母様の家に駆け込んだ以来ね」
「叔母さんにも同じ事言われたわよ。そんなに変かなぁ?」
「ポニーテールで見慣れたからちょっと違和感があるわ」
ショートカットにしたル・アージュは周りから同じことを言われ続けたせいかため息をつく。
元々ショートカットだったのが切るのを面倒がってポニーテールにしてたので、回りにはポニーテールの印象が強かったようだ。
そんなこんなで雑談しながら露店街を横切ろうとした時、ちょうど露店を出していたセラフィーと鉢合わせした。
「なんだ。二人揃って買出しか?」
「こんにちわセラフィーさん」
「こんにちわ。何を露店でだしているのですか?」
二人は揃ってセラフィーのカートの中を見る。
「たいしたもんじゃないよ。カードと雑貨だ。お前さんらが買うようなものは出しちゃいないぞ」
確かにカートの中にはカードと染料、他にもメントルとかが入っていた。
「まぁ倉庫の肥やしの処分品だ。クリスタルから出たものがほとんどだがな」
「あぁ、そうだった。セラフィーさん、ドラゴンスレイヤーどうもでした」
「んあ? 武器の礼ならリューディーに言いなよ。精錬しに行ったのは奴なんだから」
セラフィーはそう言うと露店をたたみ始めた。
「露店はもういいのですか?」
尋ねるヴァーシュに「ああ」と答えカートを引っ張り出すセラフィー。ヴァーシュとル・アージュもそれに続いていく。
「最近レイドcの相場が崩れてきてるしな、中々露店に出しても買い手がつかないんだよなぁ」
ぼやくセラフィーに失笑する二人だったが男所帯の前まで来てそこでセラフィーと別れる。
そのまま何事もなく女所帯に到着すると今度はルシアと遭遇した。
「叔母様おかえりなさい」
「昼ごはんの買出しかい? ちょうどお腹がすいてきたとこなのよねぇ」
手の塞がっている二人の前に立ちドアを開けるルシア。三人の会話が聞こえていたのか玄関でフレアがエプロンで手を拭きながら待っていた。
「お帰りなさいませ。まもなく昼食が出来上がりますので少々お待ちください」
あいかわらず丁寧な口調で三人を迎え入れるフレア。ル・アージュとヴァーシュは買出ししてきた食料を食堂のテーブルに置くとそのまま食堂の椅子に腰を降ろし、ルシアはルシアで居間のソファーにゴロンと寝転がる。
フレアはテーブルに置かれた食材から肉を取り出すとそのまま厨房で手早く調理し始める。匂いからしてシチューのようだとル・アージュは思った。
程なくしてクリシュナとネリスも食堂に現れて食卓を囲むように空いている椅子に腰掛ける。ルシアもそれに気付いて食卓につく。そしてフレアが出来上がったばかりのシチューを並べてパンを差し出して厨房に戻る。いつもの光景である。
「ネリス、あんたまだチンクエディア諦めてないの?」
「うん、私だって過剰武器ほしいもん」
「中型特化持ってるくせに贅沢だねぇ・・・」
パンをついばみながらル・アージュが呆れたふしでネリスを見る。まぁ自分も手持ちの両手剣は大体過剰されてるし、属性剣も持っているので気持ちはわからないでもない様子だ。
「ルシア、あんたはどうなのさ? 狩りにも行かないで本ばっか見てるけど・・・」
クリシュナがルシアに問いかけるとルシアは頭をかいて悩んでいる表情をみせる。
「狩り行ってもいいんだけどねぇ・・・。色々と悩むとこなのよ」
「何が?」
「装備に刺すカード。セット物にしようか汎用性重視にしようか・・・」
「とにかく自力で出せるものは自力で出しなさいよ」
出費がかかりそうな話題なので、クリシュナは早々に会話を切る。
そんな雑談が飛び交う中、昼食も終わりそれぞれが自分の部屋へと戻って行ったのを見送ると、フレアは一人食器を片付け始める。文句一つこぼさず家事全般を取り仕切ってるだけあって、その姿はメイドさながらである。
それから小一時間経った頃、ル・アージュはヴァーシュの部屋のドアを叩いた。
「ヴァーシュ、入るわよ」
ヴァーシュの返事も待たずにドアを開けるル・アージュ。中ではベッドに腰をかけているヴァーシュがいる。
「どうしたのル・アージュ?」
「いや、私が言うのもなんだけど、たまには親父さんに会ってあげたらって・・・」
ばつが悪そうに話すル・アージュ。自分は父親を嫌って家を飛び出しているのだから尚更である。
「あんたは親父さん嫌ってここにいるわけじゃないんだし、年末なんだから顔をみせるぐらいしたら?」
「うん・・・、そうだね・・・」
もの悲しげに頷くヴァーシュ。視線はずっと窓の外を見つめている。
ヴァーシュが父親に会う事を戸惑ってる理由をル・アージュは知っている。だからそれ以上は強く言えないし、ヴァーシュもヴァーシュなりに考えがあるのだろうとル・アージュは思った。
「じゃ、また後でね・・・」
言うだけの事は言ったと思ったル・アージュがヴァーシュの部屋を後にする。そして廊下に出てドアによしかかるとおもむろにため息一つついて天井を見上げた。
(親父はどうでもいいけど、母さんに顔ぐらい見せに行ってくるかな・・・)
自分も人の事は言えないなぁとつくづく思うル・アージュだった。